第3期登録アーティスト 福田優花(ピアノ)インタビュー<後半> (2026.3.7 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「最終年度リサイタル」)

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インタビュー

2024年度から2年間、京都コンサートホール第3期登録アーティストとして活動してきた、ピアニストの福田優花さん。後半では登録アーティストとしての活動の集大成となる「最終年度リサイタル」について話を伺いました。

※インタビュー前半は「こちら」よりご覧いただけます。

――最終年度リサイタルのテーマは「音楽で語られる愛」ですが、今回のプログラミングの意図を教えてください。

2年間アウトリーチでやってきたこと、伝えたいと思ったことを実際にリサイタルでも表現したいと思い、このプログラムを組みました。アウトリーチで伝えたかったことは、1年目も2年目も変わらず「自分の経験と音楽を重ね合わせて、音楽を楽しんでほしい」ということです。アウトリーチの対象は小学生が多かったのですが、リサイタルは客層が広がります。より多くの方、そしてその方々の人生に普遍的に重なるものは何だろうと考えたとき、その答えが「愛」でした。「愛」といっても様々な形があると思います。恋人への愛、家族への愛、友人への愛、ペットへの愛…。みなさんそれぞれの心に宿る愛を、ご自身の経験や気持ちと重ねながら聴いてもらえたら嬉しいです。

――今回演奏する5曲について教えてください。

はじめに演奏するドビュッシーの《亜麻色の髪の乙女》は、みなさんよくご存じの曲だと思いますが、原曲は片思いを表現した詩をもとに作られた歌曲で、後にピアノ独奏用に編曲されました。

ベートーヴェンの《ピアノ・ソナタ第31番》は後期の作品で、彼の人生観が表れている曲だと思います。ベートーヴェンのピアノ・ソナタは全て誰かに献呈されているのですが、この31番だけは誰にも献呈されていません。理由は諸説ありますが、私は、ベートーヴェンは大切な女性(ブレンターノ夫人)に献呈するつもりで作曲したが、結局は献呈せずに終わってしまったのではないかと想像しています。この作品にはベートーヴェンの秘められた恋情を感じます。またこの作品は、晩年のベートーヴェンに共通する、苦しさから幸福・歓喜へとつながっていく精神的なメッセージが込められているようにも思います。私自身、この曲を演奏すると、「人生は悲しいこと苦しいこともあるが、いいものなんだ」という、人類愛のようなものを感じます。

前半の最後に演奏するのは、アルゼンチンの作曲家ヒナステラの《3つの舞曲》です。2曲目が愛の悲しみを歌っているような感じがします。

リストの《バラード第2番》はギリシャ神話の『ヘロとレアンドロス』という悲劇に基づいた曲です。青年ヘロが恋するレアンドロスに会うために毎夜海を渡るのですが、ある晩、嵐が来て溺れ死んでしまうといった話です。悲恋の話なのですが、リストの曲は最後が盛り上がって終わるんですね。リストが神話からどのような結末・愛を描いたか、想像しながら聴いていただけたらと思います。

最後に演奏するのはシューマンの初期の作品《ピアノ・ソナタ第3番》です。全楽章を通じて、シューマンが後に結婚する「クララの動機」と呼ばれる音型が出てきます。この作品を書いた当時、シューマンはクララの父親に交際を反対されていたのですが、反対されてもなお、クララへの強い気持ちが感じられる、愛で包まれた曲です。

――考え抜かれたプログラムですね。とても楽しみです。

みなさんの大切な方のことを思い浮かべ、ご自身の気持ちと重ねながら聴いていただけたら嬉しいです。その一方で音楽的な背景を知っていただくと、より深く音楽を感じていただけるのではないかとも思います。音楽的なことは当日配布するプログラムに解説を書きますので、そちらとあわせて楽しんでいただけたら嬉しいです。

――プログラミングで工夫した点はありますか。

何かひとつでも聴き手の気持ち・経験と重なればと思い、様々な愛に繋がる作品を選曲しました。また、冒頭に演奏する《亜麻色の髪の乙女》はよく知られた曲ですので、「これから2時間のコンサートが始まる…」という緊張感をほぐすという意味で、リラックスしてお聴きいただけるのではないかと思い、1曲目に選びました。また、ヒナステラの作品は他の曲と比べて、雰囲気・曲調がガラッと変わります。アウトリーチの時も感じたのですが、身体を使った曲やリズミカルな曲は人の本能に響きます。楽しい気持ちになっていただき、前半を終えたいとの狙いでプログラミングしました。

――リサイタルのプログラムは、アウトリーチの構成と似ていますね。

そうなんです!気づいていただけて嬉しいです。はじめは聴きなじみのある曲で親近感を持っていただき、真ん中にリズミカルな曲を入れて身体で音楽を感じてもらう、そして後半は音楽をご自身の経験や気持ちと重ねて聴いていただくという、徐々に内面にアプローチしていく構成です。この最終年度リサイタルはアウトリーチの集大成ですので、アウトリーチの構成を踏襲して、アウトリーチの経験を活かしたプログラムを組みました。

――今回のプログラムで思い入れのある曲はありますか。

ブルーノ・リグット先生とフランスにて

最初と最後の曲です。私がフランスへ留学することになったきっかけは、ドビュッシーの作品でした。大学を卒業した2019年の春に受講した講習会(京都フランス音楽アカデミー)で、ドビュッシーの《前奏曲集》から何曲か演奏しました。その時に「とても素敵に弾けているよ」と言葉をかけてくださったのが、後にフランスで師事することになったブルーノ・リグット先生でした。ですので、ドビュッシーの《前奏曲集》は私にとって、ターニングポイントともいえる作品です。

シューマンの《ピアノ・ソナタ第3番》はフランス留学時に初めて取り組んだ曲です。リグット先生がシューマンとショパンを得意にされていましたので、せっかくなら先生とシューマンかショパンの大曲を学びたいと思いました。エコール・ノルマル音楽院の卒業試験でも演奏しました。とても満足いく演奏ができ、先生も私の演奏を聴いてとても喜んでくれました。私はフランスに2年留学しましたが、どちらかというと留学期間としては短い方だったと思います。それでも先生は「君と勉強ができてすごく嬉しかった。これからもっともっと素晴らしい演奏家になってほしい」と、この作品を演奏し終えたときにおっしゃってくださいました。私にとっては想いの詰まった大切な曲ですので、みなさんにも聴いていただき、そして喜んでいただきたいと願い、選曲しました。

――最終年度リサイタルは、京都コンサートホールの登録アーティストとしての集大成であるとともに、次のステージへの第一歩でもあります。これから先、演奏家としてチャレンジしてみたいことはありますか。

まだまだ演奏家としては未熟ですので、様々なことにチャレンジしていきたいと思っていますし、アウトリーチ活動もできる限り続けていきたいです。具体的には、アウトリーチのように聴き手と密にコミュニケーションが取れるようなコンサートをしてみたいです。大きなホールで演奏できるのはとても嬉しいのですが、聴き手のみなさんの表情が見えるくらいのサロンのような空間でお客さんと言葉を交わし、感じたことを共有しながら創り上げていくコンサートができたら素敵だなと思うようになりました。

――アウトリーチ活動を通じて様々な人と音楽を共有する時間が増え、もっとたくさんの方に自分の演奏を聴いてもらいたいという気持ちが生まれてきたのですね。

そうですね。でも、自分が一方的に弾いて演奏を聴いてもらうというよりは、聴いてくださった方と感想を共有したり、聴き手の想いをもっと感じたいという気持ちが大きくなりました。アウトリーチ活動を続ける中で、「人によってこんなにも感じることって違うんだ」と、視野が広まりました。思いもよらないような感想が出ることもあり、たくさんの気づきをもらえました。

――今後の活動予定について教えてください。

人前で演奏することはもちろんですが、指導者としてピアノを教えたり、共演者として大学で伴奏員をしたり、時にはコンクールの審査員をしたりと、音楽家として様々な活動を行っていきます。

なかでも、演奏家と指導者としての活動は両立していきたいと思っています。演奏家として知識や経験を積みつつ、それを指導者として伝えていきたいです。ピアニストとして、そして指導者として、常に成長し続けられる人でありたいです。

――音楽家としての目標はありますか。

大学生の頃、恩師の福井尚子先生と

 小学生から高校生まで師事していた福井尚子先生から言われた「あなたはピアノを弾くことで、これまで脈々と受け継がれてきた西洋音楽の礎の一部にならなければならない」という言葉がずっと私の心に残っており、そのような音楽家になりたいと常に思っています。この言葉をかけられたのは小学生の頃です。小学生にとってはとても難しい言葉ですよね。でも、私を一人の音楽家として扱ってくれたような感じがして、子供ながらに嬉しかったことを、今でも覚えています。

――最後に、みなさまへメッセージをお願いします。

2年間の活動の集大成として、そしてみなさまへの感謝を込めて準備をしてきた最終年度リサイタルです。ぜひ多くの方に演奏をお聴きいただけたら嬉しいです。そしてご来場くださったみなさまと素敵な音楽の時間を共有できたら、音楽家として幸せに思います。

――ありがとうございました。最終年度リサイタル、楽しみにしています。そしてこれからのピアニストとしての活動を応援しています!

(2025年12月 京都コンサートホール事業企画課インタビュー)

♪3月7日(土)開催「最終年度リサイタル Vol.1 福田優花 ピアノ・リサイタル」の詳細はこちら!

第3期登録アーティスト 福田優花(ピアノ)インタビュー<前半>(2026.3.7 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「最終年度リサイタル」)

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インタビュー

2024年度から2年間、京都コンサートホール第3期登録アーティストとして活動してきた、ピアニストの福田優花さん。2024年度は市内の小学校、2年目となる2025年度は小学校に加え、幼稚園や支援施設にも伺い、クラシック音楽を届けてきました。

2025年12月、登録アーティストとして全21回のアウトリーチを終えた福田さんに、2年間の振り返りと、活動の集大成となる「最終年度リサイタル」について話を伺いましたので、前半・後半に分けてお届けします。

前半では、2年間のアウトリーチ活動について、語っていただきました。

――2年間のアウトリーチ活動が終わりましたが、今の率直な気持ちを教えてください。

「楽しかった」の一言です。京都コンサートホールのアウトリーチ事業をきっかけに初めてアウトリーチというものに携わりました。はじめの研修で、アウトリーチについて座学で学んだものの、「本当にできるのだろうか・・・」と不安な気持ちで私の活動はスタートしました。でも、ホールのスタッフのみなさんとチームを組ませていただき、支えていただいたおかげで、心から楽しみながら活動できました。

――アウトリーチ活動を始める前、アウトリーチに対してどのような印象がありましたか。

研修時の様子

登録アーティストのオーディションを受けた時はアウトリーチの概要くらいしか知りませんでしたが、「楽しそう」という印象はありましたね。小学校や福祉施設に行き、ピアノを弾いて話をするといった、いわゆるトークコンサートのような、もう少し親しみやすいイメージを抱いていました。

オーディションの2次選考で、実際に小学4年生向けのプログラムを15分程実演するという課題があったのですが、今思い返すと、ピアノを弾いている時間がとても長く、話はしているものの一方的だったと思います。

研修を経て活動を重ねる中で、試行錯誤しながらプログラムを練り直したり、ホールのスタッフのみなさんや講師の方に相談しアドバイスをいただいたりしながら、いろいろな経験を積んで、やっと「私がやりたいアウトリーチってこういうものかな」というのが感覚的に分かるようになってきました。

――1年前のインタビューで、アウトリーチを始めたきっかけは、故 福井尚子先生からの勧めだったと伺いました。(1年前のインタビューはこちらをご覧ください。)

そうですね。ただ、もしかしたら「アウトリーチ活動をしてみたら」というよりは、「京都に貢献する演奏家になりたいのであれば、京都コンサートホールのアウトリーチ活動に参加してみては?」といった考えで勧めてくださったのかもしれないと、今は思っています。

第1期登録アーティストの募集チラシを見た時、「こんなことをするんだ」「楽しそうだな、やってみたいな」という気持ちはありましたが、当時は学生でしたのですぐに挑戦することはできませんでした。その後、大学院を卒業し2年間のフランス留学を終え帰国したタイミングで、第3期登録アーティストの募集がありました。しかも対象がピアノでしたので、タイミング的にも恵まれていましたね。私の中で「アウトリーチ活動をやってみたい」という気持ちが変わらずあったので、オーディションを受けました。

 

――2年間のアウトリーチ活動で思い出に残っていること・印象深かったことを教えてください。

初めはとにかく、曲のこと・ピアノのことをいろいろ説明していました。クラシック音楽に慣れ親しんでいる人であれば、曲名を聞いていろいろ想像できるかもしれませんが、日ごろクラシック音楽を聴かない方の場合は、説明がないと分かりづらいだろうと勝手に思い込んでいたのです。

でも、アウトリーチで出会った子どもたちは、大人もびっくりするくらいの想像力を持っていました。ただ単に音楽を聴くだけでなく、聴いた音楽から作曲家の想いや情景を想像できる力です。しかもそれは感覚的なものだけでなく、「始めと終わりに同じ旋律が出てきた」「音がだんだん大きくなっていた」「音が下がっていったから悲しい感じがした」など、いわゆる楽曲分析的なことを自然にしながら聴いていたんですね。そのように楽しみながら音楽を聴いてほしいと思っていましたので、このような場面に出会えた時は嬉しかったです。

――アウトリーチ活動の中で、常に意識していたことはありますか。

話をする際、常に聴き手の表情を見るように心がけました。また、必ず目を合わせ、自分に話しかけてもらっていると感じてもらえるよう意識しました。

――確かに、福田さんは子どもたちと話をするときに、子どもたちの輪の中に入っていって、姿勢を低くして話しかけていましたね。

何も考えずに自然とそうなっていましたね。初回のアウトリーチの時、相手が小さいので見下ろす形だと話しづらいのではないかと思い、しゃがんで私から見上げる形にしてみたら、スタッフさんから「すごい良かった!」と言ってもらえて。私自身もその方がコミュニケーションがとりやすかったので、それからは常にそうやってコミュニケーションを取るようにしました。

――プログラムで工夫した点・意識した点はありますか。

私がアウトリーチを行ったのは小学校が多かったため、参加型のアクティビティ(一緒に歌ったり、身体を動かしたり、クイズなど)をいくつかプログラムに取り入れました。私の演奏と話を聴いてもらうという一方通行のコミュニケーションではなく、一緒に楽しむアトラクションのようなイメージを持つようにしました。「一緒に」「参加しながら」「みんなで」といったことをいつも意識していましたね。

――福田さんがアウトリーチで一番伝えたかったことは何ですか。

「自分の経験と音楽を重ね合わせて、音楽を楽しんでほしい」ということです。これは1年目から変わっていません。日頃クラシック音楽に馴染みのない方にとっては、クラシック音楽=堅苦しいという印象がどうしてもあるかと思います。そのような中で、少しでも「クラシック音楽っていいな」「もっと聴いてみたいな」と思っていただくには、自分の経験と重ねながら聴いていただくことが一番だと考えました。少しだけ曲の背景や作曲家について説明をしつつ、あとは自由に想像しながら聴いてもらう。そこで何か、自分の経験や気持ちと重なる「共感」があれば、クラシック音楽を好きになってもらえると思っています。

――福田さんは活動1年目と2年目でプログラムの構成は変えていませんね。前半は視覚的・身体的に音楽を楽しみ、後半は音楽を聴いて情景や気持ちを想像する。伝えたいことが明確だったからだと思いますが、このプログラムに至った経緯を教えてください。

最初の研修で、講師の児玉真先生から「アウトリーチは聴き手のためにするもの。アウトリーチを通して、音楽が聴き手の心を豊かにしたり何らかの人生の助けになったりする。その一方で、演奏家にとっても何かメリットがなければいけない。一方的な奉仕ではなく、Win-Winの形であることが望ましい。そう考えたとき、あなたがアウトリーチで伝えたいことは何ですか」と問われました。

当時の私にとっては結構斬新というか、ハッとさせられました。綺麗ごとかもしれませんが、私がピアニストとして演奏するとき、「お客様に楽しんでいただきたい、聴いてよかったなと感じていただける演奏会にしたい」と思っていますが、演奏家にとってのメリットについては、少なくとも私自身は考えたことがありませんでした。

私にとってのメリットは何だろう…と考えたとき、一番に思い浮かんだことは、私の演奏をきっかけに「聴き手に音楽を好きになってもらえること」「聴き手の人生において、音楽が何かしらの役に立つこと」でした。そして「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ」は京都コンサートホールの事業ですので、ホールの想い・目的も大切にしたいと思いました。この事業の目的は「さまざまな理由でホールに来館できない方、クラシック音楽に接する機会の少ない方などに、クラシック音楽の喜びや楽しさを生演奏として届ける」ことです。その点においては、私の想いとホールの想いは一致していましたので、「 “クラシック音楽は面白いものだよ” と感じていただけるプログラムを組み立てよう!」となりました。

プログラムを組み立てるうえで、一緒に歌ったり身体を動かしたり、クイズを用いて知識を増やしていくことが楽しいのはもちろんですが、それを超えて「音楽を聴いて自由に想像する楽しさ」まで到達してもらいたいと思いました。ですので、まずは親しみのある曲でピアノとの距離を縮め、リズミカルな音楽を使って身体で音楽を体感してもらいつつ、最後は音楽で描かれた情景や作曲家の気持ちを想像するといった、徐々に内面にアプローチしていけるようなプログラム構成にしました。

――活動の中で、京都コンサートホールの登録アーティストでよかったと感じることはありましたか。

2025年3月ジョイントコンサートの様子

まず、ホールのスタッフのみなさんのサポートがとても心強かったです。ピアニストはどうしても1人で活動することが多いですが、常に支えてくださりチームとして活動している感覚でした。また年1回、1年目のジョイント・リサイタル、そして2年目の最終年度リサイタルと、ホールでの演奏機会をいただけることは、ピアニストとして大変貴重です。私自身、小さなころからコンクールや高校の定期演奏会など、何度も京都コンサートホールの舞台立っていますが、どれも思い出深い、そして私にとってはターニングポイントとなるような本番ばかりですね。

そして何よりも嬉しいのは、アウトリーチで京都の子どもたちに会えること、京都の施設で演奏できることです。自分の出身地で音楽活動ができることは音楽家として何よりの幸せですし、登録アーティストであるからこそできることでもあります。アウトリーチのたびに、京都コンサートホールの登録アーティストに選んでいただけてよかったと感じています。

――アウトリーチを終えて、福田さんが得たものを教えてください。

アウトリーチ先の学校にて

演奏家として宝物のような経験をたくさん積ませていただきました。また、留学を終えてこれからピアニストとして歩んでいくうえで何を伝えたいのか、自分自身と向き合う時間ともなりました。

音楽を通じてたくさんの方に出会い、思いを通わせ合うことができました。一般的なコンサートではアウトリーチのような距離感でお客様とコミュニケーションを取ることは難しいです。もちろんコンサートでも言葉(お話)がないだけで、その瞬間に聴き手が感じていることが言葉にならずとも発せられていると感じてはいましたが、そういったことをアウトリーチを通してはっきりと実感することができました。アウトリーチを経験しなければ得られなかったものであり、何よりそれがアウトリーチの楽しさでもありました。

――ありがとうございました。あっという間の2年間でしたが、とても充実した2年間でしたね。後半では、活動の集大成となる「最終年度リサイタル」について話を伺いました。後半もどうぞお楽しみに!

(2025年12月 京都コンサートホール事業企画課インタビュー)

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オルガニスト イヴ・レヒシュタイナー インタビュー(2026.2.28 オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.77「世界のオルガニスト“イヴ・レヒシュタイナー”」)

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インタビュー

 

京都コンサートホールが誇る国内最大級のパイプオルガンをお楽しみいただける人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。2026年2月28日に開催するVol.77は、スイス出身のオルガニスト イヴ・レヒシュタイナー氏にご出演いただきます。

フランスを拠点に活躍するレヒシュタイナー氏に、オルガンの魅力や今回のプログラムに関すること、そして最近の活動についてなど、メールインタビューを行いました。

———レヒシュタイナーさんはオルガンのオリジナル作品だけでなく、自らオーケストラ作品をオルガン版に編曲したり、ロック音楽を演奏したり、コンテンポラリーダンスと共演したりと多彩な活動をされていますね。従来のオルガニストの域を超えた様々な活動の中で感じる、オルガンの魅力を教えてください。

私は、オルガンがとても多彩であると同時に、楽器ごとにまったく異なる個性を持っているところが魅力だと感じています。どのオルガンも独自の音の世界を持つため、演奏のたびに、その楽器を一から理解し、音楽を形づくっていくことが求められます。時には、最初に弾いたとき好きになれないオルガンもあります。しかしそれでも、本番に向けてその楽器と向き合い続け、音楽をつくり込んでいく必要があるのです。たいていの場合、そのオルガンの良さが後から見えてきて、たとえ最高の楽器でなくても、結果的に良い演奏をお届けできることが多いです。

―――今回のコンサートでは、オルガンのオリジナル作品であるフランクの《交響的大曲》のほか、自らの編曲でシューベルトの弦楽四重奏《死と乙女》より第2楽章、そしてベルリオーズの管弦楽作品《幻想交響曲》を演奏していただきます。このプログラムのテーマ、そして選曲理由を教えてください。

今回のプログラムは、フランスの交響的伝統に敬意を込めてつくったものです。

私はベルリオーズの《幻想交響曲》をオルガン用に編曲しましたが、それはこの作品がフランス・ロマン派を象徴する作品だと考えたからです。

京都でのリサイタルでは、この作品と鏡のように呼応するフランクの《交響的大曲》を加えることにしました。というのも、この曲が純粋なオルガン作品でありながら、まるでオーケストラ作品であるかのように書かれているからです。フランクは、可能な限りオーケストラを模倣しています。音を響かせている途中で新しい音色を加えるという、当時としては新しい手法を用い、まるで管楽器セクションが途中から演奏に加わるような効果を生み出しています。

シューベルトの作品(「死と乙女」より第2楽章)は、フランク作品とうまく響き合います。オルガンで演奏することにより、この曲をよりオルガン的・オーケストラ的な観点から聴いていただくことができます。

―――レヒシュタイナーさんが編曲されたオルガン版の《幻想交響曲》は、日本では2021年にミューザ川崎のコンサートで取り上げられ、話題になりました。オーケストラの大作をオルガン1台で演奏するなんて、誰も想像しなかったと思います。どうしてこの作品を編曲しようと思われたのでしょうか。また、オルガン編曲版ならではの魅力を教えてください。

このアイデアは、トゥールーズのノートルダム・ド・ラ・ダルバード教会の1888年製ピュジェ・オルガンを、修復直後に初めて聴いたときに生まれました。そのオルガンが持つ、まるでオーケストラのように多彩な響きを生み出せる能力に強く刺激を受け、私はその魅力を記録に残そうと初めてのレコーディングを行いました。そのレコーディングで私は、フランスの交響的伝統を描き出したいと思ったのです。

どのような編曲作品であっても、原曲が持つ音楽的な要素をいくつか失います。しかし同時に、編曲を通して音楽が簡略化されることにより、作品の別の側面が明らかになることもあります。

オルガニストとして《幻想交響曲》を演奏していると、ベルリオーズの旋律と和声の素晴らしさのおかげで、毎回まるで驚きに満ちた音楽の旅をしているかのように感じます。これは、ものすごい持久力が要求される挑戦です。最後には、自分の手と足からまるでフルオーケストラを生み出したように感じられて、ちょっとした誇りさえ覚えます。

―――オーケストラの作品をオルガンで演奏するには、より多彩な音色が求められますね。レヒシュタイナーさんはレジストレーション(音作り)へのこだわりはありますか。どのようなことを考えながら、音色を作っていくのでしょうか。

スイス・ジュネーブのヴィクトリアホールにて

私が編曲をする時、特定のオルガンのスタイルを念頭に置いておこないます。ベルリオーズの場合、19世紀後半のフランス製のオルガンが私の基準としてありました。

実際に演奏するオルガンはそれぞれ音色が異なり、私が基準としたオルガンに近いものもあれば、そうではないものもあります。作品のスタイルに合う範囲で、そのオルガンの音色をどれだけ幅広く引き出せるかが重要です。

京都コンサートホールのオルガンのストップの中には、公演当日使われないものもあるかもしれません。フランスのシンフォニックな響きとは合わない音色のものもあるからです。しかしながら同時に、思いがけない音色の組み合わせが見つかり、それが驚くほど興味深い響きを生むこともあります。それこそが「生のコンサート」ならではの魅力です。つまり、その楽器を深く理解し、その可能性を最大限に引き出そうとすることがコンサートの醍醐味なのです。

——最近はどのような活動を行われていますか。今取り組んでいる作品や興味のあるもの、今後挑戦してみたいことなどを教えてください。

演奏家として、私はいつも「聴衆に新しい音楽体験を届けること」に関心があります。その考えに基づき、2025年7月にハンブルクで「Hymn to Remembrance(追憶への讃歌)」というプログラムを創作しました。これは、異なるスタイルの非常に対照的な作品を、即興でつないだり、唐突に切り替えたりしながら60分間ノンストップで演奏するというものです。

一見すると、選んだ作曲家や作品の組み合わせは奇妙に見えるかもしれません(バッハ、ピアソラ、メシアン、キース・ジャレット、ドリーム・シアター)。しかし、このプログラムには一つの明確なコンセプトがあり、それぞれの作品が生み出す感情が物語のようにつながるよう、流れを考えて配置しています。会場の反応はとても温かく、演奏者と聴衆のあいだに豊かな感情が生まれ、特別な体験となりました。

移動式オルガン「Explorateur」(レヒシュタイナー氏のFacebookより)

自宅では、私が自ら設計した移動式オルガン「 Explorateur」の音楽的な可能性を探っています。この楽器は、各パイプの風圧を個別にコントロールできる仕組みを持っており、これまで経験したことのないほど多彩な表現を生み出してくれます。この楽器を使ってどんな新しい音楽をつくることができるのか、どんなプロジェクトに取り組めるのか、もっと時間をかけて探っていく必要があると感じています。自分のオルガンを携えて旅をし、そのたび新しい場所に自分で楽器を設置して演奏するという経験は、私にとって非常に新鮮で、そして非常にチャレンジングなものです。

トニー・デカップによって製作された移動可能なモジュール式オルガン。レヒシュタイナー氏も考案に関わった。

―――最後に、京都のお客様へメッセージをお願いいたします。

京都に伺い、コンサートホールとそのオルガンを楽しみ、私の演奏を聴きに来てくださる皆さまと一緒にひとときを過ごせることを、とても楽しみにしています。どのコンサートも一期一会で、混乱や暴力、不安が渦巻く世界の中で出会える、特別な時間です。私は自分のささやかな才能を使って、聴衆の方々の心を満たし、音楽で心を養っていただけるような感動をお届けしたいと思っています。

―――ありがとうございました。京都でレヒシュタイナーさんの演奏をお聴きできることがますます楽しみになりました!

(2025年12月 メールインタビューにて 京都コンサートホール事業企画課)

♪ 2月28日(土)開催「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.77 世界のオルガニスト“イヴ・レヒシュタイナー”」の詳細はこちら!