第3期登録アーティスト 福田優花(ピアノ)インタビュー (2025.3.9 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「ジョイント・コンサート」)

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京都コンサートホール

2024年度から「京都コンサートホール 第3期登録アーティスト」として、アウトリーチ活動を行っているピアニストの福田優花さんと宮國香菜さん。2025年3月9日開催の「ジョイント・コンサート」では、それぞれの想いが詰まったプログラムを皆さまにお届けします。

公演に先立ち、福田優花さんにインタビューを行いました。福田さんご自身のことやアウトリーチ活動について、また今回の「ジョイント・コンサート」についてお話しいただきました。ぜひ最後までご覧ください!

 

幼少期(京都コンサートホールにて)

 ◆福田さんについて

――ピアノを習い始めたきっかけについて教えてください。

ピアノを習い始めたのは6歳のころです。母が趣味でピアノを弾いている姿を私が見ていて、「弾いてみる?」と聞かれ、「うん」と答えたのがきっかけのようです。練習などをどのようにしていたか記憶はないのですが、ピアノを始めて1年でコンクールに出ました。

――1年で!すごいですね。初めてのコンクールのことは覚えていますか?

幼少期の福田さん

全く覚えていません(笑)。ですが、初めての発表会の時のことはよく覚えています。《人形の夢と目覚め》という曲を演奏したのですが、母の話によると、 演奏中なのに弾きながらチラチラ客席の方を見ていたらしく(笑)。演奏後に母が「ピアノは上手だったけど、本番で弾いている時はこっち見たらあかんねん」と言ったそうです。緊張はしなかったのですが、子どもですので気が散っていたのでしょうね。

――ピアノは京都で習い始めたのですか?初めて師事された先生はどのような方だったのでしょうか。

私は父親が転勤族だったので、実は初めの先生には1年しか習っていないのです。ピアノを始めた時は石川県にいました。そして小学校2年生の終わりに京都に引っ越し、そこで出会った先生が、京都市立京都堀川音楽高校(以下、「堀音」)でピアノを教えていらっしゃった福井尚子先生でした。すごく熱心に教えてくださり、また私も福井先生が大好きだったので「ずっと習いたい!」と思い、そこから父に単身赴任してもらい、父以外の家族は京都に残り、ピアノを習うことができました。

堀音時代。福井尚子先生と

――ピアノを習うために、お父様が単身赴任されたのですね!福田さんの生まれは石川ですか?

いえ、実は東京なのです。両親が大阪生まれで関西に帰りたいとい気持ちがあったようで、最終的に京都に住むことになりました。小学校2年生からずっと福井先生にピアノを習い、先生の母校でもある堀音を受験しました。

――高校での生活はいかがでしたか?

文化祭にて(ミュージカル「ウィキッド」)

堀音がすごく好きだったので、毎日楽しく3年間通っていました。ちょうど、校舎が西京区から現在の中京区に移転して5年目の年だったのですが、出来たてのとても綺麗な校舎で、ピアノもたくさんあって、自由に練習もさせてもらえて、立派なホールもあり、音楽を学ぶには本当に素晴らしい環境でした。先生方もすごく熱心で、様々なことを勉強させていただきました。学内での実技試験など、クラスメイトとは競う機会もありましたが、高校生活は本当に楽しかったです。

 

東京藝術大学院時代(演奏会にて)

――その後、東京藝術大学に進学されましたが、もともと東京に行こうと決めていたのですか?

私は弟もいるので、経済的にも初めから「進学先は国公立で頼みたいし、浪人は難しい」と両親から言われていました。師事していた福井先生は、堀音から東京藝術大学に行かれており、「目指せる範囲内で1番難しいところに行くことが、のちのち必ず己のためになる」と言われ、東京藝術大学を目指しました。

――東京藝術大学での生活はいかがでしたか?

全国から様々な人が集まってくるので、とても面白い大学でしたね。学部時代は青柳晋先生、大学院時代は坂井千春先生に師事していました。当初、大学院への進学は考えていなかったのですが、もう少し勉強したいなと思い、両親に頼み込んで受験しました。

 

――その後パリに留学されましたが、大学入学前から視野に入れていたのですか?

京都フランス音楽アカデミーにて(ブルーノ・リグット先生と)

いえ、大学院を卒業したら、日本でピアノのお仕事をしていきたいと思っていました。しかし、学部4年生の頃、「京都フランス音楽アカデミー」を受け、そこで会ったブルーノ・リグット先生から「フランスに来ないか?」とお声がけいただいたのが留学のきっかけです。ちょうど新型コロナウィルス感染症のパンデミックが始まったばかりの時期でしたので、大学院を卒業してから半年後にフランスのパリ・エコールノルマル音楽院に留学しました。

 

――留学生活はいかがでしたか?

パリ郊外(近所の公園)

とても充実していました。ピアノの練習はもちろんですが、リグット先生はよく「せっかくフランスに来たなら、色々なものを見に行きなさい」と仰っていました。美術館など特定の場所に行くだけでなく、ただ街を歩くだけでも得るものがある、と。散歩をし、季節ごとに空気が変わるのを感じ、人が喋っている会話を音として聴いておく、そのような様々なことを経験し、自分の感性に取り入れることもやりなさい、と教えてくださいました。私が住んでいた場所はパリ郊外で落ち着いた静かなところでしたので、よく考え事などをしながら、街を散歩していました。

 

パリ・エコールノルマル音楽院前(リグット先生と)

――ピアノのレッスンはいかがでしたか?

先生は、とても優しく温かい方でしたが厳しい面もありました。一番大変だったのは、「この曲をしましょう」と決まった時に、2週間以内に暗譜をしなさいと言われたことです。その時はずっと練習していましたね。曲を仕上げるスピードも大事なことですので、2週間で必死に暗譜をしました。ただ楽譜を覚えることだけでなく、音楽として形にすることを習得してほしいという意図もあったのだと思います。短期間である程度自分の主張をまとめ、曲の全体像を形作るというのは、とても重要な訓練でした。また、リグット先生はシューマンとショパンをお得意で、私も好きな作曲家でしたので、たくさん学びました。

 

フランス(ノアン・ショパンフェスティバルにて)

――フランスからご帰国後は、京都に戻ってこられましたね。

はい、2023年の9月に帰ってきました。帰国後、すぐに登録アーティストに応募し、2024年の2月にオーディションを受けさせていただきました。
京都が好きですし、京都の先生に長い間師事していたので、故郷で活動して貢献できるような演奏がしたいなとは思っていました。ですので、勉強が一通り終わったら、京都に戻ってくることは大学で東京に行った時から決めていました。

――そうだったのですね!登録アーティストのことはいつ頃からご存知だったのですか?

第1期登録アーティストとして、高校の先輩である田中咲絵さんが活動していらっしゃる時、その時の演奏会チラシや募集チラシを見て、存在を知りました。大学時代に福井先生のお家に遊びに行った時に、「こういう制度が京都コンサートホールで新しく始まったみたい。あなたが卒業する頃に募集があったらぜひ応募してみたら?」と教えていただきました。

――ちょうどご帰国のタイミングが、登録アーティストの募集と重なったのですね!普段、アウトリーチ活動以外はどのようなことをしていらっしゃいますか?

リサイタルや室内楽コンサートなどでの演奏のほか、 十字屋(京都の楽器店・音楽教室)でピアノ専門コースというピアノを専門的に学びたいと考える方々の講師をさせてもらっています。堀音や音楽大学の受験、コンクールを目指す子どもたちから、熱心な大人の方まで幅広い方を対象としています。

――福田さんの今後の目標を教えてください。

アウトリーチにおける小学生の皆さんとの関わり合いを通じて、聴き手とさまざまな交流をし、相手の反応によって時には即興的な対応をしながら演奏するということを学んでいます。これは、話したりアクティビティをしたりはしない一般的なコンサートにおいても必要なことだと思います。聴衆の皆さんと何らかの形で、時には無言のうちに空気感のやり取りをしながら、その瞬間だけでも互いの気持ちをひとつにできるような演奏を目指していきたいと思います。

 

◆アウトリーチ活動&ジョイント・コンサートについて

――アウトリーチ活動を通して、福田さんが一番伝えたいことは何ですか?

「自分の経験と音楽を重ね合わせて、音楽を楽しんでほしい」ということです。
クラシック音楽は、よく分からないものを、静かにちんと座り、何の説明もないなか聴かされ、しかも長いみたいな、堅苦しいイメージがあると思います。そのような中で、クラシック音楽をあまり知らない人がどうやったら楽しいと感じてくれるかな、と考えました。そして、楽曲における背景や解釈、題名から連想される作曲家の想いなどが、聴き手の経験と結び付いた時、「面白い」「少し納得できる」という風に思えるのではと感じ、プログラムを組み立てていきました。

初めて訪問した小学校(2024年8月)

あらゆる角度から、聴き手にクラシック音楽を楽しいと思ってもらえるような、工夫凝らしたプログラムをお届けしています。音楽はやはり、最終的には心や精神で楽しむものだと思うので、アクティヴィティなどを通して身体で楽しむ形から、音楽から情景を想像するなど頭と心を使うような流れにしています。

 

――アウトリーチに参加してくれた生徒さんからのお手紙をいただくこともありますよね。

楽しかった!という言葉が多く、また時には演奏した楽曲に対する私が思いもよらなかった発想などが書かれていることもあり、どれもとても嬉しく思いながら読んでいます。とある女の子からのお手紙では、「最近は忙しくなったのでピアノは辞めてしまったが、久しぶりに演奏を聴いて、中学校に入ったら再開したいと思いました。そのようなきっかけをくださり、ありがとうございました」と書いてあり、とても嬉しかったです。

――3月9日のジョイント・コンサートでは、ショパンのバラードを全曲を披露してくださいますが、なぜこの曲を選ばれたのですか?

インタビューの様子

ショパンが好きな方は多いと思うのですが、私も例に漏れずショパンはすごく好きな作曲家です。 バラード全曲や スケルツォ全曲、プレリュード全曲など、ショパンの何かの作品ジャンルにおいての全曲演奏は、いつかやりたいと昔から思っていました。 今回、このような特別な機会をいただきましたので、それにふさわしいプログラムにしたいと思い、バラード全曲を選びました。
ショパンのバラードはポーランド詩人の愛国の詩に、祖国を追われたショパンが大変共感したことから書かれた、非常にメッセージ性の強い曲だと思います。私自身に立ち返ってみると、アウトリーチにおいて「自分事として音楽を楽しんでほしい」ということを目的にしているので、ショパンが詩を自分の境遇や心情に重ねて書いたバラードに通じるものを感じ、ジョイント・コンサートで演奏したいと思いました。

――コンサートには、アウトリーチを聴いてくださった生徒さんもたくさんお越しくださる予定です。どのように演奏を聴いていただきたいですか?

学校でやったアクティヴィティに参加してもらうようなことは今回はできませんが、素晴らしいホールで実際に演奏聴いた時に、教室で聴いた時と違う感覚があれば、それだけで十分に嬉しいかなと思います。演奏する前に、曲についてのお話をすることになると思いますので、アウトリーチでの経験が活かし、想像力を働かせて聴いてもらえたら嬉しいです。また、バラード全曲を演奏会で披露するのは初めてですので、気合いを入れて頑張って準備しています!

――楽しみにしています!それでは最後に、コンサートに向けて一言お願いします。

アウトリーチ活動の1年目の締めくくりということで、今の自分にできる中で特別なプログラムにしたいと思い、準備しました。アウトリーチで生徒さんたちとのコミュニケーションを通して感じていることをたくさん盛り込みつつ、いい演奏会にできるように宮國さんと力を合わせて頑張りたいと思っております。ぜひ会場でお待ちしております!

――福田さん、ありがとうございました。ジョイント・コンサートを楽しみにしています!

2024年12月(京都コンサートホール応接室にて)

♪公演詳細はコチラ

第3期登録アーティスト 宮國香菜(ピアノ)インタビュー<後半>(2025.3.9 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「ジョイント・コンサート」)

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京都コンサートホール

2024年度から京都コンサートホール第3期登録アーティストとして、アウトリーチ活動を行っているピアニストの福田優花さんと宮國香菜さん。3月9日に開催いたします、ジョイント・コンサートに向けてインタビューを実施いたしました。

インタビュー前半では、宮國さん自身のことについてお聞きしましたが、後半では、アウトリーチ活動やジョイント・コンサートについてお話いただきました。是非ご覧ください!

 

――これまでの音楽歴について色々なお話をお伺いしましたが、アウトリーチ活動に関するお話もお聞かせください。なぜ、京都コンサートホールの登録アーティストに応募しようと思われたのですか。

京都コンサートホールが大好きだからです。小さい頃に両親がコンサートホールへオーケストラの演奏会などに連れて行ってくれたこともあり、思い入れのある大切な場所です。

アウトリーチ研修会にて(2024年5月)

大好きなホールと一緒にアウトリーチ活動ができるということが、自分にとってとても良い経験になるだろうと思いました。また、演奏機会を増やしたいと思ったことも応募した理由の一つです。学業を終え、生まれ育った京都の地でより多くの方に音楽をお届けしたいという思いがあり、その点においても魅力的な事業でした。

 

――子どもたちに生の演奏を届けるという本事業を通して、どのようなことを目指されていますか。

初めてのアウトリーチ公演(2024年7月)

アウトリーチ先の子どもたちは様々です。普段からクラシック音楽を聴いている生徒さんもいれば、そうでない生徒さんもいます。そんな中で、私のピアノ演奏を通して、少しでもたくさんの子どもたちが心が揺れる経験をしてくれると嬉しいなと思います。私自身、幼少期に音楽を聴いて感動した記憶はいまも残っています。そのような音楽が心に残る「きっかけ」を作ることのできる音楽家になりたいです。

――この一年間でこれまで8回のアウトリーチ・コンサートを開催しました(計11回開催予定)。プログラムは宮國さんの「手作り」ですが、こだわりのポイントを教えていただけますか。

私のプログラムには、ピアノをたくさん知ってもらうためのたくさんの仕掛けがあります。ピアノの歴史や楽器に関する知識を共有したり、色々なピアノ作品を演奏したり・・・。子どもたちが「ピアノの世界」に入って来られるよう、演奏する曲順にも工夫しています。

――今日(2024年12月14日“インタビュー実施日”)は嵯峨野児童館でたくさんの方々にピアノ演奏を届けることができましたね。

嵯峨野児童館でのアウトリーチの様子            (2024年12月)

今日のアウトリーチでは0歳の赤ちゃんから大人の方々まで、幅広い年齢層の方がいらっしゃいました。特に、非常に近い距離で子どもさんたちがピアノ演奏を聴いてくださり、自分の演奏に対するリアクションを肌で感じることができて嬉しかったです。

 

――2025年3月9日の「ジョイント・コンサート」では、いつものアウトリーチ・コンサートとはまた異なる環境で皆さんに宮國さんのピアノ演奏を聴いていただきます。

京都コンサートホールのアンサンブルホールムラタで演奏させていただけるということで、自分がいま一番取り組みたい作品でプログラミングしました。この1年、アウトリーチ活動を経験したことにより、自分の選曲方法が変わってきたように思います。これまで以上に作品ごとの関連性について考えるようになりました。今回は、水や海連想できるような3曲(ドビュッシー《喜びの島》、スクリャービン《幻想ソナタ》、ショパン《舟》)を選曲しました。

《喜びの島》は、「シテール島への巡礼」という絵画からの印象を受けて作曲されたといわれており、愛に溢れた島へ向かう様子が描かれています。のちの管弦楽曲《海》にも通ずるような色彩感溢れる作品です。

《幻想ソナタ》は、スクリャービンが旅をした際に得たインスピレーションをもとに作曲されたと言われており、作曲家自身の手により、一楽章には「月明かりに照らされた静かな海」、二楽章には「嵐の海」という言葉が書き記されています。

ショパンの《舟》は、ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの歌に由来していると言われています。晩年の作品でもあり、彼の人生の旅路を映し出しているかのような美しい作品です。

 

――なるほど、3曲ともに水や海に関連する作品なのですね。このプログラムを通して、どのようなことをお客様に伝えたいですか。

宮國さんピアノリサイタル  (京都青山音楽記念館 バロックザールにて)

水のゆらめきや、水面、水の予測不可能な動き、そういう情景をピアノ の音で表現したいです。ピアノで多彩な音色を作ることは易しいことではありませんが、そういうことを追求していくこともまたピアノ演奏の醍醐味の一つでもあります。

――コンサートにお越しくださるお客様にメッセージをお願いします。

刺繍が趣味の宮國さん

私は良い演奏会に行くと、翌日までとても幸せな気持ちが続きます。私も皆様が幸せな気持ちになれるような演奏がしたいです。さらに、私のピアノを聴いていただき、「京都にはこんなアーティストがいるんだな」と興味を持っていただけるきっかけになったら嬉しいです。

――それでは最後に、今後のアウトリーチ活動に関する展望を教えてください。

この1年を通して、試行錯誤を重ねながらプログラムを考えていきました。次の1年は、さらに色々なことに挑戦できるような内容に展開していくことができれば・・・と考えています。どのようなアプローチをすれば、よりたくさんの方々の心に届くか、もっともっと自分で音楽を掘り下げて、さらに「伝える力」を磨いていきたいと思っています。

 

――宮國さん本日はありがとうございました!

 

(2024年12月14日 事業企画課インタビュー)

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★京都コンサートホール第3期登録アーティスト福田優花さんのインタビュー記事はこちら

 

 

 

第3期登録アーティスト 宮國香菜(ピアノ)インタビュー<前半>(2025.3.9 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「ジョイント・コンサート」)

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京都コンサートホール
第3期登録アーティスト                 ピアニスト 宮國香菜さん

2024年度から京都コンサートホール第3期登録アーティストとして、アウトリーチ活動を行っているピアニストの福田優花さんと宮國香菜さん。3月9日に開催するジョイント・コンサートに向けて、宮國香菜さんにインタビューを実施いたしました。宮國さんのインタビューを2回に分けてお届けします!

 

前半では、宮國さんご自身のことについてお話いただきました。是非ご覧ください!

 

――まずは、宮國さんはいつごろからピアノを始めましたか?

初めてのエレクトーンの発表会

 3歳から音楽教室に通い、最初はエレクトーンを習いました。ピアノ始めたのは小学校1年生ごろです。

お家にピアノがやってきた日

両親がクラシック音楽が好きで、特に母は私にピアノを習わせたかったようです。なにより、私もピアノが大好きでした。

 

――そうなのですね。いつ頃、クラシック音楽を本格的に学び始めたのですか?

小学校6年生の時だったと思ます。ピアノの先生から「音楽高校(京都市立京都堀川音楽高等学校)でピアノを学ぶことができるよ」と教えていただきました。そして、中学1年生の時、京都市堀川音楽高等学校(以下、堀音)のオープンスクールに行った際に、「ここで音楽を学びたい!」とピンと来たのです。

――その後、堀音に入学されましたが、高校生活はいかがでしたか。

堀音の定期演奏会にてプレゼント係を務める宮國さん

自分の知らないことをいっぱい知っている友人がいて、音楽の話をずっとしていました。そのような環境に身を置くことができて、本当に嬉しくて仕方がなかったです。

――音楽が大好きだったのですね。校生活で印象に残っている思い出はありますか?

大切な友人に出会えたことでしょうか。中学校の担任の先生が「高校に行ったら一生の友達ができるよ」とおっしゃっていました。その時は疑心暗鬼だったのですが、今では「本当だった」と思っています。高校時代に出会った友人は、今でも交流していますし、何でも相談できるような相手です。卒業後、10年ほど経ちますが、会えばすぐに当時の空気感に戻ります。

――ピアニストを目指されたのはいつ頃でしょうか?

高校時代の演奏会

高校2年の時、学校主催のコンサートに出演したことがきっかけだったと思います。先生方にコンサートの出演者として私を選んでいただき、とても嬉しかったです。シューマンの《アレグロ ロ短調 作品8》を演奏したのですが、本番日まで本気でこの作品と向き合いました。図書館でシューマンについて調べたり、シューマンのほかのピアノ作品を聴いたり・・・。なので、この曲は私にとって、今でも特別な作品です。

――さて、宮國さんが師事されたピアノの先生に関するお話もお伺いさせてください。これまで色々な先生と一緒にピアノを学ばれましたね。

堀音での新人演奏会

音楽高校時代に学んだ芝崎美恵先生との出会いは自分にとって大きかったです。芝崎先生はいつも「いま」だけではなく「その先」を見るよう指導してくださいました。「芽が出て花が咲く時期は人それぞれなんだよ」とおっしゃってくださったことは今でも忘れられません。これから先、私がピアノや音楽と長く付き合っていけることを願ってくださいました。

――素敵な先生ですね。そして大学では馬場和代先生に師事されましたね。

馬場先生もとても優しい先生でした。第一に、私のことをいつも信じてくださっていました。ピアノを演奏する私の背中をポジティブに押してくださるような、そんな温かい先生です。馬場先生という大きな味方がいてくださることが、心強かったです。

――次に師事されたのは野原みどり先生と三舩優子先生でしたね。

大学院の修士演奏会

お二人には大学院時代に師事しました。一年目に師事した野原先生は、素敵なオーラにいつもドキドキしていました。以前、演奏会のご案内をお送りすると多忙でいらっしゃるのに来てくださり、とても嬉しかったです。二年目に師事した三先生も素敵な方で、とても親身にレッスンをしてくださいました。卒業後も気にかけてくださり感謝しています。

――たくさんの素敵な先生に師事されたのですね。先生方から学んだことは、現在、宮國さんが生徒さんにピアノを教えられている時に活かされていますか? 

インタビューの様子

現在、私はお子さんから大人まで様々な方にピアノを教えていますが、自分がこれまで学んできたことを還元していきたいと思っています。そうすることによって、自分自身もさらに学ぶことがたくさんあるのです。

 

 ――後半ではアウトリーチ活動やジョイント・コンサートについてお話いただきます。どうぞお楽しみに!

 

(2024年12月14日 事業企画課インタビュー)

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ヴァイオリニスト 弓 新 インタビュー(2024.10.5 没後100年記念公演―― フォーレ ピアノ五重奏曲 全曲演奏会)

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京都コンサートホール

ロマン派から20世紀初頭の近代音楽への架け橋となったフランスの巨匠、ガブリエル・フォーレは2024年に没後100年を迎えます。

京都コンサートホールでは、フォーレの没後100年を記念して、「フォーレ ピアノ五重奏曲 全曲演奏会」を開催いたします(10月5日)。

本公演にて、フォーレの《ピアノ五重奏曲 第1番 ニ短調 作品89》にて第二ヴァイオリン、《ピアノ五重奏曲 第2番 ハ短調 作品115》にて第一ヴァイオリンを担当する、ヴァイオリニストの弓新さんにインタビューを実施しました。

今回のインタビューでは、フォーレの音楽が持つ魅力や、2022年「神に愛された作曲家 セザール・フランク」公演から2年ぶりに共演するメンバーについて沢山お話しいただきました。

ぜひ最後までご覧ください。

――この度はお忙しい中、インタビューのお時間をありがとうございます。現在は、ドイツ在住で日本とドイツの2拠点を中心に多彩なご活躍を重ねられていますね!

はい、2023年までは4年弱、北西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団でコンサートマスターを務めていました。オーケストラなどで忙しくなると、なかなかまとまった時間を確保することが難しかったのですが、今後は日本やドイツで室内楽やソロの活動ももっとしていきたいなと思っています。ピアノ三重奏や弦楽四重奏などの常設のアンサンブルでの活動や、それこそ今回のような室内楽の演奏会をしていけたらと思っています。

――今回の公演は、オール・フォーレ・プログラムですね。弓さんからみて、フォーレは西洋音楽史においてどのような作曲家ですか?

ワーグナーの流行や後半生にはドビュッシーやストラヴィンスキー、シェーンベルクなど新しい音楽語法が生まれた時代に活動していたにもかかわらず、生涯を通して独自の音楽を持ち続けた人だと思いますね。
フォーレはサン=サーンスの弟子でしたが、その流れは汲みつつも、誰かの作曲技法を真似ることに興味がなかった作曲家、と言えるかもしれません。

2024年4月20日ロームシアター京都にて実施したインタビューの様子

――フォーレのピアノ五重奏曲を2曲演奏していただきますが、どのような作品ですか?

1番はまだ演奏したことがなくて申し上げにくいのですが、2番についてはフォーレの後期作品にあたり、初期の作品に比べると分かりづらいとよく言われますが、たしかにそういうところはあるかもしれません。例えば、ピアノ五重奏曲第2番の最終楽章は、聴いてすぐは何拍子か分かりません。ヴァイオリンソナタの第2番でもそのような箇所があるので、そういうリズム遊びがみられるのはフォーレの音楽の特徴の一つだと思います。

個人的に特にフォーレのピアノ五重奏曲で素晴らしいと思うのは、緩徐楽章です。第2番の第3楽章は、息の長い旋律が連綿と続くように書かれています。これはやはり、フォーレがオルガニストだったということに関係しているのかもしれません。
フレーズの長さの点でいえば、以前、ドイツでピアノ三重奏のレッスンを受けたのですが、ドイツ人の先生が、フレージングを最小のモティーフごとに分解してしまったんですよ。ベートーヴェンのような音楽だったらそれで曲になるのですが、フォーレはうまくいかなくて。やはりフランスとドイツでは、フレーズの考え方も響きの捉え方も、言葉も違うのだなと実感しました。

――弓さんはフォーレを演奏される時、スタイルを変えられているのですか?

そうですね、例えばヴィブラート。普段から僕はあまりヴィブラートをかける方ではないのですが、フォーレの長いフレーズをヴィブラート無しでキープさせようとすると、音楽の緊張感が高くなりすぎてしまう気がします。

どちらかと言えば、フォーレの音楽は非日常的で劇的な緊張感というよりも日常的な雰囲気があると思います。僕の作る音は、ガラスや金属のような純度の高い音だと思うのですが、フォーレでは、もう少しあたたかな手触りのある音色にしていかなければいけないのかなと考えています。例えば、絨毯とか、アンティークの家具のような。

――前回の公演で演奏してくださったセザール・フランクの音楽とはずいぶん印象が違いますね。

そうですね。フォーレの曲は、フランクの音楽のように分かり易いストーリーが無いように感じますね。
ジャンケレヴィッチの著書に、フォーレの音楽は“言葉では言い表し得ないもの”と書かれているんですけど、まさにその通りだなと。フォーレの音楽を語れといわれても語ることは難しい。
また、フォーレはあまり感情が激しい人ではなかったのではないかと思います。
別の言い方をすれば、フランクの音楽には体温を感じるのですが、フォーレの音楽から感じない、言うなればまるでオブジェのようだとも言えます。オブジェといっても、生活から切り離された美術的な意味ではなく、もっと古典的で日常的なイメージと言ったら良いのか。フォーレ自身の内面を音で描いているというよりはフォーレの眼を通した世界、一歩引いた観察者的な視点を彼の音楽からは感じる気がします。こういう客観的な視点はフランスの作曲家に特有のものなのかもしれません。

――話をフォーレのピアノ五重奏曲に戻します。さきほど第2番の話を少ししてくださいましたが、第1番の魅力的な部分を教えてくださいますか。

第1番は美しい作品です。特に冒頭部分は、アルペッジョとユニゾンだけなのに、天才的に素晴らしい音楽に仕上がっています。
あと、これは第1番に限ったことではないですが、使用される音域が全体的に広くないのですね。低音も高音もあまり使われていなくて、ミドルレンジなんです。ピアノ五重奏曲第2番を書いた時期は、フォーレの聴覚障害が深刻化していった時と重なるのですが、こういった特徴には、その影響があるかもしれません。この頃のフォーレの音楽がどこか客観的・傍観的であるように感じるのも、こういった事情とリンクしているかもしれませんね。ただ、そのような状況であっても、限られた音域の中で息の長い音楽を書けるというのが、フォーレのすごいところだなと思います。

また、フォーレの室内楽作品では、どちらかというと内声である第2ヴァイオリンやヴィオラが大事な役割を担うことが多いです。ピアノ五重奏曲第1番の冒頭で、最初に主旋律を奏でるのは第1ヴァイオリンではなく、第2ヴァイオリンなんですよ。とても意外でした。

2024年4月20日ロームシアター京都にて実施したインタビューの様子

――前回に引き続き、カルテットのメンバーは、弓さんに加え、ヴァイオリンの藤江扶紀さん、ヴィオラの横島礼理さん、チェロの上村文乃さんの4名ですね。

このメンバーで演奏するのは前回のフランク公演が初めてだったのですが、キャラクターとしても音楽としてもピタッとはまったな、と良い手応えを感じました。ですので、今回もフォーレのピアノ五重奏曲を一緒に演奏できることがとても嬉しいです。

――カルテットのメンバーのみのリハーサルにも力を入れるとお聞きしました。

そうですね。みんなで音程を合わせたり、息の長いフレーズを演奏する時の弓の速度配分であったり、メンバー全員で同じ質感作りをしていかないといけません。それらの調整をし続けるリハーサルになるでしょうね。すべてのパートが対等でユニゾンが多いからこそ、4声部がでこぼこになってはいけないのです。この作業をやるのとやらないのとでは、ピアノと合わせた時に全く違う出来栄えになると思っています。

2022年「神に愛された作曲家 セザール・フランク」公演の様子

――4人でしっかりとリハーサルをされた後、ル・サージュさんとのリハーサルがますます楽しみになってきますね。

そうですね。ル・サージュさんは「ザ・フォーレ」というべきピアニストです。僕は、ル・サージュさんとエベーヌ弦楽四重奏団が出しているフォーレのCDで彼のファンになったくらい。ですので、今回ル・サージュさんとフォーレを演奏できることが本当に嬉しいです。

――5人で創られるフォーレの世界観がとても楽しみです。それでは最後に、お客様に向けたメッセージをお願いします。

今回のプログラムはオール・フォーレ・プログラムということで、フォーレの魅力が最大限に感じられる内容になっています。間違いなく、終演後には「フォーレをもっと聴きたい」と思っていただけるコンサートになるはずです。ぜひお越しください。

――色々なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。コンサートを楽しみにしています。

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エリック・ル・サージュさんメッセージ&演奏動画

弓 新さんインタビュー

藤江 扶紀さんメールインタビュー

藤江 扶紀さんメッセージ動画

横島 礼理さんメッセージ

上村文乃さんメッセージ動画

公演情報 フォーレ ピアノ五重奏曲 全曲演奏会

ピアニスト エリック・ル・サージュ 特別インタビュー(2024.10.5 没後100年記念公演―― フォーレ ピアノ五重奏曲 全曲演奏会)

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京都コンサートホール

ロマン派から20世紀初頭の近代音楽への架け橋となったフランスの巨匠、ガブリエル・フォーレ。

京都コンサートホールでは、フォーレの没後100年を記念して、「フォーレ ピアノ五重奏曲 全曲演奏会」を開催いたします(10月5日)。

2022年「神に愛された作曲家 セザール・フランク」から2年ぶりに、京都コンサートホールに登場する、世界的ピアニストのエリック・ル・サージュさんにメールインタビューを行いました。

今回のインタビューでは、ル・サージュさんとフォーレの作品との出会い、今回演奏するピアノ五重奏曲第1,2番についてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

――ル・サージュさんはフォーレの録音を非常に沢山なさっていますが、フォーレに惹かれたきっかけを教えてください。

私がフォーレを好きになったのは30歳頃のことです。それまで、フォーレについてあまり良い思い出がありませんでした。というのも、11歳の時にエクサン・プロヴァンスのコンセルヴァトワールの試験でフォーレの6番のノクターンを弾いたのですが、暗譜が飛んだのです。その後、フォーレの親しみやすい室内楽作品を弾き始め、深堀りしていくことにより、だんだんと彼の音楽が好きになっていきました。

――ル・サージュさんからみて、フォーレはどんな作曲家ですか?

フォーレは一筋縄ではいかない作曲家です。
彼の初期の作品には、《ヴァイオリン・ソナタ第1番》(1875年)、《ピアノ四重奏曲第1番》(1880年)など素晴らしいコンサート用の曲があり、天才的な旋律と非常に直感的な和声法に満ちた、技巧的な作曲法が際立っています。ピアノ・ソロの曲もありますが、あまり演奏されません。なぜなら、私が11歳の時に体験した苦い思い出のように、特に暗譜することがとても難しいからです。

――フォーレの傑作の多い、中期・後期の作品についても教えていただけますか?


中期の作品にあたる《ピアノ四重奏曲第2番》などは、より複雑になった和声法、非常に高いインスピレーションを必要とする気難しい旋律、そして、後期ロマン派の精神が依然として残るドラマツルギーといったものが素晴らしく調和しています。
そしてベートーヴェンがそうであったように、フォーレは晩年において、非常に濃密な内世界に入っていきます。彼は、極限まで高められたインスピレーションをとことん突き詰めていきました。そして、どんな作曲家も真似できないような、フォーレ独自の音楽語法と調性を見出し、旋律と演奏者を高みへと押しやっていったのです。革新的なことをしたというよりは、サン=サーンスからのフランス音楽の流れを汲んで、その作風を守り続けたともいえますが、誰かの作曲技法を真似ることには興味がなかったのかもしれません。

2022年「神に愛された作曲家 セザール・フランク」公演より


――今回演奏いただく、ピアノ五重奏曲はどのような作品ですか?


2つのピアノ五重奏曲はフォーレの晩年の作品にあたります。第2番はすぐに書き上げられましたが、第1番は長い時間をかけてフォーレ自身の手で推敲され、完成しました。
この2曲は素晴らしく色彩豊かで、かつ演奏するのが難しい曲です。外面的ではなく内省的で、密度があり、明確でありながら秘められたものがあります。雄々しい音楽ではなく、演奏者は音楽に入りこむ必要があります。


――最後に、公演へ向けてメッセージをお願いします!


この作品を日本の素晴らしい若手音楽家たちと一緒に演奏できることがとても嬉しいです。彼らと一緒に、私にとってとても大切で特別なこの2曲を皆さんに知っていただくチャンスだと思っています。
京都はヨーロッパ人にとって夢のまちであり、私のお気に入りのまちでもあります。 京都で演奏できることを楽しみにしています。

<出演メンバーのメッセージやインタビューをSNSにて発信しています!>

エリック・ル・サージュさんメッセージ&演奏動画

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オルガニスト 中田恵子 インタビュー<後編>(2024.11.2 オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ Vol.74「オルガニスト・エトワール“中田恵子”」)

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京都コンサートホール

11月2日に京都コンサートホール 大ホールにて、「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ Vol.74 オルガニスト・エトワール”中田恵子”」を開催します。公演に先立ち、オルガニストの中田恵子さんにインタビューを実施しました。
後編では、現在のご活動や今回のプログラムについてお話しいただいております。
ぜひ最後までご覧ください!
前編はコチラ

ーーフランス留学の後、東京藝術大学での助手、雪ノ下教会のオルガニストを務める傍ら、2019年にはバッハ作品を収録した「Joy of Bach」をリリースされました。こちらはどのような経緯で制作されたのですか?
オランダで鈴木雅明先生がCDを収録される時、ちょうどパリにいた私にアシスタントとして声をかけてくださいました。その時の録音技師さんが私に「君もCDを収録してみたら」とお声がけくださったのがきっかけです。バッハの音楽は、リズミカルで和声も素敵で、何も分からなくても聴いていて純粋に楽しいものだと思います。実際、子供の頃に私もそこに惹かれたので、堅苦しく考えず、ポップスを聴くように多くの方にバッハを聴いてほしいと思いました。本当に良いものって、ジャンルの境界線はないと思うのです。宗教的な背景や、難しい理論は一旦おいて、ただ楽しんで聴いてもらいたい、というコンセプトで、「Joy of Bach」を作りました。理屈抜きで、まずは「私はバッハのこんなところが好きなんだよ!」という想いをぎゅっと詰め込みました。

ーーだから「Joy of Bach」なのですね!
そうなのです!小さい頃感じていたような、本能的に楽しいと思える気持ちでバッハを聴いてほしいという想いが詰まっています。有名な曲や聴きなじみのある曲もたくさん選んでいるので、ノリノリで聴いてもらえたら嬉しいです。あまり難しいことを考えずにただ聴いてほしいです。

ーー2作目のCD「Pray with Bach」は対照的に厳かな作品が並びますね。
そうですね。こちらは、私がオルガニストを務める鎌倉雪ノ下教会で収録したアルバムです。コロナ禍で、礼拝がYouTube配信になった期間、信者の方々から「生のオルガンの音が恋しい」という声が寄せられました。しかし、配信では音質がどうしても悪くなってしまいますし、いつも教会で弾いていたような曲をご自宅でも聴いていただけたらと思い、バッハの《オルガン小曲集》をメインに収録をしました。

雪ノ下教会で「Pray with Bach」を録音した時の写真

ーー《オルガン小曲集》は、今回のプログラムでもご披露いただきますよね。生で演奏をお聴きできるのを楽しみにしています!
さて、2021年には神奈川県民ホールのオルガン・アドバイザーに就任されました。リサイタルのほか、バロックアンサンブルやバレエとオルガンのコラボレーションなど、多彩な活動をしていらっしゃいますね。
コラボレーションの公演は、異ジャンルの方々と意見を出し合って創っていますが、大変であると同時に、とてもやりがいを感じています。次回は、俳優さんとのコラボレーションを考えています。このような公演に来てくださるお客さまの半分は、オルガンに馴染みのない方々だと思うので、これを機にオルガンを好きになってくれたら嬉しいですね。

オルガンavecバレエ@神奈川県民ホール(c)Taira Tairadate


ーー俳優さんとのコラボレーション、楽しみですね!今後、どのようなオルガニストになりたいですか?
目の前のことで精一杯で未来をあまり想像できないのですが、中田恵子の演奏を聴きたいと言ってもらえるような、唯一無二の演奏家になりたいと思っています。またオルガンは、ピアノやヴァイオリンに比べればまだまだ耳にする機会が少ないと思うので、普及させていきたいですね。

ーーさて、次は11月2日に開催する公演のプログラミングについてお伺いします。初めに演奏される《前奏曲とフーガ イ短調 BWV543》は2作目のCD「Pray with Bach」でも冒頭に収録されていたと思うのですが、この曲をなぜ初めに選ばれたのですか?
この曲の次に演奏する《オルガン小曲集》の1曲目が〈いざ来ませ、異邦人の救い主よBWV599〉なのですが、これは「待降節(アドヴェント)」のコラールです。待降節とは、救い主であるキリストの降誕を待ち望む期間です。それに先立つ曲は、まだ救い主が現れていない旧約聖書の世界、暗い中で何かを切望しているような雰囲気で始めたく、《前奏曲とフーガ イ短調》を選びました。救い主を待ち望んでいる場面からだんだんと光が見えてきて…という流れで、待降、降誕(クリスマス)に入っていけたらと。《オルガン小曲集》はキリストの生涯を示した教会暦に沿って書かれています。前半のプログラムは、《前奏曲とフーガ イ短調》に続き、キリストの生涯を辿るように「待降⇒降誕⇒受難⇒復活」を表現する5曲を選曲しました。

ーー前半の最後に演奏される《トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564》は、修士論文のテーマにしていらっしゃいましたね。
この曲は、バッハのオルガン作品の中でも珍しく3つの形式で書かれていたり、他にも色々と特徴的な部分のある曲なので、もしかしてバッハが何かをイメージしてそれに沿って書いた曲かもしれない、と漠然と感じていました。《アダージョ》のペダル声部が、復活節のコラールのメロディーに似ていると思ったのがきっかけになり、「《トッカータ》がキリストの降誕、《アダージョ》が受難、《フーガ》が復活を表している」という仮説を立てました。修士論文では、歌詞のあるバッハのカンタータ作品や、《オルガン小曲集》の中で用いているバッハが歌詞を表すために象徴的に使った音型と、《トッカータ、アダージョとフーガ》にそれぞれ使われている音型とを比較して仮説を検証していきました。結果、修辞学的に仮説通りにはまるところが沢山でてきました。

ーー《オルガン小曲集》からキリストの「降誕・受難・復活」をテーマに選曲いただきましたが、その統括としてこの曲を選んでくださったのですね!
はい!そうなんです。またこの曲は、大学院の修了演奏会で弾いたのですが、修士論文は評価していただいた一方、当時の演奏は自分の中で反省が残るもので、それ以来ずっと弾いていませんでした。様々な経験を経た今、再び、この曲に向き合いたい!との想いもあり選びました。

ーープログラムの後半はどのような意図で組まれましたか?
《オルガン小曲集》は、コラールを基にした46の小作品が収められていて、曲集の前半はキリストの生涯を示した教会暦に沿ったもの、後半は信仰生活大切にしてをテーマにしたものとなっています。それに合わせ、プログラムの後半は信仰生活のコラールを選びました。それらのコラールを挟んで配置したのは、《トッカータとフーガ ニ短調》と《パッサカリア》です。《トッカータとフーガ ニ短調》は、誰もが知っている冒頭で始まる、有名曲ですね。《パッサカリア》は、同じバスの旋律が繰り返し紡がれ、過去も未来も全てが繋がっていくようなイメージがあり、最後に置きました。

ーー今からとても楽しみにしています!
それでは最後に、お客さまに向けてメッセージをお願いします。
バッハは私にとって特別な存在で、今回、オール・バッハのプログラムをご依頼いただけて、本当に嬉しかったです。理屈抜きに本能的に聴いていただくのも良し、修辞学的な内容を味わって聴いていただくのも良し、自由に楽しんでいただければと思います。また今回は、さまざまな形式の曲をプログラムに入れています。どの曲を弾いていても「バッハってすごいなぁ、よくこんな音楽を思いつくな」と驚かされます。バラエティ豊かに繰り広げられるバッハの宇宙を、ぜひご一緒に味わっていただけたらと思います。ご来場お待ちしております!

ーー中田恵子さん、お忙しいなかありがとうございました!中田恵子さんの想いが詰まったオール・バッハ・プログラムをご期待ください!

♪公演情報 公演カレンダー | 京都コンサートホール (kyotoconcerthall.org)

オルガニスト 中田恵子 インタビュー<前編>(2024.11.2 オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ Vol.74「オルガニスト・エトワール“中田恵子”」)

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京都コンサートホール

 

幼少期の中田恵子さん(隣はお姉さま)
幼少期の中田恵子さん(隣はお姉さま)
東京女子大学のパイプオルガン
東京女子大学のパイプオルガンを弾く中田恵子さん
恩師であるクリストフ・マントゥ先生とのショット
パリ留学時代

ピアニスト ユリアンナ・アヴデーエワ 特別インタビュー(2024.03.09 The Real Chopin×18世紀オーケストラ 京都公演)

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京都コンサートホール

3月9日開催の「The Real Chopin × 18世紀オーケストラ 京都公演」では、モーツァルトの交響曲に加え、2つのショパン国際コンクール優勝者のソリスト2名による、ショパンのピアノ協奏曲全2曲などをお届けします。

《ピアノ協奏曲第1番》を演奏するユリアンナ・アヴデーエワ氏は、「第16回ショパン国際コンクール」の覇者で、モダンピアノとフォルテピアノの両方を演奏し、18世紀オーケストラとショパンのピアノ協奏曲全集の録音を行うなど、何度も共演を重ねています。

公演に向けて、アヴデーエワ氏へのインタビューを行いました。18世紀オーケストラについてのエピソードや、フォルテピアノで弾くショパンの魅力についてお話しくださいました。ぜひ最後までご覧ください!

©Sammy Hart ユリアンナ・アヴデーエワ

――ユリアンナさんは、これまで18世紀オーケストラと度々共演されていらっしゃいますが、オーケストラとの初共演された時のことを教えてください。

マエストロ ブリュッヘン率いる18世紀オーケストラとの出会いは、2012年の夏、ワルシャワで開催された音楽祭「ショパンと彼のヨーロッパ」でした。鮮明に思い出すこの出会いは、特別な出来事として私の中に刻まれ、これからも忘れることはないでしょう。

音楽祭とあわせて録音もされることとなり、ショパンのピアノ協奏曲第1番と第2番を演奏しました。そのリハーサルを、エドヴィン・ブンク氏が保有する素晴らしいエラールピアノとともに、ワルシャワのルトスワフスキスタジオで行いました。しばらく古楽器を弾いていなかった私は、歴史に残る名演奏をしてきたマエストロと18世紀オーケストラを前に、わくわくすると共に少し緊張していました。

ただ、リハーサルはとても楽しく和やかな雰囲気のなかで進められ、マエストロは音楽で、団員や私とコミュニケーションを図り、まるで音楽への情熱を各々と交わすかのようでした。彼が常に、楽譜から新しいことを見つけようとする姿勢に非常に驚かされたことを覚えています。2012年にこのような機会をいただけたことに大変感謝しています。

©The Fryderyk Chopin Institute ユリアンナ・アヴデーエワ(左)フランス・ブリュッヘン(右)

――18世紀オーケストラとの思い出で最も印象的なものを教えてください。

翌年(2013年)のマエストロ ブリュッヘンによる最後の日本ツアーで、18世紀オーケストラとご一緒できたことは本当にラッキーでした。その時のリハーサルや舞台裏、移動中など、メンバー間に流れる雰囲気は、まるで大きなひとつの家族のようでした。本番中も皆が常に温かく、お互いを支え合っており、私もメンバーからのサポートを強く感じながら演奏することができました。

またピアノはオーケストラの真ん中に客席側を向く形で配置されていたので、マエストロや聴衆と向き合いながら演奏しましたので、ブリュッヘンが音楽を作り上げる時に彼の目に宿る、類まれなる情熱を見ることができました。

2013年3月の日本で18世紀オーケストラと一緒に演奏した際の、最も印象深い思い出です。

©The Fryderyk Chopin Institute(ユリアンナ・アヴデーエワと18世紀オーケストラ)

――ブリュッヘンの最後の日本ツアーは、とてもすばらしい演奏だったと当時とても話題になりました。
次に、フォルテピアノについてお伺いします。まずは、フォルテピアノを最初に弾いた時の印象はどうでしたか?

古楽器との出会いは、スイスのチューリッヒ芸術大学で学んでいる時のことでした。副専攻として学ぶ楽器を必ず選ばなくてはならなかったのですが、鍵盤楽器以外は考えられませんでした。教授陣リストの中に、オーストリアのハープシコード奏者であり、フォルテピアノ奏者としても著名なヨハン・ゾンライトナー先生の名前を見つけ、彼の元で学ぶことにしました。

いつもモダンピアノを学んでいた私にとって、フォルテピアノは、「第2のピアノを」のようなものでしたが、その時の学びが発展して現在こうしてフォルテピアノを演奏しているのも、私の中に眠っていた古楽器への情熱を呼び覚ましてくださったゾンライトナー先生のお陰です。

バッハをはじめ、シューベルトやモーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、リスト、ブラームスの後期に至るまでの作曲家たちが実際耳にしていた音を学べる機会はなかなかありません。彼らはいま私たちが奏でている楽器(モダンピアノ)を使って作曲していませんからね。

古楽器という新しい世界への冒険はとても刺激的で、私自身を一層豊かにしてくれました。

――今回はショパンが愛したプレイエルのフォルテピアノ(1843年製)で弾いていただきますね。フォルテピアノを使ってショパンのピアノ協奏曲を弾く魅力を教えてください。

ショパンをフォルテピアノで弾くと、タイムマシーンに乗った感覚になります。ショパンが作曲した当時の音に包まれる経験は貴重です。ショパンが生きていた時代、ピアノは楽器として変革期にありました。協奏曲はショパンの初期の作品であり、ショパンがその後の人生で弾いていたピアノとは、また別の楽器のために作曲されたと言えます。

とてつもなく長く指示されたペダリング、特定のフレージングや強弱記号など、ショパンの記譜法に関する多くの疑問が、フォルテピアノを弾くことで答えへと導かれます。

一度フォルテピアノで弾いてみると、現代のピアノとは音の伸びや大きさがまるで異なるので、一気に多くの事柄が明確になります。フォルテピアノを弾いて得られる豊かな経験、新たな知識は全て、モダンピアノでも存分に生かされます。

©京都コンサートホール(当日演奏するフォルテピアノと共に)

――モダンピアノとフォルテピアノのそれぞれの楽器でショパンを弾くと、実際にどのような違いがありますか?

ショパンの音楽をモダンピアノで演奏するときと古楽器で演奏するときでは、それぞれにメリットとデメリットがあります。

なによりもまず、「音」の問題です。モダンピアノは音が強いですが、フォルテピアノのほうが豊かな倍音を持っています。モダンピアノでショパンを楽譜に書かれた通りに弾こうとすると、理解できない部分が多いのですが、フォルテピアノで演奏すると、その疑問が全て解消され、ペダルやアーティキュレーション、テンポに至るまで、モダンピアノの弾き方をどう変えるべきかがわかるようになります。

また、フォルテピアノを演奏する時、ホールのサイズも重要になってきます。なぜなら、モダンピアノに比べてフォルテピアノはそんなに音量が大きくないからです。対してモダンピアノでは、暖かな音をいかに持続させ、長いフレーズを生み出すのかの挑戦となります。古楽器で演奏する際は、テンポを揺らすことや、発音のタイミング、フレーズに細心の注意が必要となりますが、古楽器での演奏経験があれば、求める理想形が明確になり、モダンピアノでその音を実現させることがはるかに容易となります。

このようにフォルテピアノを演奏するためには、全く異なるフィーリングを持つ必要がありますが、ピアノを弾く方にはぜひ一度チャレンジしてほしいです。その後のピアノ人生に多くのことをもたらしてくれるでしょうから。

――今回の公演では、フォルテピアノのために書かれた藤倉さんの新曲も演奏されますが、作品の印象を教えてください。

まずは、この作品を演奏させていただけることを大変誇りに思いますし、すごく興奮しています。他にはない雰囲気を持つ面白い作品で、独特の言葉や音楽の世界が広がっています。

古楽器で藤倉氏が何を表現したかったのか、皆さんも聴いてすぐに頭に浮かぶでしょうし、この作品を日本の観客の皆さんへお届けできることを、とても楽しみにしています。

©京都コンサートホール(当日演奏するフォルテピアノと共に)

――ショパンはもちろん、藤倉さんの作品も、とても楽しみです。
それでは最後に、お客様に向けてのメッセージをお願いします。

18世紀オーケストラとの演奏ツアーが、今から楽しみでなりません。前回マエストロ ブリュッヘン、そして18世紀オーケストラとすみだトリフォニーホールで演奏してから、もう11年が経とうとしています。マエストロを思い出し、寂しくもなりそうですが、この素晴らしいオーケストラと、またステージで演奏できることをとても楽しみにしています。マエストロの音楽への情熱と功績を引き継ぎ、18世紀オーケストラと共に素晴らしい音楽を奏でたいです。皆様のご来場を心からお待ちしております!

――アヴデーエワさん、お忙しい中インタビューにお答えいただきありがとうございました。

ぜひ皆様もショパンが作曲していた当時の音ともいえる、生のフォルテピアノの演奏をお聴きいただければと思います。ご来場を心よりお待ちしております。

The Real Chopin × 18世紀オーケストラ 京都公演」(2024/3/9)特設ページはこちら

18世紀オーケストラメンバー 山縣さゆりさん(Vn.)特別インタビュー(2024.03.09 The Real Chopin×18世紀オーケストラ 京都公演)

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京都コンサートホール

2024年3月9日(土)に29年ぶりに京都公演を行う「18世紀オーケストラ」。同オーケストラのヴァイオリンのメンバーとして長年ご活躍されている山縣さゆりさんにインタビューを行いました。古楽との出会いや、18世紀オーケストラ創設者ブリュッヘンとの思い出、古楽オーケストラの魅力などを教えていただきました。
ぜひ最後までお読みください。

――山縣さんは、18世紀オーケストラに長年参加されているとお聞きしましたが、古楽との出会いや古楽の魅力について教えてください。

山縣さゆりさん(以下敬称略):私が古楽と出会ったのは、日本でまだモダンヴァイオリンの学生をしていた頃でした。その当時、数人の管楽器奏者の方々がオランダから帰国し、桐朋学園大学音楽部古楽器科を創設したのです。そして、何かのきっかけでその方たちと出会うことになり、あっという間に、その古楽器の魅力の虜になっていました。何がそんなに魅力的だったのかは明確ではありませんが、とにかく私にとって、その考え方や奏法(作曲された時のスピリットを尊重する)があまりにもしっくりきて、ほかの方法など在りえないと感じました。

その当時、日本にはまだバロックヴァイオリンを専攻できる大学が存在しなかったので、モダンヴァイオリンを日本で学んだ後、オランダに留学しました。

――18世紀オーケストラには、いつ頃から参加しておられますか?

山縣:18世紀オーケストラに初めて参加したのは、私がオランダに留学した翌年(1985年)で、それ以来ずっとメンバーです。

――メンバーとして長年参加されてきた18世紀オーケストラですが、現在のオーケストラの状況についてお聞かせいただけますか。

18世紀オーケストラ ©Simon Van Boxtel 写真中央が山縣さん

山縣:実はここ2、3年の間に、最初から参加していたメンバーがほとんどリタイアしてしまったので、現在リニューアルの真っただ中です。今後どのようにしたら、今まで育んできたスピリットを継承しつつ未来へと繋げ、そして広げてゆけるのか、模索しているところです。

最近の若いバロック演奏家たちは、皆さん本当に素晴らしいので、まずはこの才能豊かな人たちとオリジナル楽器の素晴らしさを分かち合いたいと考えています。そして、ブリュッヘンとの思い出を押し付けるのではなく、彼の意図した⾳楽の本質を、後世にうまく語り継いでいくことができれば素晴らしいなと思います。

――今回のプログラムにもあるモーツァルトの交響曲は、18世紀オーケストラの創設者ブリュッヘンが得意とし、数多くの名演を残したレパートリーですが、ブリュッヘンとの思い出などをお聞かせいただけますか。

山縣:確か初めて参加したツアーで、今回演奏する「ハフナー」のシンフォニーを演奏したように覚えています。ブリュッヘンは、第1ヴァイオリンのメロディーの持って行き方に物凄く神経質で、リハーサルでは、弾き方を一音一音指示され、大変な緊張感があったことを思い出します。
オリジナル楽器でのモーツァルトの演奏は、それはそれは新鮮で、それまでに演奏し尽くされた有名な交響曲が、あたかも新作で、これが初演ではないかと勘違いするほど耳に新しく斬新で、鳥肌が立つことはしょっちゅうでした。

――よく演奏されるモーツァルトが、オリジナル楽器で弾くと毎回新作と感じるほど新鮮な演奏だったのですね!ますます公演が楽しみになってきました!!
使用されるオリジナル楽器についてお尋ねしたいのですが、今回はモーツァルトとショパンを演奏されますが、同じ楽器を使用されますか?

山縣:本来でしたら2つの楽器で弾き分けるのですが、今回のようなツアーの場合、二つの楽器を持ち歩く事はとても大変なので、基本的に一台の楽器で演奏します。管楽器の方たちも恐らく同じだと思います。私は、弓は二本持って行く予定です。一つはモーツァルト用、もう一つはショパン用です。

(上から順にバロック、初期クラシック、後期クラシックのヴァイオリンの弓)

――2種類の弓で弾き分けられるのですね!ピッチについては、いわゆるバロックよりも後のクラシックピッチ*(A=430Hz)で演奏されますか?

山縣:今までほとんどの場合、モーツァルト以降は430Hzで演奏してきました。今回も同様となります。

*注:バロックピッチの種類も沢山あるが、(A(ラの音)=415Hz)、現在のオーケストラでは(A(ラの音)=440Hz~442Hz)が主流。クラシックピッチは、現在のオーケストラの音よりほんの少し低くチューニングされている。

――とても興味深いお話をありがとうございました。ちなみに、今回共演する2人のソリスト(アヴデーエワさんとリッテルさん)とは、すでに共演されていますね。

山縣:アヴデーエワさんとは、ワルシャワの音楽祭で何度かご一緒しました。確か、レコーディング(ブリュッヘン指揮)もあったと思います。去年(2023年)の夏も、ブレーメンの音楽祭で、ショパンの両方のコンチェルトを一緒に演奏しました。

またリッテルさんは、2018年に第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールに出場された時に、私たちがコンチェルトの伴奏を務めました。

トマシュ・リッテル&18世紀オーケストラ ©The Fryderyk Chopin Institute                                           (第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールより)

 

 

――すでに共演されているソリストお二人という事で、今回の公演ではさらにどのような音楽になるか楽しみですね。また今回は指揮者がいませんが、指揮者なしの本番もよくありますか?その場合はやはりコンサートマスターが中心となって音楽を創っていくのですか?

山縣:最近は、指揮者なしの本番も少しずつ増えていますね。ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンの初期の作品あたりまででしょうか。
交響曲の場合は、コンサートマスターが中心となります。協奏曲の場合は、その曲にもよりますが、コンマスとソリストの両方が中心的存在となります。

指揮者のいない演奏は、やはり普段とはかなり違った雰囲気になります。交響曲の場合は、団員一人ひとりが室内楽に参加するようなイメージです。そして、協奏曲の場合は、団員全員がソリストに耳を傾け、一音でも逃すまいと頑張ります。
やはり指揮者がいない分、それぞれ一人ひとりの責任が重くなり、緊張感がより高くなるといって良いかもしれません。

――指揮者がいない公演も多く演奏されているのですね。貴重なお話をたくさんありがとうございました。京都コンサートホールの過去の公演プログラムを見ていると、前回の18世紀オーケストラの京都公演(1995年)のプログラムには、山縣さんのお名前がありました!
最後に29年ぶりとなる京都公演に向けてのメッセージをお願いいたします。

山縣:実は今回のツアーには、このオーケストラの創設者であるブリュッヘンを知らない団員がたくさんいます。でも皆、オリジナル楽器の魅力に取りつかれてこの道を選び、そのスピリットを受け継いでいる人たちばかりです。ブリュッヘンがオーケストラの前に立つことはもうありませんし、当時と全く同じ音を作り出すことも出来ません。でも、いま私たちが持ち合わせる、出来る限りの力と情熱をもって精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

――山縣さん、いろいろと質問にお答えいただきありがとうございました!3月9日の公演で18世紀オーケストラの皆様にお会いできるのを楽しみにしております。もちろん演奏もとっても楽しみです!

The Real Chopin × 18世紀オーケストラ 京都公演」(2024/3/9)特設ページはこちら

福田彩乃(サクソフォーン)インタビュー(2024.3.3 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ 最終年度リサイタル Vol.2「福田彩乃 サクソフォーン・リサイタル」)

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京都コンサートホール

2022年度より、第2期登録アーティストとして活動するサクソフォーン奏者の福田彩乃さん。活動1年目は京都市内の小学校へ、2年目は小学校だけでなく、中学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。活動の締めくくりとして開催するリサイタルを前に、インタビューを行いました。

―――今年度のアウトリーチも残りわずか2公演となりました。これまでの活動を振り返っていかがでしょうか。

はじめはプログラムをこなすことに必死だったのですが、2年を通して聴き手の反応など、色んなことを考える余裕が生まれてきました。予想していた反応と実際に得られる反応が違うこともあり、「こんなこともやっていいんだ」とか「こう言ったらこういう反応をしてくれるんだ」と視野が広がりました。

1年目のアウトリーチ先は小学校だけでしたが、2年目は聴いてくださる方の年齢が幅広く、どのように接したら良いかがすごく不安でした。公演を重ねて得られたものが沢山あったので、聴き手の対象が広がったことはありがたかったです。

―――回を重ねるごとにプログラムがブラッシュアップされていくのを感じていました!あらためて、どのようなことを考えながらプログラム構成をされたか教えてください。

1年目は『作品の背景の大切さ』を伝えたいと思いプログラミングしました。単に音楽を聴いた時と、作品の背景を知ったうえで音楽を聴いた時の感じ方の違いを知っていただきたいなと思ったのです。

せっかく2年間あるので、2年目は別のことをしようとプログラムを一新しました。ただ、それまで1年間同じプログラムでやって来たので、自分の考えが凝り固まってしまい、なかなかそこから脱却することができず苦労しました。なので、新しいプログラムを初めて披露するときは結構ドキドキしました。

2年目も最初は『作品の背景』に重きを置いてお話していたのですが、公演を重ねていくうち、音楽に対する『自分自身の想い』をお話したほうが良いなと感じるようになりました。

―――なぜ『作品の背景』から『自分自身の想い』へと重きが変わったのでしょうか。

音楽に対する自分自身の想いを伝えるようにしたら、しっかりと聴いていただけた印象があったのです。『お客様が聴き入る』という体感を得られたので、言葉ひとつでこんなにも反応が変わるんだな、と学びました。

1年目は作品の背景について、しっかり説明してから演奏につなげていましたが、今では少ない言葉でも、ぐっと曲に集中してもらえるようになりました。「本当に伝えたいことをシンプルに伝えたほうが、伝わることもあるんだな」「こういう伝え方もあるんだな」と今は感じていますね。

2年間を通して「こうじゃなきゃダメ」という考え方がなくなり、頭が柔らかくなったように思います。

―――アウトリーチを通して、福田さん自身の「考え方」が変化していったのですね。

ホールで演奏するときは音楽好きのお客様が多いですが、アウトリーチで行く先々には音楽に興味のない方も多いので、自己満足になっていないか、「自分は音楽が好きでやっています!」と押しつけになっていないか、すごく不安に思っていました。

ただ実際のアウトリーチ公演で、集中して聴いてくださったり涙ながらに聴いてくださる方を目にした時は「自分がやっていることって無駄じゃないんだなあ」「自己満足ではなかったんだなあ」と思えて、自分の自信にもつながりましたね。ホールでのコンサートでは一方的になってしまうことも多いので、アウトリーチ活動を通してどのような伝わり方、受け取り方をされるかを考える癖がつき、すごく勉強になりました。

―――聴き手のことを考えて、アウトリーチでは譜面台の高さにも気を遣っていましたね!

距離が近いからこそ、演奏中に視線をどこに向けたら良いかが悩ましいところで、あまり聴き手の方をじろじろ見ると集中が切れちゃうかな、と思って譜面を見ながらチラ見したりしています。今までだったら楽譜や音楽にのみ集中していたのが、聴き手にも意識を向けられるようなったのは、すごく成長したなと思います(笑)。

―――アウトリーチ活動の中で、福田さんが伝えたいことは伝えられましたか。

そうですね、少しずつ伝わっている感覚が得られるようになってきました。最初から自分が伝えたいことを伝えられるように進めてきたつもりですが、はじめはなかなかうまくいっていない印象がありました。伝えたいことが伝わっていると、話している時の感覚が全然違って、すんなり受け入れてもらえているような不思議な雰囲気があります。特に子ども達は反応がとても正直なので(笑)。

―――アウトリーチ活動を通して、福田さんが得たものは何でしょうか。

アウトリーチ活動を始める前は、自分の想いや意思をはっきり持っていると思っていましたが、いざ伝えようとするとうまく言葉にできないことや、思ったように受け取ってもらえないことがあり、自分の頭の中で考えていることは、案外ぼんやりしたものだったんだな、と気付きました。「自分を強く持つということをしなくてはいけない」と思えたことは大きいです。

―――自分自身を見つめる時間でもあったということですね。

そうですね。プログラムを作る時、人の意見に流されて自分の中にかなりの迷いが生まれてしまうこともありました。今までの自分であれば全てを受け入れて彷徨っていたと思いますが、「それではいけない」と気付けたことは大きな収穫です。他人の意見を受け入れ過ぎると自分がなくなってしまうので、どこまで取り入れるかの取捨選択が大事だと、今は思えています。

今後意見を言っていただける機会は少なくなっていくと思うので、京都コンサートホールのスタッフの皆さんと一緒にプログラムを作れた経験は、大切で有難いなと感じています。

―――第2期登録アーティストとしての活動は、この3月で一旦ひと区切りとなりますが、今後はどのような活動をしていきたいですか。

いま決めていることとしては、自主リサイタルを年に1度、開催することです。

リサイタルは1年間の研究を突き詰めた成果を発表する場として考えており、これまで4回開催しました。博士課程まで修めたこともあり、演奏家でありながら、音楽や奏法について今後も研究していきたいという想いがあります。これからも毎年続けていきたいです。

また願望として、私自身が京都市立芸術大学のサクソフォーン専攻『第1期生』であったこともあり、京都という街で、サクソフォーンの発展に貢献していきたいと考えています。『サクソフォーン』と聞くとジャズを思い浮かべる方が多いですが、クラシックというジャンルにおいての知名度も上げるため、周知につながる活動をしていきたいです。視野を広く持ち色々な所へ飛び出し、活動の場を少しずつ広げていけたらいいなと思っています。

―――様々な所へ出かけて演奏するという点では、アウトリーチに近いものがありそうですね。2年間の活動の集大成となるリサイタルを3月3日に開催しますが、プログラムを紹介していただけますか。

私自身、サクソフォーンは多彩な音色を出せる楽器だと思っているので、その多彩さをみなさまに知っていただけるようなプログラムを組みました。

J.マッキーの《ソプラノサクソフォーン協奏曲》、R.モリネッリの《ニューヨークからの4つの絵》は、各楽章にタイトルが付いているので情景などをイメージしやすく、音色の違いをより感じ取っていただけるのではないかと思い、プログラムを決めるなかで早々に選曲しました。

楽章ごとに、作曲者が何を表現したかったのかを想像しながら、音の多彩さをみなさんに聴いていただきたいと思います。1作品の中に異なる雰囲気の曲があるということも、みなさんに知っていただきたいですね。

―――いつも一緒に演奏しているピアニストの曽我部さんと、その2曲は演奏したことがありますか。

マッキーは2回目ですが、モリネッリは初めてです!モリネッリは私自身もこれまで取り組んだことがなかったので、本当に初披露です。どちらもピアノが大変なのですが、曽我部さんと相談し、無事OKをもらえました(笑)。

―――普段アウトリーチで披露している作品も入っていますね。

真島俊夫の《シーガル》はこれからも大切にしたい作品で、特に入れたいなと思っていました。J.リュエフの《シャンソンとパスピエ》は私が楽器を始めたころに、初めてソロで演奏した作品です。曲調的に1曲目に持ってくるのはどうかな、とも思ったのですが、初心に返ろうと思い、演奏会の最初に演奏します。R.ヴィードーフの《サクス・オ・フン》は人の笑い声を表現した面白い作品なので、リラックスして聴いていただきたいです。聴きごたえのある作品の合間に、リラックスタイムもお届けします!

―――G.ガーシュインの《3つの前奏曲》とV.モロスコの《ブルー・カプリス》はいかがでしょうか。

ガーシュウィンは、過去にサックスアンサンブルで演奏した個人的に思い入れのある作品です。その時はサクソフォーン四重奏で第2曲を演奏しました。こちらも3曲に分かれているので聴きやすく、楽しんでいただけると思います。

モロスコは指が目まぐるしく動く無伴奏の作品で、ジャズをはじめ、色んなジャンルの音楽が散りばめられています。テクニカルでもあり、初めて聴く方にもお楽しみいただけると思います。最後にとあるサクソフォーンの名曲が少しだけ引用されているので、ぜひ最後まで注目して聴いていただきたいです。

また、ガーシュウィン、モロスコ、マッキーがアメリカの作曲家なので、「繋がりがある!」と決め手のひとつにもなりました。

「こんな風に演奏したら、お客様にこれが伝わるかな?」ということを1曲1曲考えながらプログラムを組みました。

―――お客様にとって、そして福田さんにとって、どのような演奏会にしたいですか。

リサイタルというと演奏者からお客様へ、一方的に演奏をお届けすることも多いのですが、聴いてくださる方がいるからこそ成り立つ演奏会です。アウトリーチで培ってきた経験を活かし、お客様の反応を見ながらお話を交えて進行していきたいです。せっかく同じ空間で同じ時間を過ごすので、堅苦しいものではなく、お互いが「やって良かった」「来てよかった」と思える演奏会にしたいです。

―――お客様と一緒に演奏会をつくるイメージですね。私たちもそのような演奏会になるよう精一杯サポートします!それでは、最後にお客様へのメッセージをお願いします。

登録アーティストとして、2年間活動してきた成果を発表する場でもあるので、活動で得たことをこの演奏会に織り交ぜたいです。お話の仕方、間の取り方等も工夫しながら、音楽が自然と耳に入ってくる時間を皆さまとつくりたいと思っています。

今回はアルトサクソフォーンだけでなく、ソプラノ、テナーも含めた3種類のサクソフォーンを使用するので、サクソフォーンの多彩さを一層感じていただけるのではないでしょうか。どうかお気軽に、京都コンサートホールまでお越しいただけたら嬉しいです。心からお待ちしております!

(2024年1月 事業企画課 インタビュー)

2年にわたるアウトリーチ活動の成果と、福田さんの渾身のプログラムを聴きに、ぜひ京都コンサートホールへお越しください!

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