2024年度から2年間、京都コンサートホール第3期登録アーティストとして活動してきた、ピアニストの福田優花さん。後半では登録アーティストとしての活動の集大成となる「最終年度リサイタル」について話を伺いました。
※インタビュー前半は「こちら」よりご覧いただけます。
――最終年度リサイタルのテーマは「音楽で語られる愛」ですが、今回のプログラミングの意図を教えてください。
2年間アウトリーチでやってきたこと、伝えたいと思ったことを実際にリサイタルでも表現したいと思い、このプログラムを組みました。アウトリーチで伝えたかったことは、1年目も2年目も変わらず「自分の経験と音楽を重ね合わせて、音楽を楽しんでほしい」ということです。アウトリーチの対象は小学生が多かったのですが、リサイタルは客層が広がります。より多くの方、そしてその方々の人生に普遍的に重なるものは何だろうと考えたとき、その答えが「愛」でした。「愛」といっても様々な形があると思います。恋人への愛、家族への愛、友人への愛、ペットへの愛…。みなさんそれぞれの心に宿る愛を、ご自身の経験や気持ちと重ねながら聴いてもらえたら嬉しいです。
――今回演奏する5曲について教えてください。
はじめに演奏するドビュッシーの《亜麻色の髪の乙女》は、みなさんよくご存じの曲だと思いますが、原曲は片思いを表現した詩をもとに作られた歌曲で、後にピアノ独奏用に編曲されました。
ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第31番》は後期の作品で、彼の人生観が表れている曲だと思います。ベートーヴェンのピアノ・ソナタは全て誰かに献呈されているのですが、この31番だけは誰にも献呈されていません。理由は諸説ありますが、私は、ベートーヴェンは大切な女性(ブレンターノ夫人)に献呈するつもりで作曲したが、結局は献呈せずに終わってしまったのではないかと想像しています。この作品にはベートーヴェンの秘められた恋情を感じます。またこの作品は、晩年のベートーヴェンに共通する、苦しさから幸福・歓喜へとつながっていく精神的なメッセージが込められているようにも思います。私自身、この曲を演奏すると、「人生は悲しいこと苦しいこともあるが、いいものなんだ」という、人類愛のようなものを感じます。
前半の最後に演奏するのは、アルゼンチンの作曲家ヒナステラの《3つの舞曲》です。2曲目が愛の悲しみを歌っているような感じがします。
リストの《バラード第2番》はギリシャ神話の『ヘロとレアンドロス』という悲劇に基づいた曲です。青年ヘロが恋するレアンドロスに会うために毎夜海を渡るのですが、ある晩、嵐が来て溺れ死んでしまうといった話です。悲恋の話なのですが、リストの曲は最後が盛り上がって終わるんですね。リストが神話からどのような結末・愛を描いたか、想像しながら聴いていただけたらと思います。
最後に演奏するのはシューマンの初期の作品《ピアノ・ソナタ第3番》です。全楽章を通じて、シューマンが後に結婚する「クララの動機」と呼ばれる音型が出てきます。この作品を書いた当時、シューマンはクララの父親に交際を反対されていたのですが、反対されてもなお、クララへの強い気持ちが感じられる、愛で包まれた曲です。
――考え抜かれたプログラムですね。とても楽しみです。
みなさんの大切な方のことを思い浮かべ、ご自身の気持ちと重ねながら聴いていただけたら嬉しいです。その一方で音楽的な背景を知っていただくと、より深く音楽を感じていただけるのではないかとも思います。音楽的なことは当日配布するプログラムに解説を書きますので、そちらとあわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。
――プログラミングで工夫した点はありますか。
何かひとつでも聴き手の気持ち・経験と重なればと思い、様々な愛に繋がる作品を選曲しました。また、冒頭に演奏する《亜麻色の髪の乙女》はよく知られた曲ですので、「これから2時間のコンサートが始まる…」という緊張感をほぐすという意味で、リラックスしてお聴きいただけるのではないかと思い、1曲目に選びました。また、ヒナステラの作品は他の曲と比べて、雰囲気・曲調がガラッと変わります。アウトリーチの時も感じたのですが、身体を使った曲やリズミカルな曲は人の本能に響きます。楽しい気持ちになっていただき、前半を終えたいとの狙いでプログラミングしました。
――リサイタルのプログラムは、アウトリーチの構成と似ていますね。
そうなんです!気づいていただけて嬉しいです。はじめは聴きなじみのある曲で親近感を持っていただき、真ん中にリズミカルな曲を入れて身体で音楽を感じてもらう、そして後半は音楽をご自身の経験や気持ちと重ねて聴いていただくという、徐々に内面にアプローチしていく構成です。この最終年度リサイタルはアウトリーチの集大成ですので、アウトリーチの構成を踏襲して、アウトリーチの経験を活かしたプログラムを組みました。
――今回のプログラムで思い入れのある曲はありますか。

最初と最後の曲です。私がフランスへ留学することになったきっかけは、ドビュッシーの作品でした。大学を卒業した2019年の春に受講した講習会(京都フランス音楽アカデミー)で、ドビュッシーの《前奏曲集》から何曲か演奏しました。その時に「とても素敵に弾けているよ」と言葉をかけてくださったのが、後にフランスで師事することになったブルーノ・リグット先生でした。ですので、ドビュッシーの《前奏曲集》は私にとって、ターニングポイントともいえる作品です。
シューマンの《ピアノ・ソナタ第3番》はフランス留学時に初めて取り組んだ曲です。リグット先生がシューマンとショパンを得意にされていましたので、せっかくなら先生とシューマンかショパンの大曲を学びたいと思いました。エコール・ノルマル音楽院の卒業試験でも演奏しました。とても満足いく演奏ができ、先生も私の演奏を聴いてとても喜んでくれました。私はフランスに2年留学しましたが、どちらかというと留学期間としては短い方だったと思います。それでも先生は「君と勉強ができてすごく嬉しかった。これからもっともっと素晴らしい演奏家になってほしい」と、この作品を演奏し終えたときにおっしゃってくださいました。私にとっては想いの詰まった大切な曲ですので、みなさんにも聴いていただき、そして喜んでいただきたいと願い、選曲しました。
――最終年度リサイタルは、京都コンサートホールの登録アーティストとしての集大成であるとともに、次のステージへの第一歩でもあります。これから先、演奏家としてチャレンジしてみたいことはありますか。
まだまだ演奏家としては未熟ですので、様々なことにチャレンジしていきたいと思っていますし、アウトリーチ活動もできる限り続けていきたいです。具体的には、アウトリーチのように聴き手と密にコミュニケーションが取れるようなコンサートをしてみたいです。大きなホールで演奏できるのはとても嬉しいのですが、聴き手のみなさんの表情が見えるくらいのサロンのような空間でお客さんと言葉を交わし、感じたことを共有しながら創り上げていくコンサートができたら素敵だなと思うようになりました。
――アウトリーチ活動を通じて様々な人と音楽を共有する時間が増え、もっとたくさんの方に自分の演奏を聴いてもらいたいという気持ちが生まれてきたのですね。
そうですね。でも、自分が一方的に弾いて演奏を聴いてもらうというよりは、聴いてくださった方と感想を共有したり、聴き手の想いをもっと感じたいという気持ちが大きくなりました。アウトリーチ活動を続ける中で、「人によってこんなにも感じることって違うんだ」と、視野が広まりました。思いもよらないような感想が出ることもあり、たくさんの気づきをもらえました。
――今後の活動予定について教えてください。
人前で演奏することはもちろんですが、指導者としてピアノを教えたり、共演者として大学で伴奏員をしたり、時にはコンクールの審査員をしたりと、音楽家として様々な活動を行っていきます。
なかでも、演奏家と指導者としての活動は両立していきたいと思っています。演奏家として知識や経験を積みつつ、それを指導者として伝えていきたいです。ピアニストとして、そして指導者として、常に成長し続けられる人でありたいです。
――音楽家としての目標はありますか。

小学生から高校生まで師事していた福井尚子先生から言われた「あなたはピアノを弾くことで、これまで脈々と受け継がれてきた西洋音楽の礎の一部にならなければならない」という言葉がずっと私の心に残っており、そのような音楽家になりたいと常に思っています。この言葉をかけられたのは小学生の頃です。小学生にとってはとても難しい言葉ですよね。でも、私を一人の音楽家として扱ってくれたような感じがして、子供ながらに嬉しかったことを、今でも覚えています。
――最後に、みなさまへメッセージをお願いします。
2年間の活動の集大成として、そしてみなさまへの感謝を込めて準備をしてきた最終年度リサイタルです。ぜひ多くの方に演奏をお聴きいただけたら嬉しいです。そしてご来場くださったみなさまと素敵な音楽の時間を共有できたら、音楽家として幸せに思います。
――ありがとうございました。最終年度リサイタル、楽しみにしています。そしてこれからのピアニストとしての活動を応援しています!
(2025年12月 京都コンサートホール事業企画課インタビュー)

