【NDRエルプフィル特別連載②アラン・ギルバート】スター指揮者のポートレート(山田治生、音楽評論家)

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京都コンサートホール

ドイツの名門「NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(旧ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)」公演 (11/1) に向けて、前回からスタートした「NDRエルプフィル特別連載」。

4回にわたって、本公演の聞きどころや注目ポイントについて特集します。

第2弾は、今回タクトをとる指揮者アラン・ギルバートの魅力に迫ります。オーケストラ事情に詳しい京都出身の音楽評論家 山田治生さんが、マエストロの輝かしいプロフィールから知られざるプライベートな一面まで、様々な話を紹介してくださいました。

11月1日(木)19時開演の公演詳細はこちら


「アラン・ギルバート~スター指揮者のポートレート~」
山田 治生 (音楽評論家)

アラン・ギルバートは、1967年、ともにニューヨーク・フィルのヴァイオリン奏者であるマイケル・ギルバート&建部洋子夫妻の間に、ニューヨークで生まれた。ヴァイオリンを始め、ハーヴァード大学、カーティス音楽院、ジュリアード音楽院で学んだ。1994年のジュネーヴ国際音楽コンクールの指揮部門で第1位を獲得。その後、サンタフェ・オペラ音楽監督やロイヤル・ストックホルム・フィル首席指揮者を歴任。そして2009年に42歳の若さでニューヨーク・フィルの音楽監督に就任した。マーラー、トスカニーニ、バーンスタイン、ブーレーズ、メータ、マゼールなどの時代を代表するスター指揮者がシェフを務めたオーケストラ。ギルバートは、そんな名門楽団の音楽監督を8年間務めた。

ニューヨークフィルとアラン・ギルバート(C)Chris Lee
エルプフィルハーモニーの模型とアラン・ギルバート(C)Peter Hundert

2017年限りでのニューヨーク・フィルからの離任が発表されてから、ギルバートの次のポストが世界的に注目されたが、彼が選んだのはNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団だった(2019年秋に首席指揮者に就任)。かつて北ドイツ放送交響楽団と呼ばれたエルプフィルとギルバートとの付き合いは長い。2001年に初共演し、2004年から2015年まで首席客演指揮者を務めた。今回、新たに首席指揮者を引き受けたのは、新しいホール、エルプフィルハーモニーができて、大きな可能性を感じたからだ。「新しいホールができて、ハンブルクは世界が注目する新たな音楽スポットとなり、オーケストラも変わりました」という。

また、この4月からは東京都交響楽団の首席客演指揮者も務める。7月の就任披露演奏会では大きな成功を収めた。もちろん、世界の一流オーケストラや歌劇場への客演も続く。2018-19シーズンには、ベルリン・フィルをはじめ、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、シュターツカペレ・ドレスデン、バイエルン放送交響楽団、ウィーン交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、イスラエル・フィル、ミラノ・スカラ座などに登場する。

(C)Peter Hundert

ギルバートにとって、オーケストラとの相性はとても重要だ。彼は、指揮者とオーケストラとが引き起こす化学変化や音楽を分かち合う気持ちを大切にしている。そして「音楽体験の質の高さは、よく言われているオーケストラのランキング通りではない」という。

彼は、オーケストラのメンバーとのコミュニケーションを積極的に図る。たとえば、今年の終わりには、ヴィオラ奏者として、東京都響メンバーとブラームスの弦楽六重奏曲を弾いたり、ゲヴァントハウス弦楽四重奏団(ゲヴァントハウス管の主力で構成)とドヴォルザークの弦楽五重奏曲第3番を共演したりもする。

もちろん、家族もとても大切にしている。両親がヴァイオリン奏者であることは最初に述べたが、妹のジェニファーもヴァイオリニストで、彼女はフランス国立リヨン管弦楽団のコンサートマスターを務める。アランには14、13、8歳の3人の子供がいて、家にいるときは料理や子供の学校の送り迎えもしている。14歳の長女が自らすすんで熱心にヴァイオリンやピアノの練習をしているのをアランは楽しんで見ているという。

 


山田 治生(やまだ・はるお)

音楽評論家。1964年、京都市生まれ1987年慶應義塾大学経済学部卒業。雑誌「音楽の友」などに寄稿。著書に「トスカニーニ」、小澤征爾の評伝である「音楽の旅人」、「いまどきのクラシック音楽の愉しみ方 」、編著書に「戦後のオペラ」、「バロック・オペラ」、訳書に「レナード・バーンスタイン ザ・ラスト・ロング・インタビュー」などがある。


【特別連載③】「北ドイツの雄、NDRエルプフィル」(中村真人、ジャーナリスト/ベルリン在住)

NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団特設ページ

【光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー特別連載②】進々堂 続木社長インタビュー(前編)

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アンサンブルホールムラタ

2018年に没後100年を迎えるドビュッシーに焦点をあてたスペシャル・シリーズ《光と色彩の作曲家クロード・ドビュッシー》では、京都の老舗ベーカリーの進々堂様と特別コラボレーションをし、ご来場のお客様に記念パティスリーをプレゼントします。

シリーズをより知っていただく特別連載の第2回として、京都コンサートホールと一緒にコラボレーション内容を考えてくださった株式会社進々堂の続木創社長に、パティスリーの魅力をはじめ、パン作りや音楽についてお話を伺いました。非常に濃密な内容となりましたので、前編・後編と2回に分けてお送りします。

*  *  *

★コラボレーションについて★

――改めまして、この度は京都コンサートホールとのコラボレーションをお引き受けいただき、ありがとうございます。これまで、今回のように異ジャンルとのコラボレーションをされたことはございますでしょうか?

続木社長:はい、一番面白かったのは、京都市美術館がバルテュス展(2014)を開催した時のコラボレーション。美術館のみではなく、京都市内のいろんなところにバルテュスに関連したものが存在するような環境を作りたい、ということでバルテュスに因んだメニューを進々堂のレストランとカフェで出して欲しいというご依頼でした。
バルテュス未亡人が日本人の素敵な女性という幸運もあり、バルテュスが生前好物にしていた食事につき奥様にいろんなお話を聞くことができました。ところがこれが結構ハードルが高くて、「パン・ド・カンパーニュにハムを挟んだシンプルなサンドイッチ」とか、「スパゲッティも塩とバジルだけのシンプルなもの」とか。実はそういうのが一番難しいんですよね。あとは「チョコレートムースが好きだった」というお話もあったので、四苦八苦しながらも何とかメニューとしての体裁を整え、奥様に試作品を食べていただきOKが出たときにはみんなで大喜びしました。それまで知らなかったバルテュスという画家を身近に感じるようになって、とても楽しい仕事になりました。

 

――とても面白い試みですね!コラボレーションをするには時間もエネルギーもかかるかと思いますが、どういったところにコラボの価値を見出されますか?

続木社長:このようなコラボレーションをすると、僕にとっても社員にとってもとても良い刺激になります。やっぱりパンはヨーロッパの文化の中で育まれたものなので、「芸術家がどのようにパンを楽しんでいたか」を再現してみると、社員たちにとってもイマジネーションをふくらませる良い助けになります。そして、自分たちの仕事のルーツみたいなところを再確認することにもなります。普段なかなかここまで手間暇かけて商品開発は出来ないんですが、実際にコラボレーションに取り組ませることで、これだけ広がりがあって楽しいことができるということが社員たちの気持ちの中に芽生えます。今回のコラボレーションを担当した社員たちも、「仕事が全部こんなんだったら楽しいのにな」と言いながらやっていますよ。なおかつお客様にも進々堂の「食文化に対する姿勢」みたいなものが伝われば良いな、と社長としてはそういう打算(?)をたくさん持ってやっています(笑)。

★今回のコラボレーションと特別パティスリーについて★

――コラボレーションはパン作りの原点を見直す大切な機会なのですね。社員のことを大切に、そして真剣に考えていらっしゃる続木社長の想いがとても伝わってきました。
ところで私どもの企画である、京都・パリ友情盟約締結60周年・日仏友好160周年・ドビュッシー没後100年 スペシャル・シリーズ《光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー》とのコラボレーションについてもお話を聞かせていただけますでしょうか。

続木社長:京都市・パリ市の60周年という記念すべき年に、進々堂がこのような形で関われるというのはとても光栄だと思っています。しかもドビュッシーの没後100年という時に、ドビュッシーにちなんだものを作れるというのはとても楽しいです。

 

――そう言っていただけて嬉しいです!今回のコラボレーションでは、とても素敵なパティスリーを作っていただきましたが、完成までにはどのような経緯があったのでしょうか?

続木社長:もともとは、ドビュッシーの生家があるサン=ジェルマン・アン・レー(SaintGermain-en-Laye) にある「メゾン・グランダン(Pâtisserie Grandin)」という老舗洋菓子屋さんの「ル・ドビュッシー(Le Debussy)」というチョコレート菓子を作ろうと真剣に考えました。ところが取り寄せて試食してみたら、味そのものがイマイチしっくりこなかったんですよね。その他にも色々難しい条件もあったので結局「ル・ドビュッシー」を作るのは諦めて、高野さん(京都コンサートホール 事業企画課)と相談しながらどんなことができるか考え、生まれたのがこの3つのパティスリーです。

――この3つのパティスリーはどうのように開発なさったのでしょうか?

続木社長:奇をてらうのではなく、もともとフランスの食文化の中にあるものを応用しながら、何か新しいものを作りたいと思いました。結局、第1回ではアーモンドクリームを包みこんだブリオッシュ、第2回では様々な形のフィナンシェ、そして第3回では南西フランス・ボルドー地方の伝統菓子カヌレにオレンジ・リキュールをきかせたものになりました。フランスの伝統的な「美味しさ」をうまく組み合わせて、今回のイベントにふさわしい味を作り出そうという試みだったんです。

例えば、第1回のブリオッシュ生地にアーモンドクリームを包んだヴェノワズリー(注:卵や牛乳、砂糖などを用いたリッチなパンの総称)なんてあって不思議じゃないのに、なぜか今まで無かった。第3回のカヌレも、カヌレに「グラン・マルニエ」のオレンジ・リキュールを加えるなんて今まで誰もやってないと思うんですけれど、やってみたらすごく美味しかったんです。「こんなに美味しいのになんで今までなかったのかな」というものを目指したので、皆さんがどのように召し上がってくださるかとても楽しみです(※詳しくは、当ブログ「進々堂様ご提供の特別パティスリー、詳細決定!」をご覧ください)。

★ドビュッシーについて★

――さて、続木社長はクラシック音楽がお好きだと聞きましたが、ドビュッシーはお好きですか?

続木社長:ドビュッシーはとても好きな作曲家です。僕自身はどちらかというと、バッハ、モーツァルトからベートーヴェン、ブラームスという流れのドイツ・クラシックが好きなんですけど、フランス音楽の中でも印象派のラヴェルやドビュッシーは好きです。実は僕は子供の頃からヴァイオリンを習っていて、学生時代に弦楽四重奏もやったのですが、ラヴェルの弦楽四重奏曲は弾いたことがあります。ドビュッシーも演奏したかったんですが、実はドビュッシーの方がずっと技術的に難しくて諦めました。でも、ロマン派以降の弦楽四重奏曲で一番好きな曲はと訊かれたら、多分ドビュッシーと答えます。特に子守唄のような第3楽章が好きですね。

それから今回のコラボレーションがはじまってもっとドビュッシーについて知りたいと思い、ドビュッシーの伝記、島松和正著 『ドビュッシー: 香りたつ音楽』(講談社エディトリアル刊)を読みました。お医者さんが書かれたすごく素敵な本で、ああいうディレッタンティズム(注:芸術や学問を趣味や道楽として愛好すること)ってすごいと思いました。読んでいて本当に楽しかったです。
今はユーチューブで世の中の曲ほぼ全てが聴けますよね。その伝記を読みながら、曲名をユーチューブに入力するとほとんど全部聞けてしまってびっくりしました。そして知ったのですが、ドビュッシーって若い頃に素敵な歌曲を本当にたくさん書いているんですね。後年に書かれた管弦楽曲とかは結構聞いていたんですけど、今回この企画に関わったおかげで若かりし日にドビュッシーが書いた歌曲たちという新しい世界を知ることができました。こういう出会いって本当に嬉しいものですね。

* * 後編につづく * *

(2018年7月4日京都コンサートホール事業企画課インタビュー@進々堂 本社)

*  *  *

インタビュー後編はこちら。
スペシャル・シリーズ《光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー》の特設ぺージはこちら。
特別連載①「ドビュッシーとパン(牧神)」はこちら。

京都コンサートホール×ニュイ・ブランシュKYOTO 2018 「瞑想のガムラン――光と闇に踊る影絵、覚醒の舞」

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京都コンサートホール

みなさん、「ニュイ・ブランシュ(白夜祭)」というイベントはご存知でしょうか?
「ニュイ・ブランシュ」とは、パリ市が毎秋行う一夜限りの現代アートの祭典のこと。京都・パリ友情盟約締結60周年にあたる今年、日仏の現代アートを楽しめる「ニュイ・ブランシュKYOTO」が市内各所で盛大に開催されます。

今年のテーマは「五感」!視覚、聴覚はもちろんのこと、触覚、味覚、そして嗅覚を刺激するアートが、街のいたるところで繰り広げられます。
そこで京都コンサートホールでは、2018年に没後100年を迎えるフランス人作曲家クロード・ドビュッシーが大きな影響を受けた、インドネシアの伝統楽器「ガムラン」演奏と影絵「ワヤン」を皆さまにお届けします!

ガムラン
ワヤン(影絵)

ドビュッシーとガムランとの出会いは1889年にまでさかのぼります。その年、フランス革命100周年を記念して4回目のパリ万国博覧会が開催されました。エッフェル塔が建設されるなど、これまでにない盛り上がりを見せたこの記念すべきイベントで、作曲家クロード・ドビュッシーは「ガムラン」を初めて見聞きしたのです。その出会いは彼にとって衝撃的なものだったようで、友人のピエール・ルイスに宛てて次のように書き残しています。

ジャワの音楽を思い出してくれ。あらゆるニュアンスを、もうなんとも形容しがたいニュアンスまでも含んでいたではないか」。

とてもユニークで神秘的な響きを持つガムラン音楽。その秘密は、「スレンドロ」や「ペロッグ」と呼ばれるガムラン特有の音階にあります。「スレンドロ」とは一オクターブをほぼ均等に分ける五音音階、「ペロッグ」とは一オクターブを不均等に分けた七音音階のことです。先のパリ万博でドビュッシーが聴いたとされるガムラン音楽には、スレンドロ音階が使われていたと言われています。それを聴いたドビュッシーは、さっそく自らも5音音階を用いて作曲を試みましたが、あのガムラン独特の響きは再現出来ませんでした。それはなぜでしょうか?

その答えは「音律」です。スレンドロ音階では、五音の音程関係は固定されません。ところが、クラシック音楽で用いられる音律は「平均律(1オクターブを12音で均等に分ける方法)」。平均律では音程幅が固定されるので、スレンドロ風に5音を選んでも、均一な響きになります。つまりドビュッシーがガムラン風に作曲したとしても、基本の音律が異なるために、あの独特な響きを生み出すことは不可能なのです。ところが、このガムランとの出会いはドビュッシーの作曲家人生におけるターニングポイントとなり、「ドビュッシーらしい」響きを生み出すきっかけとなったのでした。

さて、今回のニュイ・ブランシュはそんなガムラン音楽を京都コンサートホールで聴くことが出来る、滅多とないチャンスです!
場所はホールではなく、京都コンサートホール1階のエントランスホール。演奏はインドネシア伝統芸能団「ハナジョス」の2人が担当します。

ハナジョス

身体に響きわたるガムラン音楽に酔いしれながら、幻想的なインドネシアの影絵「ワヤン」やバリ料理(特別出店・京都北山ダイニングカフェ バリガシ)も同時にお楽しみいただける、特別な一夜を演出します。入場は無料、21時30分スタート予定です。ぜひ、秋の夜長を京都コンサートホールでお過ごしくださいね。

 


出演:インドネシア伝統芸能団ハナジョス(ローフィット・イブラヒム&佐々木宏実)
入場無料(定員100名)
日時:2018年10月5日(金)21時30分開始予定(21時開場/22時30分終了予定)
場所:京都コンサートホール1階 エントランスホール
主催:京都コンサートホール(公益財団法人 京都市音楽芸術文化振興財団)、京都市
協力:北山街協同組合
特別出店:ダイニングカフェ・バリガシ https://baligasi.com/
お問い合わせ:京都コンサートホール ☎075-711-2980 ※第1第3月曜休館(休日の場合は翌平日)

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