第29回 京都の秋 音楽祭の最後を華やかに締めくくる、日本のトップ・プレイヤー
たちによる夢の競演「ブラス・スターズ in KYOTO」(11月30日)。
今回のススメは日本のトップ・プレイヤーが集結し豪華なアンサンブル公演が開催されます。本公演のプロデュース・作曲・編曲を担当してくださる、酒井さんにインタビューを行いました。
――酒井さんは幼少期にピアノを始められ、中学校に入学してからは吹奏楽部でフルートを担当されていたと聞きました。
そうです、よくご存知でいらっしゃいますね!
――いつ頃、作曲を始められたのですか?
初めて作曲をしたのは、たしかピアノを初めてすぐの頃でした。ピアノ曲で、「子犬の行進」や「星のうた」といったタイトルをつけて作曲していました。幼い頃から「楽譜を書く」ことが何より好きだったみたいです。一方、両親からは「音楽で食べていくのは厳しい」と言われ、勉強を優先するよう言われていました。しかし、大学受験を目前に体調を崩してしまい、受験を諦めて浪人生活に入ったのです。浪人時代になんとなく吹奏楽コンクールの全国大会を観に行ったのですが、その時に音楽への情熱が再燃しました。どうしても音楽がやりたくなり、「音楽の教員になるなら両親にも音大受験を許してもらえるかもしれない!」と考え、一大決心をしました。どの専攻で音大受験をするか悩んだのですが、昔から好きだった作曲がしたいと思い、作曲専攻を選択しました。 偶然にも、その時に住んでいた向かいの家に大阪音楽大学出身の方が住んでいらっしゃったのです。その方に作曲家の千原英喜先生をご紹介いただき、師事することになりました。先生には浪人時代から大学時代まで、本当にたくさんお世話になりました。
――――本当に作曲がお好きでいらっしゃったのですね。ところで吹奏楽界で絶大な人気を誇る「たなばた」はいつ頃作曲されたのですか?
実は「たなばた」の作曲は高校時代にしました。私の曲には転調が繰り返し現れるので、当時高校の同級生には難しいと感じられて、よく煙たがられていましたね(笑)。だから、「たなばた」も当時演奏されることはあまりありませんでした・・・。「たなばた」が日の目を見ることになったのは大阪音楽大学2年生の時です。当時大学で吹奏楽を指導していらっしゃった先生たちの前で「たなばた」をピアノで初披露したところ気に入ってくださり、そのまま吹奏楽編成で演奏していただきました。
――――高校生の時に作曲されたんですね!今や日本の吹奏楽界では知らない人はいない名曲がお蔵入りするところでしたね。酒井さんは「たなばた」を含め、今までたくさんの作品を作曲されていますが、作曲される際はどんなことを意識されているのでしょうか。
私の場合、人や場所、乗り物などをヒントにすることが多いです。スタイルとしてはクラシカルなものが多いですが、ジャズに影響されて作曲した作品もあります。私の作品は基本的に晴れ(明るい)曲が多く、旋律はシンプルです。そのほうが覚えやすく展開がしやすいと考えているからです。作曲はまるで料理のようだなと思っています。色んな調味料で味付けするのがとても楽しいです。
――――たしかに作曲は料理と似ているかもしれませんね!ところで酒井さんの作品は、「たなばた」や「おおみそか」、そして本演奏会でも演奏する「はじめての贈り物」など、曲のタイトルが印象的なものが多いですよね。頭の中でタイトルに基づくストーリーを作ってから作曲されているのですか?
いや、タイトルからストーリーを作るというより、タイトルを曲のスタイルのヒントにしています。「サン・ファン・バウティスタ号の航海」は、東日本大震災のあとに復興の道標となるような前向きな作品を作りたくてタイトルをつけました。また「はじめての贈り物」というタイトルをつけたのは、作品を委嘱してくれた金管グループのメンバーがちょうどその時に出産を控えていたことがきっかけです。「名前、どうしよう?」と悩む彼女に、先輩メンバーから「名前は親からの最初で一番大切なプレゼントです。悩んで下さい。」と、声が掛けられました。それがとても記憶に残り、このタイトルをつけました。この曲には、子供を思う親の優しい気持ちが詰まっています。ちなみにこの曲、曲尾が2バージョンあるのです。ゆっくり終わるバージョンとアップテンポで終わるバージョン。アンサンブルコンテストでは演奏時間に制限があるのでアップテンポのバージョンが選ばれることが多いのですが、ゆっくり終わるバージョンはまるで人間の一生のように、ゆっくりと閉じていきます。自身の立場や環境によって曲の解釈も変わると思うので、今回のメンバーでの演奏がとても楽しみです。
―――さて、本公演では、酒井さんが編曲されるラヴェルの「道化師の朝の歌」と、酒井さんの新曲「800秒間世界一周」が披露されますね。この2曲について教えてください。
ラヴェルの「道化師の朝の歌」についてはとても難しい楽曲ですが、ピアノと打楽器が入ることによって色々な工夫ができるので、それがとても楽しいです。「800秒間世界一周」についてはお気づきの方もいらっしゃると思いますが、1956年にアメリカで公開された映画「80日間世界一周」にかけています。この曲では、まず日本を出発し、色んな世界の音楽を聴いてもらいながら、お客さんに世界旅行の気分を味わってもらいたいなと思っています。それぞれの楽器にフィーチャーして、色んな表現をお客様にお聴きいただけたらいいなと思っています。
――どんな世界旅行になるのかとても楽しみです!それでは、最後にお客様にひとこと願いします!
金管楽器は勇ましいイメージがあるかもしれませんが、実際は繊細な音であったり温かい音であったり、時にミステリアスな音であったりと、色んな音色を奏でることができます。金管楽器が合わさった時のハーモニーは圧巻です。今回の演奏会では日本を代表する金管楽器奏者が一同に会し、一つの音楽を奏でます。こんな機会にはなかなか恵まれませんし、奇跡と言っても良いほどです。彼らが音楽を楽しんでいる、それぞれが音楽と向き合っている姿をたくさんのお客様にぜひ見ていただきたいです。吹奏楽をやっているお客様はもちろん、金管アンサンブルを初めて聴くお客様にも楽しんでいただける楽しい公演です。ぜひお越しください!
