【公演レポート】オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.60(9/16)

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オルガン

去る9月16日(土)に開催されました、オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.60「世界のオルガニスト」は、大盛況のうちに終演いたしました。台風前日でお足元が悪い中、多くのお客さまにお越しいただき、感謝申し上げます。今回は公演の様子をお伝えいたします。


考え抜かれたプログラム

京都初登場となったエスピナス氏は、バロック時代から現代作品まで、オルガンを堪能できる充実のプログラムを披露しました。しかも、ただ曲を並べるだけではなく、プログラム全体からエスピナス氏の思いや意図が伝わる、見事なプログラミングでした。

今回のプログラムについて

前半は、私の師であるアンドレ・イゾワールに対するオマージュです。彼は演奏家としても(素晴らしいグリニー全曲録音を出しています)、バッハ作品の編曲者としても、作曲家としても活躍しました。後半は、20世紀フランスの偉大な2人のオルガニストであるルイ・ヴィエルヌとモーリス・デュリュフレへのオマージュです。デュリュフレの《前奏曲、アダージョと「来たれ、創造主よ」の主題によるコラール変奏曲》は、プログラム冒頭に演奏するグリニーの作品に呼応しています。

フランソワ・エスピナス


荘厳なグリニーから変幻自在のイゾワールまで

パイプオルガン史における「フランス古典」の礎を築いたニコラ・ド・グリニー (1672-1703) による、賛歌〈来たれ、創造主よ〉からプログラムは始まりました。
エスピナス氏は、曲の冒頭でグレゴリオ聖歌「来たれ、創造主よ」の旋律を右手で奏でました。実は、プログラム最後の曲(デュリュフレの《「来たれ、創造主よ」の主題による前奏曲、アダージョとコラール変奏曲》)の冒頭でも同じ旋律を同様に奏したのですが、これは両曲ともにグレゴリオ聖歌「来たれ、創造主よ」をテーマに作曲されたためです。

グリニー作品の第1部「テノール声部に定旋律を持つ5声の『来たれ、創造主よ』」は、輝かしい響きで始まりました。あの響きは、「プラン・ジュ(Plein jeu)」と呼ばれる、オルガンの正面に並ぶパイプを中心としたプリンシパル族の合奏で作り出されたものなのですが、音(=jeu)がいっぱいに(=Plein)満ちるというフランス語のとおりに、聞き惚れんばかりの美しい響きがホールを包み込みました。

続いては、グリニーの曲を写譜して勉強していたとされるJ. S. バッハ (1685-1750) による作品、《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番BWV1001》の第1楽章〈アダージョ〉《カンタータBWV29》より〈シンフォニア〉(※オペラの序曲のように管弦楽のみで演奏される)が演奏されました。いずれの作品もエスピナス氏の師イゾワールによる編曲が施されているのですが、原曲がヴァイオリンや管弦楽のものとは思えないほど、パイプオルガンの響きに馴染む作品でした。

前半プログラムを締めくくったのは、イゾワール作曲《ユグノー詩編による変奏曲》。親しみやすいテーマがめまぐるしく変奏していくさまは圧巻で、聴衆アンケートでも高い評価を得ました。


大オルガンの魅力を活かしたフランスの作品たち

後半プログラムでは、20世紀フランスで活躍を遂げた2人の偉大なオルガニスト、ルイ・ヴィエルヌ (1870-1937) とモーリス・デュリュフレ (1902-86) の作品が取り上げられました。
彼らの作品にみられる魅力はなんといっても、その燦爛たる色彩感と立体感。多彩な音色選びや幅広いダイナミクスからは、大オルガンの果てしない可能性を感じさせられます。

パリ・ノートルダム大聖堂のオルガニストを務めたヴィエルヌ作曲〈ロマンス〉(交響曲第4番ト短調op.32より)は、穏やかな伴奏をバックに、低音から高音まで美しく歌われました。それはまるで、夜空に浮かぶ小さな星のようにそっときらめく音でした。
同じくヴィエルヌの〈ウエストミンスターの鐘〉op.54-6は、学校のチャイムでお馴染みの鐘のメロディーが使われていて、「オムロンパイプオルガンコンサートシリーズ」でもよく演奏されている曲です。最初は遠くから聞えてきたテーマが、フィナーレに向かってゆっくりと盛り上がっていき、最後はまるでウエストミンスター大聖堂の鐘が鳴り響いているかのごとく、輝く音のシャワーがきらきらと降り注ぎました。

プログラム最後は、デュリュフレ作曲の《「来たれ、創造主よ」の主題による前奏曲、アダージョとコラール変奏曲op.4。作曲者の師であるヴィエルヌに捧げられた大作です。「デュリュフレ」といえば《レクイエム》をイメージされる方が多いと思いますが、このオルガン曲が持つ壮大さを前にすると、彼がいかに傑出したオルガニストだったかが手に取るように分かります。

超絶技巧を駆使しながら、この25分にもおよぶ大曲を完璧に弾きこなしたエスピナス氏。万華鏡のように次々と移り変わる音色に、会場からは感嘆のため息が聞こえてきました。また、フォルテッシモの箇所では大オルガンの雄大さを、ピアニッシモのところでは神秘性を感じさせられました。パイプオルガンが持つ音色の多彩さに圧倒された方も多かったのではないでしょうか?

「コラール変奏曲」では、プログラム冒頭のグリニーでも鳴り響いた、輝かしい「プラン・ジュ」の響きが再びホールを満たしました。そしてテーマがさまざまな形で出現し、ホール全体を揺るがすような大音量がパイプオルガンから轟いたところで、曲一番のクライマックスを迎えました。耳のみならず、足の裏から体の芯まで、パイプオルガンの「響き」を体感していただけたことでしょう。

プログラムを通して、素晴らしい演奏を繰り広げてくれたフランソワ・エスピナス氏。お客さまからのアンケートからは、「オルガンの響きを聴いているだけで心地よい」「初めて聴いたが深く感動した」など賞賛の声が多く寄せられました。

エスピナス氏のサイン「今日、京都で演奏出来たことを光栄に思います」

近日、当日の録音(!)を数曲ホームページ上で公開する予定ですので、どうぞお楽しみに!

■次回予告

次回の「オムロンパイプオルガンコンサートシリーズVol.61」(2018年2月24日開催)は、ミューザ川崎シンフォニーホール専属オルガニストの近藤岳氏が登場!8年ぶりに京都コンサートホールのパイプオルガンを演奏していただきます。近藤氏が選んだテーマはずばり「宇宙」。パイプオルガンを使ってどのような「宇宙」が描き出されるか、どうぞご期待ください。(な)