合奏指導者 井手カナ インタビュー(京都市ジュニアオーケストラ)

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京都コンサートホール

2024年度から京都市ジュニアオーケストラの合奏指導者として関わってくださっている、指揮者の井手カナさん。
東京藝術大学音楽学部指揮科に在学する傍ら、NHK交響楽団N響アカデミー指揮研究員を務めるなど、忙しい日々を送っていらっしゃいます。
京都市ジュニアオーケストラとは、8月9日開催の「ミュージック・サマー・コンサート」で共演予定!現在、最後の追い込みのリハーサルを重ねているところです。

そんな合間を縫って、井手さんにインタビューを行いました。
なぜ指揮者を目指すようになったのか、どんな指揮者を目指しているのか・・・などなど、様々なお話をお伺いすることができました。
ぜひご覧ください!

――いつも楽しい合奏指導をしてくださる井手さんに、ずっと前から尋ねてみたいことがありました。井手さんは指揮者を目指される前はヴァイオリンを学ばれていましたね。なぜ指揮科に転向したのですか。

井手カナ氏(以下敬称略):小さい頃から桐朋学園大学の子どものための音楽教室に通っていたのですが、そこではオーケストラの授業がありました。最初はオーケストラの中で演奏することでオーケストレーションを学んでいたのですが、この授業がきっかけで「オーケストラ」の楽しさを知りました。
ヴァイオリン専攻として高校に入学後、本格的に様々なオーケストラ作品に触れる機会に恵まれました。モーツァルトやベートーヴェンは勿論、バルトークやシェーンベルクなど、幅広い作品を学びました。また、実際に第一線でご活躍のプロ指揮者に指導をうけることができ、小澤征爾さんや秋山和慶さんといった桐朋学園大学を出られたマエストロがふらっと学校に時々遊びに来てくださり、オーケストラの授業を見学されるといったようなこともありました。
そんな日々の中で、「オーケストラって特別だなぁ」とともに指揮者への憧れや尊敬の思いが強くなっていき、「自分も指揮をしてみたいな」と思うようになりました。
最初に指揮をしたのは、高校の合唱コンクールです。そのあと、弦合奏を振ってみたり、少しずつ指揮をするチャンスに恵まれました。

 

――その頃から指揮者になることが夢だったのですか?

井手:どちらかというと、最初は、指揮の勉強がヴァイオリン演奏にプラスになるのではないかという思いでやっていました。ですので、大学でもヴァイオリンが主専攻で、指揮は副科で学んでいたのです。しかし、有志で集まったメンバーでオーケストラを作ったり色々な場所で指揮をしているうちに、異なる音楽性をぶつけ合い、一つの音楽をみんなで作り上げる面白さに無限の可能性を感じましたし、指揮者になるということよりも、勉強していくうちに視野がどんどんと広がっていくのが楽しかったんだと思います。
そのうちヴァイオリニストになるのか、指揮者になりたいのか、周りに問われることが多くなり、二足のわらじを履くことに悩むようになりました。どちらも中途半端になる可能性も十二分にありましたし、かといってどちらかに絞ることも私にとってはつらく難しい選択でした。

――桐朋学園大学を卒業後のお話をお聞かせください。

井手:大学卒業後は憧れの留学生活を満喫する予定でいました。卒業試験で弾いたシベリウスのヴァイオリン協奏曲の影響もあり、シベリウスアカデミーへヴァイオリン交換留学へ行った矢先、新型コロナウイルスのパンデミックが起き、レッスンは全てオンラインになってしまいました。音楽家としての生活がままならない時期がありました。途方に暮れていた頃、日本でプロオケに所属する有志の方々が「コロナ禍で機会を失った若い人たちに指揮をさせてあげよう」と、若手指揮者がオーケストラを指揮する「トライアルコンサート」を企画してくださったのです。運良くそのコンサートで指揮をすることができ、その際ある方から東京藝術大学なら対面での指揮レッスンをしているとの助言を受け、帰国後直ぐに東京藝術大学の指揮科を受験しました。

――そのコンサートで指揮をした時に「自分が本当にやりたかったのは指揮だ」と思えたのですね。

井手:そのコンサートではベートーヴェンの交響曲第4番を振ったのですが、コロナ禍でオーケストラを指揮するのは本当に久しぶりでした。「本当にやりたいのはアンサンブルなんだ」「指揮者としてみなさんと音楽を共有していくことが自分にとっての一番幸せなんだ」と強く思った瞬間でした。
コロナのせいで思い描いていた留学生活を送れなかったのですが、全ての選択肢がなくなった時に初めて、指揮に心から向き合えたと思います。本当に辛い時期ではありましたが。

――いま東京藝術大学4年ということで、桐朋学園時代との何か違いはありますか?

井手:桐朋学園は華やかでユニークな大学。藝大は真面目なのに何処かカオスな大学。どちらも良い意味で変なのに常識を超えた何かがあるすごい大学だと思います。藝大では特にソルフェージュや和声の授業のレベルが本当に高くて勉強になります。作曲科の先生が授業をしてくださるので、作曲家的な視点で楽譜にアプローチしていくのですよね。

――楽譜を読み解くことは指揮者にとって必要な能力ですよね。
ほかにも指揮者に必要な能力はありますか?

井手:個人的には「音を素直に聴く」ということが必要じゃないかなと思っています。これって意外と難しいことなのです。
京都市ジュニアオーケストラのリハーサルでもそうですが、音を聴いていて、その音がこれからどのように成長していくか、以前のリハーサルとはどう変わったかなど、その音の本質を見抜いたり、その音にいま自分はどれくらい満足できているかということを考えることが必要です。

京都市ジュニアオーケストラの合奏の様子

――指揮者はそもそも音を出さないですし、音の無い状態から響きを作っていくことが仕事ですよね。井手さんは、自分の理想の響きを頭の中で作ってリハーサルをなさるのですか。

井手:そうですね。最初に自分の理想の音が頭の中で鳴っている状態です。その後にみなさんに演奏していただくわけですが、その時に鳴った音と自分の頭の中で鳴っている理想の音がどう違うかということを瞬時に分析しなければいけません。

――聴いているうちにだんだんと分からなくなってくる時はありませんか。ご自身のコンディションや場所によっても音の鳴り方は変わってくるでしょうね。

井手:自分の身体のコンディションが本当に大切だと最近つくづく感じます。ちょっとでも風邪をひいてしまうと、聞こえ方が変わってしまう。それに、「よし、聴こう!」と思って集中すると、寧ろ耳の周りが力んで耳に蓋が被さるような感じになってしまい「あれ、自分が欲しかった音はどんなだったっけ?」と迷いが生じてしまいますので、耳のコンディションには特に気をつけています。

――ところで、第12回トスカニーニ国際指揮者コンクール(2025年8月31日から9月7日にかけてイタリア・パルマで行われるコンクールで、井手さんは12人の本選出場者の一人)に出場されますね。

井手:コンクールに出場するのは今回が初めてです。運良く本選出場者に選んでいただきました。今回200名ほどの応募があったようで、ビデオ審査で12人が招待されました。
一次審査で12人のうち半分が残り、セミファイナルでまたその半分の人数になり、ファイナルには3名が出場する予定です。

――課題曲はあるのですか。

井手:22曲、あります。その内の20曲がすべてシンフォニーです。

――ええ!そんなに勉強しないといけないのですか!

井手:そうですね。その中から数曲を振るのですが、どの曲を振るかは直前にならないとわからないそうです。22曲のうち、これまでに勉強をした作品ももちろんあるのですが、一度も学んだことのない作品もたくさんあるのでいま一生懸命準備をしているところです。

――学生生活もあり、N響でのお仕事も持っていらっしゃるので、それらと並行してコンクールの準備をしないといけないのは大変だと思います。しかし、たくさんの曲をレパートリーにできる大変良い機会になりそうですよね。

井手:私としては、できるかぎり長くオーケストラを振りたいという思いがあります。おそらく出場される皆さんが同じ思いでいると思いますが、長くオーケストラを振るためには勝ち残らないといけない。そのためにはたくさん勉強しなければいけない。今回コンクールに限らず、来年も再来年もチャレンジし続けなければならないと思っています。

――いま世の中には若い指揮者がたくさんいて、大活躍している人たちもいますよね。

井手:そうですね、そんな彼らを見ていると励まされます。頑張っている仲間がいるのだから、私も自分自身のために挑戦し続けないといけないなと思います。

第20回 京都市ジュニアオーケストラコンサート(2025.1.25)より(C)ハヤシマコ

――応援しているので、がんばってくださいね。
さて、最後に2つ、質問をさせてください。
まず、京都市ジュニアオーケストラと今後どのような音楽を作っていきたいと思ってくださっていますか?

井手:昨年度は皆さんとははじめましてで、緊張していましたが、今年は2年目ということで、みなさんも私にどんどん慣れてきてくれているなぁと思います。とっても良い雰囲気の中で一緒にオーケストラを楽しんでいます。そんな中で、今年から新しく入ってきてくれたメンバーもたくさんいますので、そういう方たちも本番で楽しんで演奏できるような実力をつけていけるよう、合奏指導者としてバックアップしていきたいです。
来年の1月には日本を代表するマエストロ3人(広上淳一先生・大友直人先生・下野竜也先生)と一緒に演奏をする機会に恵まれますが、子どもとかジュニアとか、そういうものを取っ払って、怖気づくことなくみんなが心から音楽を楽しめるような環境を作っていきたいです。

――ありがとうございます。
それでは2つ目の質問です。井手さんの夢は何ですか。

井手:現状、いまを生きることで精一杯なのですが、やっぱり一つ一つの音楽に真摯に向き合っていくことをこれからも忘れずに、その瞬間を楽しむことを目標にしたいです。自分を信じ、オーケストラ全員で作り上げた音楽をみなさんに楽しんでいただくということをこの先積み重ねていくことができればいいなと思います。巨匠たちの名演も、日々の積み重ねがあったからこそその境地に辿り着いたと思うのですよね。
わたしも一歩一歩を忘れずに、「井手さんの演奏面白かった!楽しかった!」と言っていただけるような音楽を作れる、そんな指揮者になることが夢です。

――今日はいろんなお話をたくさんお聞かせくださり、ありがとうございました!
まずは、8月9日開催の「京都市ジュニアオーケストラ ミュージック・サマー・コンサート」を楽しみにしています!

2025年7月21日 京都市交響楽団練習場にて
京都コンサートホール事業企画課

 


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