【光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー特別連載②】進々堂 続木社長インタビュー(前編)

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アンサンブルホールムラタ

2018年に没後100年を迎えるドビュッシーに焦点をあてたスペシャル・シリーズ《光と色彩の作曲家クロード・ドビュッシー》では、京都の老舗ベーカリーの進々堂様と特別コラボレーションをし、ご来場のお客様に記念パティスリーをプレゼントします。

シリーズをより知っていただく特別連載の第2回として、京都コンサートホールと一緒にコラボレーション内容を考えてくださった株式会社進々堂の続木創社長に、パティスリーの魅力をはじめ、パン作りや音楽についてお話を伺いました。非常に濃密な内容となりましたので、前編・後編と2回に分けてお送りします。

*  *  *

★コラボレーションについて★

――改めまして、この度は京都コンサートホールとのコラボレーションをお引き受けいただき、ありがとうございます。これまで、今回のように異ジャンルとのコラボレーションをされたことはございますでしょうか?

続木社長:はい、一番面白かったのは、京都市美術館がバルテュス展(2014)を開催した時のコラボレーション。美術館のみではなく、京都市内のいろんなところにバルテュスに関連したものが存在するような環境を作りたい、ということでバルテュスに因んだメニューを進々堂のレストランとカフェで出して欲しいというご依頼でした。
バルテュス未亡人が日本人の素敵な女性という幸運もあり、バルテュスが生前好物にしていた食事につき奥様にいろんなお話を聞くことができました。ところがこれが結構ハードルが高くて、「パン・ド・カンパーニュにハムを挟んだシンプルなサンドイッチ」とか、「スパゲッティも塩とバジルだけのシンプルなもの」とか。実はそういうのが一番難しいんですよね。あとは「チョコレートムースが好きだった」というお話もあったので、四苦八苦しながらも何とかメニューとしての体裁を整え、奥様に試作品を食べていただきOKが出たときにはみんなで大喜びしました。それまで知らなかったバルテュスという画家を身近に感じるようになって、とても楽しい仕事になりました。

 

――とても面白い試みですね!コラボレーションをするには時間もエネルギーもかかるかと思いますが、どういったところにコラボの価値を見出されますか?

続木社長:このようなコラボレーションをすると、僕にとっても社員にとってもとても良い刺激になります。やっぱりパンはヨーロッパの文化の中で育まれたものなので、「芸術家がどのようにパンを楽しんでいたか」を再現してみると、社員たちにとってもイマジネーションをふくらませる良い助けになります。そして、自分たちの仕事のルーツみたいなところを再確認することにもなります。普段なかなかここまで手間暇かけて商品開発は出来ないんですが、実際にコラボレーションに取り組ませることで、これだけ広がりがあって楽しいことができるということが社員たちの気持ちの中に芽生えます。今回のコラボレーションを担当した社員たちも、「仕事が全部こんなんだったら楽しいのにな」と言いながらやっていますよ。なおかつお客様にも進々堂の「食文化に対する姿勢」みたいなものが伝われば良いな、と社長としてはそういう打算(?)をたくさん持ってやっています(笑)。

★今回のコラボレーションと特別パティスリーについて★

――コラボレーションはパン作りの原点を見直す大切な機会なのですね。社員のことを大切に、そして真剣に考えていらっしゃる続木社長の想いがとても伝わってきました。
ところで私どもの企画である、京都・パリ友情盟約締結60周年・日仏友好160周年・ドビュッシー没後100年 スペシャル・シリーズ《光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー》とのコラボレーションについてもお話を聞かせていただけますでしょうか。

続木社長:京都市・パリ市の60周年という記念すべき年に、進々堂がこのような形で関われるというのはとても光栄だと思っています。しかもドビュッシーの没後100年という時に、ドビュッシーにちなんだものを作れるというのはとても楽しいです。

 

――そう言っていただけて嬉しいです!今回のコラボレーションでは、とても素敵なパティスリーを作っていただきましたが、完成までにはどのような経緯があったのでしょうか?

続木社長:もともとは、ドビュッシーの生家があるサン=ジェルマン・アン・レー(SaintGermain-en-Laye) にある「メゾン・グランダン(Pâtisserie Grandin)」という老舗洋菓子屋さんの「ル・ドビュッシー(Le Debussy)」というチョコレート菓子を作ろうと真剣に考えました。ところが取り寄せて試食してみたら、味そのものがイマイチしっくりこなかったんですよね。その他にも色々難しい条件もあったので結局「ル・ドビュッシー」を作るのは諦めて、高野さん(京都コンサートホール 事業企画課)と相談しながらどんなことができるか考え、生まれたのがこの3つのパティスリーです。

――この3つのパティスリーはどうのように開発なさったのでしょうか?

続木社長:奇をてらうのではなく、もともとフランスの食文化の中にあるものを応用しながら、何か新しいものを作りたいと思いました。結局、第1回ではアーモンドクリームを包みこんだブリオッシュ、第2回では様々な形のフィナンシェ、そして第3回では南西フランス・ボルドー地方の伝統菓子カヌレにオレンジ・リキュールをきかせたものになりました。フランスの伝統的な「美味しさ」をうまく組み合わせて、今回のイベントにふさわしい味を作り出そうという試みだったんです。

例えば、第1回のブリオッシュ生地にアーモンドクリームを包んだヴェノワズリー(注:卵や牛乳、砂糖などを用いたリッチなパンの総称)なんてあって不思議じゃないのに、なぜか今まで無かった。第3回のカヌレも、カヌレに「グラン・マルニエ」のオレンジ・リキュールを加えるなんて今まで誰もやってないと思うんですけれど、やってみたらすごく美味しかったんです。「こんなに美味しいのになんで今までなかったのかな」というものを目指したので、皆さんがどのように召し上がってくださるかとても楽しみです(※詳しくは、当ブログ「進々堂様ご提供の特別パティスリー、詳細決定!」をご覧ください)。

★ドビュッシーについて★

――さて、続木社長はクラシック音楽がお好きだと聞きましたが、ドビュッシーはお好きですか?

続木社長:ドビュッシーはとても好きな作曲家です。僕自身はどちらかというと、バッハ、モーツァルトからベートーヴェン、ブラームスという流れのドイツ・クラシックが好きなんですけど、フランス音楽の中でも印象派のラヴェルやドビュッシーは好きです。実は僕は子供の頃からヴァイオリンを習っていて、学生時代に弦楽四重奏もやったのですが、ラヴェルの弦楽四重奏曲は弾いたことがあります。ドビュッシーも演奏したかったんですが、実はドビュッシーの方がずっと技術的に難しくて諦めました。でも、ロマン派以降の弦楽四重奏曲で一番好きな曲はと訊かれたら、多分ドビュッシーと答えます。特に子守唄のような第3楽章が好きですね。

それから今回のコラボレーションがはじまってもっとドビュッシーについて知りたいと思い、ドビュッシーの伝記、島松和正著 『ドビュッシー: 香りたつ音楽』(講談社エディトリアル刊)を読みました。お医者さんが書かれたすごく素敵な本で、ああいうディレッタンティズム(注:芸術や学問を趣味や道楽として愛好すること)ってすごいと思いました。読んでいて本当に楽しかったです。
今はユーチューブで世の中の曲ほぼ全てが聴けますよね。その伝記を読みながら、曲名をユーチューブに入力するとほとんど全部聞けてしまってびっくりしました。そして知ったのですが、ドビュッシーって若い頃に素敵な歌曲を本当にたくさん書いているんですね。後年に書かれた管弦楽曲とかは結構聞いていたんですけど、今回この企画に関わったおかげで若かりし日にドビュッシーが書いた歌曲たちという新しい世界を知ることができました。こういう出会いって本当に嬉しいものですね。

* * 後編につづく * *

(2018年7月4日京都コンサートホール事業企画課インタビュー@進々堂 本社)

*  *  *

スペシャル・シリーズ《光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー》の特設ぺージはこちら。

オルガニスト大木麻理 特別インタビュー(9/8オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ Vol.62「オルガニスト・エトワール」)

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インタビュー

人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」の62回目、“オルガニスト・エトワール”にご出演いただく大木麻理さん。

大木さんは、第3回ブクステフーデ国際オルガン・コンクール優勝など輝かしい受賞歴を持つ、今注目のオルガニストです。その活躍は飛ぶ鳥を落とす勢いで、今年4月からミューザ川崎シンフォニーホールのオルガニストに就任されました。

今回、京都コンサートホール初登場を記念して、国内オルガニストの期待の星“エトワール”である大木さんに、オルガンの魅力や珍しい和太鼓との共演についてなど色々とお話を伺いました。

――こんにちは!この度はお忙しい中ありがとうございます。
まず大木さんのオルガンとの出会いをお聞かせいただけますでしょうか?

大木さん:小学校4年生の時に、地元静岡に新しいコンサートホールが完成し、そこにパイプオルガンが入りました。市民を対象に新しいオルガンの見学会が開催され、そこに参加したのがオルガンとの出会いです。
その豪華な見た目と、音色に一瞬で心をつかまれ・・・今に至ります!

――パイプオルガンは他の楽器にはない圧倒的な存在感がありますよね。大木さんにとって、パイプオルガンの魅力とは何でしょうか?

大木さん:心の琴線に触れるような繊細な音色から、天地がひっくり返りそうなダイナミックな音まで、一人で奏でることができることです。
また手だけではなく足を使って演奏したり、ストップ操作など、大きなおもちゃを操っている様な感覚になります。

――オルガニストの方々が両手両足を駆使して、大きなオルガンから様々な音色を引き出されている様子にはいつも感銘を受けます。この4月から務めていらっしゃる「ミューザ川崎シンフォニーホール・オルガニスト」について、具体的にどのようなお仕事をなさっているのか教えていただけますでしょうか。

大木さん:ソロやオーケストラとの共演など演奏のお仕事はもちろんのこと、「弾き込み」と称して、ホールが空いている時間は出来るだけ多くの時間楽器を鳴らすようにします。その中で楽器に不調がないか、チェックをしてオルガンが常に良い状態に保たれるように努めています。また外部からオルガニストをお招きする際には、その公演が円滑に進み、気持ちよく演奏をしていただくために“黒子”のような存在になることもあります。
そしてオルガンの魅力を一人でも多くの方に知っていただくため、オルガンの見学会やレッスンなども行っています。

(C)Mari Kusakari

――演奏だけでなく、様々な形でオルガンと関わっていらっしゃるのですね。大木さんは大学で教鞭も取られていますが、「教える」ことはお好きですか?また、「教える」ことによってオルガン演奏にどのようなプラス面がありますか?

大木さん:教えることは好きです。大きなやりがいを感じています。自分が教わってきたことを多くの人に伝えたいと思いますし、そのことがオルガンを習う人にとって何か助けになると嬉しいと考えています。レッスンをすることで音楽や演奏法などを客観的にそして冷静に見ることができ、自分が弾いている時には気付かない悪い癖などを知ることができます。
逆に生徒さんのオルガンと向き合う姿勢から学ぶことも沢山あり、レッスン後にはいつもオルガンが弾きたくなるんです!

――レッスン後でも弾きたくなるほど、オルガン愛に満ち溢れた大木さんから教えてもらえる生徒さんは幸せですね!
今回の演奏会では和太鼓との珍しいデュオを聞かせてくださいますが、なぜ今回和太鼓を選ばれたのでしょうか?

大木さん:いつかオルガンとコラボレーションしたい楽器の筆頭に「和太鼓」がありました。私の長年の夢だったのです!躍動感溢れる音、リズム、そして奏者の肉体と(誤解しないで下さい 笑)魅力的な要素が沢山詰まった楽器だと思います。

そしてもう一つの理由にオルガンと打楽器の相性の良さがあります。オルガンは繊細な音から地を揺らすような音まで、非常に大きなダイナミックレンジを持つ楽器ですが、アンサンブルをする時にお互いに音量の遠慮し合うことなく、つまりオルガンと対等のダイナミックレンジを持つ唯一の楽器が打楽器だと思います。

昨今ではオルガンとクラシック楽器としての打楽器との演奏機会は増えてきましたが、和太鼓はとても珍しいですよね・・・。日本人として日本の楽器を大切にしたい気持ちもあり、今回は同じ打楽器でも「和」なものを選んでみました。

大多和正樹(和太鼓)

――夢の共演を京都コンサートホールで聴けるのはとても楽しみです!
今回のプログラムの冒頭に演奏される、大木さんお得意の作曲家ブクステフーデについて、彼の作品の特徴や魅力などを教えていただけますでしょうか。

大木さん:得意なのかは正直わかりません・・・笑。でも大好きな作曲家の一人です。ブクステフーデの存在なしには、恐らくJ.S.バッハは誕生しなかったでしょう!
(青年バッハが約400kmの道のりを歩いて彼の演奏を聴きに行き、その虜になったという逸話が残っているくらいですから。)
ブクステフーデの音楽は、私にとって非常に「魅惑的」です。一筋縄ではいかない音楽の進行、そしてドラマチックなお芝居を見ているかのような劇的な音楽の展開に心を摑まれています。

――ブクステフーデはオルガン界にとって大切な存在で、時代や国を越えて多くの人を惹きつけた作曲家なのですね。
ところで、今回のプログラムについて、テーマや聴きどころをお教えいただけますでしょうか?

大木さん:私の中でのテーマは「未知への挑戦」です!オルガンと和太鼓によってどんな音楽が誕生するのか、私自身もわからないのです。でも面白いものになるという確信は持っています。
本音を言うと、私も一聴衆としてこの演奏会を聴きたいくらいです!
そして聴きどころは・・・「全部」!!

――プログラムを最初に拝見した時からずっとワクワクしております!
それでは最後に、演奏会を楽しみにしている皆さまへ、メッセージをお願いいたします。

大木さん:オルガンと和太鼓が一緒に演奏するなんて、どんな演奏会になるのだろう・・・と思われているお客様もいるのではないかと想像していますが、安心してください!きっとオルガンの新たな魅力を感じて頂ける機会になると思います。

個人的に最近気に入っている言葉に「オルガン浴」というものがあります。オルガンを聴くのではなく、リラックスしてオルガンの音を浴びて頂きたい、と思いついた言葉です。日光浴、森林浴などと並んで、この言葉がスタンダードになったら嬉しいな・・・なんて思っています。

初めての京都コンサートホールですが、新しいオルガンとの出会い、そしてお客様との出会いを今から心待ちにしております。オルガンの音を思う存分浴びにいらして下さい!

――色々なお話を聞かせてくださいまして、誠にありがとうございました。9月の公演がとても楽しみです!

(7月31日 京都コンサートホール事業企画課 メールインタビュー)

♪♪ 公演情報 ♪♪

オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.62「オルガニスト・エトワール」

2018年9月8日(土)14:00開演(13:00開場)大ホール
[オルガン]大木 麻理(ミューザ川崎シンフォニーホール・オルガニスト)
[ゲスト]大多和 正樹(和太鼓)

[曲目]
ブクステフーデ:前奏曲 ト短調 BuxWV149
J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV565
J.S.バッハ(A.ラントマン編曲):シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番より)
ボヴェ:「東京音頭」による幻想曲
ラヴェル(K.U.ルードヴィッヒ編曲):ボレロ
ほか

[チケット料金]
全席自由 一般 1,000円 高校生以下 500
〈京都コンサートホール・ロームシアター京都Club、京響友の会の会員〉 900円

※障がいのある方:900円(同伴者1名まで)
京都コンサートホール・ロームシアター京都のみで取扱。
窓口でご本人様が証明書等をご提示ください。

詳しくはこちら♪

ヴァイオリニスト 弓 新 特別インタビュー(「田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪vol.26」(6/26) ゲスト)

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インタビュー

京都コンサートホール館長の田隅靖子がナビゲートする、平日マチネ60分のワンコイン・コンサート「おんがくア・ラ・カルト」。第26回は、弓 新(ゆみ・あらた)さんをゲストとしてお招きします。

現在26歳の弓さんは、国内外で大活躍中の若手ヴァイオリニスト。2011年、第14回ヴィエニャフスキ国際コンクールにて最年少ファイナリストに贈られる特別賞を受賞し、一躍国際的な注目を浴びました。近年ではNHK Eテレ「らららクラシック」に出演するなど、多彩な活動を繰り広げていらっしゃいます。

さて、今回のア・ラ・カルトで弓さんが演奏してくださるプログラムは、20世紀フランスで作曲されたヴァイオリンの名曲たち。イメージは、1900年代初頭のパリで花開いた「サロン」でのコンセール・プリヴェ Concert privé (私的コンサート)です。

そこで京都コンサートホールでは、弓さんについてもっと知っていただくために特別インタビューを敢行!
ヴァイオリンやプログラムなどについて、とても丁寧に答えてくださいました。

――京都コンサートホール初登場となる弓新さんですが、まずはじめにヴァイオリンを始められたきっかけについて教えてくださいますか?

弓新さん:決して自分から始めたいと言った訳ではなく、当時同じ団地に住んでいたヴァイオリンの先生と母が偶然生協仲間だった事から、習い事としてやらせてみようという風に両親が考えたらしく、後は僕が適当に返事をしていたらいつの間にかヴァイオリンを持たされていた、という感じです。

――そうなんですか!あくまで個人的な感想なのですが、弓さんのお名前からして『生まれる前からヴァイオリニストになる運命でした…』という言葉をなぜか期待してしまいます(笑)
ところで以前、弓さんは楽器に対してかなりのこだわりをお持ちのヴァイオリニストだという話を耳にしたことがあります。どのようなところにこだわりがおありなのでしょうか?

弓新さん:使用する弦と、楽器の調整と弓の毛の長さには大変こだわります。
あまりこだわるので職人さんから嫌われることもあります。でも、僕に言わせれば、僕にはその調整でしか出せない音があるからそこは絶対に譲れないんですね。言うなれば、料理人の包丁、フィギュアスケーターのスケート靴の様に0.1ミリ以下単位での違いが本番の出来を左右します。
ですので、僕の楽器を調整する職人さん達は僕に何度もダメ出しをされて普段の3倍から5倍くらいの時間を使います。そしてその分ちゃんと請求もされるので、僕のコンサートのギャラの半分くらいは普通に楽器調整に消えています(苦笑)。
そのうち時間ができたら、自分でヴァイオリン製作と調整を勉強したいと考えています。

――すごいですね…。楽器や演奏に対して、とてつもなく神経を使っていらっしゃることでしょう。
おそらく四六時中ヴァイオリンのことを考えていらっしゃると思いますが、たまには息抜きも必要ですよね。音楽以外に趣味などはお持ちでしょうか?

弓新さん:色んな事に興味を持っているのですが、最近最も興味を惹かれるのは家具製作です。
今ベルギーでよく会うピアニストの家族が家具職人らしく、この夏は彼のフランスの実家で休暇を取って椅子作りを体験してみようかなどと話しています。

――家具製作ですか!意外…と思いきや「何かを創り上げる」という点で、音楽と共通するものがあるのかもしれません。
そういえばわたしの知人で楽器製作家の方がいるのですが、その人も何かを創るのが大好きで、ある日とうとう自分の家を建ててしまいました。ものすごいハイレベルの家で、木材の生産地や品種からこだわっており、その家に足を踏み入れた時に心から感心したことをふと思い出しました。
…さて、話を戻しましょうか。弓さんのご経歴についてお伺いしたいことがあります。
弓さんは高校入学後すぐにチューリッヒへ留学されましたよね。なぜこのタイミングで海外に出られたのですか?

弓新さん:高校は一応一年と半学期は在籍していましたが、高校に入る5年ほど前からザハール・ブロン先生*のレッスンを受けていましたので、将来的に彼の許で学ぶために留学する事は殆ど決まっており、後はタイミングだけで、できるだけ早く出ようと考えていました。
ですのでチューリヒ芸術大学の入試を受けたら受かり、有難い事にロームミュージックファンデーションからの奨学金も頂ける事になったので覚悟を決めて出た、という感じです。
*ザハール・ブロン (1947~):カザフスタン・ウラリスク出身のヴァイオリン奏者。世界的名教師で、その門下からは数々の名ヴァイオリニストが輩出されている。ケルン音楽院・チューリッヒ音楽院の両大学教授を歴任。

――最近、拠点をライプツィヒに移されましたよね。何かきっかけがあったのでしょうか?

弓新さん:8年住んだチューリヒを出た最も大きな理由は、住み慣れた街から得るものを得尽くしたと感じた事と、今後の活動の拠点として、やはりスイスよりも大きな伝統とフィールドを持つ街に行きたい、もっといろんな音楽家に会って刺激を受ける機会が欲しい、と思ったからです。
もちろんパリやベルリン等の大きな都市に住むことも考えましたが、バロック音楽及びヴィーン古典派の音楽をしっかり学びたいと常々考えていたので、ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのコンサートマスターでモザイクカルテットの第一ヴァイオリン奏者のエリック・ヘバルト氏が教授を務めるライプツィヒの音楽大学に在籍して後2年、学生を続ける事にしました。

――日本に比べて、海外生活はいかがですか?もう長く海外に住まれていらっしゃいますが。

弓新さん:一長一短です。自分の仕事にはこのヨーロッパでの環境が少なくとも文化的な文脈の上では最適だと感じますが、気候風土や食のクオリティに関してはやはり日本が素晴らしいと感じます。

――わたしたちとしては、海外でご活躍されるのはとても嬉しい反面、日本での演奏機会をもっと増やしていただきたいですけどね!
ところで今回のア・ラ・カルトのために、素敵なプログラムを用意してくださいました。どのようにしてプログラミングされたのですか?

弓新さん:今回のお話を頂いた際に、プログラムはフランスもので尚且つ聴きやすいものという事でしたので、サン=サーンスやフォーレの初期作品であるソナタ一番など、割とソフトな作品で纏めました。ドビュッシー没後100年の年に彼の作品を入れていないのは少し残念ですが、ラヴェルの遺作ソナタの方が他の二曲と美しく繋がるのでそちらを選びました。
このソナタは日本ではあまり演奏されない様ですが、まだ若い頃のラヴェルの生きる歓びや希望の様なものが溢れている作品で、僕はとても好きです。

――いまさっき弓さんがおっしゃったように今年はドビュッシー没後100年という年でもあるのですが、京都・パリ友情盟約締結60周年&日仏友好160周年という特別な一年でもあるという…。フランス贔屓の方々にとっては本当にスペシャルな年です。「フランスもの」を演奏するのにピッタリですよね。
弓さんにとって「フランスもの」の魅力って、どのようなものでしょうか。

弓新さん:難しいですね。フランスものと言っても色んな作曲家と作品がありますし、僕も全部のフランス音楽に魅力を感じる訳ではありません。
ただ思うのは、ラモー*からグリゼー**に到るまで、フランスの作曲家の作品には何か共通する特徴的なソノリティやリズム感があるという事です。
それから、フランスの演奏家による楽譜の読み方がドイツ・オーストリア・ハンガリー的な原典至上主義的志向では必ずしもなく、時に楽譜の指示よりもソノリティの方を優先させるところなども、フランス音楽にフランスらしさ、魅力を与えているのではないかと思います。
*ジャン=フィリップ・ラモー (1683-1764):ジャン=バティスト・リュリと並ぶ、フランス・バロック時代最大の作曲家。オペラ作曲家として数多くの作品を残しただけではなく、音楽理論家としても『和声論』 (1722) を発表するなど、西洋音楽史上重要な役割を果たした。
**ジェラール・グリゼー (1946-98):フランスの現代作曲家。パリ国立高等音楽院でオリヴィエ・メシアンに、パリ・エコール・ノルマル音楽院でアンリ・デュティーユに師事した。「スペクトル楽派」の先駆者。

――弓さんはどのようなヴァイオリニストを目指していらっしゃるのですか?

弓新さん:昔は目指すヴァイオリニストというものがあったのですが、今では自分の音、自分の声に耳をすます方向に向かっています。
まだ自分がどういうヴァイオリニストなのか、という様なはっきりとした定義はできませんが、自分の日本人というバックグラウンドの上に、これまでの経験、その時演奏する作品、住んでいる場所、共演者、などと言った要素と共に変化していくことが出来れば、と考えています。

――奥深い言葉ですね。やはり海外生活を長くしていらっしゃる弓さん独自の視点で、物事を見つめていらっしゃるように思います。

今日はたくさんのことをお伺いしましたが、最後にひとつだけ、どうしても気になっていることがあるので質問をさせてください!
弓さんのお名前「新(あらた)」は、世界的建築家の磯崎新氏に由来するとのこと!なぜ磯崎新さんなのか、知りたいです。というのも、京都コンサートホールは磯崎作品のひとつなんです!

磯崎新 ©Rafael Vargas

弓新さん:僕の名前は母がつけたので母に聞いていただくのが一番だと思いますが、僕も母と同じくらい磯崎新氏のファンです。残念ながら母の当初の希望通りの建築家への道には進みませんでしたが、彼のエッセイは何度も読みますし、”空中都市”を彼のホームページで高校生の時に最初に見た時には鳥肌が立つほど興奮したのを覚えています。
今回一磯崎新ファンとして彼の設計したホールで演奏できるのはとても嬉しいです。

――わたしもこのエピソード、とても嬉しいです(笑)初めて知った時、ちょっと興奮してしまいました。
今日はお忙しいところ、たくさんの素敵なお話をお聞かせくださってありがとうございました!6月26日の演奏会を楽しみにしています!

2018年2月14日京都コンサートホール事業企画課インタビュー(た)

田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪vol.26 ~Salon de Paris~

NYP公演(3/11) 特別インタビュー「ヴァイオリニスト五嶋龍に聞く」

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インタビュー

来年3月11日、京都コンサートホールにニューヨーク・フィルハーモニック(NYP)がやってきます。
京都での公演はなんと16年ぶり。指揮者に、2018/19シーズンからNYP音楽監督に就任するヤープ・ヴァン・ズヴェーデン、ソリストにはヴァイオリニストの五嶋龍を迎え、メンデルスゾーンの《ヴァイオリン協奏曲ホ短調》とストラヴィンスキー《春の祭典》を演奏します。
NYPの「伝統」と「革新」をイメージさせるようなメンバーとプログラムで、史上最強・最高の「ニューヨーク・サウンド」を披露します。

さて、今日はNYP京都公演を記念して、ヴァイオリニスト五嶋龍のインタビューをみなさまにお届けします。
コンサートにボランティア活動、テレビ出演など、とてもご多忙でいらっしゃる五嶋氏ですが、お話を伺っていて「どんなことからでも学びたい」というアクティブな姿勢でいらっしゃることに驚かされました。

――龍さんこんにちは!京都コンサートホールです。来年3月のNYP公演ではソリストとして京都に来てくださいますね。
さて、当ホールに龍さんが初登場された演奏会のチラシを今日は持参してみました。この演奏会です。龍さんは当時のことを覚えていらっしゃいますか?

五嶋龍ヴァイオリン・リサイタル(2006年)

五嶋龍さん(以下敬称略):おー、ずいぶん昔ですね(笑)
もう11年前か。印象にないというよりも、あまりにも昔で覚えていないですねぇ。すいません。

――いえいえ、そうですよね。京都コンサートホールには、「五嶋龍ヴァイオリン・コンサート2008年」以来となりますから、来年ホールにいらっしゃる時には10年ぶりのご登場となります。今回、NYPと共演なさいますが、龍さんにとって「NYP」はどのような存在ですか?

五嶋龍ヴァイオリン・コンサート2008 チラシ

五嶋龍:NYで生まれ育った僕にとって、NYPは憧れの存在でした。なので、共演出来るなんて夢の世界です。いまだにそれをまだ自覚出来ていないというか、不思議な感覚です。

あともう一つ、不思議なことがあります。それは「新生NYP」になったということですね。
NYPはずっと憧れていた存在で、やっと共演出来るという感じなのですが、僕が知っているNYPとはぜんぜん違う。オーケストラメンバーも若い世代ばかりですし、何より音楽監督が今度変わりますからね(※来年3月に五嶋氏が共演する指揮者は、次期NYP音楽監督であるヤープ・ヴァン・ズヴェーデン氏)。
だから色々な意味で、NYPのイメージはがらっと変わるでしょうし、新しいアイデンティティが見えてくるでしょうね。
そう考えると、今度の日本公演はとても楽しみです。できたてほやほやの「NYP」を味わえるなんて、日本のお客さまも楽しみでしょうね。僕もとっても楽しみです。

NYP公演チラシ(2018年3月11日・京都コンサートホール)

――プログラムはメンデルスゾーンの《ヴァイオリン協奏曲ホ短調》ですね。
五嶋龍:そうです。僕、実はこの1年半の間にメンコンをたくさん演奏するんですよ…10回くらい?もちろんこれまで、もう何回もメンコンを演奏してきたんですけど、僕は毎回違うメンコンを演奏するような気持ちで演奏しています。

――同じ曲なのに「毎回違うメンコン」なんて、可能なのでしょうか?
五嶋龍:はい。その秘密はおそらく、僕の周囲の環境と関係があるかもしれない。
うちは音楽一家でしたけど、友人や親友はそうじゃなかった。だから僕も、彼らと近いところからクラシック音楽を眺めていました。
だからクラシック音楽だけじゃなく、他のジャンルの音楽も面白いと思ってるんです。
たとえばポップスはいつも新しいものをクリエイトしているじゃないですか。もちろんクラシック音楽においても、過去にはみんながクリエーターだったんですけど、モーツァルトとかメンデルスゾーンの曲を弾くとなると「楽譜を読んでそのまま再現しているだけじゃないか」ってなる。
でも、突き詰めて考えると「過去のものは再現できない」んですよ。だって楽器も環境もホールも違う、知っているものそのものが違うんですから。例えばね、時間の流れ自体が違う。
いまはもう手紙はなかなか書きませんし、そのかわりEメールでやり取りしますからね。
だから昔の曲をそのまま再現しようとすれば「古びた歴史」を語っているだけになっちゃうんですよ。

生きた音楽をしようと思うと、相当なクリエイティビティが必要になってきます。メンデルスゾーンの意図をそのまま伝えるのではなくって、彼の先を越えていかなければいけない。
僕が楽器を介して「メンデルスゾーン」を伝えているうちに、自分がクリエイターになってきます。最終的に「メンデルスゾーンもお手上げ!」みたいにならないといけない。

でね、それが一部の人にしか伝わらないような演奏だったらダメなんです。さっき言ったみたいに、僕の友達は音楽をしていない人が多かった。そういう人こそが「この音楽いいね、楽しいね」って言うような、そういう音楽がしたいんです。
だって、クラシック音楽ファンの人が「クラシック音楽っていいね」って言っても普通でしょう?内部から外部に発信するのではなく、外部から発信することが大事だと思う。
僕は子供の頃からメンコンを弾いてきましたが、そこで止まりたくない。「もしかしてこうじゃないのかもしれない」って全部ひっくり返してみようと思って、新しい気持ちで演奏してみると、全然違うものが出て来ます。
「あ、メンコンってこんなに新鮮に出来るもんなんだな」っていつも思いますね。

五嶋龍氏

――なるほど。とても興味深いお話を伺いました。そういう音楽に関することは、何をしているときに考えていらっしゃったり思いつかれたりしているのですか?
五嶋龍:リハーサル中でしょうか。前日になって発見することも多いです。もちろん、ライブ中に発見することもあります。「こういうところを押していきたい」とか「強調していきたい」なんて考えていますね。
あとは、音楽以外のことを楽しんでいるときに発見することも多いです。
例えば誰かの演説を聞いているときに「こういうやり方もあるんだな」とか、読書をしているときに「こういう言葉遣いで、こんなメッセージを届けることが出来るんだな」とか。それをパラレルに音楽へリンクさせるのです。

それから僕の場合、レストランに行った時に発見することが多いですね。
料理でね、たまに衝撃的なものってあるじゃないですか。「これは一体何だ!」みたいな。
わかりやすいんだけど複雑で、深くって、見た目も味も、全て「これって凄いな!」っていう料理、あるでしょう。
数日経って「あれってやっぱりすごかったな、どうしてあんな味だったんだ」って考える時があります。
あのトリックは何だ、コツは何だ、構造はどうなってんだ、と。
それと全く同じことを音楽でするんです。

――たしかに、わたしも音楽と料理は似ているなと思います。繊細さとか大胆さとか、そういうところに共通点を感じますね。
ところで龍さんは、昔から空手をなさっていて有段者でいらっしゃいますね。また大学では物理学を専攻されていました。そういうものと音楽がつながる時はありますか?
五嶋龍:ありますね!物理と音楽はミステリーの部分で共通点を感じますし、空手だったら表現の仕方ですとか、気持ちの問題で共通点を感じる。
特に空手に関しては、最近になってやっと共通点を感じるようになったんです。
例えば組手をしている時、試合前やその途中で気合を入れなければいけない時、どれだけ自分を燃やしていけるかが大事になってきます。こういう面においても音楽と共通していますよね。演奏会前はやっぱりちょっと野性的にならないといけませんしね。
そうじゃないと人前に出られませんから。

あとは、計算的な美しさとは別に、計算外で思いもしなかった結果が出るときの美しさもある。
例えば空手でいうと、相手に対して計算通りこういうふうに誘ったら手がこういうふうに入って、こう受けて、顔面をぶん殴る、みたいな(笑)。
あまりガードを固くしてたら隙がないから攻撃されない。だから隙を作るんです。
隙を作って相手を誘うんです。誘ってバコンと殴る(笑)。うまくいったときって嬉しい、「やったー」ってね。これは漫才とかでも一緒だと思うんです。隙を見せて笑わせて、そしてオチをつくる。これね、ベートーヴェンもよくやるんですよ。
でもこれは計算通りのもの。
たまに、自分が計算していない技が出て、うまく入る時がある。やっぱり嬉しい。そういう楽しみって音楽にもありますよ。
ライブ中に「あれ、こんなことも出来るかな?じゃ、試してみよっかな」って思う時があります。
もちろん失敗してしまうときもあるけど、うまくいったときはそのリスクを取って良かったなと思いますね。

©Ayako Yamamoto/ UMLLC

――ほう・・・・・・。龍さんはお料理をされたり、漫才を見たりもされるのですか?
五嶋龍:そういう発見が大好きなんですよ!やっぱり楽しみながら勉強したいし、楽しめるときに楽しみたい。
でもね、ちょっと残念なところもあるんです。例えばロック・コンサートに行きますよね。楽しいんですけど、どこかで「見習いたい」とか「使えないかな」って思ってしまう自分がいる。完璧にリラックスして物事を楽しめないのです。
映画を見ていても何かを食べていても「何かを考えてしまう」。
だから、たまに自分に言い聞かせるんですよ、「何も考えずに楽しもう」って。常に頭が回転していますから。

――いやはや、龍さんの話は大きな刺激になります。なんてアクティブなんでしょう。
若い人たちにとっては、龍さんのような存在は憧れだと思います。
来年3月の演奏会がますます楽しみになってきました。素晴らしいメンデルスゾーンを心待ちにしています!
今日は忙しい中、ありがとうございました!

2017年9月1日京都コンサートホール事業企画課インタビュー@箕面市メイプルホール(た)

京都 ラ ビッシュ アンサンブル Vol.14(10月9日)インタビュー

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アンサンブルホールムラタ

京響メンバーを中心に、2002年に結成された「京都 ラ ビッシュ アンサンブル」。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、クラリネット、ファゴット、ホルンというユニークな楽器編成による多彩なレパートリーを誇り、これまでに京都公演をはじめ、鳥取、兵庫、岐阜、滋賀など各地の公演で好評を得てきました。

京都 ラ ビッシュ アンサンブル

今年はラ ビッシュ アンサンブルにとって、結成15周年となるメモリアルイヤー。
10月9日(日・祝)14時、京都コンサートホール アンサンブルホールムラタで公演を開催します。
プログラムは、2つの大曲を演奏します。まず、ベルギーの作曲家マルセル・ポート (1901-1988) の《クラリネット、ファゴット、ホルン、弦楽五重奏のための八重奏曲》。
そして、かの有名なアントニオ・ヴィヴァルディ (1678-1741) のヴァイオリン協奏曲「四季」を八重奏用に編曲したものです。8人全員が主役となって、色とりどりの四季を表現します。
バロックと近現代それぞれの「八重奏」をお楽しみ頂ける、なんとも贅沢な一夜です。

京都 ラ ビッシュ アンサンブルVol.14演奏会チラシ

「八重奏」とは、2台のヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・コントラバスというオーケストラの基本的な編成に、クラリネット・ファゴット・ホルンという管楽器を組み合わせたもの。その完璧な響きから「オーケストラの縮小版」と称される一方で、各奏者のヴィルトゥオジティもじっくり味わうことが出来ます。「京都 ラ ビッシュ アンサンブル」も然り。これまで、八重奏ならではの濃密な響きで、たくさんの聴衆を魅了してきました。
今日は、「京都 ラ ビッシュ アンサンブル」の代表でコントラバス担当の神吉正氏に、ラ ビッシュ アンサンブルの魅力についてインタビューを行いました。

神吉正(コントラバス)

――結成15周年、おめでとうございます!みなさんにとって、15年は長かったですか?それとも短かったでしょうか?
神吉正氏(以下敬称略):室内楽が好きな京響メンバーが集まり、その楽しさをお伝えしようと一回一回を大切に発信し続けて、あっという間に時間が経った感覚です。

――アンサンブルは続けることに意味があると思いますので、素晴らしいと思います。15年継続して活動するということは、決して簡単なことではありません。ところで、アンサンブル名の「ラ ビッシュ」とはどのような意味があるのですか?
神吉正:「ビッシュ」という言葉は、フランス語のbiche(「雌鹿」の意味。フランスでは愛らしい女性に対して、この言葉が用いられることも)と日本語の「美酒」をもじったもの。
長く熟成される「美酒」のように、皆から愛されるアンサンブルを目指して活動を重ねてきました。
時間をかけてビッシュのサウンドを作り上げ、これからさらに熟成させていきたいと思っています。

――なるほど、素敵なアンサンブル名ですね。
みなさんは全員、京都市交響楽団で出会ったメンバーでいらっしゃいますが、お名前と担当楽器をご紹介頂けますか?
神吉正:全員、京響の団員または元団員で構成され、世代を越えて意見をぶつけ合う仲間です。共通点は「アンサンブルが好き」であるということですね。
まず、ヴァイオリンを担当する2人を紹介します。田村安祐美と片山千津子です。

田村安祐美(ヴァイオリン)
片山千津子(ヴァイオリン)

ヴィオラを担当するのは、小峰航一です。

小峰航一(ヴィオラ)

チェロを担当するのは、渡邉正和です。

渡邉正和(チェロ)

クラリネットとファゴットは、それぞれ鈴木祐子と仙崎和男が担当します。

鈴木祐子(クラリネット)
仙崎和男(ファゴット)

ホルンは小椋順二です。

小椋順二(ホルン)

そしてコントラバスは私、神吉正が担当しております。

神吉正(コントラバス)

そして忘れてはならないのが、毎公演、我々のために編曲を施してくれる前田肇氏です。

前田肇(編曲)

――ありがとうございました!どのような音色や響きになるのかとても楽しみです。
神吉さんにとって「八重奏」の魅力は何でしょうか?
神吉正:オーケストラの編成を縮小させると八重奏の編成になると言われてます。
弦楽器、管楽器、それぞれの音色と、それが調和された響きや迫力を一度に味わっていただけるのが、この編成の醍醐味です。

――今回の公演では、バロックと近代からそれぞれ1曲ずつ取り上げられますね。プログラムの聴きどころを教えてくださいますか。
神吉正:本来はヴァイオリン協奏曲である「四季」を、メンバー全員がソリストであるかのような、八重協奏曲として生まれ変わらせました。新しい響きをお楽しみください。
また、ほとんど知られていないポートの八重奏ですが、隠れた名曲が発掘される瞬間になるかもしれません。是非お立ち会いください。
今回のプログラムは、年齢に関係なく幅広い世代に聴いていただきたいですね。
クラシックに馴染みのない方でも、「四季」はどこかで耳にしたことのある曲だと思いますので、きっと楽しめると思います。

――いつも多彩な作品をプログラミングしていらっしゃるのが印象的です。どのようにしてプログラムを決められていますか?
神吉正:メンバー全員で、常にアンテナを張り、演奏会の情報やインターネット、CDなどをチェックしています。
お客さまからご提案いただいたケースもありました。また、カタログから楽譜を購入してみたものもあります。今回演奏するポートは、そのうちの一曲です。

昨年の公演から 京都 ラ ビッシュ アンサンブル

――それでは最後に、聴衆の方々へ一言お願いします!
神吉正:今回は新しい試みで、挑戦的なプログラムとも言えますが、初めて室内楽を聴かれる方でも、楽しめる内容になっています。
小編成ならではの緻密なアンサンブルを、是非聴きにいらしてください。

2017年9月1日 京都コンサートホール事業企画課メールインタビュー(た)

フランソワ・エスピナス 特別インタビュー

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インタビュー

9月16日(土)午後2時開催「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.60 『世界のオルガニスト』」。ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂首席オルガニストのフランソワ・エスピナスが、十八番のフランス音楽を中心に魅惑のプログラムを組みます。おかげさまでチケットは完売となりました。
今回、フランソワ・エスピナス京都初公演を記念して、特別インタビューをみなさまにお届けします。オルガンとの出会いからフランス珠玉のオルガン・レパートリーの話まで、フランス随一のオルガニスト フランソワ・エスピナスの素顔を知ることが出来る貴重な内容です。

©Emma POMMER

――現在エスピナスさんは、フランスを代表するオルガニストとして国内外で大活躍されていらっしゃいますが、オルガンを始められたきっかけは何ですか?
フランソワ・エスピナス氏(以下エスピナス、敬称略): 私は昔、アルビという南仏の街に住んでいたのですが、そこにはとても美しいパイプオルガンを備える素晴らしい教会がありました。そのオルガンを聴いた時、恋に落ちたのです。たしか、8歳か9歳の時でした。それからピアノを習い始めて、13歳の時にオルガンを弾き始めました。

アルビ大聖堂のパイプオルガン。1736年クリストフ・ムシュレル作

――エスピナスさんをそこまで惹き付けるオルガンの魅力とは何でしょう。
エスピナス: オルガンは非常に多彩な楽器です。製作される国と時代によって楽器の構造や機能が異なりますし、楽器によって音楽や音色も変わってきます。私がオルガンに魅了され続ける理由はここにあります。こういった多彩さがオルガンの魅力です。

――2016年、エスピナスさんは新しいCDを出されましたね。その中で、フランスの偉大なオルガニストであるアンドレ・イゾワールが編曲したJ.S.バッハの作品を演奏していらっしゃいます。イゾワールはあなたの師匠でもありますよね。彼との思い出話をひとつ教えてくださいますか。
エスピナス: このCDは、私の親友であり同僚でもあるミシェル・ブヴァールと一緒に出したものです。私も彼もイゾワールの弟子でした。イゾワール先生との思い出はたくさんありますね…ひとつ選ぶのが難しいくらいです。一緒に歴史的オルガンを見に出かけたこと、一緒に東京を旅したことなど…。その中でも、最後の思い出は特に心動かされるものでした。イゾワール先生が亡くなる数ヶ月前、彼はすでに重篤な状態だったのですが、ブヴァールと一緒に出したCDを聴いてもらうために自宅を尋ねました。すると先生は微笑んでくださったのです。それが忘れられません。

2016年リリースのCD (la dolce volta)

――フランスには素晴らしいオルガンがたくさんあります。たとえば、パリのノートルダム大聖堂やサン・シュルピス教会、フィルハーモニー・ド・パリ、リヨンのモーリス・ラヴェル・オーディトリウムなどのオルガンは本当に素晴らしい楽器です。京都コンサートホールにも、日本でも最大級の素晴らしいオルガンがあります。この楽器について、どんな印象を持たれましたか?
エスピナス: うーん、この質問にお答えするのは難しいですね。なぜならこの質問に答えている時点では、まだそのオルガンを演奏したことがないからです。でも早くこの楽器を知りたいですし、絶対に素晴らしい楽器だと思います。

京都コンサートホールのパイプオルガン。ヨハネス・クライス社製

――ところで、エスピナスさんにぜひお伺いしたいお話があるんです。
フランスの「王のオルガニスト」の歴史は非常に長く、その役割も重要なものでした。1678年からは1人のオルガニストが3ヶ月間、つまり1年で計4人のオルガン奏者が「王のオルガニスト」として職務に就いていました。例えば、フランソワ・クープランも1月から3ヶ月間「王のオルガニスト」を務めたという記録が残っています。エスピナスさんは2010年に、ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂オルガニスト4名の中に選ばれました。当時と現在を比較すると、オルガニストを4人選定するという共通点がみられますが、オルガニストとしての役割においてどのような違いがありますか?
エスピナス: 17~18世紀の王立礼拝堂オルガニストは「演奏会」をしませんでした。彼らの役割は、典礼時に演奏することに限られていたのです。
今日、王立礼拝堂では宗教的な行事はかなり減っています。私たちの役割は特にコンサートで演奏することで、その他には非営利団体や学校、企業のセミナーのために演奏することもあります。

ヴェルサイユ宮殿王室礼拝堂のオルガン。1709-10年ロベール・クリコ&ジュリアン・トリブォ作

――9月16日の京都コンサートホールでの公演プログラムには興味深い作品が並んでいますが、どのように選曲なさいましたか?
エスピナス:前半は、師であるアンドレ・イゾワールに対するオマージュです。彼は演奏家としても(素晴らしいグリニー全曲録音を出しています)、バッハ作品の編曲者としても、作曲家としても活躍しました。後半は、20世紀フランスの偉大な2人のオルガニストであるルイ・ヴィエルヌとモーリス・デュリュフレへのオマージュです。デュリュフレの《前奏曲、アダージョと「来たれ、創造主よ」の主題によるコラール変奏曲》は、プログラム冒頭に演奏するグリニーの作品に呼応しています。

アンドレ・イゾワール(1992年、Orgue en Franceより)

――現在、幸いなことに私たちはフランスの素晴らしいオルガン・レパートリーに恵まれています。フランスのオルガン作品の魅力を教えてください。
エスピナス: フランスのオルガン・レパートリーは本当に幅広く、非常にたくさんありますよね。ルイ・クープランやティトゥルーズといった前期バロック作品からグリニーやマルシャン、フランソワ・クープランといった後期バロック作品、19世紀初頭のボエリー、フランクやヴィドール、ヴィエルヌ、デュプレのロマン派的かつ交響曲的な作品、トゥルヌミール、デュリュフレ、ジャン・アランの近代的な作品もあります。また、20世紀から21世紀にかけてもたくさんの素晴らしいオルガニストやオルガン作曲家がいます。オリヴィエ・メシアンもそうですし、ジルベール・アミ、グザヴィエ・ダラス、ジャン=ルイ・フロレンツ、ヴァレリ・オーベルタンなど……。私は彼らの多彩な作品が好きで、よく演奏します。

©Emma POMMER

――さて、最後になりましたが、エスピナスさんの演奏会を心待ちにしている京都のファンに向けて一言お願いします!
エスピナス: 1986年に初めて京都を訪れたのですが、日本の歴史が凝縮された素晴らしい街でした。
日本を訪れると、いつも大きな喜びを感じます。ですので、このたび京都コンサートホールでオルガンを演奏し、みなさまにお会い出来ることをとても幸せに思います。

2017年7月 京都コンサートホール事業企画課 メールインタビュー(た)