吉野直子(ハープ)&宮田まゆみ(笙) 特別インタビュー(「あけてみよう!”音楽のトビラ”」7/26ご出演)

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京都コンサートホール

大人から子どもまで、幅広い年代の方にクラシック音楽をお楽しみいただく「あけてみよう!“音楽のトビラ”」。今回は、日本を代表する演奏家、吉野直子さんと宮田まゆみさんをお迎えします。

吉野さんは、ベルリン・フィルをはじめとする世界主要オーケストラやギドン・クレーメルといった世界的なアーティストと共演しているハーピスト。宮田さんは、1998年の長野オリンピックの開会式で国歌を演奏した、笙演奏の第一人者です。

今回はお二人について、そして普段聞くことの少ないハープと笙についてもっと知っていただくためにメール・インタビューを敢行しました!
楽器やプログラムの魅力などを、とても丁寧に答えてくださいました。

――まずハーピストの吉野直子さんにお話を伺いたいと思います。ハープとの出会いをお聞かせいただけますでしょうか?

吉野さん:母がハーピストでしたので、物心がついた頃からハープが身近なところにありました。ハープをきちんと習い始めたのは6歳の時で、父の転勤に伴って家族で引っ越したアメリカのロサンゼルスででした。アメリカでもハープの勉強を続けたいと母がレッスンを受けていたスーザン・マクドナルド先生に私も教えていただき、この素晴らしい先生との出会いのおかげで、自然にハープの道に進むことになりました。

――吉野さんの思うハープの魅力とは何でしょうか?

吉野さん:まず第一に「自分の指で直接弦を弾いて音を出す」ということだと思います。ハープでは、音の強弱から微妙な表情のニュアンスまですべてを、弦の弾きかたを変えることによって表現しないといけません。また、ソロだけでなく、室内楽やオーケストラなどにおいて多様な表現力をもっていることも、ハープの大きな魅力だと思います。

――ハープを弾かれている姿を見ると、華麗な指先に目が行ってしまうのですが、実は足も駆使されていらっしゃるのですよね?一見優雅に見えるハープですが、演奏する際「これは大変!」あるいは「これだからハープは楽しい!」といったハープ奏者ならではのお話をお聞かせいただけますでしょうか?

吉野さん:先程の答えと関連しますが、「すべてを自分の指先だけで伝えることができるし、伝えなくてはいけない」というのが、ハープの一番の楽しさであると同時に、大変なところだと思います。さらに、ハープの演奏では足も大切な役割があります。ペダルが7本あり、これを操作することによって、弦の音程の高さがシャープやフラットなどに変わります。それなので、曲によっては手だけではなく、足も忙しく動かすことになります。

(C)Akira Muto

――そして今回、ハープとコラボレーションするのは、東洋の楽器、笙(しょう)。
笙奏者の宮田まゆみさんは、もともとピアノを専攻なさっていたと伺いましたが、笙を演奏することになったきっかけをお聞かせいただけますでしょうか?

宮田さん:ピアノもとても好きなのですが、大学の音楽美学の講義の中で「宇宙のハーモニー」という音楽の捉え方が古代ギリシャをはじめいろいろな地域にあったことを知り、そのハーモニーを私も聴いてみたいと模索しているうちに出会ったのが「笙」でした。

――ピアノやヴァイオリンなどと比べると、笙を見たり聴いたりする機会は多くはなく、どんな楽器かご存じでない方もいらっしゃるかと思います。笙とはどんな楽器でしょうか?

宮田さん:笙はとても古い楽器で、3300年ほど前の中国の古代文字の中にも「笙」を表す「龢」という字があるので、それ以前から存在していたようです。日本には奈良時代より少し前に、中国から伝えられました。環状に束ねた竹管が木製の空気室に挿し込まれ、各管の根元には金属製の薄い簧(リード)が付いています。竹管は17本ありますが、いつの時代からか2本の竹の簧が失われ、現在は17本あるうち15本の音だけ鳴るようになっています。簧には切り込みがあり、表と裏の両方向に振動するので吹く息、吸う息の交代で音を長く持続させることができ、また右手2本、左手4本の指を使って複数の音を同時に出すことができます。このような複雑な構造を持った楽器が3000年以上も前からあったとは、とても不思議です。

――笙の透き通った音色を聴くと、何だかとても清らかな気持ちになります。宮田さんにとって笙の魅力とは何でしょうか?

宮田さん:笙は複数の音を出せる、つまり和音を演奏することができて、吹く、吸うを繰り返して、その光のような輝きをもった和音がさまざまに色彩を変化させながら途切れることなく流れます。まるで天に流れる天の川のような感じです。

――ソロだけでなくオーケストラとも多数共演されていらっしゃいますが、オーケストラとは普段どのような作品を演奏されていらっしゃるのですか?

宮田さん:武満徹さんが作曲なさった「セレモニアル」という曲は一番多く演奏しています。ちゃんと数えたことはありませんが、多分何十回も演奏しているのではないでしょうか。日本の作曲家では細川俊夫さんが多く作曲して下さいました。一柳慧さん、石井眞木さん、猿谷紀郎さん、権代敦彦さんの作品もあります。外国ではジョン・ケージさん、ヘルムート・ラッヘンマンさん、ゲルハルト・シュテープラーさんの作品などがあります。ラッヘンマンさんの作品はオペラです。

――ヨーロッパやアメリカなどでもご活躍されていらっしゃいますが、海外で演奏した際の興味深かったエピソードなどありますでしょうか?

宮田さん:ヨーロッパでは教会で演奏することも多く、教会の音響や空間は笙と相性が良い気がします。ジョン・ケージさんの笙とほら貝のための作品を初演したイタリア・ペルージアの教会は、ゲーテがイタリア旅行の時に訪れて感動したという円形の大変古い教会でした。その古い教会の木のベンチでケージさんが2時間あまり、じっと聴いてくださったことは忘れられません。

――今回は、そんな2つの素敵な楽器によるデュオをお聴きすることになります。
このデュオを組むきっかけは何だったのでしょうか?またお二人が共演されることになったきっかけやエピソードなどお聞かせいただけますでしょうか?

吉野さん:宮田さんに初めてお会いしたのは、もう20年以上前のことで、雑誌の鼎談でした。初めての共演は、彩の国さいたま芸術劇場で、作曲家の諸井誠さんがヴィオラと笙とハープのために書かれた作品などを演奏しました。もっとも、宮田さんのお名前は細川俊夫さんの「うつろひ」の初演者として、その前からよく知っていましたし、演奏も聴かせていただいていました。今度の公演でも演奏する「うつろひ」は、日本の現代作品の傑作のひとつで、笙とハープのデュオにとっては、なくてはならない大切な曲です。

――「笙」とのデュオは大変珍しいですよね?「ハープ」と「笙」のデュオならではの面白さや聴きどころなどをお教えいただけますでしょうか?

吉野さん:宮田さんとは海外も含め、たびたび共演させていただいていますが、ご一緒すると、フルートやヴァイオリンなど西洋楽器と共演する時とは少し違う感覚があります。宮田さんの笙には、宇宙全体、空間全体に拡がるような独特の音の世界があって、その中でハープが自由に気持ちよく演奏させていただく、という感覚が強くあるのです。

――さて、今回お二方に出演いただく「あけてみよう!“音楽のトビラ”」は、演奏者と聴衆が共に楽器や演奏を「見て」「聴いて」、新しい音楽を「知る」ことのできるコンサートです。
今回の公演の「聴きどころ」「見どころ」、また今回の公演でみなさんに「知ってもらいたい」ことをお教えいただけますでしょうか?そして演奏されるプログラムについて、テーマや聴きどころをお教えいただけましたらと思います。

吉野さん:ハープは西洋の楽器、笙は東洋の楽器として、とても長い歴史をもっています。今回の公演では、笙とハープのデュオ作品に加えて、それぞれのソロ作品も演奏します。演奏の合間には楽器のお話なども交えて、2つの楽器をより深く知っていただきたいと思います。曲目も変化に富んでいますので、デュオの魅力のみならず、それぞれの楽器の魅力も十分に味わっていただけるのでは、と思っています。

宮田さん:ハープも笙も大変古くからある楽器です。同時に現代においても次々と新しい作品が発表されています。古代の香りと新しい息吹、両方お楽しみいただけたら嬉しく思います。またハープと笙に施された「蒔絵」をご覧いただけるとのも嬉しいことです。笙には雌雄の鳳凰の蒔絵が施されています。日本にはかつて、古代中国を経由して伝えられた「箜篌(くご)」という古代ハープがあり、古くは箜篌と笙も「共演」していたようです。ハープと笙はとても仲が良いのではないでしょうか。このコンサートでは、ハープと笙のそれぞれの古典音楽と、新しい音楽、そして二つの楽器が溶け合う響きをお楽しみいただけたらうれしく思います。

――最後に、演奏会を楽しみにしている皆さまへ、一言お願いいたします。

吉野さん:ハープと笙という、出自も個性も異なる2つの楽器が、アンサンブルホールムラタの素敵な音空間でどのように「響きあう」のか、今からとても楽しみにしています。当日は、小ホールならではの親密な空間での演奏を楽しんでいただければ、嬉しく思います。

宮田さん:楽器の歴史も古いですが、最初にお聴きいただく笙の「平調調子」は平安時代の中期、今から千年以上前にすでに演奏されていた曲です。平安時代の音楽観では「平調」は秋を象徴する調でした。コンサートの日、7月26日は旧暦では夏の6月14日にあたるようでまだまだ暑い盛りですが、涼やかな「平調調子」で秋に想いを馳せ、どうぞ暑さを忘れてください!

――お忙しいところ、ご協力いただきありがとうございました!7月26日の演奏会を楽しみにしています!

京都コンサートホール事業企画課(メール・インタビュー)

「北山クラシック倶楽部2018」後半セット券のご案内

投稿日:
アンサンブルホールムラタ

「いい音が響いてほしい」――それだけを願い、世界的建築家 磯崎新と永田音響設計が精魂込めて創り上げた室内楽専用ホール「アンサンブルホールムラタ」。星座の描かれた天井、宇宙を思わせる舞台照明、磁北を示す光のラインなど、まるで「ミクロコスモス」を思わせるホールのインテリアは、演奏者と聴衆の胸を高鳴らせると同時に我々を「異空間」へと誘います。

アンサンブルホールムラタ

ここを舞台に繰り広げられる「北山クラシック倶楽部」は、海外トップアーティストによる世界水準の演奏を、最高の空間で体感していただくシリーズです。
今回は、「北山クラシック倶楽部2018」全8公演から、12月~2019年3月に開催される後半4公演をご紹介します。小編成のアンサンブルからバロック・オーケストラまで、いま旬の多彩なアーティストたちが出演します!
演奏者の息遣いまで聞こえてくる濃密な空間で、世界レベルの演奏をご堪能ください。

なお、とってもお得に「北山クラシック倶楽部2018」後半4公演を聴いていただけるセット券(4公演・限定100セット・15%オフ、16,000円)を販売いたします(会員6/23、一般6/30~7/24)。
ご予約・ご購入時に指定範囲内から座席をお選びいただき、全公演共通座席「マイシート」でお聴きいただける、こだわりのセット券です。
この機会にぜひ「北山クラシック倶楽部2018後半セット券」をお買い求めください。

 

まるでオーケストラを思わせる多彩な音色 名コンビが魅せる洗練された世界観
2018/12/21(金)19:00開演「漆原朝子&ベリー・スナイダー シューマン:ヴァイオリン・ソナタ 全3曲&3つのロマンス」
毎回テーマ性を持ったリサイタルで好評を得ている漆原朝子とベリー・スナイダー。20年以上におよぶ共演のなかで数々の名演を生んできました。そんな2人が選んだプログラムは、これまでにも大いなる賞賛を浴びてきたオール・シューマンによるもの。悲劇的な晩年に差し掛かりつつあった頃に作曲されたヴァイオリン・ソナタ全3作品と、それとは対照的にロマンティシズム溢れる《3つのロマンス》を演奏します。円熟のデュオが奏でる愛と孤独のシューマンの世界。忘れられないほどに深い感動を与えてくれる一夜となることでしょう。

[一回券(全席指定)]一般:4,000円、会員3,600円*
*会員先行:7月28日(土)/一般発売:7月31日(火)/主催:コジマ・コンサートマネジメント

 

ウィーン・コンツェルトハウスでのベートーヴェン全曲演奏会が話題に!
世界中から熱い視線を浴びるカルテットを聴く一夜
2019/1/31(木)19:00開演「ベルチャ弦楽四重奏団」

(C)Marco Borggreve

2012年、ウィーン・コンツェルトハウスにおいて僅か12日間で成し遂げた「ベートーヴェン弦楽四重奏曲全曲演奏会」が話題となった「ベルチャ弦楽四重奏団」。かのアルバン・ベルク弦楽四重奏団の伝統を受け継ぐカルテットとして、また新時代を先導するカルテットとして今、最も世界中から注目を集めるカルテットです。今回、彼らが披露するプログラムはもちろんオール・ベートーヴェン。全16作品の中から、最初に作曲したとされる第3番、自らが「セリオーソ(=厳粛に)」と名付けた第11番、そして病を乗り越え完成された第15番の3作品を選曲しました。カルテット界のホープが魅せる新たなるベートーヴェン像、どうぞご期待ください!

[一回券(全席指定)]一般:5,000円、会員4,500円*
*会員先行:9月15日(土)/一般発売:9月23日(日)/主催:パシフィック・コンサート・、マネメント

 

 

両性的なクリスタル・ヴォイスと圧倒的な超絶技巧――
超人気スター歌手と名門古楽オーケストラ、夢の共演
2019/2/9(土)14:00開演「ヴァレア・サバドゥス&コンチェルト・ケルン」

 

(C)Henning Ross
(C)Giampiero Corelli

2016年にパリ・オペラ座ガルニエ・デビューを果たし、日本でも多くの反響をもたらした若手カウンターテナーのヴァレア・サバドゥス。高貴で透き通った、そして官能的な歌声で聴くものを瞬く間に魅了します。今回はドイツの古楽オーケストラ、コンチェルト・ケルンとのコンビで、カウンターテナーの魅力を存分に堪能できるヘンデルとポルポラらの作品をセレクト。我々を18世紀のヨーロッパへといざなってくれることでしょう。北山クラシック倶楽部シリーズ初となる古楽コンサートに、今から期待が高まります。

[一回券(全席指定)]一般:6,000円、会員5,500円*
*会員先行:9月23日(日)/一般発売:9月30日(日)/主催:アレグロミュージック

 

リード楽器を愛する全ての人へ
世界でも類を見ないスーパー・アンサンブル
2019/3/21(木・祝)14:00開演「カレファックス・リード・クインテット・アムステルダム」

(C)Marco Borggreve

オーボエ、クラリネット、サクソフォーン、バス・クラリネット、ファゴットによる5つのリード楽器のみで構成される世界唯一のアンサンブル「カレファックス・リード・クインテット・アムステルダム」。古楽から現代音楽、時にはジャズやポップスまで幅広いレパートリーを自らのアレンジで披露!抜群のテクニックと音楽性、そして息をのむほどのピッタリなアンサンブルに、リード楽器の無限なる可能性を感じさせられます。革新的でユニークなステージにファン続出のクインテット。まだ出会ったことのない、未知なるリード楽器の世界をお楽しみに!

[一回券(全席指定)]一般:4,000円、学生2,000円、会員3,600円*
*会員先行:10月7日(日)/一般発売:10月14日(日)/主催:ヒラサ・オフィス

 


 

★お得な4公演セット券(限定100セット!)★

[料金]全席指定 16,000円 <15%お得!>

[販売期間]
*会員先行:6月23日(土)~6月29日(金)
一般:6月30日(土)~7月24日(火)

*会員…京都コンサートホール・ロームシアター京都Club(会費1,000円)・京響友の会の会員が対象です。

☆セット券のご購入は、
<電話・窓口> 京都コンサートホール 075-711-3231(10:00~17:00)
ロームシアター京都 075-746-3201(10:00~19:00)
<インターネット> オンラインチケット購入

北山クラシック倶楽部2018後半セット券チラシ(表面)
北山クラシック倶楽部2018後半セット券チラシ(裏面)

京都コンサートホール×京都府立図書館 特別コラボレーション ~ドビュッシー没後100年特別企画~

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京都コンサートホール

2018年に没後100年を迎えた、フランス人作曲家のクロード・ドビュッシー (1862-1918)。
京都コンサートホールでは『光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー』と題して、ドビュッシーにまつわる3公演スペシャル・シリーズを今秋に開催します。
現在、さまざまなところで取り上げられているドビュッシーですが、京都府立図書館では、5/25(金)~8/22(水)まで(奇遇ですが、8/22はドビュッシーの誕生日です)、ドビュッシーに関する以下の企画を展開しています。

◆ドビュッシー関連資料コーナーの設置

ドビュッシー関連資料コーナー(閲覧室)

◆エントランス展示の設置
(京都コンサートホール主催『光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー』のチラシも設置していただいています)

エントランス展示(府立図書館入口付近)

ナクソス・ミュージック・ライブラリーで聴くドビュッシー音楽会(6/30(土)開催)

今回、京都コンサートホールと京都府立図書館では「特別コラボレーション」として、ドビュッシーにまつわるミニ講座を協同してお届けすることになりました。日程は8/12(日)、場所はもちろん京都府立図書館です!詳細が決まり次第、皆様にお知らせさせていただきます。
そこで京都コンサートホール事業企画課は、京都府立図書館で行われている多彩な企画について、図書サービス部長の堀奈津子さんからお話を伺うことにしました。


クロード・ドビュッシー

京都コンサートホール事業企画課(以下、KCH):堀さんこんにちは!今日はどうぞよろしくお願い致します。
今回、このようなコラボレーションの機会をいただくことが出来て非常に嬉しく思います。京都府立図書館ではなぜドビュッシーを取り上げようと思われたのですか?

堀さん:去年あたりから京都府立図書館のエントランス展示では、「お茶」をテーマにしたり、クリムト没後100年をテーマにしたり、さまざまな展示を行ってきました。今回はドビュッシーのメモリアルイヤーということで本を展示したのですが、やはり「音楽」が大事ですよね。ですので、本だけではなく、何か彼の音楽を聴くことが出来るような形で…ということを考えました。そこで、「NAXOS(ナクソス)*」というクラシック音楽データベースを使って何かしたいな、と思いついたのです。
京都府立図書館にはナクソスを使うことが出来るのですが、うちではあまり使われていなくて。これまでこういうことをやったことはなかったのですが、今回は作曲家ということで、本の展示+音楽の紹介、という形になりました。
*クラシック音楽を中心に、CD121,202枚の音楽を全曲再生できる配信サービスのこと。世界中の図書館で導入されている。

KCH:来館者の反応はいかがですか。

堀さん:やっぱりこのような特別展示を行うと来館者にも興味を持ってもらえますね。「カメラで写真撮って良いですか?」とか、「これを企画した人に会って話がしたい」とか言ってくださる方もいらっしゃいます。もちろん、そのような方が毎日来るというわけではないのですが、手応えは感じますね。

KCH:さっきもエントランスで「ドビュッシーの楽譜が飾ってある!」とお話されている来館者の方がいらっしゃいました。

堀さん:エントランスを通りかかった人からは「これ、何やろう」とか「ナクソスの音楽会って何するの?」とか、そういうお声を頂いております。「ドビュッシーって誰?」っていう声もたまに聞こえてきますが(笑)

KCH:そうやって、新しいものを知るきっかけになっていることはとても嬉しいことですよね。
ところでさきほどから話に出ている「ナクソスの音楽会」とはどのようなものなのですか?

堀さん:京都府立図書館では「ナクソス」という音楽データベースを使用することが出来ます。普段から申し込みさえしていただければ2階の閲覧室内で自由に音楽を聴いていただくことが出来るのですが、あまり使われていなくって。ですので以前から、もう少しいろいろな方に使っていただきたいな、クラシック音楽に馴染んでいただきたいなと思っていました。
今回の音楽会では、ナクソスを使ってドビュッシーの音楽ばかりご紹介します。
そして参加者の方々にドビュッシーの音楽を通してナクソスを体験していただき、身近に彼の音楽を感じていただけることで生の音楽にも興味を持っていただけるのではないかな?と思っています。

KCH:音楽会で聴く予定の音楽リストもありますね。大勢の方に来ていただけると良いですね。

堀さん:たくさんの方がチラシを持って帰ってくださるので、ぜひ来ていただきたいなと思います。

KCH:ところで、堀さんはフルートを演奏なさるんですよね。堀さんオススメのドビュッシー作品はありますか?

堀さん:高校生のときに衝撃を受けた作品はフルート独奏曲の《シランクス》と、管弦楽曲の《牧神の午後の前奏曲》ですね。この2曲は絶対に、私の中では外せない作品なんです。この2曲を知ったときの衝撃は、膝が崩れそうな感覚というのでしょうか、それくらいショッキングなものでした。そのときの感覚が忘れられないので、何がなんでもこの2曲は皆様にご紹介させていただきたいと思っています。

KCH:どんなところに衝撃を感じられたのですか。

堀さん:フルートをやっていたとき、バッハなどの比較的古典的な作品を練習していたんですけど、高校生になって吹奏楽に入ってから同級生たちが「これ聴いてみて」と、いろいろな楽譜やLPを貸してくれるんです。その中にこのドビュッシー2作品が入っていたのですが、「なんだこれは!味わったことのない曲だな」とビックリしました。
ドビュッシーはそんな多感な時代に出会った作曲家ですから、私にとって常に特別な存在です。

KCH:京都府立図書館に所蔵のあるドビュッシー関連の本もリストにされていますが、こちらのオススメもありましたら教えてください。

京都府立図書館 図書サービス部長 堀奈津子さん

堀さん:そうですねぇ…このリストの中で言いますと、坂本龍一が総合監修・選曲・執筆している『commmons:schola vol.3 ドビュッシー』でしょうか。
あとは、ドビュッシー自身が書いた音楽論があるのですが、ずいぶん昔にそれを訳した本があるんです。やっぱり昔の本って味わいがそれなりにあって、そういう古いバージョンを読んでいただけると、それなりに面白いかなと思います。

KCH:確かに、訳される方によっても雰囲気って変わってきますよね。
今年、わたしたちはドビュッシー・シリーズを企画しているのですが、実は「ドビュッシーってあまり知らないなぁ」っていう人ってけっこういるんです。《月の光》や《アラベスク》なんかを聴くと『あぁ、この曲を作曲した人か!』と分かってもらえるとは思うのですが。
音楽を聴いて知っていただくということももちろん大事なのですが、音楽を聴く前に、あるいは音楽を聴きながら関連する本を読むと、もっと理解が深まります。
京都府立図書館が所蔵する本のリストの中で、ドビュッシーを全く知らない方々でも、すっとナチュラルに入れるような本もたくさんあるんです。例えば、ピアニストの青柳いづみこさんの『ドビュッシーとの散歩』とか『指先から感じるドビュッシー』などは、とても素敵な文章で読みやすいです。楽しくドビュッシーについて知ることが出来ると思います。
ドビュッシーの作品と人生を端的に知ることが出来る一冊としては、松橋麻利さんの『ドビュッシー 作曲家・人と作品』がぴったりだと思います。情報が一冊にぎゅっと凝縮されているんですよ。
また、写真がふんだんに用いられていて視覚的にも楽しめる本は『牧神の午後 マラルメ・ドビュッシー・ニジンスキー』ですね。

堀さん:オルセー美術館が出している本ですね。ニジンスキーが牧神の衣装を纏っている写真が掲載されています。

KCH:あとは、ドビュッシー研究の第一人者だったフランソワ・ルシュールが書き残した大作『伝記 クロード・ドビュッシー』は、かなり専門的な内容ですがドビュッシーを深く知ることが出来る一冊になっています。

…このように、ぜひとも京都府立図書館のドビュッシーに関する蔵書を読んでいただき、予習をしていただいて、京都コンサートホールの演奏会に来て「新しいドビュッシー」を発見していただけると非常に嬉しいですね。

堀さん:事前学習をちょっとしてから、ある程度知識を持って、実際に生の音楽を聴いて…っていう感じですね。

KCH:はい。とっても良い流れですよね(笑)

堀さん:なんだかコラボレーションっていう感じがしますよね!(笑)

(2018年6月3日(日)京都コンサートホール事業企画課@京都府立図書館)


スペシャル・シリーズ『光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー』について

2018年、フランス近代最大の作曲家クロード・ドビュッシー (1862-1918) が没後100年を迎えました。 ドビュッシーは、形式・和声・色彩の面においてそれまでの伝統的規範を打ち破り、斬新な作曲法と巧みな内面的心理描写で数々の管弦楽作品やピアノ曲、歌曲などを書き残しました。 ロマン派時代にピリオドを打ちつつ、近現代の扉を開けた人物であるといっても過言ではなく、ドビュッシーから影響を受けた後世の作曲家は数知れません。
京都コンサートホールでは、京都・パリ友情盟約締結60周年/日仏友好160周年の年でもある今年、ドビュッシーにまつわる3つのコンサート・シリーズを特別企画しました。  それぞれ「初級編」・「中級編」・「総括編」と位置づけられており、段階的にドビュッシーを知ることの出来る仕組みになっています。  ドビュッシーについて知らない方から専門的に学ぶ方まで幅広い人びとにお楽しみいただけると同時に、どの回から聴いていただいてもドビュッシーを身近に感じていただける内容でプログラミングされています。

[日時]2018年10月13日(土)、11月10日(土)、11月23日(金・祝)各回とも14時開演
[会場]京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
[主催]京都市/京都コンサートホール(公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団)
[協力]株式会社 進々堂
[後援]村田機械株式会社・朝日新聞京都総局・京都新聞・在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本・産経新聞社京都総局・日本経済新聞社京都支社・毎日新聞京都支局・読売新聞京都総局
α-STATION エフエム京都・KBS京都
[助成]文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)
独立行政法人日本芸術文化振興会