オルガニスト ミシェル・ブヴァール 特別インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

Posted on
インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏を迎えます。

待望の京都初公演に向けて、メールインタビューを行いました。
今回ご披露いただくセザール・フランクを中心とした特別プログラムやオルガンとの出会いなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

——この度はお忙しい中インタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まずブヴァールさんとオルガンとの出会いについて、教えていただけますか。

ミシェル・ブヴァール氏(以下「ブヴァール氏」):私は5歳からピアノを始め、11歳のときにオルガンを弾き始めました。私の祖父ジャン・ブヴァール(1905-1996)はルイ・ヴィエルヌの弟子で、作曲家でした。私は彼からごく自然な形で、音楽やオルガンに対する情熱を学びました。父は医者だったのですが、彼もアマチュアのオルガン弾きでした。自宅にオルガンがありませんでしたので、父はピアノでバッハの「前奏曲とフーガ」を弾き、私にオルガンのペダル部分を弾くように言いました。
後に、祖父は父に、2つの鍵盤とペダルがついた、イタリア・バイカウント社製の電子オルガンをプレゼントしました。私もその楽器を使って、バッハやヴィエルヌ、そして祖父ジャンの作品を弾き始めました。そして、祖父と一緒に教会に行った時、初めて本物のパイプオルガンと出会ったのです。その出会いは雷に打たれたかのようでした。その時、とても冷たい音がする電子オルガンと自然な音がする本物のパイプオルガンの音の違いを知ることができました。
オルガンも好きでしたが、ピアノも同じくらい好きでしたので、プロのオルガニストとして活動しようと決断する前、20歳くらいまではピアノとオルガンの両方を勉強し続けました。

——そうだったのですね。ブヴァールさんにとって、オルガンに魅せられた点はどういったところでしょうか。

ブヴァール氏:パイプオルガンで最も気に入ってる点は、この楽器が持つマルチで素晴らしい能力です。バッハの作品に見られるようなポリフォニーや対位法を完璧に表現できますし、またクープランの作品が持つフランス的な詩情や音色も表現できます。さらには、交響曲のようなオーケストラの音を模倣することだってできるんです。
あとは、天才的なオルガン製作者による優れたオルガンにも魅力を感じます。たとえば、バッハの時代に活躍したドイツのジルバーマンであったり、フランクの時代に活躍したフランスのカヴァイエ=コルであったり・・・。ヴァイオリンの世界で言えばストラディヴァリウスなどが挙げられますが、オルガンも同様で、非常に名高く、魅惑的な音を持つ楽器が存在するのです。

——パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院の教授を定年退職なさったとお聞きしましたが、最近の演奏活動について教えていただけますか。

ブヴァール氏:2022年度は特別に忙しい1年です。
今年の3月以降、私はリサイタルの他に、ロッテルダム(オランダ)、ブリュッセル(ベルギー)、ハノーファー、ベルリン、ポツダム、ハンブルク(ドイツ)、トゥールーズ、ディエップ、ルション(フランス)、サンセバスチャン(スペイン)、スタヴァンゲル(ノルウェー)、チューリッヒ(スイス)などで、マスタークラス(特に今年生誕200年を迎えるセザール・フランクに関するもの)を行いました。
また、アルクマール(オランダ)やシュランベルク(ドイツ)で行われた国際コンクールの審査員も務めました。また10月にはオランダで、ハーレム・セザール・フランク・コンクールの審査も務めます。
ちなみに今回の11月の日本ツアーの後は、1130日にソウルでも演奏会をする予定です。

——本当に世界を飛び回っていらっしゃるのですね。これまでの演奏活動で印象に残っていることはありますか。

ブヴァール氏:これまで、たくさんのコンサートを行い、素晴らしい楽器にも出会いました。例えば、ドレスデンやフライブルクのジルバーマン製オルガンや、フランスの偉大なカヴァイエ=コル製オルガン、ポワチエのクリコ製オルガン、サン・マクシマンのイスナール製オルガン、ロチェスターのキャスパリーニ製オルガンなどです。そして、パリのノートルダム大聖堂やアムステルダム、ヴェニス、ロンドンのウェストミンスター寺院、リオ・デ・ジャネイロなど、素晴らしい場所でも演奏会をしました。
また2016年、ヒューストン教会で開催された、AGO(アメリカ・オルガニスト協会)の記念公演のように、特別な状況で開催されたコンサートも印象に残っています。このコンサートでは、アメリカの1,000人以上のオルガン奏者の前で演奏したのですよ。とっても緊張しました。

——さて話を今回の京都公演に移します。今回の公演では、生誕200周年を迎えるセザール・フランクの作品を中心に演奏いただきます。フランクのオルガン作品の魅力はどういったところにあると思いますでしょうか。

ブヴァール氏:セザール・フランクのオルガン作品、特に《3つのコラール》は、ベートーヴェンのピアノソナタに匹敵するほどの非常に素晴らしい形式美を備えており、音楽的な深みと内面性を持つ作品です。
この作品特有の詩情や力強さは、全ての人々に感動を与えることができると思っています。

——《3つのコラール》は〈第3番〉を本公演でも演奏くださるということで、楽しみです。今回はフランクの作品だけでなく、古今の作曲家たちの作品をプログラミングしてくださいましたが、その意図を教えていただけますか。

ブヴァール氏:今年はフランクの生誕200年ではありますが、私はフランクだけを取り上げるつもりはありませんでした。フランクの代表的な作品と共に、フランク以前・以降のフランスとドイツで作られた作品を取り上げる方が、京都のお客さまにとって興味深いのではないかと考えたのです。
実際のところフランクは、作曲家としてはドイツ風、オルガニストとしてはフランス風という2つの側面を持っていますし、フランク自身、彼の後継者たちに影響を及ぼしましたので。

——今回のコンサートで弾いていただくフランクの3作品についてご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:フランクのオルガン作品として、彼の3つの創作期からそれぞれ1曲ずつ選曲しました。
まず1865年に創作された、有名な〈前奏曲、フーガと変奏曲〉。次に、1878年、トロカデロのコンサートホールに設置されたカヴァイエ=コルのオルガンのこけら落としのために書かれた《3つの作品》から〈英雄的作品〉を演奏します。そして最後に、彼が亡くなる数週間前、18909月に作曲された《3つのコラール》より、第3番を演奏します。

——ありがとうございます。フランク以外の作品についてもご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:ルイ14世時代の荘重なフランス形式で書かれた、ルイ・マルシャンによる《グラン・ディアローグ》でコンサートを始めることも楽しみですし、私の師であるアンドレ・イゾワールが見事に編曲したバッハの《4台のチェンバロと管弦楽による協奏曲》を演奏することも楽しみです。また、メシアンの傑作〈神は我らのうちに〉でコンサートの幕を閉じることも幸せに感じています。
ほかにも、私の祖父ジャンの作品や彼の友人であったモーリス・デュリュフレの作品も演奏する予定です。

——私たちもとても楽しみにしております。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします。

ブヴァール氏:京都コンサートホールの大ホールでリサイタルをさせていただけることを幸せに思います。京都は私の妻である康子が生まれ育った、特別な街であり、40年以上前に初めて京都を訪れて以来、日本の家族に会うために定期的に訪れていますから。
また今回、セザール・フランクに関する、特別なプログラムを準備しました。京都の音楽愛好家の皆様にはぜひともご来場いただき、一緒に音楽を共有したいです。
私は日本を心から愛しています。皆様のために演奏できることは私の大きな誇りであり、大きな喜びです。

——ありがとうございました。11月に京都でお待ちしております。

(2022年8月 事業企画課メール・インタビュー)


★公演詳細《オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70「世界のオルガニスト“ミシェル・ブヴァール”」》(11月3日)はこちら

★「オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー」はこちら

★ブヴァール氏の演奏&メッセージ動画

★京都コンサートホールのパイプオルガンについてはこちら

オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

Posted on
インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏が京都コンサートホールに初登場します。

世界中で演奏活動を行うとともに、パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院で教授として後進の指導にも力を入れてきたブヴァール氏。彼の指導を受けたオルガニストたちは現在、世界中で活躍しています。その一人であり、東京芸術劇場の副オルガニストとしてご活躍中の川越聡子さんに、ブヴァール氏についてさまざまなお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください。 Continue reading “オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)”

ヴァイオリン奏者 弓 新さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

Posted on
京都コンサートホール

19世紀に活躍したベルギー出身の音楽家セザール・フランク。
京都コンサートホールでは、フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催いたします(10月22日)。
本公演では、フランクがピアノと室内楽のために遺した傑作の数々をお届けします。

公演に向けて、《ヴァイオリン・ソナタ》でヴァイオリン独奏を、そして《ピアノ五重奏曲》で第一ヴァイオリンを担当する、弓新さんにメールインタビューを行いました。
弓さんは、現在ドイツを拠点に、世界中で活躍しているヴァイオリニストで、京都コンサートホールには2018年6月26日「田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪第26回」以来、二度目のご出演となります(その時のインタビュー記事はこちら)。
今回のインタビューでは、弓さんが思うフランク作品の魅力や共演メンバーなどについてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。
――ご無沙汰しております。京都コンサートホールには4年ぶりのご登場となりますが、前回(2018年)のコンサートの思い出やホールの印象を教えてください。
弓 新さん(以下「弓さん」)2018年に演奏した際のプログラムは、サン=サーンスからラヴェルまでの作品を扱った、20世紀初頭のフランスのサロン文化 “コンセール・プリヴェ”、というテーマに沿ったものだったと思います。今回演奏するフランクの作品も大体その少し前あたりの時代に書かれたので、前回のコンサートの続きの様な感覚がしています。
ホールについては、前回の演奏会の際に折角憧れの磯崎新建築の中に居ながらコンサートに集中していたので建物にあまり注意を払うことが出来ていなかったのですが、今回は前日からホールでのリハーサルがあり、建築としても鑑賞する時間も取れそうなので楽しみにしています。

「田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪第26回」公演より(2018年6月26日)
――弓さんは現在ドイツを中心にご活動されていますが、現在の演奏活動について教えていただけますでしょうか。

弓さん:2020年3月から北西ドイツ・フィルハーモニー(Nordwestdeutsche Philharmonie)でコンサートマスターを務めています。オーケストラの他にソロやリサイタル、室内楽のコンサートをしています。

――次に今回の演奏会についてお聞きします。本演奏会では、今年生誕200周年を迎えるセザール・フランクを取り上げます。弓さんにとってフランクとはどのような作曲家でしょうか。

弓さん:フランクの作品は、子供の頃にソナタや一部のオルガン作品に出会い、非常に感銘を受けたのを覚えていますが、次第にこれといった飛び抜けた個性が感じられなくなり、遠ざかってしまっていました。これは恐らく当時の自分の耳にフランクの独創性を聴き分けて、楽しむだけの経験がなかったというのもありますが、フランクの決してやりすぎない、バランスの取れた音楽的な性格と形式美を重視する姿勢が退屈に感じられたとも言えると思います。

今回このコンサートで演奏する機会をいただいた事で、改めてフランクの生涯や作品をもう少し全体的に知りました。これまで目を向けてこなかったような作品、例えば管弦楽のための「プシケー」や後期のオルガンの為の「3つの小品」(1878年)など、フランクの後期作品にある、あくまでバランス感覚は保持されつつもフランクなりの、言ってみればエロスと言うか、精神の危機、心の揺れ動きのようなものに気がつく事ができました。

――本公演で演奏いただく《ヴァイオリン・ソナタ》と《ピアノ五重奏曲》については、どうでしょうか。作品の魅力や聴きどころを教えていただけますか。

弓さん:ヴァイオリン・ソナタ》に関してはもう語り尽くされていると言ってもよいほど、この作品はポピュラーですが、今回この作品と(弦楽四重奏ではなく)《ピアノ五重奏曲》が一回のコンサートで演奏されるのは、フランクの生涯を知った後ではとても興味深いです。
と言うのも、この二つの作品はどちらもフランクがワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴いて以降の作品であり、また、まさに“トリスタン”におけるテーマである、愛と愛に関連するポジティヴな面とネガティヴな面、至福、苦しみ、障害、ドラマ、救済、喜び…という共通項がそれぞれの作品で対照的に表現されているように思えるからです。

《ヴァイオリン・ソナタ》はウジェーヌ・イザイの結婚祝いに書かれ、その目的に相応しく祝福するような、明るい性格が作品を通してみられるのに対して、《ピアノ五重奏曲》の方はその調性(へ短調)や、半音階や動機の扱い方から、暗く強迫観念的なものを感じます。
実はフランクがこの五重奏曲を書いた当時、歳の離れた弟子のオーギュスタ・オルメスという熱烈なワグネリアン、かつ歌手だった女性と恋仲になっていたらしいのですが、この女性は当時の様々な文化人男性から求愛されていたらしく、あのサン=サーンスも二回求婚して断られているそうです。この作品を献呈され初演もしたサン=サーンスが、演奏後舞台上に楽譜を置いていったというエピソードの理由は推して測るべし、という事ですね。もちろん敬虔なキリスト信者のフランクの事ですから、妻帯者である自身のモラルとワーグナー的な愛との間で葛藤を抱え、随分のたうち回ったのだろうかと、そんな考えをこの五重奏のうねるような半音階を聴き続けていると持ってしまいます。

今回のコンサートの副題は “神に愛された作曲家セザール・フランク”ですが、個人的には人間フランクのアンビバレントで複雑な内面性をこの二作品から感じ取っていただけるのではないか、と考えています。

――次に今回の共演者についてお伺いします。今回、フランスを代表するピアニスト エリック・ル・サージュさんと共演いただきますが、楽しみにされていることを教えてください。

弓さん:実はル・サージュさんとエベーヌ・カルテットのフォーレの《ピアノ五重奏曲》の録音がお気に入りなのです。ですので、今回このような形でフランクの最も素晴らしい室内楽作品を一緒に演奏できるのは大変嬉しいことです!

――《ピアノ五重奏曲》では、弓さんにとって旧知の弦楽器奏者の皆さんとの共演になりますが、共演される藤江さん・横島さん・上村さんについてそれぞれご紹介いただけますか。

弓さん:藤江さんは今回共演するカルテットメンバーの中で唯一、パリ国立高等音楽院で学ばれた方で、現在はトゥールーズ・キャピトル管でコンサートマスターを務めていらっしゃいます。ル・サージュさんもパリ音楽院の出身ですから、お二人からはフランスの側から見たフランクのスコアの読み方を教えていただけるのではないかと期待しています。
横島くんとはスズキ・メソッドから私が桐朋高校の音楽科を中退してチューリヒへ留学するまでの同期で、桐朋の音楽教室にいた頃から、作曲家であるお父上の分厚い作曲理論の本を読んだり、聴いたこともない曲について話しているような人で、尊敬している友人の一人です。彼とは、高校の時にモーツァルトのニ短調のカルテットを一緒に弾いているので(その時も彼はヴィオラを弾いていました)、13年振り(!)に共演することになります。
上村さんは桐朋時代の一学年上の先輩で、その後バーゼルに留学されました。私がチューリヒに留学していた頃とは時期が重なっていないのでスイスでお会いしたことは無いのですが、モダンチェロと古楽両方で充実した活動をしていらっしゃる方です。共演するのをとても楽しみにしています。

こうしてみると、ドイツ、フランス、スイス、日本と、異なる音楽的バックグラウンドを持った音楽家が京都に集まり、フランクというドイツ的なフランスのベルギー人音楽家の作品を演奏するというのは、なかなか素敵な偶然ですね!

――それでは最後に、お客様へのメッセージをお願いいたします。

弓さん:秋の京都で、皆様と一緒にフランクの室内楽の世界を探求できるのを心から楽しみにしています!是非コンサートでお会いしましょう!

――お忙しい中ご協力いただきまして、誠にありがとうございました!公演を大変楽しみにしております!

(2022年8月 事業企画課 メール・インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー
ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さん インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

Posted on
アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホールでは、セザール・フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を10月22日(土)に開催いたします。

プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回は当日ヴァイオリンを担当する、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の首席奏者 藤江扶紀さんにお話を伺うことができました。
フランスでのご活動についてや、フランク《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください。

◆藤江さんについて

――この度はインタビューのお時間をありがとうございます。藤江さんは大阪出身ということですが、過去に京都市交響楽団と共演されたことがあるそうですね。

藤江扶紀さん(以下敬称略):私の先生であった工藤千博さんが、京都市交響楽団のコンサートマスターをされていたこともあり、中学校1年生の時に、京都コンサートホールで演奏しました。人生で2回目のオーケストラとの共演で、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を弾いた覚えがあります(2003年10月19日「こどものためのコンサート」)。

――その後、京都に来られる機会はありましたか?

藤江:そうですね、演奏会を聴きに来たり、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として演奏しに来たりしていました。ただ、アンサンブルホールムラタで演奏するのは今回が初めてです。

――それは楽しみですね。大学(東京藝術大学)を卒業後は、すぐにパリに留学されたのですか?

藤江:卒業直前に、「京都フランス音楽アカデミー」でオリヴィエ・シャルリエ先生に出会ったんです。先生がいらっしゃるパリ国立高等音楽院を受けるために、半年間先生のお宅や私立の音楽院でレッスンを受けながら語学を勉強した後、パリ国立高等音楽院の大学院に入学しました。
そして大学院を卒業して約半年後、2018年1月に「トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団」へ入団しました。

ちなみにオーケストラに入団するまでは、毎年「宮崎国際音楽祭」に参加していて、そこで今回共演する横島くんや上村さんと何度か一緒に弾きました。二人と共演するのはその時以来で、約5年ぶりになります。

――そうだったのですね。トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団では、“co-soliste”という肩書でいらっしゃいますよね。日本では聞き慣れない名前ですが、具体的にはどういった役割なのでしょうか?

藤江:コンサートによってポジションが変わるのですが、日本で言う「コンサートマスター」「アシスタント・コンサートマスター」(コンサートマスターの隣の席)「第2ヴァイオリンの首席奏者」「第2ヴァイオリンの副首席奏者」(首席奏者の隣の席)のいずれかを担います。なので、ほぼすべてのコンサートに出演していて、なかなか日本に帰ってこられません(笑)。
今回の公演には何が何でも出演したかったので、早めに休みを取りました!

本拠地のホールの外壁にお写真掲載中!

 

** トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団のヴァイオリン奏者の肩書について教えていただきました **
・super soliste:特別コンサートマスター
・violon solo:第一コンサートマスター
・violon chef d’attaque:第二ヴァイオリン首席奏者
・violon co-soliste:上記3つの席いずれかを担うポスト

 

――そういうことだったのですね、ありがとうございます。
フランスでは、室内楽やソロを演奏することも結構ありますか?

藤江:オーケストラのメンバーで組んでいるカルテット(弦楽四重奏)で演奏したり、ソリストとしてメンバーが指揮を振る室内オーケストラや他のオーケストラに呼んでいただいたりしています。時間があればもっとやりたいなと思っています。

オーケストラメンバーによる弦楽四重奏「Quatuor Agôn」 オーケストラとの共演コンサートの大きな看板が街中に ソリストとして演奏中のお写真
(2021年7月)

 

◆今回のコンサートについて

――では話を10月の公演に移したいと思います。今回は弓さんとつながりのあるメンバーが揃いましたよね。

藤江:はい、公演がすごく楽しみです。特に弓くんは、自分が持っていないアイデアや知識を持っていて、彼と話していると面白い発見が多いです。また、音楽に対して求めていることが似ているように感じるときがあります。
私はフランクの曲の中でも《ピアノ五重奏曲》が特に好きで、数年前に弓くんにちらっと言ったことがあるんです。弓くんはそのことを覚えていてくれていて嬉しかったです。

――そうだったんですね!ちなみにフランクの《ピアノ五重奏曲》を演奏したことはありますか?

藤江:一度だけフランスの音楽祭で弾いたことがあって、今回は久しぶりの演奏になります。この曲は私がやりたいと言っても、難曲であるためか、ピアニストに断られることが多いんですよ(笑)。

――《ピアノ五重奏曲》のどのようなところがお好きですか?

藤江:煮え切らない感じがある曲ですよね。起伏があって、濃淡があって、感情的なところもたくさんあって、でも、フランスの色彩感やフォーレのようなパステル調の音も垣間見えて…そのバランスが本当に好きなんです。年を重ねてから好きになる人が多い曲だと思うのですが、私は初めて聞いた時から好きでした。
すっきりするわけではないけれど、気持ちに寄り添って、色んな感情を整理してくれるんです。フランクは真面目な性格で、外に出せない内に秘めた感情を表現したのではないかなと思います。
そして何と言いますか、救われない感じに救われます。ハマる人にはハマるという曲だと思うので、この沼に皆さんを引きずり込みたいです(笑)。

――今回共演されるメンバーについて、また公演の聴きどころを教えてください。

藤江:ル・サージュさんはお会いしたことはありませんが、パリで2回ほど演奏会に行ったことがあります。もともとル・サージュさんのフランクやフォーレの「ピアノ五重奏曲」をCDやYouTubeでよく聞いていて、まさか一緒に演奏できるとは思いもしませんでした。
そして弦楽器のメンバーは、この4人で一緒に弾くのは初めてですが、今までで知っている彼らのパーソナリティから想像すると、人間的にも、音楽の面でも絶対に楽しいものになると思います。それぞれの考え方を持ち寄ったときに、どういう音楽が生まれるのかをぜひ期待していただきたいです。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。また10月にお待ちにしております!

(2022年8月京都市内某所 事業企画課インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー(2022.10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

Posted on
アンサンブルホールムラタ
今年生誕200周年を迎える、ベルギー出身の音楽家セザール・フランク (1822-1890)。京都コンサートホールでは、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催し、フランクが遺した傑作をお届けいたします。
プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回、ヴィオラを演奏する横島礼理(よこしま・まさみち)さんとチェロ奏者の上村文乃(かみむら・あやの)さんにお話を伺うことができました。
フランクや《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

◆お二人について

――今日はインタビューの機会をありがとうございます。お二人はご面識があると伺いましたが、出身高校が一緒なのですか?

横島礼理さん(以下敬称略)はい、同じ桐朋高等学校でした。

――高校時代から一緒に演奏をされていたのですか?

上村文乃さん(以下敬称略):元々私が同じ学年のメンバーで組んだカルテット(弦楽四重奏)で、メンバーの小林美樹さん(ヴァイオリン)が留学する際、代わりを横島くんにお願いしたのが最初の共演でした。高校卒業後は一緒に弾く機会がなかなかなかったのですが、今年の5月にびわ湖ホールで行われた大阪フィルハーモニー交響楽団さんの演奏会にソリストとして出演した時に、客演で横島くんがいて、それが学生時代以来の共演でした。

――旧知の仲でいらっしゃるのですね!お二人は京都で演奏されたことはありますか?

上村:昨年5月に京都市交響楽団の「第656回定期演奏会」(2021年5月11日開催)にソリストとして出演した時に、京都コンサートホールへ初めて行きました。緊急事態宣言中でしたが、無観客ライブ配信での開催を決めてくださり、大変嬉しかったです。だた、京都のお客様にお会いできなかったのが心残りですね。

また、留学期間中に「ローム ミュージック ファンデーション」からの奨学金を受けていたので、その報告会のため京都に行くことはあったのですが、演奏会では訪れる機会がなかなかなかったんです。お客様と交流するのが一番の喜びなので、今回の公演で京都へ伺えるのを心待ちにしています。

横島:関西には、所属しているNHK交響楽団の演奏会や大阪フィルハーモニー交響楽団への客演で度々行くことがありますが、京都には今年8月にNHK交響楽団の演奏会(ロームシアター京都)で初めて伺います(※取材時は6月)。先日観光で京都を訪れ、金閣寺や清水寺に行ったり、鴨川沿いを散策したりもしましたよ。

――そうなんですね。現在、横島さんの活動のメインはヴァイオリンかと思いますが、10月の演奏会ではヴィオラを弾いていただきます。ヴィオラもよく演奏されますか?

横島:学生時代はよく弾いていましたが、卒業後は演奏機会が少なく、今回久しぶりにヴィオラを弾けるのがすごく楽しみです。

――お客様も「ヴィオラの横島さん」が聞けるのを楽しみにされていると思います。横島さんが思うヴィオラの魅力ってどのようなところにあると思いますか。

横島:和声の移り変わりを一番味わえるところではないかなと思います。ちなみにモーツァルトは、自身が作曲した弦楽四重奏曲を自ら初演する際、ヴィオラは内声であり、和声の移り変わりを一番味わえるという理由から、必ずヴィオラ・パートを選択して演奏していたそうです。

――上村さんはバロックチェロとモダンチェロの両方で演奏活動なさっていると思いますが、どのように弾き分けていらっしゃいますか?

上村:チェロの役割が時代によって変わるので、曲に合わせて弾き分けています。ロマン派初期までは「通奏低音」としての役割が主ですが、それ以降は一つのパートとして見なされることが多いです。

――そうなのですね。ちなみにバッハの「無伴奏チェロ組曲」は、モダンチェロでもよく弾かれると思いますが、上村さんはどちらの楽器で弾かれますか?

上村:どちらのチェロでも弾きたいと思っています。バロックチェロで弾くときは、弾き方やメソッドをバッハがいた時代のバックグラウンドにできるだけ合わせています。一方、モダンチェロには、大きなホールで弾いても隅々まで音が届いて、スピーチをするような力強さがあります。曲が偉大だからこそ、そういったモダンチェロの良さも発揮できると思います。同じ曲を弾いても、扱う楽器によって解釈が全く異なるので、アプローチ方法を切り替えるのが大変です。

 

◆今回の弦楽器メンバーについて

――次は今回の共演メンバーについてお伺いします。今回、第一ヴァイオリンを弓さんが担当されますが、お二人は弓さんといつからの付き合いですか?

横島:弓くんとは高校の同級生で、それ以前には、6~7歳の頃に埼玉で同じ先生に習っていたことがあります。学生時代にはカルテットで一緒に演奏をしていて、そのとき私はヴィオラを弾いていました。

同じ先生に習っていた幼少期のお写真(一番左が横島さん、右から2番目が弓さん)

上村:弓くんは高校の一年後輩で、お互いソリストとして同じ演奏会に出演したことはありますが、共演は今回が初めてとなります。
高校生の時から素晴らしいソリストであることはもちろん、眼光が鋭いイメージで私にとっては近寄り難い存在でした。いま考えると、10代の頃から自分に厳しく、ストイックに生きていたのかなと改めて尊敬します。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団「熱狂のチャイコフスキー3大協奏曲」(2018年6月30日)にて、上村さん(一番左)と弓さん(真ん中)

――藤江さんと共演されたことはありますか?

上村:藤江さんとは同い年で、学生時代に関わりはなかったのですが、「宮崎国際音楽祭」に出演した時、オーケストラの中で一緒に演奏したことがあります。その時に横島くんも一緒でしたね。

横島:はい、これまでそれぞれに面識はあったのですが、今回の4人で室内楽をやるのは初めてなので、とても楽しみです!

◆フランクという作曲家、今回演奏するピアノ五重奏曲について

――さて、今回の演奏会では、今年生誕200周年を迎えるセザール・フランクを取り上げます。お二人はフランクについて、どのようなイメージをお持ちですか?

横島:フランクはたくさんの有名な弟子を輩出していて、独自のスタイルを作り上げたフランスの作曲家というイメージがあります。初めてNHK交響楽団にエキストラで出演した際、演奏した曲がフランクの《交響曲 ニ短調》だったので、思い出に残っています。

――そうなのですね!今回の《ピアノ五重奏曲》は演奏されたことはありますか?

横島:いえ、今回初めて演奏します。《ピアノ五重奏曲》は冒頭が強烈で印象強く、とても好きな曲なので楽しみにしています。

――こちらこそ楽しみにしております!上村さんはいかがでしょうか。

上村:幼い頃は、フランクといえば「フランス音楽」で、オルガンも演奏することから宗教音楽に詳しい作曲家だと認識していました。ですが、初めて師事した先生の演奏会で《ピアノ五重奏曲》を聞いたときに、宗教的というより、訴えかけるようなフランクの内面が出ていると感じて、表面的に知っていたフランクとギャップがあるなと思いました。

――たしかに実際に聞いてみるとイメージが変わることがありますよね。

上村:今回の公演で初めて《ピアノ五重奏曲》を弾くにあたって、改めてフランクの生い立ちを調べてみました。出身はベルギーで、両親はドイツ系出身。本人はフランスで長らく暮らしていたけれど、当時の時代背景もあって、外国人としての壁を感じていたのではないかなと思いました。
宗教音楽については、オルガンの仕事を始めてから作曲するようになったもので、宗教的な要素を音楽でうまく表現できない葛藤があったみたいです。フランクは、それをなんと弟子に相談していたそうです。若い彼らと一緒にアイデアを練っていたと知って、フランクに人間的な温かみを覚え、「彼の曲から感じたものはこれなんだ」と思いました。

フランクを知れば知るほど演奏するのが楽しみになりました。

――そんなエピソードがあるのですね。生誕200周年を機に、そして今回のコンサートを通して、皆さまにフランクのことをもっと知っていただきたいですよね。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いできますでしょうか。

上村:弦楽器には昔からつながりのあるメンバーが集まりました。また偶然にも、ル・サージュさんと同じフランスで活動している藤江さん、フランクが生まれ育ったドイツ語圏で活動中の弓くんと、メンバーのキャラクターが今回の公演に合っています。お互いの良さがぶつかり合うことによって生まれるものを、お客様に聞いていただきたいです。

横島:素晴らしいメンバーたちと共演できるのがとても楽しみです。フランクの《ヴァイオリン・ソナタ》・ピアノ曲・《ピアノ五重奏曲》を一挙に堪能できる、ほかでは聞けないプログラムをぜひお聴きください。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。10月に京都でまたお会いできることを心待ちにしております!

(2022年6月都内某所 事業企画課インタビュー)


★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

★ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビューはこちら

秋山和慶 特別インタビュー(2022.09.19 第11回 関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル) 

Posted on
京都コンサートホール

2011年にスタートした「関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール」。今年で11回目を迎えます。そのほとんどの公演で指揮いただいている秋山和慶さんにインタビューを行いました。

――秋山先生にはこれまで、本フェスティバルの11回開催のうち、第5回をのぞく計10回にご出演いただきました。特に印象に残っている演奏会(プログラム)はありますか。

(オンラインインタビューより)

秋山和慶さん(以下敬称略):これまで学生たちが真剣に取り組んでくれたので全て印象に残っています。特に大編成の曲は、普段それぞれの学校だけでは人数が足りず演奏ができなかったり、楽器によっては技術的に難しすぎるので、学生たちはみんなで演奏できたことを本当に喜んでくれました。演奏会が終わったときに、上手くいって涙している子どもたちを見ると、「やっていて良かったな」と毎回思います。

――やはりすべての公演がそれぞれ印象に残っていらっしゃるのですね。この公演では、関西の8つの大学から集まる合同オーケストラを束ねてくださっています。合同オーケストラならではの苦労した点をお聞かせいただけますか。

秋山:8つの大学が集まるとなると、それぞれ授業の時間が違ったり、集中講義があったりして、学生全員が練習になかなか揃わないのが一番ネックでした。また、台風などの天候が支障をきたしたこともありましたね。京都で練習と本番を行いますが、大阪・兵庫など遠くから参加している学生もいますから、学生がきちんと家まで帰れるか心配でした。

――そんな練習の苦労も乗り越え、この合同オーケストラでしか味わえない醍醐味もありますよね。

秋山:普段一緒に演奏することのない他大学のメンバー同士が、気持ちをそろえて一緒に演奏するためには、個人的な好き嫌い(気が合う合わないなど)を乗り越えて音楽に対峙しないといけません。今後、プロの世界に進む人や、多種多様な人たちと舞台を作っていくであろう彼らが、「一緒にひとつのものを作り上げる作業」を経験できるという意味で、とても意義のある公演だといつも感じています。

第10回公演より

――参加する学生達も、とても良い経験ができていると思います。
そんな中、2年前に起きたコロナのパンデミックにより、それまでとは本当にいろいろな事が変わってしまいました。秋山先生ご自身は、コロナの前後で、学生に対する教え方について変化はありましたか。

秋山:教え方に変化はありませんが、これまでほとんどなかった「オンラインで教える」機会が増えました。オンラインは確かに便利なのですが、機器を通して聴く音は実際の生の音とは違うため、指導の仕方が難しいですね。実際指導を受ける側の学生たちも同じように感じているようです。分奏もやってみましたが、電気的な時差が生じて、指揮者に合わせるのはほとんど不可能でした(苦笑)。

――これまでとは違ったご苦労もあるでしょうね。
さて、ちょうど2年前、ベートーヴェンの生誕250年と公演開催から10年を迎えたこともあり、ベートーヴェンの交響曲第九番を取り上げる予定でしたが、コロナによって、公演が中止になってしまいました。昨年は、まだ合唱曲を取り上げるのが難しかったため、第九ではなくオーケストラ曲2曲をプログラミングし、なんとか開催に至りました。実際に開催できた時のお気持ちをお聞かせいただけますでしょうか。

秋山:中止は仕方がありませんでしたが、大事な10回という記念の回に合唱が演奏できないばかりか、公演自体を中止せざるをえなかったというのは非常に残念でした。翌年は、合唱がなく、かつ大編成ではない曲の中から選曲し、感染症対策を講じながらの練習は大変でしたが、無事実施ができて本当によかったです。

第10回公演より

――今年のプログラムも、昨年に引き続きオーケストラのためのクラシック音楽の王道と言える名作2曲(ベートーヴェン:交響曲第5番、チャイコフスキー:交響曲第5番)を取り上げますが、演奏を通して、秋山先生が今音楽を学ぶ学生たちにあらためて伝えたい事を教えていただけますか。

(オンラインインタビューより)

秋山:学生たちに技術的な面できちんと勉強できるチャンスを作ってあげられたらという意図で、実行委員会の皆さんと一緒に選んだ2曲です。学生たちにとって聴き慣れた、馴染みのある曲でもあります。特に、ベートーヴェンの交響曲はオーケストラ奏者にとっては基本中の基本の曲です。一方のチャイコフスキーの交響曲は、思い切り活発に演奏できる曲ですし、ロマンティックなロシア流の表情のつけ方も学んでほしいですね。限られた練習時間で、周りのメンバーに合わせて演奏するという大切なところをこの機会に経験してほしいと思います。

――今から公演が楽しみです。コンサートにお越しになるお客様にメッセージをお願いします。

秋山:若々しいエネルギーをつぎ込んで、真剣に、音楽を大事にしっかりと表現しようとしている姿勢を見て、聴いていただきたいです。ベートーヴェンでは彼らしい力強さを感じられるでしょうし、チャイコフスキーでは、きれいなメロディーがたくさん出てくるので、音楽の流れに身を浸してリラックスして楽しんでください。

――それでは最後に参加する学生たちにもメッセージをお願いいたします。

秋山:音楽をやっていてよかったと思える瞬間がきっとあるはずです。音楽で辛いことや悲しいことを乗り越えられるかもしれないし、いい音楽をみんなと一緒に作れたときの喜びは何にも代えがたいものがあると思います。音楽そのものに奉仕する経験をしてみるのも大事かもしれませんね。

――お忙しい中、インタビューにお答えいただきありがとうございました。演奏会を楽しみにしております!

公演は2022年9月19日(月・祝)京都コンサートホール 大ホールで15時開演です。
公演情報

 

ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー(2022.10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

Posted on
京都コンサートホール
19世紀に活躍したベルギー出身の音楽家セザール・フランク (1822-1890)。
京都コンサートホールでは、フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催いたします。本公演ではフランクが遺したピアノと室内楽のための傑作をお届けします。
 
出演者のピアニスト、エリック・ル・サージュさんに、フランクの魅力や本公演の聞きどころについてインタビューすることができました。ぜひ最後までご覧ください。

 

 

――この度はインタビューのお時間をいただき、ありがとうございます。
京都コンサートホールには、2019年5月のリサイタル以来、3年ぶりの登場となります。京都コンサートホールにどのような印象を抱かれましたか?

エリック・ル・サージュさん(以下敬称略):2019年に私が演奏したのはアンサンブルホールムラタでしたが、ピアノや室内楽にとって恵まれた音響を持つホールで、とても自然な響きだったことを覚えています。

 

――今回ご出演いただくのは、セザール・フランクの生誕200周年を記念した特別公演です。ル・サージュさんが思うフランクの魅力を教えてください。

ル・サージュ:フランクの作品を演奏するのは大好きです。彼の曲には音域の広い和音がたくさん出てくるのですが、私の手は大きいですから、演奏するのにぴったりなのです。
フランクの音楽を一言で言うと「独特で表現力豊か」。荘厳な和音やたっぷりとした息の長いフレーズ、そして深慮に満ちた色彩感が特徴です。
また、フランク作品の大きな特徴の一つとも言えるのが、循環形式(同じテーマを別の楽章で繰り返し使う技法)ですね。同じフレーズを同じ曲の中で何度も使うのですが、そのたびに様々な方法で変奏しながら旋律を引き立たたせ、聴き手を惹きつけます。
特に今回演奏する《ピアノ五重奏曲》では、そのような技法がたくさん出てきます。まるで、物語がどんどん展開していくアクション映画やサスペンス映画を観ているようですよ。
フランクの音楽が時代を超えて人々に愛されている理由は、きっとこのようなところではないでしょうか。

 

――今回は室内楽作品だけでなくピアノ独奏曲もご披露いただきます。フランクのピアノ作品はどのような特徴がみられますか。

ル・サージュ:フランクのピアノ音楽はとても内向的です。対位法が使われていたり、オルガン作品で使われるような書法がピアノでも使われていたり、フランクならではの特徴がたくさん出てきます。
また、彼はベルギー出身ということもあり、フランスとドイツの要素がバランスよく取り入れられていることも特徴的ですね。

今回は《前奏曲、フーガと変奏曲》から〈前奏曲〉を抜粋して演奏します。
今シーズン、オリヴィエ・ラトリー(フランスのオルガン奏者)が演奏するオルガンやハーモニウムと一緒に、この曲を何度か演奏しましたが、思慮深く、レトリックに満ちた非常に美しい作品だなと思います。

またこの〈前奏曲〉を含めた、20世紀初頭のフランスの作曲家たち24人の小品を集めたアルバムを今秋にリリースする予定です。

――日本では他の作曲家と比べるとフランクはあまり知られていませんが、フランスではどうでしょうか。

ル・サージュ:フランスでも状況はあまり変わりませんよ。「ヴァイオリン・ソナタ」や「交響曲」「ピアノ五重奏曲」「前奏曲、フーガと変奏曲」といった有名な作品しか演奏されていません。いずれも傑作だから、何度も繰り返し演奏されるのです。他にも美しい曲はありますが、傑作とまではいえないので、あまり演奏されないのだと思います。

 

――フランスも似たような状況なのですね。ちなみにフランクの生誕200周年を記念したイベントは、フランスで行われていますか?

ル・サージュ:具体的に「フランク・フェスティバル」といったものはないと思いますが、演奏される機会は例年よりも確実に増えていると思います。私も先月(6月)、《ヴァイオリン・ソナタ》と《ピアノ五重奏曲》を2回演奏しました。

 

――ル・サージュさんにとってフランクはどのような存在でしょうか。

ル・サージュ:フランクの作品を勉強したことで、フォーレやシューマンの作品を弾く際の参考になり、レパートリーの幅が広がりました。
また、フランクの《ヴァイオリン・ソナタ》は、おそらく私が初めて勉強した室内楽の大作で、パリ音楽院の室内楽クラスにいた15歳の時に弾きました。
私の音楽院時代の先生であるピアニスト ジャン・ユボー先生による赤字と青字の注意書きがたくさん書かれた楽譜を今でも持っています。その楽譜がボロボロになってきたので、大好きな日本の“金継ぎ”のやり方で、修復してみたいと思っています。

――今回の演奏会ではフランクの3曲に加え、フォーレの夜想曲を選曲されましたが、なぜフォーレを選ばれたのですか。

ル・サージュ:フォーレはフランクの対位法に影響を受けています。フランクに対する「オマージュ」ということで、フォーレの作品を選びました。
また、《ヴァイオリン・ソナタ》と《ピアノ五重奏曲》という動きのある大曲に対してバランスを取るため、静かで短めの作品である、フォーレの《夜想曲》2曲とフランクの〈前奏曲〉を選びました。

 

――では最後に公演を楽しみにしてくださっているお客さまへメッセージをお願いいたします。

 

――お忙しい中インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。10月の公演を今からとても楽しみに京都でお待ちしております。

(2022年6月都内某所 事業企画課インタビュー)

 

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

東京六人組 インタビュー(2022.7.23『KCH的クラシック音楽のススメ』第3回「東京六人組」)

Posted on
京都コンサートホール

『KCH的クラシック音楽のススメ』は、クラシック音楽を幅広い世代の皆様にお楽しみいただけるコンサート・シリーズです。今回ご出演いただく「東京六人組」のメンバーにメールインタビューを行いましたので、是非お読みください!

©Ayane Shindo

――「東京六人組」グループ名の由来を教えてください。

我々は主に東京で活動している六人ということで、20世紀前半にフランスで活躍した「フランス六人組」(デュレ、オネゲル、ミヨー、タイユフェール、プーランク、オーリック)に掛けました。
グループ名を決めていた時に、終電間近までなかなか決めることができず困っていたのですが、別れ際に東京駅の改札口で、みんなで「東京は?」「六人組は?」という意見が奇跡的に一致して「東京六人組」になりました。

――クラシック音楽をまだあまり聞いたことのない学生さんやお客様に、「東京六人組」の魅力や、各楽器の注目のポイントを教えていただけますか?

私たち「東京六人組」は、5つの管楽器(フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット)とピアノという6人で編成したグループです。弦楽器のアンサンブルと違って、それぞれが違う原理で音を出すのが特徴です。空気、リード、唇、打弦などによって生まれた各音色が合わさると、無限のパレットに…!そんな音色感や、まるで会話をしているようなアンサンブルの魅力を感じていただければと思います。
繊細な表現から迫力あるサウンドまで、京都コンサートホールの素晴らしい音響の中で、皆様に存分にお楽しみいただけることを願っています。

――各メンバーの紹介をリレー方式でしていただけますか。

福川伸陽(ホルン)©Ayane Shindo

 

①上野由恵さん(フルート)から見た「福川伸陽さん(ホルン)」

「ホルン奏者」という枠を超えて、真の音楽家であり続ける人。絶対的なカリスマ性と共に、彼の人柄や音楽には嘘や取り繕ったところが全くなく、仲間たちから絶大な信頼を集めています。クールっぽく見えて、楽しいときは少年のような笑顔で大笑いするところも魅力的です。

金子平(クラリネット)©Ayane Shindo

 

②福川伸陽さん(ホルン)から見た「金子平さん(クラリネット)」 

芸術家とは彼のような人のことを言うのだろうなと言うくらい、楽器で演奏した方が自身の言葉より人になんでも伝えられる、隣で演奏してて最高な人。

 

荒絵理子(オーボエ)©Ayane Shindo

 

③金子平さん(クラリネット)からみた「荒絵理子さん(オーボエ)」

CDでは、オーボエの他に打楽器を担当するマルチな才能の持ち主で、演奏はとても情熱的です。新しいことにどんどんチャレンジする前向きな性格だと思います。

 

福士マリ子(ファゴット)©Ayane Shindo

 

④荒絵理子さん(オーボエ)からみた「福士マリ子さん(ファゴット)」

とにかく品格があります。おしとやかに見えて、真面目に見えると思いますがその通りで、育ちの良さに溢れています。どんな時も1歩下がって状況を判断しながら、相手に嫌な思いをさせない話し方、行動をされています。ファゴット演奏もそうであり、でもいざというときにファゴットという楽器の良さを全面的にアピールできる方です。このような方はこの音楽業界であまり見かけません。

三浦友理枝(ピアノ)©Ayane Shindo

 

⑤福士マリ子さん(ファゴット)から見た「三浦友理枝さん(ピアノ)」 

アンサンブルではいつも冷静&的確にバランスを取って下さいます。知的な演奏をされますがお話しすると気さくで面白くて、ギャップが素敵だなぁと思います。

 

上野由恵(フルート)©Ayane Shindo

 

⑥三浦友理枝さん(ピアノ)からみた「上野由恵さん(フルート)」 

何事にも全力で取り組む努力家であると同時に、ダジャレをこよなく愛し、常に新ネタ開拓に余念がないオモロい一面も持ち合わせています。

 

 

――今回の京都公演のプログラムはどのように決まったのですか?また今回のプログラムの聴きどころを教えてください。

 今回、京都(関西)へは初めて六人組として伺いますので、私たちの名刺がわりになるようなプログラムにしようと考えました。
まず、この編成のオリジナル曲として最も重要なレパートリーであるプーランクの六重奏曲。
そして、私たちの活動の特徴である、フルオーケストラの曲を6人で演奏するというチャレンジをしました。「魔法使いの弟子」や、「ラ・ヴァルス」は、私たちのために新たに編曲して頂いたものです。
また、磯部周平さんの「きらきら星変装曲」は、この編成のオリジナル曲です。おなじみのきらきら星のメロディーが、古今様々な作曲家の様式に「変装」して次々に現れます。是非、どの作曲家風なのか推理しながらお聴きいただければと思います。

――お忙しい中、メンバーの皆様、インタビューにお答えいただきありがとうございました。

公演は7月23日(土)アンサンブルホールムラタで14時開演です。

「東京六人組」の素敵な演奏とトークをご期待ください。

VOX POETICAインタビュー(2022.06.28京都北山マチネ・シリーズVol.9「ドラマティックに甦る、古(いにしえ)の名歌」)

Posted on
京都コンサートホール

京都コンサートホール主催のランチタイム・コンサート「京都北山マチネ・シリーズ」。国内外で活躍する音楽家たちが、トークと演奏で素敵なマチネのひとときをお届けします。9回目は、ソプラノとリュートのデュオ、VOX POETICA(ヴォクス・ポエティカ)が登場。ソプラノ歌手の佐藤裕希恵さん、リュート奏者の瀧井レオナルドさんにお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください!

――この度はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます。本日は、おふたりそれぞれとデュオについて、そして今回のコンサートについてお伺いさせてください。
まず佐藤さんですが、もともと声楽を始められたきっかけがミュージカルだったのですよね。東京藝術大学の声楽科へ入学された後、さらに古楽の道へ進まれたきっかけをお聞かせください。

ミュージカルをしていた頃の佐藤さん

佐藤裕希恵さん(以下敬称略):最初は古楽が好きで声楽を始めたわけではありませんでした。大学へ進学すると周りは“オペラ歌手になりたい”など、夢がはっきりしている方が多かったのですが、私の場合はただミュージカルが好きで入学したところがあったので、自分の将来を模索していました。興味のあるもの、自分の声に合うもの、向いているものを探しているうちに、先生からヘンデルなどの古い時代の曲を勧められるようになり、その魅力に惹き付けられるようになりました。歌ったり、CDを聴いたりしているうちに、どんどん沼にハマっていき、大学院は古楽科に進学しました。

――大学院で古楽科に進まれた後は、スイス留学にされましたね。
佐藤:大学院に進んでからも、実は外部団体でミュージカルを続けていました。古楽の道へ進むのか、ミュージカルの道へ進むのかで悩んでいた時、バッハ・コレギウム・ジャパンなどでも歌っていらっしゃったバーゼル音楽院のゲルト・テュルクさんというドイツ人の先生が、古楽科の招聘教授として大学に来てくださったのです。そのレッスンがとても面白く、これまでに体験したことのない知らない世界がたくさん見えました。先生が帰られる時、「もっと先生と勉強したかったです」とお伝えすると(当時は言える英語力もなく、友達に通訳してもらって。笑)、「バーゼル音楽院に来たら教えてあげるよ」と言ってくださいました。それまで留学は全く考えていなかったのですが、とにかく先生と勉強したいという思いで、他の国や大学の下調べもせずに、ただただゲルト先生のもとで学ぶためにスイスのバーゼル音楽院を受験しました。

スイスでバロックオペラに出演した際の写真© Susanna Drescher

――ゲルト先生との強いご縁を感じるようなエピソードですね。バーゼル音楽院で古楽の勉強をされ、いまはルネサンスからバロックまでさまざまな古い時代の歌を歌ってらっしゃいますが、それぞれの時代で歌い方に違いはありますか?
佐藤: そうですね、まずどんな響きの場所で、誰に向かって、どんな環境で演奏される音楽かによって求められる歌い方が違いますね。極端な例ですが、マイクを使うミュージカルと使わないオペラでは響かせ方が違いますし、劇場でヘンデルのバロックオペラを歌う時と、残響が10秒もあるような大聖堂でグレゴリオ聖歌を歌うのだと、歌い方は違います。身体を支えている芯の部分は同じなのですが、どれほど身体を開くか、どのくらい多くエネルギーを放出するか、流す息の絞り具合などで歌い方を変えています。

――古楽独特の歌い方はあるのですか?
佐藤:ヴィブラートをかけるかどうか聞かれたりしますが、いわゆるオペラ的なベルカントの歌唱法はヘンデルの時代に確立していったものです。それ以前の17世紀初期のバロック時代が始まった頃の歌唱法は、例えばイタリアの場合、一種の装飾音として隣の音をヴィブラートのように揺らす方法がありました。また、「トリッロ」と呼ばれたいわゆるトリルは、音程を変えずに同音の音を連続して演奏します。このように、現代では馴染みのない歌唱法が登場するのです。こういった装飾音が装飾として際立つように歌うためには、ヴィブラートを控えめにしたほうが美しくなる箇所もあります。また当時の文献を読んで、当時の歌い方がどう描かれているか、という研究もしています。実際に当時の様子を見ていないので、分からないところもありますが。

――文献には、発声方法等について詳しく書かれているのですか?
佐藤:そうですね。とても有名なものですと、ジュリオ・カッチーニという作曲家の曲集の序文に、「こうやって歌わねばならん」ということが書かれています。ただ音声学的に声帯をこうして、というアプローチではなく「喉を打ち鳴らす」というような表現で書かれているので、解釈は人それぞれです。また譜例もたくさんあり、「こういう音の時はこういう即興の装飾をつけなさい」などと書いてあるのも面白いです。当時の歌手がどのように歌っていたか分からないので、結局のところ確信をもって「絶対こうだった」と言えないところが古楽の魅力だと思います。

――佐藤さんは、まるで語るように歌ってらっしゃる姿がとても印象的ですが、もともとミュージカルをやっていたことが活きているのでしょうか。
佐藤:そうですね。バロックの声楽作品は言葉を重視する音楽なので、単に朗々といい声を聴かせるというよりは、言葉に色々な重きを置いて曲が書かれています。語るように歌ったり、ドラマティックに明暗をはっきりつける表現をよく使うのですが、自分の感情をそのままセリフにのせるお芝居と繋がっていると思います。私が古楽に惹かれたのも、私の大好きな芝居に通ずるところが少し見出せたからです。自分なりの色付けができるといいますか、演奏者に委ねられている余白がたくさんあるのです。即興演奏をするにしても、楽譜に書かれていないことが求められる音楽なので、自分が感じたままに表現していいという、芝居的な要素が好きですね。

――これまで苦労された点はありますか。
佐藤:私の声が軽くて細い方だったので、オペラの方々と混じって勉強していた時に、一時期コンプレックスを感じていたことはありました。例えばヴェルディのように、重めで声量の必要な役など大きなアリアは歌えないなどと思っていたことがありましたが、古楽は自分の声が活かせる場所なので、居心地がよいです。声のトレーニングとしてオペラは勉強していますが、やはり古楽が私の進むべき道だと思っています。

――ありがとうございました。次は、瀧井さんにお話を伺います。瀧井さんは故郷がブラジルなのですよね。クラシックギターを学ばれた後、リュートを始められたきっかけを教えてください。
瀧井レオナルドさん(以下敬称略):サンパウロの大学でクラシックギターを学んでいる時、リコーダー奏者の友人に、ギターで通奏低音を弾いてくれないかといつも頼まれていました。リコーダーのレパートリーはバロック時代がメインなので、通奏低音に触れる機会となりました。そして大学2年の時、サンパウロ州立音楽学院に新しく古楽科ができて、その友人に「これからリュートの勉強できるよ!」と勧められたのがきっかけです。当時はギタリストになりたいと思っていたのですが、リュートにも興味があったので、せっかくだから行ってみようと思い、リュートの勉強を始めました。

――今回の公演では、リュートとテオルボをご披露いただきますが、あらためてそれぞれの楽器の魅力について教えてください。
瀧井:まずテオルボは、見た目がすごく目立つ楽器ですよね。サイズも大きいですし、音も大きいです。リュートは、見た目も小さいですし、音も小さく、とても繊細な音がします。クラシックギターは弾く時に爪を使って演奏しますが、リュートやテオルボは爪でなく指の腹で弾きますので、自分で音を創り出している感じがとても好きですね。大学を卒業した時に、リュートの道を選び、ギターのために伸ばしていた爪を切りました。

リュートの弦(D majorの和音を押さえているところ)

――クラシックギターとリュートでは、タッチの感覚も全く異なりますか?
瀧井:全然違いますね。ギターは1本ずつ弦が張られていますが、リュートは2本ずつです。ギターのタッチは固いですが、リュートの場合は柔らかいです。
佐藤:複弦といって、リュートは1コースに同じ音の弦が2本張られていて、それを2本同時に指の腹で押さえるのです。実は興味本位で1年ほど彼にリュートを教えてもらったことがあるのですが、なかなか2本同時に押さえられませんでした。それでみなさん速弾きされているので、本当にすごいなと思います。

――とても難しそうですね。クラシックギターとは違うリュートの音色の魅力はどのようなところでしょうか。
瀧井:ギターとは楽器の形も弦の張り方も違うので、全く違う音が出ます。僕自身リュートの音は本当に好きなのですが、どうやって説明すればよいのか…難しいです(笑)。 大きな音ではないですが、とても豊かで繊細な音がリュートの魅力だと思います。

留学後、ブラジルでのソロリサイタル

――瀧井さんも大学卒業後、スイスに留学されたのですよね。
瀧井:大学を卒業した後、将来についてリュートの先生に相談すると、古楽を続けたいのであればバーゼルに素晴らしい先生がいると教えてもらいました。その時、全く留学を考えていなかったので迷ったのですが、ブラジルの先生が「一緒に頑張ろう!」と仰ってくださったので、留学を決意しました。やはり先生の存在が本当に大きく、ありがたかったです。

――その後、留学先のスイスでお2人は出会われたのですよね。VOX POETICA結成と音楽活動を続けるに至った経緯を教えてください。
佐藤:バーゼルでは、アンサンブルを立ち上げるぞ!という意気込みでメンバーを集める人が多かったのですが、私たちの場合は、瀧井さんの学内試験でたまたまデュオを組んだのが結成のきっかけです。その後、何度か演奏機会をいただくことがあり、細々と活動していました。最初の数年は、演奏の機会があれば…と全く気負わず続けていたので、その時は後々CDを出すことになるとは思ってもいませんでした。でもそれが、逆に良かったのかもしれません。だんだん演奏機会が増え、レパートリーも増やし、日本に来てからは、本腰を入れてデュオ活動をするようになりました。

2015年ごろ、VOX POETICA結成初期

――「VOX POETICA」=“詩的な声”とはとても素敵な名前ですが、どのように決められたのですか?
佐藤:最初は特にデュオ名を決めていなかったのですが、 6、7年前に名前をつけようとなりました。私たちは言葉を使うので、それに関係するキーワードがいいなあと考えていました。たまたまアリストテレスの「詩学」という本を読んでいた時、そのなかに出てきた古代ギリシャ語の“ポエーティケー”という単語にすごく惹かれたのです。歌詞を扱うので、文学としての「詩」、「詩的」な表現へのイメージから、この単語を使いたいと考えました。「ポエーティケー」は「作ること」を意味する語幹から生まれた単語だそうで、私たちの表現の創作活動のアイデンティティに据えたいと思い、ラテン語の“POETICA”に「声」という意味の“VOX”を付けました。英語やイタリア語にすると、その国のレパートリーに限られてしまう気がして、ラテン語にしました。VOX POETICAはリュートと声、どちらの声部も詩的に独立し、互いに息づいているものが混ざり合って、ふたりでひとつの音楽を創ることをいつも目標にしています。悩みに悩み抜いて、この名前となりました。

――素敵ですね。日本での活動を始められてから、コンサートだけでなく「フェルメール展」や「ほぼ日手帳」とのコラボなど他分野でご活動なさっていますが、今後の展望などはありますか?
佐藤:リュートと歌のレパートリーはたくさんあるのですが、日本にリュート奏者や指導者が少ないので、リュートに触れて一緒に歌うワークショップ等もしていきたいと思っています。また、録音で、その時その時にできるものを残していきたいなという思いがあります。「今後こんなCDを録りたい」という作品が、もう紙からはみでるくらいたくさんあるので、死ぬまでにやりたいと思います(笑)!

VOX POETICA 日本での演奏写真

――たくさんの曲がリリースされるのをいまから心待ちにしています!では最後に、今回のコンサートのプログラムについてお聞かせください。
佐藤:今回は、リュートとテオルボの2台を使います。普段は、どちらか1台しか使わないことが多いのですが、せっかくなので聴き比べができるような内容にしました。前半のプログラムではリュートとソプラノで、エリザベス女王時代のイギリスにフィーチャーしました。その中でも特に、シェイクスピアとダウランドの2大巨匠にフォーカスを当て、その時代の英語の歌とリュートのソロを聴いていただく予定です。リュートの繊細な音とそれに寄り添うソプラノにご注目ください。後半のプログラムではイタリアとフランスをテーマに、テオルボとソプラノのデュオでお聴きいただく予定です。
瀧井:前半にお聴きいただくシェイクスピアの時代、リュートは大変人気のある楽器で、シェイクスピアの作品が上演された時も劇音楽で活躍したようです。ダウランドのリュートソングに代表されるような、イギリスの美しい作品をお聴きいただきます。後半では、大きなテオルボに持ち替えて演奏しますが、ドラマティックなデュオに加えて、テオルボのソロではロベール・ド・ヴィゼーの《シャコンヌ》という大曲を演奏します。ちなみにド・ヴィゼーは、太陽王ルイ14世のギター教師でもあった人です。
佐藤:また、前半では、シェイクスピア『オテロ』から、セリフと歌を続けてやってみようかなと考えています。デスデモーナというヒロインの女性が無実の浮気を疑われるのですが、夫であるオテロに殺される前に胸騒ぎがして、ひとりで独白をしながら歌を歌うシーンです。リュートが入ってもいいのですけれど、今回はアカペラでやろうかなと考えています。シェイクスピアが生きていた時代のイギリスのお芝居の要素も垣間見ていただけるかもしれません!
後半は、表情がコロコロ変わるドラマティックな音楽を演奏しますので、古い時代の音楽だからとあまり難しく捉えずに聴いていただきたいです。現代の私たちが感じている喜怒哀楽と同じようなものが曲に表れているので、それを感じていただければ嬉しいなと思います。

――この度は、貴重なお時間ありがとうございました!演奏会をとても楽しみにしています。
(聞き手:京都コンサートホール 事業企画課 陶器美帆)

公演情報♪チケット購入はこちらから
公演カレンダー | 京都コンサートホール (kyotoconcerthall.org)

「北山クラシック倶楽部2022」セット券のご案内

Posted on
セット券

「北山クラシック倶楽部」は、海外トップアーティストによる世界水準の演奏を、京都コンサートホールの室内楽専用ホール「アンサンブルホールムラタ」で体感していただくコンサート・シリーズです。

アンサンブルホールムラタ

2022年のシリーズ4公演(9月~12月)のラインアップをご紹介します!いま注目の古楽界注目のデュオを始め、型破りな弦楽四重奏、現代フランスを代表するピアニスト、ヴァイオリンとピアノの鬼才たちによるデュオの4組が登場します!

京都コンサートホールではこれらの公演をお得にお聴きいただけるセット券(限定100セット・15%以上お得!)を販売いたします。

ご予約・ご購入時にお好きな座席をお選びいただける、全公演共通座席「マイシート」制のチケットです。

演奏者の息遣いまで聞こえてくる濃密な音空間で、世界レベルの演奏をご堪能ください。


古楽界注目の若きヴィルトゥオーゾが紡ぐ、色彩感溢れる天上の調べ

ルーシー・ホルシュ(リコーダー)&トーマス・ダンフォード(リュート)
デュオ・コンサート ~対話~

トーマス・ダンフォード/ルーシー・ホルシュ

5歳でリコーダーを始め“天才少女”として注目されてきた、リコーダーのルーシー・ホルシュ。17歳でリコーダー奏者初となる、デッカ・クラシックと専属契約を結んだ実力派です。一本のリコーダーとは思えない音楽のスケール感や、高度な演奏技術に裏打ちされた豊かな音楽表現が魅力です。共演するトーマス・ダンフォードは、9歳からリュートを始め、BBCミュージックマガジンが「リュート界のエリック・クラプトン」と称した古楽界の新星。ヨーロッパ古楽界注目の2人のデュオをお届けします。

◆公演詳細◆

[日時]2022年9月9日(金)19:00開演(18:30開場)

[出演]
ルーシー・ホルシュ(リコーダー)
トーマス・ダンフォード(リュート)

[プログラム]

J.S.バッハ:組曲 ニ短調 BWV997
M.マレ:スペインのフォリア ほか 

[一回券]
全席指定 一般:4,500円 *会員:4,000円
*会員先行発売:5月15日(日)/一般発売:5月22日(日)

[主催]アマローネアーツ


全てが型破り!クラシック界の新スタイル
ヴィジョン弦楽四重奏団

ヴィジョン弦楽四重奏団

2012年結成、ベルリンに拠点を置くヴィジョン弦楽四重奏団は、数ある同世代の弦楽四重奏団の中でもとりわけ優れたクァルテットとして注目を浴びています。京都コンサートホールには2019年以来の登場となります。レパートリーは、クラシックの王道的な作品に加えて、自分たちのオリジナル楽曲や異なるジャンルの楽曲をアレンジしたものなど、多岐にわたります。全て暗譜で、立奏するという独特の演奏スタイルは、音楽とのより強い一体感を感じさせ、鮮烈な印象を与えるとして賞賛を集めています。

◆公演詳細◆

[日時]2022年10月19日(水)19:00開演(18:30開場)

[出演]
ヴィジョン弦楽四重奏団

[プログラム]

ラヴェル:弦楽四重奏曲 
アルバム「スペクトラム」より(PA付) ほか

[一回券]
全席指定 一般:4,000円  *会員:3,600円  U25:2,000円
*会員先行発売:6月11日(土)/一般発売:6月18日(土)

[主催]テレビマンユニオン


高雅で重厚、現代随一の名ピアニスト
ミシェル・ダルベルト ピアノ・リサイタル

ミシェル・ダルベルト  © Caroline Doutre

パリ生まれで、現代のフランスを代表するピアニスト、ミシェル・ダルベルト。1975年クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール、1978年リーズ国際ピアノ・コンクールで優勝し、一躍注目を集めました。その後ソリストとして世界各地の主要オーケストラと共演するほか、室内楽奏者としても傑出した才能を発揮し様々なアーティストと共演しています。パリ高等音楽院の教授を務め、各地でマスタークラスも開催しています。今回のプログラムでは、デビュー当時から定評のあるモーツァルトをはじめ、ベートーヴェンやリストの大曲を披露します。

◆公演詳細◆

[日時]2022年11月11日(金)19:00開演(18:30開場)

[プログラム]

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 作品111
リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調  ほか

[一回券]
全席指定 一般:5,000円 *会員:4,500円
*会員先行発売:7月2日(土)/一般発売:7月9日(土)

[主催]パシフィック・コンサート・マネジメント

 


デュオの可能性を追求する鬼才たち
郷古廉&ホセ・ガヤルド デュオ・コンサート

郷古廉 ©Hisao Suzuki

ヴァイオリニスト郷古廉は2022年12月にデビュー15周年を迎え、ソリストとしてだけでなく、NHK交響楽団の客演コンサートマスターや「題名のない音楽会」などのテレビ出演のほか、TwitterなどSNSを駆使して演奏を届けるなど新たなチャレンジを続けています。ブエノスアイレス生まれのピアニスト、ホセ・ガヤルドは自由闊達なピアニズムを持つアーティストです。2人はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会を3年かけて行っており、今回のコンサートでは「クロイツェル」などを中心にお届けします。

◆公演詳細◆

[日時]2022年12月6日(火)19:00開演(18:30開場)

[プログラム]

ホセ・ガヤルド

プーランク:ヴァイオリン・ソナタ
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第9番 イ長調 作品47「クロイツェル」
 ほか

[一回券]
全席指定 一般:4,500円 *会員:4,000円
*会員先行発売:8月20日(土)/一般発売:8月27日(土)

[主催]ヒラサ・オフィス


★★お得な4公演セット券(限定100セット!)★★

★セット料金(全席指定)
15,000円 <15%以上お得!>

★販売期間
*会員先行期間  4月9日(土)~ 4月15日(金)
一般販売期間  4月16日(土)~ 5月6日(金)

*会員…京都コンサートホール・ロームシアター京都Club(会費1,000円)・京響友の会の会員が対象です。

※出演者や曲目など内容が変更になる場合がございます。予めご了承ください。