京都コンサートホールと京都市交響楽団(以下、京響)が協働し、その魅力を多角的に発信する本シリーズ。今年開催するVol.7の指揮者は、1985年4月から1987年3月までの2年間、京都市交響楽団の第8代常任指揮者を務めた小林研一郎(以下、小林マエストロ)です。
公演に向けて、小林マエストロに演奏会の聴きどころや京響への思いなどを伺いました。
ぜひご覧ください!
――本日はインタビューのお時間をいただきありがとうございます!11月の演奏会に向けて、さまざまなお話を伺わせてください。はじめに、小林マエストロご自身についてお聞きいたします。小林マエストロは「情熱のマエストロ」「炎のマエストロ」との愛称でも呼ばれていらっしゃいますが、その音楽への情熱はどこから来ているのでしょうか?
終戦後すぐ、私が小学4年生の頃ですが、自宅のオンボロのラジオからベートーヴェンの《第九》が流れてきたんです。まだ小さな子どもでしたが、聴いているうちに涙が止まらなくなりました。自分の足元の畳に涙の渦ができるような、本当に大きな感動でした。そしてすぐに、小学校の先生をしていた母親に「五線譜を作って」と頼みました。母がガリ版印刷で五線譜を作ってくれて、私はその五線譜に作曲を始めたのです。
――京響の練習場でも、ベートーヴェンにまつわる特別な思い出があると伺いました。
ずいぶん昔のことになります。京響の練習場の指揮者控室に入ったときのことです。机にベートーヴェンの《第九》の大きなスコアが置いてありました。「あれ?私も自分のスコアを持っているのだけど?」と思って1ページ目を開きました。
するとそこには、「五線の宇宙から、大いなるもの、素晴らしいものを期待して、世の中に広げていってほしい。 朝比奈隆」と書いてありました。
今でも《第九》のスコアを開くたびに、「朝比奈先生、おはようございます。先生がお亡くなりになってから何度も《第九》をしていますが、先生の域にはまだ到達できません。もう少しお力をいただけませんか。」と心の中で話しかけています。
――素敵なエピソードをお話しくださりありがとうございます。小林マエストロにとって、ベートーヴェン、そして音楽への情熱は永遠に尽きることのないものなのですね。それでは次に、今回の演奏会のプログラムについてお伺いいたします。この2作品を選曲された理由を教えていただけますか?
とにかく「京響ならでは」「京響らしい」音楽を奏でたいと思い、チャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》、そしてドヴォルザークの《交響曲第8番》を選びました。
《ヴァイオリン協奏曲》のソリストは、私が「世界一素晴らしいヴァイオリニスト」だと思っている木嶋真優さんです。これまで彼女とは60回ほど共演しており、彼女の音楽性もよく知っています。木嶋さんは本当に美しい音を出されるのですが、その音を京響とともにぜひ聴いていただきたいです。京響は誰かが素晴らしい音を出すと、それに反応してオーケストラ全体がさらにいい音になっていく、そんなオーケストラなのです。
――「京響らしさ」をどのように引き出していきたいですか?

「こんな音を出したい」「こんな音楽を奏でたい」という思いが、演奏する一人ひとりの中に生まれてくると、オーケストラ全体の精神状態が一つの方向に向かっていきます。私は、そこに大きな期待をしています。
もともと京響が持っている美しさに加えて、今回はもっと激しい心の動きや、内側から湧き上がってくるようなエネルギー、生命力を引き出したいですね。京響のみなさんが音楽に強く心を動かされ、それが音となって客席に届く。そんな演奏ができればと願っています。
京都には、古都として長い歴史の中で培ってきた優雅な世界観があります。それは京都の大きな魅力ですよね。でも京響には、それだけではなく新しい時代を創る音も出してほしいと思っています。時には、荒々しく汚くてもいいんです。音楽はきれいに整えて演奏すればよいというものではありません。演奏する人自身が、「自分はこういう音を出したい」「こういう音楽をしたい」という強い思いをもっと持ってほしい。ヨーロッパのオーケストラでは、演奏者が自分の音楽に対して、とても強いこだわりを持っています。「私はこうだ」と、指揮者に対してもはっきり言ってくる。そういうひたむきさ、一人ひとりの思いがぶつかり合い、オーケストラ全体が一つの方向へ向かったときに、これまでとはまた違った「京響らしさ」が生まれるのではないかと思っています。
――ドヴォルザークの《交響曲第8番》は、小林マエストロのレパートリーの中でも大好きな作品と伺いました。
《交響曲第8番》は、ドヴォルザークが心のすべてを尽くして書いた曲だと思っています。この曲には、精神的な深みがあります。そして、心を打つ美しい音もあれば、オーケストラが一気に炸裂できるような瞬間もあります。この作品なら、京響の中に秘められたものを引き出せるのではないかと思っています。
この作品は、さまざまな楽器のソロで静かに始まります。でもそこから2~3分の間にあっという間に音楽が燃え上がっていく。そして、また静かになる。その静けさと炸裂の対比を、極限まで描き出したいですね。
――小林マエストロと京響との9年ぶりの共演がますます楽しみになりました!それでは最後に、聴衆の皆さまへメッセージをお願いいたします。
京都には、京都市交響楽団という素晴らしいオーケストラがあります。今回の演奏会を通して、皆さんに「京都に京響あり」と感じていただけたら嬉しいです。
京都コンサートホールで京響の皆さん、そして聴きに来てくださる皆さんと一緒に、心が大きく動く時間をつくりたいと思っています。ぜひ当日はホールへ足をお運びください。
――小林マエストロ、ありがとうございました!11月8日、9年ぶりの京響との共演を楽しみにしています。
(2026年7月大阪にて 京都コンサートホール事業企画課インタビュー)
京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.7 「京響創立70周年記念『小林研一郎×京響』」の詳細はこちら。


