ピアニスト パスカル・ロジェ メッセージ動画(2023.10.21 プーランク没後60年 パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ「プーランクの横顔」)

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インタビュー

2023年10月21日(土)午後3時開演「プーランクの横顔」(京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ)に出演する、ピアニストのパスカル・ロジェ氏。
コンサート開催に向けて、特別にメッセージ動画を寄せてくださいました。
今回のコンサートのテーマである「フランシス・プーランク」について、様々な秘話を交えながら、とっても素敵なお話をご披露くださっています。

ちなみにパスカル・ロジェ氏は、大のプーランク好き。1999年にプーランクのピアノ作品全集をリリースしており、今日にいたるまで、プーランクのピアノ作品録音の決定盤として世界中で愛聴されています。

<メッセージ動画 日本語訳>
みなさん、こんにちは。プーランクについてお話することができて、とても幸せです。
というのも、プーランクは私にとって非常に特別な作曲家であり、特別に好きな作曲家だからです。
わたしはプーランクのピアノ作品はもちろん、歌曲、室内楽、コンチェルトといった、彼のピアノが入る全作品を録音しました。この録音作業を通して私は彼の世界をとことん探求しました。私にとって、いつもとても個性的で、とてもフランス的なプーランクの音楽を演奏することは素晴らしい経験です。

なぜ、わたしはプーランクがこんなに好きなのか?個人的なエピソードがあります。本当かどうかわかりませんが、とても気に入っているエピソードです。
私の母が私を妊娠している時、プーランクの協奏曲を勉強していました。彼女はオルガニストだったので、オルガンとオーケストラの協奏曲を演奏することになっていたのです。
彼女は妊娠している間、この作品を練習していたので、私は母のお腹の中でこの曲をずっと聴いていたでしょうし、どこかで私の体にその音楽が刻み込まれたと、必然的にいつも思っていました。その5,6年後、母はもう一度この協奏曲を演奏する機会があったのですが、その時、すでにわたしは譜めくりもできましたし、楽譜を読むこともできました。そして、とてもよく覚えているのですが、この時、私は初めて音楽を聴いて、心から感動したのです。
これは、私が何年か前に聴いた音楽だと認識していたからだったのでしょうか?
そうですね、その可能性はあるでしょう。このエピソードは私にとって、プーランクに対する非常に特別な愛情の解釈になっています。

プーランクの音楽は非常に特別です。プーランクはドビュッシーのように革新者ではありませんでしたし、改革者でもありませんでした。でも、非常に独創的な音楽を書く音楽家でした。あるフランスの批評家は、プーランクの音楽は多くの作曲家の音楽が混ざり合ってできたようなもの、と言いました。でも、彼の音楽は誰の音楽でもないんです。つまり、彼は特に独創的な和声を使ったわけではないのですが、プーランクならではの方法で作曲していたのです。そして、私たちは、それがプーランクだとすぐに分かるのです。これは、非常に強力な個性の現れです。

ピアノは、いつもプーランクのお気に入りの楽器でした。彼はピアニストでした。だから、彼の作品の4分の3がピアノ作品なんです。
室内楽作品もまた、プーランクにとって非常に重要なジャンルでした。
プーランクは、木管楽器を特別に愛していました。プーランクは、オーボエ、クラリネット、フルートのために素晴らしいソナタを書きました。 今回の演奏会では、クラリネットとフルートのために書かれた2曲のソナタを演奏します。それらの作品を、若い日本の音楽家たちと共演できることがとても幸せです。彼らがどのようにプーランクの音楽を受け止めるのか、どうやって演奏するのか、どうやって解釈し、どうやってプーランクの音楽に対する愛情を観客と共有することができるのか、楽しみです。
プーランクの音楽は私たちを幸せにしてくれますし、優しく、またユーモアのあるプーランクの音楽を聴いていると心地よい気分になります。だから、お客様は、プーランクの音楽を聴くと幸せな気持ちになるに違いありません。プログラムも多彩ですしね。

今回演奏するプログラムは、ピアノ独奏曲とフルートやクラリネットのためのソナタ、そして木管五重奏とピアノのための六重奏曲です。この六重奏曲は本当に、本当に素晴らしい作品です。だから、私は、このプログラムをプーランク没後60年の年に演奏できることがとても嬉しいのです。彼は、1963年に亡くなりました。当時、プーランクの死を理解するには、私は若すぎました。しかし、私の母はプーランクと知り合いでした。プーランクの協奏曲を演奏した際、その場に彼はいなかったのですが、その演奏がラジオ放送された時、プーランクはそれを聴いたのです。
プーランクは感謝の気持ちを母に伝えるために、賛辞の言葉が書かれたメッセージカードを贈ってくれました。そして私の母は、私が20歳の誕生日に、そのカードを私にプレゼントしてくれたのです。

今回、プーランクのコンサートを開催することができて、本当に感動しています。プーランクは私にとって、非常に特別な作曲家です。プーランクの音楽を聴いたお客様は、きっと沢山の幸せと喜びを感じてくださることと思います。


◆公演情報◆
プーランク没後60年
パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ
「プーランクの横顔」
2023年10月21日(土)15時開演
京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
出演:パスカル・ロジェ(ピアノ)、ウインドクインテット・ソノリテ(上野博昭[フルート]・須貝絵里[オーボエ]・田悠斗[クラリネット]・村中宏[ファゴット]・深江和音[ホルン])
プログラム:<オール・プーランク・プログラム>
クラリネット・ソナタ、3つのノヴェレッテ、3つの無窮動、《3つの間奏曲》より第2番 変ニ長調、《15の即興曲》より第13番・第15番・第6番、フルート・ソナタ、六重奏曲
▶公演の詳細はこちら

第2期登録アーティスト 福田彩乃(サクソフォーン)インタビュー(2023.3.4 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ジョイント・コンサート)

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アンサンブルホールムラタ

2022年度より2年間アウトリーチ活動を行う、2名の京都コンサートホール第2期登録アーティスト。
1年目は京都市内の小学校などの学校でそれぞれ10公演ずつアウトリーチを行い、その活動報告として、ジョイント・コンサートを2023年3月4日(土)に行います。

サクソフォーン奏者の福田彩乃さん(ふくた・あやの)にインタビューを行いました。楽器との出会いや1年目のアウトリーチ活動、そして「ジョイント・コンサート」など話をお聞きしました。

ぜひ最後までご覧ください。

福田さんについて

――まずは、福田さんについてお聞きしたいと思います。アウトリーチの感想文を子どもたちからもらった際、よく書かれている質問なのですが、サクソフォーン(以下「サックス」)との出会いについて教えてください。

福田彩乃さん(以下敬称略):初めてサックスと出会ったのは、中学校年生の部活体験の時でした。もともとピアノを弾いていたのですが、部活体験でサックスを初めて吹いて、その楽しさから「この楽器、やりたい!」と思いました。体験の時にどれくらい楽器を吹けたかを元に判断されるオーディションで、無事に勝ち抜くことができ、アルト・サックスを担当することになりました。

――楽しいという感覚は大事ですよね。そのあと高校まで三重で過ごされて、進学先として京都市立芸術大学を受けようと思われたきっかけは何でしょうか?

福田:高校一年生の終わり頃、三重県内で実施された楽器の講習会に初めて参加しました。ちょうど進路に悩んでいた時期だったのですが、初めてプロの方に楽器を教わり、「私も音楽の道でやっていきたい」という気持ちが芽生えました。そこから講習会で教えてもらった方に、後の師匠となる先生を紹介してもらい、レッスンに通っているうちに芸術大学を受けたいという思いになりました。

――最初から京芸を目標としていたのでしょうか。

福田:受験当時は京都市立芸術大学にサックス科がなかったので、愛知県立芸術大学を受験しました。ただ落ちてしまい、ショックを受けて楽器をやめることも考えましたが、一浪することにしました。その途中で、京都市立芸術大学にサックス科ができる情報を聞いて、目指すことにしました。
もし初年度の受験で受かっていたら、今とは全然違うことになっていたかもしれないので、京都には勝手に運命を感じています(笑)

――大学に入るまでは京都と縁はありましたか。

福田:小学校の修学旅行の時に来たくらいで、京都は憧れの存在でした。早いもので移住してから9年目になります。

――現在は大学院の博士課程に在籍していらっしゃいますが、今年度の活動は研究がメインでしたでしょうか。

福田:今年度はやはり博士論文の執筆を一番重視していましたが、ありがたいことに演奏の機会を多くいただいたので、両立がけっこう大変でした。今までと比べると練習時間が少なかったので、いかに少ない時間でクオリティーを保つかということに悩んだ一年でした。

――演奏に研究、そしてアウトリーチと、大変な一年だったのですね。大学院に行こうと思った理由は何でしょうか。

福田:感覚で伝承されている奏法を文章などにまとめられたら自分の強みになりますし、これから指導する立場になった時に役に立つのではないかと思い、大学院に進みました。

――ちなみに博士論文はどのようなテーマで書かれましたか。

福田:サックス演奏時の口の中の状態について、日本語音節に限定して、例えば「あ」と「お」を意識した時の違いが、サックスの音に影響を与えるかを研究していました。
音を数値化して分析した結果、大きく異なるデータが得られました。自分の体感としても、意識する音節によって音が変わる印象があります。なので、感覚的なものが今回の論文で証明されたのではないかと実感しています。

――たしかに細かいニュアンスが演奏では大事ですよね。普段の演奏にも影響はありますか?

福田:はい、かなり影響があります。特にサックスの音色について研究していたこともあり、音を出す時の意識がかなり変わり、少しずつですが「この口の形をすればこんな音が出る」というのが掴めるようになってきました。
また曲を演奏する中で、ずっと同じ吹き方をしていると退屈になってしまうので、意識して変えるようになりました。

――これまで日本語の発音をベースにした研究はあまりなかったのでしょうか。

福田:口元(アンブシュア)の研究はされるようになってきたのですが、具体的に日本語の音節を意識した研究はあまりなかったので、貴重かと思います。

――サックスは他の楽器と比べると、歴史が浅い楽器かと思いますので、日本でこれから役立ちそうですね。

福田:そうですね、特に楽器を始めたばかりの人に有用ではないかと思っています。

アウトリーチについて

――さて、今年度から京都コンサートホールの登録アーティストとして活動してくださっていますが、登録アーティストに応募されたきっかけを教えてください。

福田:もともと組んでいる「NOK Saxophone Quartet(ノックサクソフォンカルテット)」というグループで、3年ほど前に1年間アウトリーチ活動をしていました。その後アウトリーチに携わる機会が少なかったのですが、もっとやっていきたいと考えていました。そんな時にこのアウトリーチ制度を見つけ、ぜひ挑戦してみたいなと思い応募しました。

――実際にこの一年間活動されてみて、普段の演奏活動に与える影響はありましたか?

福田:いい影響ばかりです。アウトリーチは子どもたちとの距離が近い分、反応をストレートに感じることができて、言い回し一つで反応が変わるのがわかります。
その経験から、ちょっとしたことで全体の印象にどれだけ影響が出るかを学びました。

――カルテットで行っていたアウトリーチと比べていかがでしたか?

福田:カルテットの時は、他のメンバーの意見を聞いてまとめ役をすることが多かったのですが、今回は自分で全部決めないといけなかったので大変でした。プログラム作りにもずいぶん悩み、試行錯誤した日々でした。

――そうだったのですね。プログラムは共演者の曽我部さんと話し合って決めていますか?

福田:ピアニストの曽我部さんとは長い期間を一緒に過ごしているので、話し合って曲を決めています。新しいレパートリーをさらに少しずつ増やして、新しいことにも挑戦できればと思っています。

――曽我部さんとはいつ出会われましたか?

福田:京都市立芸術大学で出会ったので、今年で9年目になります。ピアノの伴奏法のレッスンのためにペアが組まれて、たまたま同じペアになったのがきっかけです。

――最初に会った時の印象はどうでしたか?

福田さん:元気で愉快な人だなという印象でした。自分の考えをしっかり持っているので、悩みを相談すると意見をくれたり、音楽的なこともアドバイスしてくれるので、私にとって大事な存在です。

――アウトリーチへ行く前には研修やランスルー(通しリハーサル)を行いましたが、実際に初めてアウトリーチへ行った時はどうでしたか?

福田:大人を相手に行ったランスルーと比べて、実際のアウトリーチの方がやりやすく感じました。反応がとても良い子どもたちだったので、楽しかったです。研修までは自分の目線でしか考えられていなかったので、多方面から意見を聞けたのは貴重でした。

――たしかに福田さんのアウトリーチを見ていると、いつも楽しんでされていると感じます。

福田:そうですね笑)、毎回子どもたちとのキャッチボールを楽しみながらやってきました。

――毎回子どもたちに合わせて言い回しを変えているのは素晴らしいと思いました。この一年間の活動で印象的だったことはありますか?

福田:吉松隆作曲の〈悲の鳥〉が6分半ほどの曲なので、低学年の子たちがずっと聞くのは難しいのではないかと思っていました。実際にアウトリーチで演奏してみたらそんなことはなく、子どもたちが集中して聴いてくれたのが、一番印象に残っています。
また後日いただいたお手紙の中で「〈悲の鳥〉が一番良かった」という意見もたくさんあり、とても嬉しかったです。

――福田さんは、最初のプログラム提出時から〈悲の鳥〉をメインに据えていて、聴かせたいという思いがあったと思うのですが、どういう意図があるのでしょうか?

福田:私自身悩んでいた時に励ましてくれたのが音楽だったこともあり、感情を揺さぶる音楽が好きです。「感情が動く」ということを子どもたちにも体感してもらいたくて、この曲を選びました。

――アウトリーチでは、曲の背景にあるエピソードをお話されているので、その意図が子どもたちに伝わっているように感じます。アウトリーチを通して子どもたちに一番伝えたいことは何でしょうか?

福田:近年はYouTubeなどで気軽に音楽が聴けますが、音楽は突然生まれたものではなく、色んな人が関わって、その人たちの気持ちや背景にあるものが反映され一つの曲ができていると私は思います。
アウトリーチでは、奏法や楽器の歴史について知ってもらい、最終的には「背景にあるものを知った上で音楽を聴いてほしい」ということを一番伝えたいと思っています。

――2年目の活動に向けた目標は何でしょうか?

福田さん:来年度は小学生だけでなく、大人の方も対象になるかと思います。アウトリーチの訪問先の方に何を伝えたいのかを自分の中でより明確にし、プログラム作りをしたいと思っています。

――登録アーティストの活動は2年間ですが、活動を終えた後にやってみたいことはありますか?

福田:ずっと京都で活動していきたいと思っています。演奏活動をする上で、私にとってアウトリーチはとても大切な活動なので、アウトリーチで得た経験を活かせるような活動をしていきたいと考えています。
通常のソロリサイタルでは、トークはアンコール前に少し、ということが多いと思いますが、私はどういう気持ちで演奏を聴いてもらうか、導入が大切だと思っているので、しっかりしたプログラムのコンサートでもトークを入れたいと思っています。

――通常のコンサートだとプログラムノートで内容を伝えることが多いですよね。

福田:もちろんプログラムノートも大切ですが、クラシック音楽に馴染みのない方もいますし、色んな方を対象に演奏活動をしたいので、トークで私たちのことも知っていただきつつ、演奏も聴いていただきたいと思っています。

――アウトリーチとつながっていますね。

――ちなみにサックスはいろんなジャンルで活躍できる楽器かと思いますが、その中でもクラシックでやっていこうと思われた理由は何でしょうか?

福田:初めて楽器と出会った吹奏楽部での選曲が、クラシックの落ち着いた曲が多かったことから、自分の好みがクラシック寄りになりました。あとは自分の出したいと思っている音が、クラシック音楽で使う、歌うような優しい音だと思うのが理由です。

――本拠地を東京に移して活動されるアーティストも多いですが、京都をベースにしたいと思っているのですね。

福田:京都が好きというのもありますが、京都市立芸術大学サックス科の第一期生ということもあり、これから京都の地でサックスという楽器をより広めていきたいと思っています。

――京都コンサートホールとしても応援しています!ちなみに京都で好きな場所やお気に入りはありますか。

福田:鴨川沿いが好きでよく散歩に行くのですが、四季折々の景色や時間によっても雰囲気が変わり、移り変わっていく様子が好きです。

――いいですよね。ほかにハマっていることや好きなことはありますか?

福田:ちいかわ」というキャラクターにハマっていて、グッズに囲まれて暮らしています。あとは水の生き物が好きで、亀を飼っています。京都水族館にもよく行きます。

あとはパソコンを触るのが好きなので、チラシのデザインをしたりします。アンサンブルやリサイタルのチラシ、プログラムも作りました。普段はほとんど楽器かパソコンを触っているという感じです。他にサックス四重奏のための編曲もよくやっています。

――すごいですね!!

福田さんがデザインした公演チラシ

 

ジョイント·コンサートについて

――さて、話題を「ジョイント·コンサート」に移したいと思います。これまで京芸の演奏会などで、京都コンサートホールで演奏される機会はあったかと思いますが、その中でホールでの思い出があれば教えてください。

福田:大ホールは、大学4年生の時に京都市立芸術大学の定期演奏会でソリストをさせてもらったことが思い出に残っています。
アンサンブルホールムラタは、同じく大学4年生の時に芸大のサックス科がようやく全学年揃い、サックス科での第一回の記念すべき演奏会をしました。演奏会を運営する立場でもあったので、とても記憶に残っています。

――そうだったのですね。アンサンブルホールムラタでリサイタルをするのは初めてですか?

福田:はい、一人は初めてですので、とても楽しみです。

――今回のプログラムについて、選曲意図を教えてください。

福田:今回登録アーティストになって初めて音楽ホールで演奏するので、この一年間どういうアウトリーチ活動を行ってきたのかを交えて、演奏したいなと思いました。
そのためアウトリーチでいつも演奏していた、サンジュレーの《コンチェルティーノ》を入れました。そのタイミングで楽器紹介もしようと考えています。
エスケシュ作曲の《リュット》は、サンジュレーと対照的で、特殊奏法を多用した現代曲です。
また《コンチェルティーノ》はサックスが生まれた頃の曲で、対して《リュット》は割と最近に作られた作品です。100年ほどしか経っていないはずなのですが、サックスでできることがたくさん増えたことを伝えたいと思いました。
そのあとは、私が一番大事に思っている「歌うようにサックスを吹くこと」を伝えられるような作品を2曲選びました。

――サックスの可能性を知っていただけるプログラムですね。それでは最後にお客様へのメッセージをお願いします。

福田:初めてコンサートに来ていただける方でも楽しんでいただけるように、トークを交えながら演奏いたします。来て良かったと感じていただけるような内容を考えておりますので、気軽に足を運んでいただけましたらと思います。
お待ちしております!

――ありがとうございました。ジョイント・コンサートを楽しみにしております!

2023年3月4日開催の「ジョイント・コンサート」の公演情報はこちら

☆福田彩乃さんからの動画メッセージ

「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページはこちら

第2期登録アーティスト 鎌田邦裕(フルート)インタビュー (2023.3.4 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ジョイント・コンサート)

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アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホール第2期登録アーティストとして、アウトリーチ活動を1年間行った2人のアーティストが、3月4日開催の「ジョイント・コンサート」に出演します。本公演では、それぞれの想いがぎゅっと詰まった、特別なプログラムを皆さまにお届けします。
公演に向けて、第2期登録アーティストのひとりであるフルーティストの鎌田邦裕さんにインタビューを行いました。この1年間のアウトリーチ活動やご自身のこと、また「ジョイント・コンサート」のプログラムなどについてお話しいただきましたので、ぜひ最後までご覧ください!

――9月から始まった2022年度のアウトリーチ活動が無事終わりましたね。この1年間のアウトリーチ活動で印象的だったことは何でしょうか?

鎌田邦裕さん(以下、鎌田さん):子どもたちの「素直な反応」です。抽象的ですが、フルートの音を“届ける向き”やその場所(音楽室や体育館など)での“響きのイメージ”などを少し変えるだけで、反応がすごく変わるんですよ。さらにお話を交え、言葉を使うことで、子どもたちの聴き方やイメージする幅みたいなものが、全然変わってくるんだなと感じました。
毎回、自分の音楽や想いを「届ける」ことをとても意識していて、「一緒にやろうね、一緒に感じようね」という気持ちを込めて臨んでいます。

――普段のコンサートとこのアウトリーチ活動で、お話や演奏で変えていることはありますか?

鎌田さん:私は普段のコンサートでもお話をたくさんするようにしているのですが、話し方や内容は大人向けと子ども向けでもちろん変えています。でも、演奏の方は大人・子どもに関わらず、いつも自分が出せる全力を出さないといけないと思っています。
また、普段のコンサートでも、音楽に初めて触れる方にも届くように、わかりやすく演奏することを心掛けています。例えば、楽譜に「(ピアノ:弱く)」と書いてあっても、ただ小さく、弱く演奏するだけではないんです。例えば、舞台上でこそこそ話の演技をするときに、実際の距離感の声の大きさでこそこそ話をしても、誰にも伝わらない。でも、みんなに聴こえるような声でこそこそ話の演技をして初めて、お客さんにこそこそ話の演技をしていることが伝わる。演奏も同じように、わかりやすく、味濃く色付けてお届けするということを大切にしています。

――アウトリーチ活動が始まる前に、4回の研修会を経てプログラムを組みましたよね。実際に子どもたちの前で披露してみて、いかがでしたか?

鎌田さん:自分のやりたいことと、子どもたちが感じ取れることの差をどのように埋めていくのかがとても難しいなと感じています。子どもたちが聴きたいものだけを演奏するのではなく、初めて聴く曲でも、まずは一度聴いてみてもらうことが大事だなと思うので。
一方で、音楽に入る取っ掛かりとしては、みんなが知っている曲の方がいいなと思っていて、今のプログラムでは、映画『となりのトトロ』の「さんぽ」のメロディーを使って、イメージを膨らませてもらうワークショップをしています。こちらが想定している以上に面白い、自由な発想の答えが出てくることもあるので、毎回とても刺激的です。

――来年度に向けて、意気込みをお願いします。

鎌田さん:来年度に新たに出会う方々とも、アウトリーチを通して、音楽でも言葉でもコミュニケーションをとっていきたいですし、そこからみなさんの心も、自分自身の心も、さらに豊かになっていけば嬉しいですね。

――それではここで、鎌田さんの自身のことについてみなさんにご紹介したいと思います。まず、鎌田さんとフルートとの出会いについて教えてください。

鎌田さん:元々は4歳頃からピアノを習っていました。母が大人になってから趣味でフルートを始めていて、小学2年生の頃に、母がフルートを習っていた先生にピアノを教えてもらうことになったんです。その教室ではもちろん周りはフルートを吹いている方ばかりだったので、自分もフルートを吹いてみたいと思うようになり、小学3年生の10月に楽器を買ってもらって習い始めました。

――大学は、京都市立芸術大学に進学されましたよね。鎌田さんのご出身は山形県鶴岡市ですが、なぜ京都市立芸術大学を選んだのでしょうか?

鎌田さん:親との約束で、大学に進学するのだったら国公立の大学が条件だったので、「じゃあ、(音楽学部のある)芸大を目指そう!」となりました。芸大受験に向けて音楽を本格的に学ぼうと動き始めたのが、高校3年生に上がる年の春休みで、その後ご縁があって、8月の夏休みに京都市立芸術大学の大嶋義実先生と出会いました。レッスンを受けると自分の音色の悪さを指摘されることの連続で、1時間のレッスンがそれだけで終わるような感じでした。私は小学校の頃からフルートを吹いていたものの、芸大受験を目指すようなレッスンを受けていなかったので、全然きちんと吹けていなかったんですよ。その時は、自分の耳も開いていなかったので、大嶋先生が言っている意味が全くわかっていませんでした。ただ、先生がこれだけ熱心に「ちがう」と言うのだから、何か意味があるんだろうなと思って。「良い音で吹かないと意味がない」とずっと思っていたのもあって、大嶋先生のもとだったら音色が磨けると考え、京都市立芸術大学を受験しました。

――京都市立芸術大学で、アウトリーチ活動を一緒に行っている佐藤亜友美さんに出会ったんですよね。

鎌田さん:ピアニストの佐藤亜友美さんは大学の同級生で、クラリネットの山永桂子さんと3人で組んだ「panna cotta(パンナコッタ)」というトリオでも活動しています。「panna cotta」がなかったら、佐藤さんと一緒にアウトリーチ活動をすることはなかったかもしれないなと思っていて、とてもありがたい出会いだと思っています。

――そもそも京都コンサートホール第2期登録アーティストに応募したきっかけは何だったのでしょうか?

鎌田さん:自身のリサイタルでは曲間で毎回お話を入れていて、次の曲に入るための導入をしてから演奏しています。これはアウトリーチと通ずるところがあるかもしれないと以前から思っていました。第1期登録アーティストの先輩方のアウトリーチ活動や「ジョイント・コンサート」を見て、とても面白いアプローチの仕方だなと感動したのを覚えています。私も登録アーティストになれば、ホールからのサポートを受けられ、学ぶ機会が増えて、自身の成長につながるだろうなと思い、応募させていただきました。

――現在は京都コンサートホールのアウトリーチ活動のほかに、どのような演奏活動をしていますか?

鎌田さん:関西を中心にオーケストラの客演で演奏したり、フルートの指導を行ったりしています。また、地元の鶴岡市でリサイタルを20歳のときから続けていて、今年で10回目となりました。地域柄か、山形では音楽を学ぶ機会や場所がとても少なかったので、音楽の文化の土壌を作るために、種を蒔いているんです。今後は日本全国でも同じように、音楽家になりたい人たちが夢を叶えるための「架け橋」になっていければなと思っています。

――ここからは、3月4日開催の「ジョイント・コンサート」についてお伺いしたいと思います。まず、京都コンサートホールでの思い出があれば教えてください。

鎌田さん:初めて京都コンサートホールに来たのは、大学の定期演奏会だったと思います。大ホールにあった左右非対称な不思議な形のパイプオルガンがとても印象に残っています。何よりも特徴的だと感じたのが螺旋状のスロープで、外からはわからないのに、エントランスホールに入った瞬間からとても芸術的だなと思いました。以前ロビーコンサートにも出演させていただきましたが(2022年1月29日開催「京都コンサートホール・ロビーコンサート Vol.9 鎌田邦裕 フルートコンサート」)、とても素敵な空間でした。
アンサンブルホールムラタには、何度もコンサートは聴きに来ていますが、ステージに立つのは今回が初めてで、とても嬉しいです。

――「ジョイント・コンサート」のプログラムはどのように組みましたか?

鎌田さん:今回のプログラムは、アウトリーチで演奏している曲を中心に組んでいます。これは、一度アウトリーチで聴いてくれた子どもたちに、“コンサートホール”で同じ曲を聴いてみてほしいと思って選曲しました。
また、フラッター(巻き舌により音を震わせる特殊奏法)がたくさん出てくる「鶴の巣篭もり」を入れました。アウトリーチでフラッターを紹介するときに「くまんばちの飛行」演奏しているので、その「くまんばちの飛行」の“洋”の響きとは異なる“和”の響きを味わってもらえると思います。
さらに、プログラムの最後ではプーランクの「フルート・ソナタ」を演奏しますが、この曲は12~13分ほどあって子どもたちには少し長く感じるかもしれません。ですが、1楽章から3楽章まで通して聴いて「ひとつの物語を全て読み切った」という経験もしてみてほしいなと思い選曲しました。
プログラム全体を料理のフルコースだと思って、順番に味わっていただければと思います。

――それでは最後に、お客様に向けてメッセージをお願いします。

鎌田さん:フルートってどんな楽器なんだろう、音楽って何なんだろうと興味をもっている時点で、既に音楽の才能があると思います。その気付きや好奇心はとても素晴らしいものだと思うので、その探したいものを持って「ジョイント・コンサート」を聴きに来てくれたら嬉しいです。
また、音楽は心を動かしてくれるツールだと思うので、お越しいただいたみなさんに自分の心と向かい合ったり、思いを馳せたりする時間を過ごしていただけるような演奏会にしたいです。そして、心が動くとはどういう意味なのかを一緒に考えられたらいいなと思っています。

――たくさんのお話をありがとうございました!「ジョイント・コンサート」でお会いできるのを楽しみにしています!

★Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「ジョイント・コンサート」(3/4)公演詳細はこちら
★鎌田邦裕さんのアウトリーチ活動はこちら <1> <2> [⇒Facebook]
★鎌田邦裕さんのからの「ジョイント・コンサート」に向けたメッセージ動画はこちら [⇒YouTube]

(2023年2月 事業企画課 インタビュー)

 

オルガニスト ミシェル・ブヴァール 特別インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

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インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏を迎えます。

待望の京都初公演に向けて、メールインタビューを行いました。
今回ご披露いただくセザール・フランクを中心とした特別プログラムやオルガンとの出会いなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

——この度はお忙しい中インタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まずブヴァールさんとオルガンとの出会いについて、教えていただけますか。

ミシェル・ブヴァール氏(以下「ブヴァール氏」):私は5歳からピアノを始め、11歳のときにオルガンを弾き始めました。私の祖父ジャン・ブヴァール(1905-1996)はルイ・ヴィエルヌの弟子で、作曲家でした。私は彼からごく自然な形で、音楽やオルガンに対する情熱を学びました。父は医者だったのですが、彼もアマチュアのオルガン弾きでした。自宅にオルガンがありませんでしたので、父はピアノでバッハの「前奏曲とフーガ」を弾き、私にオルガンのペダル部分を弾くように言いました。
後に、祖父は父に、2つの鍵盤とペダルがついた、イタリア・バイカウント社製の電子オルガンをプレゼントしました。私もその楽器を使って、バッハやヴィエルヌ、そして祖父ジャンの作品を弾き始めました。そして、祖父と一緒に教会に行った時、初めて本物のパイプオルガンと出会ったのです。その出会いは雷に打たれたかのようでした。その時、とても冷たい音がする電子オルガンと自然な音がする本物のパイプオルガンの音の違いを知ることができました。
オルガンも好きでしたが、ピアノも同じくらい好きでしたので、プロのオルガニストとして活動しようと決断する前、20歳くらいまではピアノとオルガンの両方を勉強し続けました。

——そうだったのですね。ブヴァールさんにとって、オルガンに魅せられた点はどういったところでしょうか。

ブヴァール氏:パイプオルガンで最も気に入ってる点は、この楽器が持つマルチで素晴らしい能力です。バッハの作品に見られるようなポリフォニーや対位法を完璧に表現できますし、またクープランの作品が持つフランス的な詩情や音色も表現できます。さらには、交響曲のようなオーケストラの音を模倣することだってできるんです。
あとは、天才的なオルガン製作者による優れたオルガンにも魅力を感じます。たとえば、バッハの時代に活躍したドイツのジルバーマンであったり、フランクの時代に活躍したフランスのカヴァイエ=コルであったり・・・。ヴァイオリンの世界で言えばストラディヴァリウスなどが挙げられますが、オルガンも同様で、非常に名高く、魅惑的な音を持つ楽器が存在するのです。

——パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院の教授を定年退職なさったとお聞きしましたが、最近の演奏活動について教えていただけますか。

ブヴァール氏:2022年度は特別に忙しい1年です。
今年の3月以降、私はリサイタルの他に、ロッテルダム(オランダ)、ブリュッセル(ベルギー)、ハノーファー、ベルリン、ポツダム、ハンブルク(ドイツ)、トゥールーズ、ディエップ、ルション(フランス)、サンセバスチャン(スペイン)、スタヴァンゲル(ノルウェー)、チューリッヒ(スイス)などで、マスタークラス(特に今年生誕200年を迎えるセザール・フランクに関するもの)を行いました。
また、アルクマール(オランダ)やシュランベルク(ドイツ)で行われた国際コンクールの審査員も務めました。また10月にはオランダで、ハーレム・セザール・フランク・コンクールの審査も務めます。
ちなみに今回の11月の日本ツアーの後は、1130日にソウルでも演奏会をする予定です。

——本当に世界を飛び回っていらっしゃるのですね。これまでの演奏活動で印象に残っていることはありますか。

ブヴァール氏:これまで、たくさんのコンサートを行い、素晴らしい楽器にも出会いました。例えば、ドレスデンやフライブルクのジルバーマン製オルガンや、フランスの偉大なカヴァイエ=コル製オルガン、ポワチエのクリコ製オルガン、サン・マクシマンのイスナール製オルガン、ロチェスターのキャスパリーニ製オルガンなどです。そして、パリのノートルダム大聖堂やアムステルダム、ヴェニス、ロンドンのウェストミンスター寺院、リオ・デ・ジャネイロなど、素晴らしい場所でも演奏会をしました。
また2016年、ヒューストン教会で開催された、AGO(アメリカ・オルガニスト協会)の記念公演のように、特別な状況で開催されたコンサートも印象に残っています。このコンサートでは、アメリカの1,000人以上のオルガン奏者の前で演奏したのですよ。とっても緊張しました。

——さて話を今回の京都公演に移します。今回の公演では、生誕200周年を迎えるセザール・フランクの作品を中心に演奏いただきます。フランクのオルガン作品の魅力はどういったところにあると思いますでしょうか。

ブヴァール氏:セザール・フランクのオルガン作品、特に《3つのコラール》は、ベートーヴェンのピアノソナタに匹敵するほどの非常に素晴らしい形式美を備えており、音楽的な深みと内面性を持つ作品です。
この作品特有の詩情や力強さは、全ての人々に感動を与えることができると思っています。

——《3つのコラール》は〈第3番〉を本公演でも演奏くださるということで、楽しみです。今回はフランクの作品だけでなく、古今の作曲家たちの作品をプログラミングしてくださいましたが、その意図を教えていただけますか。

ブヴァール氏:今年はフランクの生誕200年ではありますが、私はフランクだけを取り上げるつもりはありませんでした。フランクの代表的な作品と共に、フランク以前・以降のフランスとドイツで作られた作品を取り上げる方が、京都のお客さまにとって興味深いのではないかと考えたのです。
実際のところフランクは、作曲家としてはドイツ風、オルガニストとしてはフランス風という2つの側面を持っていますし、フランク自身、彼の後継者たちに影響を及ぼしましたので。

——今回のコンサートで弾いていただくフランクの3作品についてご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:フランクのオルガン作品として、彼の3つの創作期からそれぞれ1曲ずつ選曲しました。
まず1865年に創作された、有名な〈前奏曲、フーガと変奏曲〉。次に、1878年、トロカデロのコンサートホールに設置されたカヴァイエ=コルのオルガンのこけら落としのために書かれた《3つの作品》から〈英雄的作品〉を演奏します。そして最後に、彼が亡くなる数週間前、18909月に作曲された《3つのコラール》より、第3番を演奏します。

——ありがとうございます。フランク以外の作品についてもご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:ルイ14世時代の荘重なフランス形式で書かれた、ルイ・マルシャンによる《グラン・ディアローグ》でコンサートを始めることも楽しみですし、私の師であるアンドレ・イゾワールが見事に編曲したバッハの《4台のチェンバロと管弦楽による協奏曲》を演奏することも楽しみです。また、メシアンの傑作〈神は我らのうちに〉でコンサートの幕を閉じることも幸せに感じています。
ほかにも、私の祖父ジャンの作品や彼の友人であったモーリス・デュリュフレの作品も演奏する予定です。

——私たちもとても楽しみにしております。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします。

ブヴァール氏:京都コンサートホールの大ホールでリサイタルをさせていただけることを幸せに思います。京都は私の妻である康子が生まれ育った、特別な街であり、40年以上前に初めて京都を訪れて以来、日本の家族に会うために定期的に訪れていますから。
また今回、セザール・フランクに関する、特別なプログラムを準備しました。京都の音楽愛好家の皆様にはぜひともご来場いただき、一緒に音楽を共有したいです。
私は日本を心から愛しています。皆様のために演奏できることは私の大きな誇りであり、大きな喜びです。

——ありがとうございました。11月に京都でお待ちしております。

(2022年8月 事業企画課メール・インタビュー)


★公演詳細《オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70「世界のオルガニスト“ミシェル・ブヴァール”」》(11月3日)はこちら

★「オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー」はこちら

★ブヴァール氏の演奏&メッセージ動画

★京都コンサートホールのパイプオルガンについてはこちら

オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

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インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏が京都コンサートホールに初登場します。

世界中で演奏活動を行うとともに、パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院で教授として後進の指導にも力を入れてきたブヴァール氏。彼の指導を受けたオルガニストたちは現在、世界中で活躍しています。その一人であり、東京芸術劇場の副オルガニストとしてご活躍中の川越聡子さんに、ブヴァール氏についてさまざまなお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください。 Continue reading “オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)”

ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホールでは、セザール・フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を10月22日(土)に開催いたします。

プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回は当日ヴァイオリンを担当する、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の首席奏者 藤江扶紀さんにお話を伺うことができました。
フランスでのご活動についてや、フランク《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください。

◆藤江さんについて

――この度はインタビューのお時間をありがとうございます。藤江さんは大阪出身ということですが、過去に京都市交響楽団と共演されたことがあるそうですね。

藤江扶紀さん(以下敬称略):私の先生であった工藤千博さんが、京都市交響楽団のコンサートマスターをされていたこともあり、中学校1年生の時に、京都コンサートホールで演奏しました。人生で2回目のオーケストラとの共演で、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を弾いた覚えがあります(2003年10月19日「こどものためのコンサート」)。

――その後、京都に来られる機会はありましたか?

藤江:そうですね、演奏会を聴きに来たり、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として演奏しに来たりしていました。ただ、アンサンブルホールムラタで演奏するのは今回が初めてです。

――それは楽しみですね。大学(東京藝術大学)を卒業後は、すぐにパリに留学されたのですか?

藤江:卒業直前に、「京都フランス音楽アカデミー」でオリヴィエ・シャルリエ先生に出会ったんです。先生がいらっしゃるパリ国立高等音楽院を受けるために、半年間先生のお宅や私立の音楽院でレッスンを受けながら語学を勉強した後、パリ国立高等音楽院の大学院に入学しました。
そして大学院を卒業して約半年後、2018年1月に「トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団」へ入団しました。

ちなみにオーケストラに入団するまでは、毎年「宮崎国際音楽祭」に参加していて、そこで今回共演する横島くんや上村さんと何度か一緒に弾きました。二人と共演するのはその時以来で、約5年ぶりになります。

――そうだったのですね。トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団では、“co-soliste”という肩書でいらっしゃいますよね。日本では聞き慣れない名前ですが、具体的にはどういった役割なのでしょうか?

藤江:コンサートによってポジションが変わるのですが、日本で言う「コンサートマスター」「アシスタント・コンサートマスター」(コンサートマスターの隣の席)「第2ヴァイオリンの首席奏者」「第2ヴァイオリンの副首席奏者」(首席奏者の隣の席)のいずれかを担います。なので、ほぼすべてのコンサートに出演していて、なかなか日本に帰ってこられません(笑)。
今回の公演には何が何でも出演したかったので、早めに休みを取りました!

本拠地のホールの外壁にお写真掲載中!

 

** トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団のヴァイオリン奏者の肩書について教えていただきました **
・super soliste:特別コンサートマスター
・violon solo:第一コンサートマスター
・violon chef d’attaque:第二ヴァイオリン首席奏者
・violon co-soliste:上記3つの席いずれかを担うポスト

 

――そういうことだったのですね、ありがとうございます。
フランスでは、室内楽やソロを演奏することも結構ありますか?

藤江:オーケストラのメンバーで組んでいるカルテット(弦楽四重奏)で演奏したり、ソリストとしてメンバーが指揮を振る室内オーケストラや他のオーケストラに呼んでいただいたりしています。時間があればもっとやりたいなと思っています。

オーケストラメンバーによる弦楽四重奏「Quatuor Agôn」 オーケストラとの共演コンサートの大きな看板が街中に ソリストとして演奏中のお写真
(2021年7月)

 

◆今回のコンサートについて

――では話を10月の公演に移したいと思います。今回は弓さんとつながりのあるメンバーが揃いましたよね。

藤江:はい、公演がすごく楽しみです。特に弓くんは、自分が持っていないアイデアや知識を持っていて、彼と話していると面白い発見が多いです。また、音楽に対して求めていることが似ているように感じるときがあります。
私はフランクの曲の中でも《ピアノ五重奏曲》が特に好きで、数年前に弓くんにちらっと言ったことがあるんです。弓くんはそのことを覚えていてくれていて嬉しかったです。

――そうだったんですね!ちなみにフランクの《ピアノ五重奏曲》を演奏したことはありますか?

藤江:一度だけフランスの音楽祭で弾いたことがあって、今回は久しぶりの演奏になります。この曲は私がやりたいと言っても、難曲であるためか、ピアニストに断られることが多いんですよ(笑)。

――《ピアノ五重奏曲》のどのようなところがお好きですか?

藤江:煮え切らない感じがある曲ですよね。起伏があって、濃淡があって、感情的なところもたくさんあって、でも、フランスの色彩感やフォーレのようなパステル調の音も垣間見えて…そのバランスが本当に好きなんです。年を重ねてから好きになる人が多い曲だと思うのですが、私は初めて聞いた時から好きでした。
すっきりするわけではないけれど、気持ちに寄り添って、色んな感情を整理してくれるんです。フランクは真面目な性格で、外に出せない内に秘めた感情を表現したのではないかなと思います。
そして何と言いますか、救われない感じに救われます。ハマる人にはハマるという曲だと思うので、この沼に皆さんを引きずり込みたいです(笑)。

――今回共演されるメンバーについて、また公演の聴きどころを教えてください。

藤江:ル・サージュさんはお会いしたことはありませんが、パリで2回ほど演奏会に行ったことがあります。もともとル・サージュさんのフランクやフォーレの「ピアノ五重奏曲」をCDやYouTubeでよく聞いていて、まさか一緒に演奏できるとは思いもしませんでした。
そして弦楽器のメンバーは、この4人で一緒に弾くのは初めてですが、今までで知っている彼らのパーソナリティから想像すると、人間的にも、音楽の面でも絶対に楽しいものになると思います。それぞれの考え方を持ち寄ったときに、どういう音楽が生まれるのかをぜひ期待していただきたいです。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。また10月にお待ちにしております!

(2022年8月京都市内某所 事業企画課インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー(2022.10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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アンサンブルホールムラタ
今年生誕200周年を迎える、ベルギー出身の音楽家セザール・フランク (1822-1890)。京都コンサートホールでは、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催し、フランクが遺した傑作をお届けいたします。
プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回、ヴィオラを演奏する横島礼理(よこしま・まさみち)さんとチェロ奏者の上村文乃(かみむら・あやの)さんにお話を伺うことができました。
フランクや《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

◆お二人について

――今日はインタビューの機会をありがとうございます。お二人はご面識があると伺いましたが、出身高校が一緒なのですか?

横島礼理さん(以下敬称略)はい、同じ桐朋高等学校でした。

――高校時代から一緒に演奏をされていたのですか?

上村文乃さん(以下敬称略):元々私が同じ学年のメンバーで組んだカルテット(弦楽四重奏)で、メンバーの小林美樹さん(ヴァイオリン)が留学する際、代わりを横島くんにお願いしたのが最初の共演でした。高校卒業後は一緒に弾く機会がなかなかなかったのですが、今年の5月にびわ湖ホールで行われた大阪フィルハーモニー交響楽団さんの演奏会にソリストとして出演した時に、客演で横島くんがいて、それが学生時代以来の共演でした。

――旧知の仲でいらっしゃるのですね!お二人は京都で演奏されたことはありますか?

上村:昨年5月に京都市交響楽団の「第656回定期演奏会」(2021年5月11日開催)にソリストとして出演した時に、京都コンサートホールへ初めて行きました。緊急事態宣言中でしたが、無観客ライブ配信での開催を決めてくださり、大変嬉しかったです。だた、京都のお客様にお会いできなかったのが心残りですね。

また、留学期間中に「ローム ミュージック ファンデーション」からの奨学金を受けていたので、その報告会のため京都に行くことはあったのですが、演奏会では訪れる機会がなかなかなかったんです。お客様と交流するのが一番の喜びなので、今回の公演で京都へ伺えるのを心待ちにしています。

横島:関西には、所属しているNHK交響楽団の演奏会や大阪フィルハーモニー交響楽団への客演で度々行くことがありますが、京都には今年8月にNHK交響楽団の演奏会(ロームシアター京都)で初めて伺います(※取材時は6月)。先日観光で京都を訪れ、金閣寺や清水寺に行ったり、鴨川沿いを散策したりもしましたよ。

――そうなんですね。現在、横島さんの活動のメインはヴァイオリンかと思いますが、10月の演奏会ではヴィオラを弾いていただきます。ヴィオラもよく演奏されますか?

横島:学生時代はよく弾いていましたが、卒業後は演奏機会が少なく、今回久しぶりにヴィオラを弾けるのがすごく楽しみです。

――お客様も「ヴィオラの横島さん」が聞けるのを楽しみにされていると思います。横島さんが思うヴィオラの魅力ってどのようなところにあると思いますか。

横島:和声の移り変わりを一番味わえるところではないかなと思います。ちなみにモーツァルトは、自身が作曲した弦楽四重奏曲を自ら初演する際、ヴィオラは内声であり、和声の移り変わりを一番味わえるという理由から、必ずヴィオラ・パートを選択して演奏していたそうです。

――上村さんはバロックチェロとモダンチェロの両方で演奏活動なさっていると思いますが、どのように弾き分けていらっしゃいますか?

上村:チェロの役割が時代によって変わるので、曲に合わせて弾き分けています。ロマン派初期までは「通奏低音」としての役割が主ですが、それ以降は一つのパートとして見なされることが多いです。

――そうなのですね。ちなみにバッハの「無伴奏チェロ組曲」は、モダンチェロでもよく弾かれると思いますが、上村さんはどちらの楽器で弾かれますか?

上村:どちらのチェロでも弾きたいと思っています。バロックチェロで弾くときは、弾き方やメソッドをバッハがいた時代のバックグラウンドにできるだけ合わせています。一方、モダンチェロには、大きなホールで弾いても隅々まで音が届いて、スピーチをするような力強さがあります。曲が偉大だからこそ、そういったモダンチェロの良さも発揮できると思います。同じ曲を弾いても、扱う楽器によって解釈が全く異なるので、アプローチ方法を切り替えるのが大変です。

 

◆今回の弦楽器メンバーについて

――次は今回の共演メンバーについてお伺いします。今回、第一ヴァイオリンを弓さんが担当されますが、お二人は弓さんといつからの付き合いですか?

横島:弓くんとは高校の同級生で、それ以前には、6~7歳の頃に埼玉で同じ先生に習っていたことがあります。学生時代にはカルテットで一緒に演奏をしていて、そのとき私はヴィオラを弾いていました。

同じ先生に習っていた幼少期のお写真(一番左が横島さん、右から2番目が弓さん)

上村:弓くんは高校の一年後輩で、お互いソリストとして同じ演奏会に出演したことはありますが、共演は今回が初めてとなります。
高校生の時から素晴らしいソリストであることはもちろん、眼光が鋭いイメージで私にとっては近寄り難い存在でした。いま考えると、10代の頃から自分に厳しく、ストイックに生きていたのかなと改めて尊敬します。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団「熱狂のチャイコフスキー3大協奏曲」(2018年6月30日)にて、上村さん(一番左)と弓さん(真ん中)

――藤江さんと共演されたことはありますか?

上村:藤江さんとは同い年で、学生時代に関わりはなかったのですが、「宮崎国際音楽祭」に出演した時、オーケストラの中で一緒に演奏したことがあります。その時に横島くんも一緒でしたね。

横島:はい、これまでそれぞれに面識はあったのですが、今回の4人で室内楽をやるのは初めてなので、とても楽しみです!

◆フランクという作曲家、今回演奏するピアノ五重奏曲について

――さて、今回の演奏会では、今年生誕200周年を迎えるセザール・フランクを取り上げます。お二人はフランクについて、どのようなイメージをお持ちですか?

横島:フランクはたくさんの有名な弟子を輩出していて、独自のスタイルを作り上げたフランスの作曲家というイメージがあります。初めてNHK交響楽団にエキストラで出演した際、演奏した曲がフランクの《交響曲 ニ短調》だったので、思い出に残っています。

――そうなのですね!今回の《ピアノ五重奏曲》は演奏されたことはありますか?

横島:いえ、今回初めて演奏します。《ピアノ五重奏曲》は冒頭が強烈で印象強く、とても好きな曲なので楽しみにしています。

――こちらこそ楽しみにしております!上村さんはいかがでしょうか。

上村:幼い頃は、フランクといえば「フランス音楽」で、オルガンも演奏することから宗教音楽に詳しい作曲家だと認識していました。ですが、初めて師事した先生の演奏会で《ピアノ五重奏曲》を聞いたときに、宗教的というより、訴えかけるようなフランクの内面が出ていると感じて、表面的に知っていたフランクとギャップがあるなと思いました。

――たしかに実際に聞いてみるとイメージが変わることがありますよね。

上村:今回の公演で初めて《ピアノ五重奏曲》を弾くにあたって、改めてフランクの生い立ちを調べてみました。出身はベルギーで、両親はドイツ系出身。本人はフランスで長らく暮らしていたけれど、当時の時代背景もあって、外国人としての壁を感じていたのではないかなと思いました。
宗教音楽については、オルガンの仕事を始めてから作曲するようになったもので、宗教的な要素を音楽でうまく表現できない葛藤があったみたいです。フランクは、それをなんと弟子に相談していたそうです。若い彼らと一緒にアイデアを練っていたと知って、フランクに人間的な温かみを覚え、「彼の曲から感じたものはこれなんだ」と思いました。

フランクを知れば知るほど演奏するのが楽しみになりました。

――そんなエピソードがあるのですね。生誕200周年を機に、そして今回のコンサートを通して、皆さまにフランクのことをもっと知っていただきたいですよね。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いできますでしょうか。

上村:弦楽器には昔からつながりのあるメンバーが集まりました。また偶然にも、ル・サージュさんと同じフランスで活動している藤江さん、フランクが生まれ育ったドイツ語圏で活動中の弓くんと、メンバーのキャラクターが今回の公演に合っています。お互いの良さがぶつかり合うことによって生まれるものを、お客様に聞いていただきたいです。

横島:素晴らしいメンバーたちと共演できるのがとても楽しみです。フランクの《ヴァイオリン・ソナタ》・ピアノ曲・《ピアノ五重奏曲》を一挙に堪能できる、ほかでは聞けないプログラムをぜひお聴きください。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。10月に京都でまたお会いできることを心待ちにしております!

(2022年6月都内某所 事業企画課インタビュー)


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【Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/5)】第1期登録アーティスト*石上真由子(ヴァイオリン)インタビュー

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インタビュー

2019年度からスタートした「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
オーディションで選ばれた、京都にゆかりのある若手新進音楽家たち3組が、「第1期京都コンサートホール 登録アーティスト」として、これまで市内の小学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。

アーティストたちは、2022年3月で、2年間(2019年度・2021年度※2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で活動中止)の登録アーティストとしての活動を終えます。

ヴァイオリニストの石上真由子さんは、アウトリーチで「音楽を感じること」を大事にして、演奏や音楽の魅力を届けるとともに、子どもたちや福祉施設の入居者の皆さんと対話を繰り広げてきました。

2年間のアウトリーチ活動で感じたこと、また活動のしめくくりである「最終年度リサイタル」について、石上さんにお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください!

(C)Shuzo Ogushi

――今日は東総合支援学校での演奏、お疲れ様でした。
さて
、今年3月で、京都コンサートホールの「登録アーティスト」としてのアウトリーチ活動を終えることとなりますが、この2年間を振り返っていかがでしたか。アウトリーチが普段の演奏活動に与えた影響はありますか。

いま京都コンサートホールのほかに、地域創造のおんかつアーティストとしてもアウトリーチ活動をしています。行く学校によって、音楽の授業の進め方も違うので、同じ小学生という目線だけでプログラム内容を決めるのは難しいなと感じました。

また普段行っている自主企画のコンサート(Ensemble Amoibeなど)では、もちろん「聴いて楽しんでいただこう」という目線もあるのですが、やはり自分がやりたい曲を中心にプログラムを考えてしまいます。
でもアウトリーチは、通常のコンサートとは選曲の仕方が全然違いますので、聴く相手のことを考えてプログラムを構成することがいかに大切かをこの2年間で学びました。

同志社小学校にて

――たしかに訪問する小学校によって反応も様々でしたよね。ほかにアウトリーチ活動を通して石上さんの中で変わったことはありましたか?

そうですね…あとは、演奏の間にお話をすることに対しての恐怖感や抵抗が少し減った気がします。曲などについて伝えるにしても、演奏だけではなくて、話すからこそ伝えられることがあるなと思いました。
そして言葉というツールを使うことに対してプラス思考になった気がします。

 

――実際にアウトリーチプログラムの半分くらいはお話でしたが、通常のコンサートでは、演奏の間にMCをするくらいですものね。

そうですね。普段のコンサートでは、割と年齢が上の方に向けて話すことが多く、小学生に向かって話すのとでは全然違いますので、いろいろ経験ができたと思います。

一燈園小学校にて

――今回、アウトリーチ先としては小学校が多かったですが、子どもたちの反応で印象的なことはありますか?

毎回アウトリーチが終わった後に、感想を書いたお手紙をもらっていまして、その中に質問を入れてくれる子もいます。そういうところに注目していたのかとか、興味を持ってくれると思っていたところと違う部分に興味持ってくれたりとか・・・(笑)
自分が大人になったからこそ見えなくなってしまったものがあるんだなと思いました。自分が子どもの頃は、大人になっても子供の心を保ち続けられると思っていたんですけど、やっぱりそうではないと改めて知る機会になりました。

またアウトリーチ1年目は、自作の「ハッピーバースデー変奏曲」を使って、演奏を聞いて感じたことを絵に描いてもらっていました。私は結構妄想族なんですが、こちらの妄想できる範疇を超えてくる子もいて、こんなに想像力があるんだなと嬉しく思ったこともたくさんありました。

 

――最初にアウトリーチ・プログラムについて話し合っていた時も、ただ聴いてもらうだけじゃなくて、子どもたちのアウトプットにも重きを置いていると話していましたよね。

アウトプットよりも「考える前に感じること」を忘れないでほしいと思っています。
私が小学生だった時、感じたことを言うよりも、すごく考えて答えを出していたことが多かったですし、そのことを求められているなと思ったことがとても多かったんです。
「大人はこういうことを言ったら喜ぶだろう」と考えるのではなく、素直に「こう感じました」と回路が直結してくれたらいいなと思って、アウトリーチではどう感じたか演奏の後に尋ねてみたり、絵を描いてもらったりしました。

 

――お絵描きを実際にしてもらって、その手応えはありましたか?

他の人がどんなことを書いているか見る隙を与えずにやったので、子どもたちはあんな短い時間でもやるしかないという感じでしたし、とりあえず感じたことや思いついたことをわーっと書いてくれました。なので、お絵描きは良い方法だったのではないかと思っています(笑)

 

――みんな結構戸惑いながらも頑張ってくれていましたよね。

必死でやってくれていましたし、最終的にアウトプットするところまで時間が足りなかった子たちも、やろうと思っただけでも変化があったのではないかと思うんですよね。アウトプットできなくても全然いいんです。そのプロセスを大事にしてほしいです。

光華小学校にて

――2年目は小学校以外に福祉施設にもアウトリーチに行きましたが、印象的だったことはありますか?

私はずっとヴァイオリンを弾いてきたこともあり、音を出すという行為に一番抵抗がなかったのがヴァイオリンで、歌を歌うのはあまり得意ではなかったんです。でも例えば、今日の総合支援学校でも老人ホームへ行った時もそうだったんですが、皆さんやっぱり歌を歌うのがすごく好きなんだなと思いました。特にコロナになって、歌うことが一番できなくなってしまったので、「一緒に歌いましょう」と言ったら、とても楽しそうに歌っていらっしゃたのが印象的でした。

 

――たしかに、活動2年目の1ヶ所目が老人福祉施設だったので、すごく印象的でしたよね。

やっぱり歌って、楽器が弾けなくてもみんなができることなので、これだけ人の心が繋がるんだなと、アウトリーチで目の当たりにしてすごく感じたことです。

ウェルエイジみぶにて

――皆さんマスクをされていましたけども、なかなか口を開けて歌うことは難しかったので、ハミングで歌ってくださっていたのがとても印象に残っています。
では少し話が変わります、もう少しで第1期3組の活動が終わって、次期登録アーティストの募集が始まります。応募される人へ向けてメッセージをお願いします。

そうですね…京都コンサートホールでは、アウトリーチに行く前に研修などがあるのですが、ここまで手厚く面倒を見てもらえるところはないかと思います。それで逆にキュッと緊張してしまうところはあるんですが、1回経験すると、内容をガチガチに固めなくても、プログラムの道筋をちゃんと立てられると思います。また自分の中で作った「一つの型」について、考えたプロセスやアドバイスしてもらった経験などは、時間や回を重ねる毎に活きてくることがあるんじゃないかと思います。

演奏環境としては過酷ですけどね、寒いところで弾いたりとか・・・(笑)。あと、普通のリサイタルと違って、演奏に全集中できないときもありますし、次に話すことや時間が気になったり・・・でも、そういったことを経験してこそ見つかるものがある気がします。最終的にアウトリーチがライフワークになるかどうかは人によって違いますし、そればかりはやってみないと分からないです。ただ結果がどうであれ、やったことがあるか無いかでは全然違うと思いますし、やってみてよかったなと思う瞬間はきっとあると思います。

なので、少しでも気になっている人がいれば、経験してみてはどうかなと私は思います。

2年間共にアウトリーチで演奏してくださった、ピアニストの船橋茉莉子さんと

――ありがとうございます。では最後に、3月5日の「最終年度リサイタル」の聴きどころやプログラムの意図を教えていただけますか?

予想外のコロナで、2020年度の一年間、アウトリーチも含めて全く何もなくなった時に思いついたのがこのプログラムです。
漠然と、抗えない力みたいな自然の力や、天からの神様みたいな存在をすごく感じたんですよね。別に宗教にのめりこんでいるとかではなく、それらを表現できるプログラムにしたいと思って、「人と自然」や「人と天」などをテーマに曲を選びました。混沌とした感じとか最終的にコロナを経て人間がどこへ向かっていきたいのか、どこへ向かっていくのか——そういうのを欲望のままに(笑)詰め込んでみました。

――ありがとうございました。最終年度リサイタルを楽しみにしております!

東総合支援学校にて

2022年1月、京都コンサートホール事業企画課インタビュー
アウトリーチ担当:中田


★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us ジョイ ナス !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

2022年3月5日開催『最終年度リサイタル』Vol.1「石上真由子 ヴァイオリン・リサイタル」の詳細はこちら

 

オルガニスト 大木麻理 インタビュー(2021.12.04京都コンサートホール クリスマス・コンサート)

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インタビュー

コロナ禍だからこそ聴いていただきたいコンサートシリーズ『The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~』の最終回「京都コンサートホール クリスマスコンサート」。12月4日(土)15時より、京都コンサートホール 大ホールで開催します。

いよいよ冬本番ということで、めっきり寒くなってきた今日この頃。パイプオルガンとハンドベルアンサンブルのハーモニーで一足先にクリスマスの雰囲気をたっぷりとお楽しみいただけるコンサートです。

今回は、クリスマスコンサートにご出演くださるオルガニストの大木麻理さんに色々なお話を伺いました。


大木麻理(オルガニスト)

――2018年に「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.62」にご出演くださった折、和太鼓とのコラボレーションで鮮烈な印象を与えた大木麻理さん。以降、全国各地でパイプオルガンを使った様々な試みに取り組んでいらっしゃいます。今回の演奏会はハンドベルとの共演ですね。クリスマスシーズンにぴったりの組み合わせです。

大木麻理さん(以下、敬称略):そうですね、共演する「きりく・ハンドベルアンサンブル」の皆さんと相談しながら、「クリスマスだから聴きたいよね」という曲をたくさんプログラミングしました。もちろんクリスマスというテーマも大事なのですが、今回の公演のコンセプトは「音楽の力」でしたよね。

――はい、そうです。「クリスマス・コンサート」は、コロナ禍で奔走してくださる医療従事者の方々や、心が疲れてしまっている方、世界中の皆さんにパイプオルガンとハンドベルのハーモニーを京都から届けて、アフターコロナに向けて元気になっていただきたいという思いから企画された公演です。

大木:当初、京都コンサートホールのスタッフの皆さんとお話した時に出たキーワード「祈り」と「復活」はプログラミングの時にすごく意識しました。だからといって畏(かしこ)まるのではなく、演奏を聴いた後に「日常を忘れる特別な時間」「いいクリスマスを迎えられるね」といった想いをお客様に持ち帰っていただきたいです。あたたかな空間を作ることができたらいいなと思っていて、コンサートの最後には「希望の光」が見えるようなプログラミングにしています。

――大木さんは、以前にも「きりく・ハンドベルアンサンブル」と共演なさったことがあるそうで、2年ぶりとのこと。今回共演なさる際に楽しみにされていることはありますか?

大木:きりく・ハンドベルアンサンブルの演奏って、本当に「千手観音」のようなのです。色んな場所から手が綺麗に出てきて、圧巻のフォーメーションで演奏なさるのです。まるで美しいダンスを見ているかのよう。1人につきたった2本の手しか持っていないのに、こんなことができるのかと驚きます。お客様は、耳でも目でも楽しんでいただけることでしょう。わたしもお客さんとして聴きたいくらい(笑)。

「耳でも目でも楽しむことができる」というのは、パイプオルガンにも共通することですね。オルガニストは手と足を駆使して演奏するので、「アクロバットなことをしているね」とよく言われます。

――確かにそうですね。

大木:あとは、「楽器の発音の仕組み」という視点から捉えると、パイプオルガンとベルは正反対の性質を持つ楽器と言えるでしょう。ベルは打楽器の一種ですよね。オルガンが持ち合わせていない要素を持っています。逆も然りです。そういう意味で、お互いにない要素を補い合っているので、音楽的にさらに一つ高みにいくことのできる組み合わせなのではないかと思っています。

――なるほど!そう考えると素晴らしい組み合わせですよね。

大木:そうですね。聴いてくださるお客様は絶対に楽しいと思います。演奏する側の私たちも楽しいですから。

きりく・ハンドベルアンサンブル

――大木さんが京都コンサートホールのパイプオルガンを演奏してくださるのは、今回で2度目になります。

 大木:はい、とても楽しみです。京都コンサートホールのパイプオルガンは一見すると、大きくて厳かな楽器に見えるのですが、実際に音を出してみるとすごく暖かな響きがするのです。ちゃんと奏者と対話しながら鳴ってくれる楽器です。色々なストップがあるので、色々なことにチャレンジできます。個性豊かな、良い音がするストップがたくさんあるのです。もちろんそれらのストップを活かしながら、音を作っていく過程が重要になってくるのですが、古いものから新しいものまで、魅力的に弾くことのできる楽器です。

――いま「音作り」のお話をしてくださいましたが、実際にはどのように音色を選んでいかれるのですか?

オルガンを弾く大木さん

大木:方法は色々とありますが、まずはその楽器の特性を活かせる選曲をするように心がけています。次に、実際に楽器を演奏しながらレジストレーション(ストップを選択し、組み合わせることにより音色を作っている作業のこと)を行う際には、その楽器が持つ音色は全部使おうと思っています。これは、私のポリシーですね。どのようなストップでも、その存在価値を発揮させたいなと思っています。

あとは、その曲が書かれた背景を意識するようにしています。例えば、今回演奏するリスト作曲の《バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」による変奏曲》に関して言うと、リストがイメージしたであろう音色や、当時のリストが耳にしたであろう楽器の音色を想像します。そして、私が演奏する楽器からそういったものを引き出すためにはどのようにすれば良いか、非常にこだわって音作りを行います。

――当ホールのパイプオルガンには本当にたくさんの種類のストップがあるので、大木さんがそれらをどのような組み合わせで使ってくださるのか、今からとても楽しみです

大木:ありがとうございます。

――さて、最後の質問をさせてください。インタビュー冒頭で本公演のコンセプトである「音楽の力」について少し触れました。このコロナ禍において、大木さんと「音楽」の関係性に変化はありましたでしょうか。

大木:そうですね、「音楽はやっぱり必要なんじゃないか」と思うようになりました。

2020年の最初のパンデミックの時、予定していたコンサートが全てキャンセルされたんですよね。その時は「自分の存在価値はないのだろうか」と思ったりもしました。でも、人間って生まれてから死ぬまで、どこかで必ず「音楽を聴いている」でしょう。そう考えると、私にとっても、その他の人にとっても「音楽は絶対に必要なものだ」と思うようになりました。コロナ禍において、それを初めて確信できたというか。音楽は当たり前に存在していますが、「ただ存在する」のではなく「人生にとって必要なものである」と皆さんが考えてくださったら嬉しいなと思っています。

――私もそう思います。特に我々は「ライブ演奏」を生業としている者ですから、このような時期ではありますが、お客様にはコンサート会場にお越しいただき、ぜひとも生演奏を聴いていただきたいと思っています。

(C)Takashi Fujimoto

大木:そうですよね。特に、パイプオルガンやハンドベルは生演奏で聴いていただくのがベストであると思います。コロナ禍でコンサート配信も増えましたが、パイプオルガンって配信には向かない楽器なのですよ。もちろん、配信にも良い点はありました。例えば、普段は客席から見えないオルガニストの手や足の動きを画面越しに見ていただいたり。そういった面白い機会を作ることはできましたが、やっぱりパイプオルガンの醍醐味ってホール中に鳴り響く音を身体で感じていただくことだと思うのです。その体験は配信やCDでは味わえないものです。ぜひとも、生演奏を聴きにご来場いただけたらと思います。

――本当にその通りです。実際にホールでパイプオルガンの音を聴くと、足元から頭の先までパイプオルガンと身体が“共鳴する”感覚を味わうことができます。今回は、パイプオルガンに加えてハンドベルの美しいハーモニーをも堪能することができる貴重な機会です。コンサート当日を楽しみにしています。
今日はたくさんのお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!

(2021年9月 Zoomにて)

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きりく・ハンドベルアンサンブル インタビュー(2021.12.04京都コンサートホール クリスマス・コンサート)

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インタビュー

京都コンサートホールがお届けする、特別なコンサートシリーズ「The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~」。シリーズの最終公演である「京都コンサートホール クリスマス・コンサート」では、親しみあるクリスマス・ソングをはじめ、祈りや復活の気持ちが込められた作品の数々を、 京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンとハンドベルの豊かな響きでお届けします。

公演に向けて、きりく・ハンドベルアンサンブル(以下「きりく」)の代表を務める、世界的なハンドベル奏者の大坪泰子さんにお話を伺いました。
ぜひ最後までご覧ください。

 

——この度は、インタビューにお答えいただきありがとうございます。
まずアンサンブルのメンバーについてお伺いいたします。メンバーの方々は皆さんどのようにハンドベルと出会われたのでしょうか。そしてどのように「きりく」に入られたのでしょうか。

大坪さん(以下敬称略):小中高時代に学校で始めた人がメンバーの約半分ですが、きりくで始めた人もいます。
いま一番若手のメンバーは、小さい頃から頻繁にきりくの公演に通ってくれていました。主に低音域を担当している福田義通は、私がこれまでグループを結成する度に参加してくれています。他のメンバーは、私のブログや打楽器協会の会報などでメンバー募集を知り、きりくに入ってきてくれました。

※きりくのメンバーは現在8名ですが、本公演では7名で演奏予定。

 

——きりくさんのこれまでの演奏活動とコロナ禍での活動について教えていただけますか。

大坪:これまでは毎年1〜2回の自主公演のほかに、国内公演や海外ツアー等を頻繁に行っていました。コロナ禍では、海外ツアーはできなくなった上、自主公演はキャンセルし、その他の公演数も激減しています。
楽器の特性上、集まらないと練習にならないのがコロナ禍での大きなネックとなりました。
昨年は、長年借り歩いていた練習場が一斉にクローズしてしまったため、自前で専用スタジオを作りました。高機能換気システムを入れた安全なスタジオは出来たものの、遠くから電車で通うメンバーも少なくないため、安全を考えるとやはり前ほど自由には集まれなくなりました。昨年以来、全く参加できなくなったメンバーもいます。

ただ、元々私たちは少人数で極度に制限された条件の中で、工夫しながら作品を作ってきました。何かに困れば新しい知恵と方法で動くだけで、むしろそうやって私たちは進歩していくものだと思っています。

——次に、きりくさんが使用されている「ハンドベル」という楽器について教えてください。一般の人がよく見るのは、10本くらいの色がついたハンドベルで、メロディーを奏でるくらいの規模かと思いますが、きりくさんの演奏会では全てのパートをハンドベルで演奏されると思います。どれくらいの本数を使われていて、一人あたりの担当本数はどれくらいなのでしょうか。

大坪:皆さんが「ハンドベル」と呼んだり想像しているものの殆どは、「ミュージックベル」か、ベル型の玩具なのではないでしょうか。
私達が演奏しているのは、「イングリッシュハンドベル」と呼ばれる楽器です。

きりくでは6オクターブ弱の音域を用いており、部分的には3セット使っています。重さは1音あたり500gから5kg位のものもあります。
使う数は曲によって違いますが、大体、1人6〜25個くらいを担当します。多い時には、全員で200個以上使う曲もあります。例えばピアノの鍵盤をバラして持って、自分の音だけ適切に奏でるような状態を想像してみたらわかりやすいと思います。
その他に、音叉型の「クワイアチャイム」という楽器も6オクターブ分使っていて、曲によっては併用しています。

※本公演で使用するベルの数は、約200個の予定です。

——きりくの皆さんが思うハンドベルの魅力はどんなところでしょうか。

大坪:一般とは違う発想や取り組みをしているので、私達の感覚が一般的ではないと思うのですが…倍音が豊かに響いているトランス的な状態が好きです。明るい曲よりは、暗くて深みのある曲が合うと思っています。

あとは、工夫次第で可能性が拡がるところでしょうか。
少人数でやっている事自体もそうですが、こんな事は出来ないだろうと決めつけず、どうやったら出来るかを試行錯誤しながら、新しい何かを発見していくことに喜びがあります。

 

——演奏会でお聴きするのがとても楽しみです。12月4日の「クリスマス・コンサート」で演奏してくださる曲について聴きどころを教えてください。

大坪:テーマが「祈り」だったので、楽器に合っていると思います。
ハンドベルは、時代で言えばバッハがいた頃に、イギリスの教会で生まれた楽器です。当時バッハの曲が演奏されるような事はありませんでしたが、時代を経てこうして出会ってみると、まるでオリジナルのように調和しているのが面白いです。
カッチーニのアヴェマリアとアメイジンググレイスは、今回「クリスマス・キャロルズ」を書いた山岸智秋さんの編曲によるものです。山岸さんは私の好みをよく知っていて、共通項も多いため、若い頃からタッグを組んで作品を作ってきています。

 

——大坪さんがおっしゃってくださったように、山岸智秋さんには、本コンサートのために「クリスマス・キャロルズ」を書いていただきました。山岸さんについてご紹介いただくとともに、今回の新曲に期待することなどをお話いただけますか。

大坪:山岸さんは、私が大学生の頃に教えていた高校のハンドベルクワイアの生徒でした。その後音大に進み、作曲編曲、ピアノ、各種合奏や合唱の指導、大学での教授活動等で活躍しています。
彼は私と音楽的な嗜好が似ているので、信頼してよく編曲を依頼します。私の細かい注文もよく汲んでくれますし、こちらで楽譜に少し手を加えたりする事にも寛容なのは、向こうも信用してくれているからではないかと思っています。
ただ、うちの人数では到底出来そうにない音数を書かれることもあり、毎回悲鳴を上げつつ仕上げながらもまた依頼する、ということをかれこれ30年来続けています。

今回の新作も、作品性の高いアレンジです。大量の音符を前にして、もう少し簡単だったらなと思いつつ、流石だなと思いながら音分けに取り組んでいます。
個性的な音使いをしながらも、素材としては古典的なクリスマスキャロルだけでメドレーになっているところも気に入っています。

 

大木麻理(C)Takashi Fujimoto

——今回共演する大木さんとは、以前(2019年12月)ミューザ川崎で共演されたと聞きました。今回の共演ではどのようなことを楽しみにされていますか?

大坪大木さんとは一度ご一緒しているので安心感があります。オルガンもハンドベルも教会生まれの楽器なので、共に演奏で祈れるのが嬉しいです。
どの曲も楽しみですが、今回はやはり、この公演の為に書かれた新作の「クリスマス・キャロルズ」に特別感があります。信頼できる共演者と編曲者で新しい作品を作れる希少な好機ですから、一回だけで終わらせるのは勿体ないくらいです。

 

——今回のコンサートには、「音楽」を通してコロナで疲れた方々を癒し、コロナに負けず音楽の力を信じて前に進みたい、というメッセージが込められています。「音楽の持つ力」は、ウィズコロナの現在、そしてアフターコロナでどのような役割を果たすと思いますか。

大坪:物理的に孤立しがちなコロナ禍での生活では、心の健康がQOL(クオリティ オブ ライフ)を左右します。音楽は直接心に刺激を与え、癒しや活力をもたらし、生き方にまで影響を与えると信じています。特に今後は、実演に触れて響きを浴びる体験の価値が見直されることと思います。
なんでもリモートで済むような生活習慣がついてきた今だからこそ、音楽を単なる情報として捉えるか、代替不可の体験として捉えるか、価値観の分かれるところではないでしょうか。
まだ厳しい状況下ではありますが、音楽ホール、実演家、そして聴衆の皆さまも、音楽体験の価値を諦めず、忘れず、共に乗り越えていければ嬉しいです。

 

 

——演奏会を楽しみにしている皆さまへ、一言お願いいたします。

大坪:大海の一滴のように僅かでも、たとえ一音でも響きを投じるからには何かに影響を与えていると信じ、演奏をしています。演奏会を楽しんでくださる皆さまお一人お一人のご安全、ご健康、お幸せを祈るとともに、その場を共有した全員から世界に向けた祈りが生まれることを期待しています。皆さまとご一緒できる事を心より楽しみにしております。

——お忙しい中ご協力いただきまして、誠にありがとうございました。
12月の公演を楽しみにしております!

(2021年9月事業企画課メール・インタビュー)