2024年度から2年間、京都コンサートホール第3期登録アーティストとして活動してきた、ピアニストの福田優花さん。2024年度は市内の小学校、2年目となる2025年度は小学校に加え、幼稚園や支援施設にも伺い、クラシック音楽を届けてきました。
2025年12月、登録アーティストとして全21回のアウトリーチを終えた福田さんに、2年間の振り返りと、活動の集大成となる「最終年度リサイタル」について話を伺いましたので、前半・後半に分けてお届けします。
前半では、2年間のアウトリーチ活動について、語っていただきました。
――2年間のアウトリーチ活動が終わりましたが、今の率直な気持ちを教えてください。
「楽しかった」の一言です。京都コンサートホールのアウトリーチ事業をきっかけに初めてアウトリーチというものに携わりました。はじめの研修で、アウトリーチについて座学で学んだものの、「本当にできるのだろうか・・・」と不安な気持ちで私の活動はスタートしました。でも、ホールのスタッフのみなさんとチームを組ませていただき、支えていただいたおかげで、心から楽しみながら活動できました。
――アウトリーチ活動を始める前、アウトリーチに対してどのような印象がありましたか。

登録アーティストのオーディションを受けた時はアウトリーチの概要くらいしか知りませんでしたが、「楽しそう」という印象はありましたね。小学校や福祉施設に行き、ピアノを弾いて話をするといった、いわゆるトークコンサートのような、もう少し親しみやすいイメージを抱いていました。
オーディションの2次選考で、実際に小学4年生向けのプログラムを15分程実演するという課題があったのですが、今思い返すと、ピアノを弾いている時間がとても長く、話はしているものの一方的だったと思います。
研修を経て活動を重ねる中で、試行錯誤しながらプログラムを練り直したり、ホールのスタッフのみなさんや講師の方に相談しアドバイスをいただいたりしながら、いろいろな経験を積んで、やっと「私がやりたいアウトリーチってこういうものかな」というのが感覚的に分かるようになってきました。
――1年前のインタビューで、アウトリーチを始めたきっかけは、故 福井尚子先生からの勧めだったと伺いました。(1年前のインタビューはこちらをご覧ください。)
そうですね。ただ、もしかしたら「アウトリーチ活動をしてみたら」というよりは、「京都に貢献する演奏家になりたいのであれば、京都コンサートホールのアウトリーチ活動に参加してみては?」といった考えで勧めてくださったのかもしれないと、今は思っています。
第1期登録アーティストの募集チラシを見た時、「こんなことをするんだ」「楽しそうだな、やってみたいな」という気持ちはありましたが、当時は学生でしたのですぐに挑戦することはできませんでした。その後、大学院を卒業し2年間のフランス留学を終え帰国したタイミングで、第3期登録アーティストの募集がありました。しかも対象がピアノでしたので、タイミング的にも恵まれていましたね。私の中で「アウトリーチ活動をやってみたい」という気持ちが変わらずあったので、オーディションを受けました。
――2年間のアウトリーチ活動で思い出に残っていること・印象深かったことを教えてください。
初めはとにかく、曲のこと・ピアノのことをいろいろ説明していました。クラシック音楽に慣れ親しんでいる人であれば、曲名を聞いていろいろ想像できるかもしれませんが、日ごろクラシック音楽を聴かない方の場合は、説明がないと分かりづらいだろうと勝手に思い込んでいたのです。
でも、アウトリーチで出会った子どもたちは、大人もびっくりするくらいの想像力を持っていました。ただ単に音楽を聴くだけでなく、聴いた音楽から作曲家の想いや情景を想像できる力です。しかもそれは感覚的なものだけでなく、「始めと終わりに同じ旋律が出てきた」「音がだんだん大きくなっていた」「音が下がっていったから悲しい感じがした」など、いわゆる楽曲分析的なことを自然にしながら聴いていたんですね。そのように楽しみながら音楽を聴いてほしいと思っていましたので、このような場面に出会えた時は嬉しかったです。
――アウトリーチ活動の中で、常に意識していたことはありますか。
話をする際、常に聴き手の表情を見るように心がけました。また、必ず目を合わせ、自分に話しかけてもらっていると感じてもらえるよう意識しました。
――確かに、福田さんは子どもたちと話をするときに、子どもたちの輪の中に入っていって、姿勢を低くして話しかけていましたね。

何も考えずに自然とそうなっていましたね。初回のアウトリーチの時、相手が小さいので見下ろす形だと話しづらいのではないかと思い、しゃがんで私から見上げる形にしてみたら、スタッフさんから「すごい良かった!」と言ってもらえて。私自身もその方がコミュニケーションがとりやすかったので、それからは常にそうやってコミュニケーションを取るようにしました。
――プログラムで工夫した点・意識した点はありますか。
私がアウトリーチを行ったのは小学校が多かったため、参加型のアクティビティ(一緒に歌ったり、身体を動かしたり、クイズなど)をいくつかプログラムに取り入れました。私の演奏と話を聴いてもらうという一方通行のコミュニケーションではなく、一緒に楽しむアトラクションのようなイメージを持つようにしました。「一緒に」「参加しながら」「みんなで」といったことをいつも意識していましたね。
――福田さんがアウトリーチで一番伝えたかったことは何ですか。
「自分の経験と音楽を重ね合わせて、音楽を楽しんでほしい」ということです。これは1年目から変わっていません。日頃クラシック音楽に馴染みのない方にとっては、クラシック音楽=堅苦しいという印象がどうしてもあるかと思います。そのような中で、少しでも「クラシック音楽っていいな」「もっと聴いてみたいな」と思っていただくには、自分の経験と重ねながら聴いていただくことが一番だと考えました。少しだけ曲の背景や作曲家について説明をしつつ、あとは自由に想像しながら聴いてもらう。そこで何か、自分の経験や気持ちと重なる「共感」があれば、クラシック音楽を好きになってもらえると思っています。
――福田さんは活動1年目と2年目でプログラムの構成は変えていませんね。前半は視覚的・身体的に音楽を楽しみ、後半は音楽を聴いて情景や気持ちを想像する。伝えたいことが明確だったからだと思いますが、このプログラムに至った経緯を教えてください。

最初の研修で、講師の児玉真先生から「アウトリーチは聴き手のためにするもの。アウトリーチを通して、音楽が聴き手の心を豊かにしたり何らかの人生の助けになったりする。その一方で、演奏家にとっても何かメリットがなければいけない。一方的な奉仕ではなく、Win-Winの形であることが望ましい。そう考えたとき、あなたがアウトリーチで伝えたいことは何ですか」と問われました。
当時の私にとっては結構斬新というか、ハッとさせられました。綺麗ごとかもしれませんが、私がピアニストとして演奏するとき、「お客様に楽しんでいただきたい、聴いてよかったなと感じていただける演奏会にしたい」と思っていますが、演奏家にとってのメリットについては、少なくとも私自身は考えたことがありませんでした。
私にとってのメリットは何だろう…と考えたとき、一番に思い浮かんだことは、私の演奏をきっかけに「聴き手に音楽を好きになってもらえること」「聴き手の人生において、音楽が何かしらの役に立つこと」でした。そして「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ」は京都コンサートホールの事業ですので、ホールの想い・目的も大切にしたいと思いました。この事業の目的は「さまざまな理由でホールに来館できない方、クラシック音楽に接する機会の少ない方などに、クラシック音楽の喜びや楽しさを生演奏として届ける」ことです。その点においては、私の想いとホールの想いは一致していましたので、「 “クラシック音楽は面白いものだよ” と感じていただけるプログラムを組み立てよう!」となりました。
プログラムを組み立てるうえで、一緒に歌ったり身体を動かしたり、クイズを用いて知識を増やしていくことが楽しいのはもちろんですが、それを超えて「音楽を聴いて自由に想像する楽しさ」まで到達してもらいたいと思いました。ですので、まずは親しみのある曲でピアノとの距離を縮め、リズミカルな音楽を使って身体で音楽を体感してもらいつつ、最後は音楽で描かれた情景や作曲家の気持ちを想像するといった、徐々に内面にアプローチしていけるようなプログラム構成にしました。
――活動の中で、京都コンサートホールの登録アーティストでよかったと感じることはありましたか。

まず、ホールのスタッフのみなさんのサポートがとても心強かったです。ピアニストはどうしても1人で活動することが多いですが、常に支えてくださりチームとして活動している感覚でした。また年1回、1年目のジョイント・リサイタル、そして2年目の最終年度リサイタルと、ホールでの演奏機会をいただけることは、ピアニストとして大変貴重です。私自身、小さなころからコンクールや高校の定期演奏会など、何度も京都コンサートホールの舞台立っていますが、どれも思い出深い、そして私にとってはターニングポイントとなるような本番ばかりですね。
そして何よりも嬉しいのは、アウトリーチで京都の子どもたちに会えること、京都の施設で演奏できることです。自分の出身地で音楽活動ができることは音楽家として何よりの幸せですし、登録アーティストであるからこそできることでもあります。アウトリーチのたびに、京都コンサートホールの登録アーティストに選んでいただけてよかったと感じています。
――アウトリーチを終えて、福田さんが得たものを教えてください。

演奏家として宝物のような経験をたくさん積ませていただきました。また、留学を終えてこれからピアニストとして歩んでいくうえで何を伝えたいのか、自分自身と向き合う時間ともなりました。
音楽を通じてたくさんの方に出会い、思いを通わせ合うことができました。一般的なコンサートではアウトリーチのような距離感でお客様とコミュニケーションを取ることは難しいです。もちろんコンサートでも言葉(お話)がないだけで、その瞬間に聴き手が感じていることが言葉にならずとも発せられていると感じてはいましたが、そういったことをアウトリーチを通してはっきりと実感することができました。アウトリーチを経験しなければ得られなかったものであり、何よりそれがアウトリーチの楽しさでもありました。
――ありがとうございました。あっという間の2年間でしたが、とても充実した2年間でしたね。後半では、活動の集大成となる「最終年度リサイタル」について話を伺いました。後半もどうぞお楽しみに!
(2025年12月 京都コンサートホール事業企画課インタビュー)






