鍵盤楽器奏者 バンジャマン・アラール 特別インタビュー<後編>(2026.10.17 バンジャマン・アラール チェンバロ・リサイタル、2026.10.24 オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.78「世界のオルガニスト “バンジャマン・アラール”」)

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京都コンサートホール

2026年10月、京都コンサートホールではバンジャマン・アラール氏によるチェンバロとパイプオルガンのコンサートを2週連続で開催します。
公演に先立ち、アラール氏にインタビューを行い、前編では音楽家としての歩みや、「J.S.バッハ鍵盤作品全集録音」のプロジェクトについてお話を伺いました。

後編では、「バンジャマン・アラール チェンバロ・リサイタル」(10/17)と「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ Vol.78 世界のオルガニスト “バンジャマン・アラール”」(10/24)について、聴きどころなどを語っていただいています
ぜひ最後までご覧ください!

続いて、京都コンサートホールの演奏会に関するお話を聞かせてください。10月17日の「チェンバロ・リサイタル」では全4作品を演奏していただきます。プログラムの意図を教えていただけますか。

――まず、2部構成にしたいという考えがありました。
前半では、チェンバロ独奏をお聴きいただきます。バッハはチェンバロ独奏作品においても、常にオーケストラや室内楽のような響きを意識していたのではないかと思います。彼は編曲者としても非常に優れていましたから、二段鍵盤チェンバロを用いて、その響きを見事に表現しています。その代表ともいえるのが今回演奏する2作品であり、チェンバロならではの豊かな響きを感じていただけるよう選曲しました。
後半に演奏する《ブランデンブルク協奏曲第5番》は、楽器同士の対話が非常に印象的な作品です。チェンバロとフラウト・トラヴェルソ、ヴァイオリンが織りなすスリリングな音楽的対話こそが、この作品の醍醐味です。前半のチェンバロ独奏があるからこそ、後半のアンサンブルがより生きてくると思います。

後半の2作品は、日本の古楽器奏者5名と共演いただきます。楽しみにしていることはありますか?

――日本の素晴らしい奏者の皆さんとの新しい出会いを、今から楽しみにしています。 チェロの五味敬子さんとはフランスで何度も共演していますが、いつも充実した時間を過ごしてきました。日本でご一緒できることを嬉しく思います。
5人の奏者と演奏する《ブランデンブルク協奏曲第5番》は、先ほどお話ししたように、複数の楽器が対話を重ねるように進んでいく作品です。それぞれの奏者が対等なソリストとして存在しながら、ひとつのアンサンブルを築き上げていきますが、その「対話」こそがこの作品の本質だと思います。どのような音楽的対話が生まれるのか、とても楽しみにしています。

では次に、10月24日の「パイプオルガン コンサート」について伺います。 バッハのオルガン作品は250曲以上ありますが、今回このプログラムを選ばれた理由や、テーマがあれば教えてください。

――オルガンを単なる独奏ではなく、室内楽的、オーケストラ的、さらには旋律楽器と通奏低音の関係性のような聴かせ方をしたいとの考えで、このプログラムを組みました。
最初の《トッカータとフーガ ニ短調 BWV565》はとても有名な作品で、即興的な面白さがあります。《シュープラー・コラール集》は、バッハの弟子がバッハのカンタータをオルガン用に編曲したもので、この作品を出版したシュープラーにちなみ、この名前が付いています。トリオとしてもカルテットとしても聴くことのできるような構成になっており、オルガンを多角的・多面的に味わっていただくために、この作品を選びました。
また、《トッカータ、アダージョとフーガ》は、オーケストラ的な響きを聴かせることのできる作品です。さらに、足鍵盤だけで演奏される場面もありますので、オルガンのヴィルトゥオーゾ的な魅力も感じていただけると思います。
あらためて「チェンバロ・リサイタル」(10/17)と「パイプオルガン コンサート」(10/24)のプログラムを見比べると、対照的というよりも、互いを補い合うような内容になっています。2つのコンサートでひとつの音楽的な意味を成しているように感じます。

アラールさんはこれまで、様々な国・場所のオルガンで演奏や録音をしていらっしゃいますが、レジストレーション**において意識されていることはありますか?

――作品にはバッハが思い描いたメッセージが込められています。作品が語りかけてくるものに忠実な形で音楽を創り上げることが、私たちオルガニストの役割だと思っています。 オルガニストが演奏する楽器と初めて対面するのは、余裕のあるスケジュールであっても本番の2、3日前です。その限られた時間の中で楽器の個性を理解し、作品に最もふさわしい音色を探していくことは、オルガニストにとって大切な仕事であり、同時に大きな冒険でもあります。奏者はオルガンの演奏台にいますが、常に客席でお客様がどのように音を聴いているのかを想像しながら音のバランスを確かめ、立体的でかつ一番美しい形で音楽を届けられるよう心がけています。  

**レジストレーション=演奏の際に使用するオルガンの音色を事前に決める作業のこと。オルガニストの腕の見せ所でもある。  

今回、アラールさんには京都コンサートホールのオルガンを初めて演奏していただきます。

――教会はその場所柄、必ずしも音響を最優先とした環境で演奏できるとは限りません。一方、日本のコンサートホールは音響が素晴らしく、オルガンの響きを美しく聴かせることができます。音楽を純粋に聴き、音色の変化を楽しむことができるホールばかりです。ですので、京都コンサートホールのオルガンと出会えること、そしてこのプログラムをお客様にお届けできることを、今からとても楽しみにしています。  

2週にわたりチェンバロとオルガンでオール・バッハ・プログラムを聴けるのは、大変貴重な機会ですね。2週続けて聴くことで、新しいバッハの世界に出会えそうな予感がします。

――お客様には非常に面白い体験をしていただけると思います。「チェンバロ・リサイタル」(10/17)では、オルガンの響きからインスピレーションを得た作品をチェンバロ独奏と室内楽でお聴きいただきます。そのうえで、「パイプオルガン コンサート」(10/24)では、よりオーケストラ的な響きを聴いていただきます。 一人の奏者が同じバッハの音楽を演奏しますが、楽器が変わることで、その響きや音楽の印象、世界観が変わります。2つのコンサートでは全く違った音の宇宙が広がることに、きっとびっくりされると思います。ぜひ実際に会場で体験してほしいと思います。  

ⒸBernard Martinez

ずばり、アラールさんにとってバッハの音楽とは?

――そうですね。(しばらく考えてから)ひと言で表すなら、「尽きることのない、時を超越したもの」です。

 

ありがとうございます! 最後に、2週連続となる京都公演を楽しみにされているお客様へ、メッセージをお願いします。

――オルガン、チェンバロ、そして室内楽。バッハが描いた3つの音の世界を、一人の演奏家として皆さまと分かち合いたいと思います。どうぞ楽しみにしていてください。

(2026年6月 事業企画課インタビュー)

「バンジャマン・アラール チェンバロ・リサイタル」の詳細はこちら

           

 

 

 

 

 

「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.78 世界のオルガニスト“バンジャマン・アラール”」の詳細はこちら

 

 

鍵盤楽器奏者 バンジャマン・アラール 特別インタビュー<前編>(2026.10.17 バンジャマン・アラール チェンバロ・リサイタル、2026.10.24 オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.78「世界のオルガニスト “バンジャマン・アラール”」)

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京都コンサートホール

2026年10月、京都コンサートホールでは国際的に高い評価を受ける鍵盤楽器奏者 バンジャマン・アラール氏によるチェンバロとパイプオルガンのコンサートを2週連続で開催します。公演に先立ち、アラール氏にインタビューを行いました。
前編では、アラール氏の音楽家としての歩みや、現在取り組んでいる壮大なプロジェクト「J.S.バッハ鍵盤作品全集録音」についてお話を伺いました。後編では、「バンジャマン・アラール チェンバロ・リサイタル」(10/17)と「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ Vol.78 世界のオルガニスト “バンジャマン・アラール”」(10/24)について、聴きどころなどを語っていただきます。
ぜひ最後までご覧ください。

ⒸBernard Martinez

本日は、お忙しいところインタビューのお時間をいただき、ありがとうございます。今秋のコンサートに向けていろいろとお話を伺いたいのですが、まずは、チェンバロとオルガンとの出会いについて教えていただけますか。

――オルガンとの出会いは5歳の頃でした。当時住んでいた街の教会から、どこからともなくオルガンの音が聴こえてきて、「この素晴らしい音は何だろう」と感動したことを今でもよく覚えています。とても鮮烈な体験でした。その後も教会でオルガンの演奏を数多く聴きました。

その頃からオルガンの演奏も始められたのですか?

――演奏を始めたのはもう少し後だったと思います。その教会の司祭様がオルガン奏者でしたので、はじめは個人的に教えていただいていました。ルーアン地方音楽院で本格的にオルガンを学び始めたのは8歳の頃です。すでにピアノを習っていましたので鍵盤楽器に馴染みはありましたが、教会全体を包み込むように響く神秘的なオルガンの音色に魅了され、「やはりオルガンを習いたい」と思ったのです。

チェンバロはいつから始められたのですか?

――チェンバロの演奏をはじめて聴いたのは10歳の頃です。私の生まれ育った街ディエップで、オランダの著名な鍵盤楽器奏者 グスタフ・レオンハルト氏(1928-2012)のコンサートを聴いたことがきっかけでした。本当に衝撃的で素晴らしく、オルガンを聴いた時とは異なる感動がありました。また同じ頃にプレゼントでもらったピエール・アンタイ氏(1964-)のチェンバロのCDも強く印象に残っています。もともとバッハや古楽が好きでしたので、ごく自然とチェンバロに惹かれていき、後にパリ地方音楽院でチェンバロを学ぶこととなりました。最初にレッスンを受けたのは15歳か16歳の頃、夏の講習会でしたね。

2003年にはバーゼルへ留学されていますね。いつからプロの演奏家を志したのですか?

――実は、プロを目指そうと決意したことは一度もありません。ただ音楽への情熱に突き動かされるままに進んできた結果が、今の自分です。バーゼルへ留学したのも、「音楽が好き」「もっと音楽を学びたい」という一心からでした。バーゼルではフランスにいた頃以上に多くのことを学ぶことができました。音楽への扉だけでなく、世界への扉も開いてくれたと言っていいほど、本当に素晴らしい時間でした。

バーゼルへ留学された翌2004年には、18歳で“古楽の最高峰”と称される「ブルージュ国際古楽コンクール」チェンバロ部門で優勝され、2007年には「ゴットフリート・ジルバーマン国際オルガンコンクール」でも優勝されていますね。オルガンとチェンバロのどちらかに主軸を置かれる演奏家が多いなかで、なぜ両方の楽器を極めようと思われたのですか?

――何よりも、「音楽が好き」という気持ちが一番の理由です。そして音楽、そのなかでも古楽を好きになったきっかけは、バッハという偉大な音楽家の存在でした。バッハ自身、チェンバロやオルガンをはじめ、さまざまな鍵盤楽器を弾きこなしていましたので、バッハとその作品を好きになればなるほど、自分も自然とバッハのようにチェンバロとオルガンの両方を演奏するようになったのです。

また、私にとってバッハの音楽を深く理解し、表現するためには、この二つの楽器を極めることが欠かせませんでした。チェンバロとオルガンは、どちらも私にとって必要不可欠な存在です。それぞれの楽器で培った経験が両楽器の演奏に活き、音楽家としての私を形作ってきたのだと思います。

「音楽が好き」という一心で演奏活動を続けてこられたとのことですが、そのなかで、印象的だった出来事、大きな転機となった出来事はありましたか。

――ふたつあります。ひとつは、2006年に初めてレコーディングのお話をいただいた時のことです。チェンバロかオルガンか、どちらか一方を選ばなければならなかったのですが、悩めば悩むほど選ぶことができませんでした。最終的に両方を録音することにしたのですが、そのとき初めて自分はチェンバロとオルガン、2つの楽器の奏者として生きていくのだと自覚しました。私にとって、音楽家としての最初の大きな転機だったと思います。

もうひとつは、2005年か2006年頃、グスタフ・レオンハルト氏のクラヴィコード・リサイタルを聴きに行ったときのことです。本当に素晴らしい演奏で、終演後にレオンハルト氏とお話をする機会がありました。レオンハルト氏とは、2004年にブルージュ国際古楽音楽コンクールで知り合っており、私がチェンバロとオルガン両方を演奏することをご存じだったのですが、「君はクラヴィコードも弾くのか?」と尋ねられたのです。当時の私は、クラヴィコードは非常に難しい楽器だと思っており、本格的に取り組むことをためらっていました。そのことを伝えると、レオンハルト氏は「クラヴィコードは、鍵盤楽器を演奏するための、より大きな自由を君に与えてくれる楽器だ。将来、君もきっと実感するだろう。」とおっしゃったのです。その後、実際にクラヴィコードに本格的に取り組むようになり、私はその言葉の意味を深く実感しました。クラヴィコードは、私にさらなる音楽的な自由を与えてくれただけでなく、オルガンとチェンバロをつなぐ橋渡しのような存在でもあります。レオンハルト氏の言葉とクラヴィコードとの出会いをきっかけに、私は音楽をより広い世界観で捉えられるようになりました。

クラヴィコード=14世紀ごろから19世紀初頭までヨーロッパで使われていた、長方形の箱型の打弦鍵盤楽器。

2017年からは、「J.S.バッハ鍵盤作品全集録音」に取り組んでいらっしゃいますね。まるでバッハの生涯を辿るかのように録音されていますが、この壮大なプロジェクトに挑戦しようと思われたきっかけを教えてください。

――J.S.バッハ作品の録音は、これまでにも多くの偉大な演奏家たちが手がけてきました。そのひとつひとつに大きな価値がありますが、私はまた違う視点で、自分だからこそできる新しい形で挑戦したいという思いがありました。

実はこのプロジェクトを始める前、バッハが生きていた間に出版された作品を全集にしたいと録音を進めていたのですが、レーベル側の都合で残念ながら中断せざるを得なくなってしまいました。その後も録音の機会に恵まれず苦しい時間を過ごしていたところ、ハルモニア・ムンディ(現在「J.S.バッハの鍵盤作品全集録音」を行っているレーベル)と出会うことができたのです。しかも「チェンバロとオルガンだけでなく、クラヴィコードも含めた3つの鍵盤楽器でバッハ作品に取り組んではどうか」という提案をいただいたのです。その言葉をきっかけに「年代をたどりながら鍵盤作品に新たな光をあて、バッハの作品を聴かせたい。作品ごとに最もふさわしい楽器を選び、これまでにない視点から新しいアプローチを試みたい」と考えるようになりました。

また、このプロジェクトを後押ししてくれたのが、マネージャーのジャン・マルク氏でした。プロジェクトについて考えていた時に彼と出会い、「君はどんな仕事がしたいのか。何を弾きたいのか」と尋ねられました。「バッハが好きで、彼の作品を全部弾きたい」と答えると、「それなら全部録音しなければいけないね」と背中を押してくれたのです。その一言も、このプロジェクトに取り組む大きなきっかけとなりました。

現在、第 11集まで収録されていますが、本当にさまざまな楽器を使っていらっしゃいますね。録音を進めるなかで見えてきたこと、発見はありましたか?

――このプロジェクトはとても壮大で、常に変化し、進化し続けています。終わりがあるようでいて、終わることがありません。常に新しい可能性が生まれ、新たな選択肢が次々と増え、それが途切れることなく続いています。

実際、すでに録音を終えた作品であっても、「別の楽器で録音したらどうなるだろう」「違うアプローチでもう一度挑戦してみたい」という思いが湧いてきています。常に新しい可能性やアイデアが広がっているのです。

また、楽器や演奏家との新たな出会いも、その可能性を広げてくれます。つい最近も、このプロジェクトとは直接関係のないイタリアのコンサートでとても素晴らしいチェンバロに出会い、「この楽器でバッハを録音してみたい」と強く感じました。人との出会い、楽器との出会い、そして芸術的な刺激によって、新しいビジョンが次々と生まれてくるのです。

録音完成に向けての想いを聞かせてください。

――このプロジェクトの終わりは、とても明確です。最後はJ.S.バッハが生涯の最後に書き残した《フーガの技法》で締めくくることになるでしょう。

ただ、そこにたどり着いたからといって終わりではありません。バッハの作品は膨大で、室内楽や協奏曲など、ほかの楽器とともに取り組める可能性も広がっています。つまり、“私にとってのバッハ・プロジェクトには終わりはない”と言っても過言ではありません。常に新しいアイデアが生まれ、新たな可能性が見えてくる。その探求を続けていくことこそが、私にとってのバッハ・プロジェクトなのです。

ありがとうございます。私たちも続編を楽しみにしています!

(2026年6月 事業企画課インタビュー)

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指揮者 小林研一郎 インタビュー(2026.11.8 京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.7「京響創立70周年記念『小林研一郎×京響』」)

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インタビュー

京都コンサートホールと京都市交響楽団(以下、京響)が協働し、その魅力を多角的に発信する本シリーズ。今年開催するVol.7の指揮者は、1985年4月から1987年3月までの2年間、京都市交響楽団の第8代常任指揮者を務めた小林研一郎(以下、小林マエストロ)です。

公演に向けて、小林マエストロに演奏会の聴きどころや京響への思いなどを伺いました。
ぜひご覧ください!

  

――本日はインタビューのお時間をいただきありがとうございます!11月の演奏会に向けて、さまざまなお話を伺わせてください。はじめに、小林マエストロご自身についてお聞きいたします。小林マエストロは「情熱のマエストロ」「炎のマエストロ」との愛称でも呼ばれていらっしゃいますが、その音楽への情熱はどこから来ているのでしょうか?

私にとっては、ベートーヴェンがその源です。

終戦後すぐ、私が小学4年生の頃ですが、自宅のオンボロのラジオからベートーヴェンの《第九》が流れてきたんです。まだ小さな子どもでしたが、聴いているうちに涙が止まらなくなりました。自分の足元の畳に涙の渦ができるような、本当に大きな感動でした。そしてすぐに、小学校の先生をしていた母親に「五線譜を作って」と頼みました。母がガリ版印刷で五線譜を作ってくれて、私はその五線譜に作曲を始めたのです。

 

――京響の練習場でも、ベートーヴェンにまつわる特別な思い出があると伺いました。

ずいぶん昔のことになります。京響の練習場の指揮者控室に入ったときのことです。机にベートーヴェンの《第九》の大きなスコアが置いてありました。「あれ?私も自分のスコアを持っているのだけど?」と思って1ページ目を開きました。

するとそこには、五線の宇宙から、大いなるもの、素晴らしいものを期待して、世の中に広げていってほしい。 朝比奈隆と書いてありました。

今でも《第九》のスコアを開くたびに、「朝比奈先生、おはようございます。先生がお亡くなりになってから何度も《第九》をしていますが、先生の域にはまだ到達できません。もう少しお力をいただけませんか。」と心の中で話しかけています。

 

――素敵なエピソードをお話しくださりありがとうございます。小林マエストロにとって、ベートーヴェン、そして音楽への情熱は永遠に尽きることのないものなのですね。それでは次に、今回の演奏会のプログラムについてお伺いいたします。この2作品を選曲された理由を教えていただけますか?

とにかく「京響ならでは」「京響らしい」音楽を奏でたいと思い、チャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》、そしてドヴォルザークの《交響曲第8番》を選びました。

《ヴァイオリン協奏曲》のソリストは、私が「世界一素晴らしいヴァイオリニスト」だと思っている木嶋真優さんです。これまで彼女とは60回ほど共演しており、彼女の音楽性もよく知っています。木嶋さんは本当に美しい音を出されるのですが、その音を京響とともにぜひ聴いていただきたいです。京響は誰かが素晴らしい音を出すと、それに反応してオーケストラ全体がさらにいい音になっていく、そんなオーケストラなのです。

 

――「京響らしさ」をどのように引き出していきたいですか?

「京都市交響楽団30年史」より

「こんな音を出したい」「こんな音楽を奏でたい」という思いが、演奏する一人ひとりの中に生まれてくると、オーケストラ全体の精神状態が一つの方向に向かっていきます。私は、そこに大きな期待をしています。

もともと京響が持っている美しさに加えて、今回はもっと激しい心の動きや、内側から湧き上がってくるようなエネルギー、生命力を引き出したいですね。京響のみなさんが音楽に強く心を動かされ、それが音となって客席に届く。そんな演奏ができればと願っています。

京都には、古都として長い歴史の中で培ってきた優雅な世界観があります。それは京都の大きな魅力ですよね。でも京響には、それだけではなく新しい時代を創る音も出してほしいと思っています。時には、荒々しく汚くてもいいんです。音楽はきれいに整えて演奏すればよいというものではありません。演奏する人自身が、「自分はこういう音を出したい」「こういう音楽をしたい」という強い思いをもっと持ってほしい。ヨーロッパのオーケストラでは、演奏者が自分の音楽に対して、とても強いこだわりを持っています。「私はこうだ」と、指揮者に対してもはっきり言ってくる。そういうひたむきさ、一人ひとりの思いがぶつかり合い、オーケストラ全体が一つの方向へ向かったときに、これまでとはまた違った「京響らしさ」が生まれるのではないかと思っています。

 

――ドヴォルザークの《交響曲第8番》は、小林マエストロのレパートリーの中でも大好きな作品と伺いました。

《交響曲第8番》は、ドヴォルザークが心のすべてを尽くして書いた曲だと思っています。この曲には、精神的な深みがあります。そして、心を打つ美しい音もあれば、オーケストラが一気に炸裂できるような瞬間もあります。この作品なら、京響の中に秘められたものを引き出せるのではないかと思っています。

この作品は、さまざまな楽器のソロで静かに始まります。でもそこから2~3分の間にあっという間に音楽が燃え上がっていく。そして、また静かになる。その静けさと炸裂の対比を、極限まで描き出したいですね。

 

――小林マエストロと京響との9年ぶりの共演がますます楽しみになりました!それでは最後に、聴衆の皆さまへメッセージをお願いいたします。

京都には、京都市交響楽団という素晴らしいオーケストラがあります。今回の演奏会を通して、皆さんに「京都に京響あり」と感じていただけたら嬉しいです。

京都コンサートホールで京響の皆さん、そして聴きに来てくださる皆さんと一緒に、心が大きく動く時間をつくりたいと思っています。ぜひ当日はホールへ足をお運びください。

 

 

 

――小林マエストロ、ありがとうございました!11月8日、9年ぶりの京響との共演を楽しみにしています。

(2026年7月大阪にて 京都コンサートホール事業企画課インタビュー)

 

京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.7 「京響創立70周年記念『小林研一郎×京響』」の詳細はこちら