京都コンサートホール開館30周年事業として、京都市内各所で開催中のクラシック音楽の一大イベント「Kyoto Music Caravan 2025」。
2023年以来、2度目の開催となる本イベントは、これまでに10公演中4公演を実施し、多くのお客さまにご来場いただいています。
今回、8月11日公演の会場である壬生寺の貫主 松浦俊昭氏と、京都コンサートホール プロデューサーの高野裕子で、「Kyoto Music Caravan」にまつわる対談を行いました。ぜひ最後までご覧ください。
◆前回の「Kyoto Music Caravan 2023」について
――「Kyoto Music Caravan 2023」の開催から2年が経ちました。
松浦さん(以下敬称略): コンサートを開催したのはお盆の時期で、壬生寺では毎年「万灯供養会(まんとうくようえ)」を行っています。この期間中は元々お越しいただく方が多いのですが、本堂前で演奏を聴けるということもあり、地元(中京区)の方を中心に、約400名もの方にお越しいただきました。
音楽に関心を持っている方がやはり多いなと改めて感じたとともに、万灯供養会の灯篭前で演奏している風景を見て、お寺でのコンサートはいいなと思いました。
高野プロデューサー(以下敬称略): アンケートで、小さい頃から壬生寺さんに通っていた人たちが「ここでクラシックのコンサート聴けたことがすごく嬉しかった」と書いてくださって、私たちも嬉しかったですね。
松浦: お寺はもちろん 信仰の場ですが、普段の喧騒から離れて、心が落ち着く場所だと思ってくださっている方もいらっしゃいます。また壬生寺は「新選組ゆかりの地」ということもあり、近藤勇の胸像と対話しに来られる方もいらっしゃいます。そういった部分も、お寺の大きな存在意義だと思っています。
―― たしかに壬生寺さんに来ると落ち着きますし、お寺の周りは住宅街ということもあって、ふらっと入りやすいですね。
松浦: スマートフォンや携帯電話、テレビなどがなかった時代は、人々のコミュニケーションの場としてお寺が使われていました。そしてお寺に当時の流行りのものが集まってきて、その中で娯楽が生まれました。
壬生寺でいうと、今から725年前に始まった「壬生狂言」ですね。もともとは、仏教の教えを伝える目的で始まったのですが、江戸時代に少しでも多くの人に広めようと、他の様々な物語を取り入れたことで、バラエティー豊かな「壬生狂言」が出来上がったのです。
当時はきっと、「今日壬生さん行ってきた」「どうやった?」「面白かった、また行きたい」といった会話が繰り広げられていて、お寺は面白いと思ってもらえる場所だったのではないかと思います。
高野: 「お寺は昔から人が集まる場所」と松浦さんがおっしゃっていたことは印象的で、お寺は宗教的な施設のイメージしかなかったので新鮮でした。
「Kyoto Music Caravan」を企画する際、お寺でコンサートをしてよいか松浦さんに相談したところ、「昔から壬生狂言のように人を楽しませる娯楽があって、音楽もそれとそんなに変わらない」と後押ししてくださったのは大きかったですね。
松浦: 壬生寺では最近、コンサートやマルシェ、落語の独演会などを行っていますが、「楽しい」と思ってもらえることが大事だと改めて感じます。
ですので、前回も今回もこのようなご縁をいただいて、コンサートをしていただけるのは、お寺にとっては滅多にない、とてもよい機会だと思っています。
◆キャラバンを企画した思い――松浦貫主が繋いでくださったご縁
――「Kyoto Music Caravan」は、京都市内の寺社仏閣などの名所で無料コンサートを開催している一大イベントです。そもそも本イベントはどのように生まれたのでしょうか。
高野: このイベントの企画意図は2つあります。
まず私が留学していたパリでは、街中の様々な場所でコンサートが行われ、ふらっとコンサートを聴いて帰るという光景が日常になっていて、京都でもそのようなコンサートを開催したいと思っていました。
そしてもう一つは、今まで京都コンサートホールに来たことがない方にも「クラシック音楽っていいな」と思っていただきたかったのです。
ただ、いきなりホールへ行くのは、なかなかハードルが高いですよね。
京都の様々な場所でコンサートを無料で開催することで、「京都の街って素晴らしいな」「クラシック音楽っていいかも、次はホールで聴いてみようかな」という方が増えてほしいと思ったのです。
実際に京都で開催するなら、会場は京都の町を象徴するお寺や神社だと思い、松浦さんに相談したところ、「ここでやるか?」と言ってくださったのですよね。そして松浦さんから様々な方をご紹介いただき、その縁を繋いで生まれたのが「Kyoto Music Caravan 2023」なんです。
松浦さんを一言で表現するなら、「結ぶ人」だと思います。
これまで繋いでいただいたご縁は数えきれず、そのご縁からまた違うご縁に繋がっていきました。
松浦: ご縁を結んだ後が大事で、そのご縁をどうやって紡いでいくかは、その人の努力次第なんですよね。
高野: 松浦さんからのご縁は今も続いていて、本当に宝物です。
ちなみに松浦さんは、お寺でクラシック音楽を演奏することに抵抗はなかったのでしょうか?
松浦: やりたかったんです。
20年前に東寺さんの音楽イベント「音舞台」を見て以来、壬生寺でも何かできないかと思っていました。その後、2009年にご依頼いただいて、大沢たかおさんの朗読会を本堂前の特設ステージで開催しましたが、この境内に1,640脚ものイスが並んだんですよ。
その光景を見て、うちでもコンサートができるのではないかと思い、それからずっとやりたいと思い続けていました。10数年を経て実現できたので、感慨深いものがありますね。
そういえば、同じく「Kyoto Music Caravan 2023」の会場であった隨心院さんも、「こういうオファーを待っていた!」とおっしゃっていましたね。
――「クラシック音楽×お寺」の組み合わせは、今ではよく聞きますが、実際のところ、相性はどうなのでしょうか。
松浦: クラシック音楽が好きな人は、その音を聴いて癒される方もいらっしゃると思いますので、ご本尊に拝むのと同じご利益があると思うのです。それに、これだけたくさんの方が集まったら、庶民の仏であるお地蔵さんは、きっと喜んでいらっしゃると思います。
そして一般の方にとっても、コンサートに来ていただくことで視野が広がる可能性があるのです。
高野: クラシック音楽好きの人にとっては、この機会に京都の街を訪れるよいきっかけになっていると思います。まさに、今回のキャラバンのキャッチフレーズである「クラシック音楽が、京都のまちと人びとをつなぐ」ですよね。
前回の壬生寺公演の様子(2023年8月12日)
◆ぜひコンサートを生で楽しんでいただきたい
――実際に「Kyoto Music Caravan」を開催してお客さまの反応はいかがでしょうか。
高野: お客さまにも大変喜んでいただいています。2023年度に開催した際「またぜひ開催してほしい」というお声を多くいただき、今回2年ぶりの開催へとつながりました。
松浦: 前回のコンサート開催後、「来年も開催しますか?」と言われましたよ。可能なら定期的にやってほしいなと思いますね。
お盆はご先祖さんがお帰りになられるので、お寺にお参りしましょう、と昔から言われていますが、こんなに暑い時に外へ出ようとなかなか思わないですよね。
そんな時にコンサートのような楽しみが一つでもあると、「やっぱりちょっと行ってみようか」「じゃあちょっとお寺に行って手を合わせてみようか」に繋がってくるわけですよ。
ですので、そういうきっかけをいただけることは、非常にありがたいことです。
ぜひこれからも「Kyoto Music Caravan」を続けていただきたいと思います。
そして8月11日のコンサートでは、初めて聴く方も、前回来られた方も、より多くの方々にお越しいただき、ぜひ楽しんでいただきたいです。
今の時代、スマートフォンで簡単に写真や動画で思い出を残せる時代ですが、スマホに保存して終わるのではなく、心に残してほしいですね。
高野: そうですね。私たち京都コンサートホールにとっては、ホールから出て音楽を届けることも大事だなと思います。ぜひいろんな方にクラシック音楽を聴いていただきたいですし、公共ホールにとって使命の一つだと思います。
前回と今回、「Kyoto Music Caravan」で開催させていただく会場は、いずれも魅力的なところばかりです。そしてそのコンサートにご出演いただく、京都ゆかりの音楽家がこれだけいるということは、京都の魅力の一つだと思います。
これまで「Kyoto Music Caravan 2025」では、4回コンサートを開催しましたが、いずれも素晴らしいコンサートとなりましたので、これからのコンサートも楽しみで仕方ありません。
――本日はありがとうございました。8月11日に壬生寺本堂で開催する「金管五重奏コンサート」は、入場無料で事前申込不要です。皆さまのご来場をお待ちしております。
(2025年7月壬生寺にて)
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