ウインドクインテット・ソノリテ 上野博昭(フルート)& 村中宏(ファゴット)インタビュー【前半】(2023.10.21 プーランク没後60年 パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ「プーランクの横顔」)

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京都コンサートホール

「軽妙洒脱でユーモラス、時々メランコリック」な音楽を書いた、フランスの作曲家 フランシス・プーランク。2023年は、そんなプーランクの没後60年の年にあたります。
京都コンサートホールでは、プーランクのピアノ曲や室内楽作品にフィーチャーしたコンサート「プーランクの横顔」を10月21日(土)に開催し、さまざまな角度から“プーランクの横顔”を投影することにより、作曲家の魅力を再発見します。出演者は、フランスの巨匠 パスカル・ロジェと、京都にゆかりのある木管五重奏団「ウインドクインテット・ソノリテ」です。
今回は、「ウインドクインテット・ソノリテ」のメンバーであり、京都市交響楽団の楽団員でもあるフルート奏者の上野博昭さんとファゴット奏者の村中宏さんにインタビューし、プーランクやソノリテのメンバーに関するお話を伺いました。【前半】と【後半】の2回にわたり、お届けします。

(聞き手:高野裕子/京都コンサートホールプロデューサー)


高野:今年はプーランク没後60年の年ということで、去年(2022年)から「2023年はプーランクの演奏会をするぞ!」と意気込んでいました。
プーランクって、同郷・同時代人のドビュッシーやラヴェルなどに比べると、日本ではあまり親しまれていない作曲家ですよね。

上野博昭氏(以下、敬称略):そうですね、オーケストラ作品をあまり書いていないからですかね。

村中宏氏(以下、敬称略):僕は京都市交響楽団に10年間在籍しているのですが、定期演奏会にプーランクの作品が出てきたという記憶は、あまりないのですよね。

高野:国内では鑑賞機会の少ないプーランクですが、実際に聴いてみると本当に魅力的な音楽なんですよね。今年はプーランクの記念の年ということで、これをきっかけに、たくさんの方々にプーランクの魅力をあらためて知っていただきたいなと考えています。
ところでお二人は、当ホールのSNSにアップロードしたパスカル・ロジェさんの動画はご覧になりましたか?

上野:はい、観ました。いやぁ、もう、ロジェさんの(プーランクとの出会いに関する)エピソードには敵いませんよね。だって、生まれる前、お母さんのお腹の中でプーランクの音楽を聴いていらっしゃったんですよね。

高野:そうそう、とても素敵なエピソードでした。
今日は、お二人のプーランクとの出会いについても教えてくださいますか。

上野:僕とプーランクの出会いは、中学生時代です。プーランクの《フルート・ソナタ》がきっかけでした。この作品は、購入するフルートのCDに必ずと言って良いほど入っている、名曲中の名曲ですからね。
フルート吹きにとってプーランクはけっこう身近な作曲家で、彼のフルート・ソナタはフルート吹きがまず最初に憧れる曲でもあります。

高野:ちなみに、初めてプーランクの《フルート・ソナタ》を演奏されたのは何歳ですか。

上野博昭氏

上野:実は、人前で初めて演奏したのはついこの間なんです(笑)。
演奏しようと思えばできるけれど、音楽の深いところに踏み込もうとすると、ちょっと勇気がいる。人前で軽々しく演奏できないんですよね。なぜなら、皆がそれぞれに考える「プーランク」があるから。
だから「俺はこう演奏する!」と思って演奏しても、それが受け入れてもらえるかどうか分からない難しさがあるのです。

高野:村中さんとプーランクの出会いはいつですか?

村中宏氏

村中:プーランクはファゴット独奏のために曲を書かなかったから、近い存在の作曲家ではなかったですね。
ただ、ファゴットが入っている作品は3つあります。クラリネットとファゴットのデュオやオーボエ・ファゴット・ピアノのトリオ、そして今回の演奏会でも演奏する、ピアノと木管五重奏のための六重奏曲です。
でもプーランクって、本当に難しい。例えば、クラリネットとファゴットのデュオは、クラリネットの友人と一緒に「よし、ちょっとやってみよう」と演奏したことがあるのですが、これがなかなか形にならないのです。
技術的にハイレベルなことを要求されるという難しさもありますが、ジャズっぽい要素が入っていて、ぱっと吹いてみてもサマにならない。クラシックだけではなく、色々な曲を知っていて、技術的にも上達した人が演奏してはじめて、かっこよく演奏できる曲なんだと思います。

高野:《六重奏曲》も難しい曲ですか?

村中:はい、難しいですね。コンサートのプログラムに初めて入れたのは大学生の頃でしたが、その頃から今にいたるまで、難しいなと思います。

高野:難しいというのは、技術的な難しさでしょうか?

村中:そうですね。プーランクは管楽器が好きだったそうで、楽器のことをよく熟知しているなぁと思います。それぞれの楽器が得意とする技術を使っているのですが、逆に、それぞれの楽器が苦手とすることもよく分かっているのです。楽器の短所をうまく音楽に取り入れている箇所が多々あって、それが音楽の幅の拡がりにも繋がっているなと思います。

高野:例えばファゴットで言うと、どのような難しいことを要求されますか。

村中:ファゴットって音が小さな楽器で、ピアノの左手パートの音を重ねることが多い。ファゴット=伴奏、と思われがちなのですが、プーランクは、その音が小さいという短所を逆手に、ファゴットのソロを入れるのです(笑)。《六重奏曲》でもそのような箇所がありますが、ファゴット以外の5人は音を出さず、ファゴット1人に吹かせるのです。そして、次の音楽に繋げていく。「プーランクは楽器のことをよく分かっているなぁ」と感心します。

高野:いま村中さんが、プーランクの楽器の扱いの巧妙さについてお話してくださいましたが、フルートに関しても同意見でいらっしゃいますか。

上野:プーランクの《フルート・ソナタ》は、1957年にストラスブールで初演を行ったフルート奏 者のジャン=ピエール・ランパル (1922-2000) と楽曲制作段階から密接な意見交換を交わしながら作られているので、フルート奏者にとって演奏しやすいように色々と変更されることは予測されます。ほぼ2人の共作だと思ってもいいのではないかとさえ思います。2人が出会わなければ世の中に残らなかったかもしれないのですし。
つまり、プーランクは、演奏家の意見を取り入れることを非常に大事にしていた作曲家なんじゃないかと思います。

高野:このようなお話って、演奏家ならではのお話ですよね。楽譜や書籍を眺めているだけでは分からない、貴重なお話です。
わたしはピアノでプーランクを演奏したことがありますが、楽譜を見ているだけではぜんぜん分かりませんが、実際に音にしてみると「これぞ、プーランク!」という響きになるのが不思議でした。

上野:《六重奏曲》にも、プーランクらしい箇所がたくさん出てきます。

高野:お二人は、「プーランクらしさ」ってどのようなものと考えていらっしゃいますか。

村中:演奏会のチラシに「軽妙洒脱でユーモラス、時々メランコリック」って書いてあるでしょう。まさにこの通りだと思うんです。真正面から「私、プーランクなんです」っていう音楽じゃなくて、ちょっと斜めから見ているようなニヒルな部分があったり、冗談っぽい部分があったり。それぞれの楽器で色々なことをやらされて、一人ひとりがとっても個性的なメロディを吹いているんですよね。それがもう、次から次へ、目まぐるしく現れるんです。
初めて聴く人は「面白い!」と思ってもらえると思いますが、「次、どうなるの?えっ、次は何が出てくるの!」って疲れちゃうかもしれません(笑)。
一般的な曲だったら、だいたい「次はこういう展開だろうな」と予想がつくじゃないですか。プーランクの《六重奏曲》は、予想がつかないです。まるでパズルのピースのように音楽が並んでいて、最終的に大きなひとつの作品になるようなイメージです。

上野:パズルのような音楽だから、一瞬なんですよね。ひとつ吹いたら、またすぐ次の音楽がやってくる。

高野:よくわかります。わたしがピアノでプーランクを弾いていた時、その切り替えが難しいなと思っていました。譜面上は難しい音の並びではないのですが、音にした途端にださくなっちゃう。

上野:そうなんですよ。何が難しいって、奏者一人ひとりがめちゃくちゃうまくないと、プーランクは音楽として成り立たないんですよ。名曲中の名曲なのですが、全員がうまくないと成り立たないので、なかなか敷居の高い作品でもあります。

村中:今回は大ピアニストのパスカル・ロジェさんとこの名曲を演奏できるので、フレンチなあの雰囲気、お洒落な感じ、そういうのを一緒に表現したいですね。
お客さまにはぜひ、6人が対等に音楽をやっている面白さというものを感じていただきたいです。

(【後半】に続く)


上野 博昭(うえの・ひろあき)

岐阜市出身。名古屋芸術大学音楽学部器楽科卒業。大阪交響楽団(旧大阪シンフォニカー交響楽団)フルート副首席奏者、大阪フィルハーモニー交響楽団フルートトップ奏者を経て、2017年2月より京都市交響楽団の首席フルート奏者として就任し現在に至る。神戸女学院大学、大阪芸術大学講師。中学・高校の吹奏楽指導、各地方面での講習会開催、コンクールの審査員などを務める。 レッシュプロジェクトマスター級トレーナーの資格を取得。

村中 宏(むらなか・ひろし)

東京藝術大学をアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞し卒業。ソリストとしてヨルマ・パヌラ指揮、藝大フィルハーモニア管弦楽団と共演。宝塚ベガ音楽コンクール第1位、兵庫県知事賞受賞。大阪国際音楽コンクール最高位。日本管打楽器コンクール第3位。JILA音楽コンクール室内楽部門第1位。松方ホール音楽賞受賞。NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」に出演。京都市交響楽団ファゴット奏者。

【公演情報】
プーランク没後60年
パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ
「プーランクの横顔」
2023年10月21日(土)15:00開演(14:30開場)
ピアノ:パスカル・ロジェ
木管五重奏:ウインドクインテット・ソノリテ
(フルート:上野博昭、オーボエ:須貝絵里、クラリネット:吉田悠人、ファゴット:村中宏、ホルン:深江和音)
プログラム:オール・プーランク・プログラム
クラリネット・ソナタ、3つのノヴェレッテ、《15の即興曲》より第13番・第15番・第6番、フルート・ソナタ、六重奏曲 ほか
詳細はこちら⇒コンサート情報のページ

オルガニスト 福本茉莉 インタビュー(2023.09.30 オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.72)

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京都コンサートホール

京都コンサートホールの人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」の72回目(9/30)は、世界の名だたるコンクールを制覇した福本茉莉さんをお迎えします。

福本さんにとって京都初リサイタルとなる本コンサートに向けて、Zoomでインタビューを行いました。
留学先としてドイツを選んだ経緯や、ドイツを中心とした演奏活動について、そして今回演奏してくださるプログラムなど、様々なお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください!

――ご無沙汰しております!前回は2020年9月に「第24回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート」にソリストでご出演いただきましたので、今回の公演は3年ぶりのご登場となります。前回のメールインタビューではオルガンを始めたきっかけを伺いました。その後東京藝術大学でオルガンを学ばれて、ドイツのハンブルク音楽演劇大学へ留学されましたが、なぜ留学先にドイツを選ばれたのでしょうか?

ヴォルフガング・ツェラー先生と

福本茉莉さん(以下敬称略):大学入学直後から、やりたいことや自分に合うことが何かをずっと考えていました。レパートリーを考えた時に、バッハが遠い存在になるのが嫌だったので、バッハが得意な先生を探し始めたんです。

20歳の時、ハンブルク音楽演劇大学のヴォルフガング・ツェラー先生の講習会を受けに行きました。その後、様々なバッハのCDを聴きましたが、1音目から心を持っていかれたのがやはりツェラー先生だったので、先生に就くことに決めました。

また同時期に、歴史的なオルガンを見にドイツを半年ほど1人旅をした際、ハンブルク近くのシュターデという町にある「聖コスメ教会」に、北ドイツで有名なオルガン製作者アルプ・シュニットガーが作った楽器があり、どうしても弾いてみたくて当教会のオルガニスト マルティン・ベーカー氏にコンタクトを取りました。
そして初めて弾いた時に「こんなにも綺麗な音が出る楽器が世の中にあるのか!」と衝撃を受けたのです。まるで宝石箱をぶちまけたかのような、キラキラと輝く音でした。
この楽器との出会いもハンブルクに行こうと思った理由の一つです。

ちなみに、今年念願叶ってこの楽器でCDの録音(発売は来年予定)をしたところです!

――そんな運命的な出会いがあったのですね。留学後はどのように進路を決めたのでしょうか?

福本さん:もともとは2年で日本へ帰る予定でしたが、留学1年目が終わった時に受けた「第7回武蔵野国際オルガンコンクール」で優勝したことにより、状況が変わりました。
ドイツでは、留学した頃から定期的に仕事をいただいていたので、ドイツに残った方が仕事があると考えました。そして、ドイツでオルガンの仕事をするためには、教会音楽家の資格を持っている方が有利なので、演奏の博士課程と並行して、教会音楽を勉強し直し、演奏活動をしながら計8年間の学生生活を送りました。
最後の学期中に、ヴァイマール・フランツ・リスト音楽大学の常勤講師の公募があったので応募したところ、採用していただくことになりました。

――そうだったのですね!大学の常勤講師というのはきっと狭き門なのでしょうね。

福本さん:そうですね、大学のポストは公募されること自体が少ないので、なかなか難しいと言われています。

――その後、ポーランドのヴロツワフ国立音楽フォーラム(NFM)でアーティスト・イン・レジデンスを務めていらっしゃいましたね。

福本さん:はい、オファーをいただき、2020/2021シーズンのアーティストを務めました。ただ1公演を終えたところでコロナ禍になってしまい、子どものためのプロジェクトなど様々な企画があったのですが、残念ながら実現できませんでした。
ですが、演奏会だけでもやろうということで、残りのコンサートを昨年から今年にかけて実施しました。またその一環で、パスカル・ロフェ氏指揮のNFMヴロツワフ・フィルハーモニー管弦楽団とレコーディングも行いました。なお、そのCD(エルジュビエタ・シコラ:協奏曲集)は、今年『レコード芸術』の特選盤に選ばれました!

バロック・オーケストラとヘンデルのオルガン協奏曲を演奏

パスカル・ロフェ氏とシコラのオルガン協奏曲を演奏

――そうだったのですね。そのほかにドレスデンの聖母教会でも定期的にに演奏されているとSNSで拝見しました。これはどのような経緯だったのでしょうか

ドレスデン聖母教会にて

福本さん:突然メールでオファーをいただきまして(笑)、去年の12月からオルガニストの主任代理を務めています。
この聖母教会は、第二次世界大戦中に爆撃を受け崩壊し、その後約45年間瓦礫のまま放置されていました。ドイツの東西統一の時に資金を募って再建されたため、ドイツ人にとって再統一や再び立ち上がったという想いを象徴する、歴史的な建物なんです。
教会と密接に関わる仕事は初めてで、ありとあらゆる経験をさせていただいています。具体的には礼拝と演奏会、そして来年度のオルガン・シリーズのキュレーターも任されています。

――すごいですね!演奏活動と大学の常勤講師の仕事を並行されている今の生活はいかがですか?

福本さん:今のところ、やりたいことが全部できているなと感じています。
アクティブに演奏活動をしながら、自分が経験したものを生徒たちに教えられるのは、とてもいい環境だと思います。

――生徒さんたちがとても羨ましいです。多忙な生活を送られているかと思いますが、練習は大学でなさっているのでしょうか。

福本さん:実は大学の楽器では練習できないので、練習楽器の無い状態が4年半続いています。鍵を貸してくれる知り合いの教会や、別の演奏会のリハーサルの空き時間を見つけて練習をしています。

 ――そうだったのですね。ちなみにプロフィール写真(本記事一番最初の写真)はどちらの教会で撮影されたのでしょうか。

クライス社長と

福本さん:オルガン・ビルダーのクライス社の社長に紹介していただいた、ドイツのボンにある教会です。この教会は、京都コンサートホールと同じクライス社のオルガンなんですよ。ちなみにポーランドのヴロツワフ国立音楽フォーラム(NFM)の楽器もクライス社の楽器でした。

――なんだかご縁を感じます。クライス社長は今年の5月に当ホールにもいらっしゃいました。今年はどこの国で演奏を予定されていますか?

福本さん:ドイツがメインですが、日本も少し、あとはオーストリアやポーランドでも演奏を予定しています。

――今回の京都公演ではオール・ドイツ音楽・プログラムを披露してくださいますね。

福本さん:メインにレーガーを置きたかったので、レーガーにつなげることを考えつつ、皆さんに馴染みのある作曲家で揃えて、聴きやすいプログラムを組みました。
ベートーヴェンの〈アレグレット〉は可愛らしい曲ですし、リストの《神は我がやぐら》はオーケストラが祝祭的に演奏するために書かれた曲なので、気負わずにお聴きいただけると思います。

――メインのレーガーは大曲ですね。

福本さん:レーガー《序奏、パッサカリアとフーガ ホ短調》は重量級の曲ではありますが、音色の変化がはっきりしており、色んな音を楽しんでいただけると思います。レーガーの中でも聴きやすい作品で、3部に分かれています。最後の「パッサカリア」は、同じテーマが変奏していくので、初めて聴く方でもわかりやすいと思います。
またレーガーを例えると水戸黄門なんです(笑)。何があったとしても最後はハッピーエンドで、そこまでの道筋もわかりやすいんです。
ぜひ音のシャワーを浴びに、遊びに来ていただけたら嬉しいです。

――まさか水戸黄門が例えに出て来るとは思いませんでした(笑)。この作品はよく弾かれていますか。

福本さん:東京藝術大学の修士リサイタルで初めて弾いた後は、ニュルンベルクのコンクール決勝やハンブルクの修了試験、スイスのリサイタル、今年のウィーン・デビューとなったリサイタルでも演奏しました。日本の演奏会でこの作品を弾くのは初めてだと思います。

レーガーを弾いたウィーン・デビュー(イエズス会教会)

――大事な節目で演奏されてきた曲なのですね!福本さんにとってドイツ音楽の魅力は何でしょうか?

福本さん:ドイツ音楽と一番比較しやすいフランス音楽は、1オクターブ以上の音域で作られる「開離和声」が多く、透明感があって開かれた印象があります。
対してドイツ音楽は、1オクターブの中に音を詰め込んだものが多く、旨味がぎっしり詰まっている感じがします。その極みがレーガーだと思っています。

――それでは最後に、京都のお客様にメッセージをお願いいたします。

福本:3年ぶりに京都コンサートホールに帰ってくることができ、そして関西圏では初めてのリサイタルを弾かせていただけること、とても嬉しく思っています。日本でリサイタルという形で、私が大好きな作曲家であるレーガーを取り上げるのが実は今回が初めてなので、生誕150年を記念するレーガーイヤーにこのような機会をいただけて感謝しております。
今回はこのレーガーの大作をメインに、またドイツのオルガン音楽の歴史には欠かせないバッハやメンデルスゾーン、リストらの作品と共に、多彩なオルガンの音色をお楽しみいただきます。
ライブでしか味わえない、全身が震えるようなオルガンの醍醐味をぜひ、当日会場で満喫しに遊びにいらしてください!

リンツのブルックナーハウスにて(C)Floris Fortin Fotografie

――色々とお話を聞かせてくださってありがとうございました。9月30日を楽しみにしております!

★公演情報はこちら

ピアニスト パスカル・ロジェ メッセージ動画(2023.10.21 プーランク没後60年 パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ「プーランクの横顔」)

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インタビュー

2023年10月21日(土)午後3時開演「プーランクの横顔」(京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ)に出演する、ピアニストのパスカル・ロジェ氏。
コンサート開催に向けて、特別にメッセージ動画を寄せてくださいました。
今回のコンサートのテーマである「フランシス・プーランク」について、様々な秘話を交えながら、とっても素敵なお話をご披露くださっています。

ちなみにパスカル・ロジェ氏は、大のプーランク好き。1999年にプーランクのピアノ作品全集をリリースしており、今日にいたるまで、プーランクのピアノ作品録音の決定盤として世界中で愛聴されています。

<メッセージ動画 日本語訳>
みなさん、こんにちは。プーランクについてお話することができて、とても幸せです。
というのも、プーランクは私にとって非常に特別な作曲家であり、特別に好きな作曲家だからです。
わたしはプーランクのピアノ作品はもちろん、歌曲、室内楽、コンチェルトといった、彼のピアノが入る全作品を録音しました。この録音作業を通して私は彼の世界をとことん探求しました。私にとって、いつもとても個性的で、とてもフランス的なプーランクの音楽を演奏することは素晴らしい経験です。

なぜ、わたしはプーランクがこんなに好きなのか?個人的なエピソードがあります。本当かどうかわかりませんが、とても気に入っているエピソードです。
私の母が私を妊娠している時、プーランクの協奏曲を勉強していました。彼女はオルガニストだったので、オルガンとオーケストラの協奏曲を演奏することになっていたのです。
彼女は妊娠している間、この作品を練習していたので、私は母のお腹の中でこの曲をずっと聴いていたでしょうし、どこかで私の体にその音楽が刻み込まれたと、必然的にいつも思っていました。その5,6年後、母はもう一度この協奏曲を演奏する機会があったのですが、その時、すでにわたしは譜めくりもできましたし、楽譜を読むこともできました。そして、とてもよく覚えているのですが、この時、私は初めて音楽を聴いて、心から感動したのです。
これは、私が何年か前に聴いた音楽だと認識していたからだったのでしょうか?
そうですね、その可能性はあるでしょう。このエピソードは私にとって、プーランクに対する非常に特別な愛情の解釈になっています。

プーランクの音楽は非常に特別です。プーランクはドビュッシーのように革新者ではありませんでしたし、改革者でもありませんでした。でも、非常に独創的な音楽を書く音楽家でした。あるフランスの批評家は、プーランクの音楽は多くの作曲家の音楽が混ざり合ってできたようなもの、と言いました。でも、彼の音楽は誰の音楽でもないんです。つまり、彼は特に独創的な和声を使ったわけではないのですが、プーランクならではの方法で作曲していたのです。そして、私たちは、それがプーランクだとすぐに分かるのです。これは、非常に強力な個性の現れです。

ピアノは、いつもプーランクのお気に入りの楽器でした。彼はピアニストでした。だから、彼の作品の4分の3がピアノ作品なんです。
室内楽作品もまた、プーランクにとって非常に重要なジャンルでした。
プーランクは、木管楽器を特別に愛していました。プーランクは、オーボエ、クラリネット、フルートのために素晴らしいソナタを書きました。 今回の演奏会では、クラリネットとフルートのために書かれた2曲のソナタを演奏します。それらの作品を、若い日本の音楽家たちと共演できることがとても幸せです。彼らがどのようにプーランクの音楽を受け止めるのか、どうやって演奏するのか、どうやって解釈し、どうやってプーランクの音楽に対する愛情を観客と共有することができるのか、楽しみです。
プーランクの音楽は私たちを幸せにしてくれますし、優しく、またユーモアのあるプーランクの音楽を聴いていると心地よい気分になります。だから、お客様は、プーランクの音楽を聴くと幸せな気持ちになるに違いありません。プログラムも多彩ですしね。

今回演奏するプログラムは、ピアノ独奏曲とフルートやクラリネットのためのソナタ、そして木管五重奏とピアノのための六重奏曲です。この六重奏曲は本当に、本当に素晴らしい作品です。だから、私は、このプログラムをプーランク没後60年の年に演奏できることがとても嬉しいのです。彼は、1963年に亡くなりました。当時、プーランクの死を理解するには、私は若すぎました。しかし、私の母はプーランクと知り合いでした。プーランクの協奏曲を演奏した際、その場に彼はいなかったのですが、その演奏がラジオ放送された時、プーランクはそれを聴いたのです。
プーランクは感謝の気持ちを母に伝えるために、賛辞の言葉が書かれたメッセージカードを贈ってくれました。そして私の母は、私が20歳の誕生日に、そのカードを私にプレゼントしてくれたのです。

今回、プーランクのコンサートを開催することができて、本当に感動しています。プーランクは私にとって、非常に特別な作曲家です。プーランクの音楽を聴いたお客様は、きっと沢山の幸せと喜びを感じてくださることと思います。


◆公演情報◆
プーランク没後60年
パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ
「プーランクの横顔」
2023年10月21日(土)15時開演
京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
出演:パスカル・ロジェ(ピアノ)、ウインドクインテット・ソノリテ(上野博昭[フルート]・須貝絵里[オーボエ]・田悠斗[クラリネット]・村中宏[ファゴット]・深江和音[ホルン])
プログラム:<オール・プーランク・プログラム>
クラリネット・ソナタ、3つのノヴェレッテ、3つの無窮動、《3つの間奏曲》より第2番 変ニ長調、《15の即興曲》より第13番・第15番・第6番、フルート・ソナタ、六重奏曲
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第2期登録アーティスト 福田彩乃(サクソフォーン)インタビュー(2023.3.4 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ジョイント・コンサート)

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アンサンブルホールムラタ

2022年度より2年間アウトリーチ活動を行う、2名の京都コンサートホール第2期登録アーティスト。
1年目は京都市内の小学校などの学校でそれぞれ10公演ずつアウトリーチを行い、その活動報告として、ジョイント・コンサートを2023年3月4日(土)に行います。

サクソフォーン奏者の福田彩乃さん(ふくた・あやの)にインタビューを行いました。楽器との出会いや1年目のアウトリーチ活動、そして「ジョイント・コンサート」など話をお聞きしました。

ぜひ最後までご覧ください。

福田さんについて

――まずは、福田さんについてお聞きしたいと思います。アウトリーチの感想文を子どもたちからもらった際、よく書かれている質問なのですが、サクソフォーン(以下「サックス」)との出会いについて教えてください。

福田彩乃さん(以下敬称略):初めてサックスと出会ったのは、中学校年生の部活体験の時でした。もともとピアノを弾いていたのですが、部活体験でサックスを初めて吹いて、その楽しさから「この楽器、やりたい!」と思いました。体験の時にどれくらい楽器を吹けたかを元に判断されるオーディションで、無事に勝ち抜くことができ、アルト・サックスを担当することになりました。

――楽しいという感覚は大事ですよね。そのあと高校まで三重で過ごされて、進学先として京都市立芸術大学を受けようと思われたきっかけは何でしょうか?

福田:高校一年生の終わり頃、三重県内で実施された楽器の講習会に初めて参加しました。ちょうど進路に悩んでいた時期だったのですが、初めてプロの方に楽器を教わり、「私も音楽の道でやっていきたい」という気持ちが芽生えました。そこから講習会で教えてもらった方に、後の師匠となる先生を紹介してもらい、レッスンに通っているうちに芸術大学を受けたいという思いになりました。

――最初から京芸を目標としていたのでしょうか。

福田:受験当時は京都市立芸術大学にサックス科がなかったので、愛知県立芸術大学を受験しました。ただ落ちてしまい、ショックを受けて楽器をやめることも考えましたが、一浪することにしました。その途中で、京都市立芸術大学にサックス科ができる情報を聞いて、目指すことにしました。
もし初年度の受験で受かっていたら、今とは全然違うことになっていたかもしれないので、京都には勝手に運命を感じています(笑)

――大学に入るまでは京都と縁はありましたか。

福田:小学校の修学旅行の時に来たくらいで、京都は憧れの存在でした。早いもので移住してから9年目になります。

――現在は大学院の博士課程に在籍していらっしゃいますが、今年度の活動は研究がメインでしたでしょうか。

福田:今年度はやはり博士論文の執筆を一番重視していましたが、ありがたいことに演奏の機会を多くいただいたので、両立がけっこう大変でした。今までと比べると練習時間が少なかったので、いかに少ない時間でクオリティーを保つかということに悩んだ一年でした。

――演奏に研究、そしてアウトリーチと、大変な一年だったのですね。大学院に行こうと思った理由は何でしょうか。

福田:感覚で伝承されている奏法を文章などにまとめられたら自分の強みになりますし、これから指導する立場になった時に役に立つのではないかと思い、大学院に進みました。

――ちなみに博士論文はどのようなテーマで書かれましたか。

福田:サックス演奏時の口の中の状態について、日本語音節に限定して、例えば「あ」と「お」を意識した時の違いが、サックスの音に影響を与えるかを研究していました。
音を数値化して分析した結果、大きく異なるデータが得られました。自分の体感としても、意識する音節によって音が変わる印象があります。なので、感覚的なものが今回の論文で証明されたのではないかと実感しています。

――たしかに細かいニュアンスが演奏では大事ですよね。普段の演奏にも影響はありますか?

福田:はい、かなり影響があります。特にサックスの音色について研究していたこともあり、音を出す時の意識がかなり変わり、少しずつですが「この口の形をすればこんな音が出る」というのが掴めるようになってきました。
また曲を演奏する中で、ずっと同じ吹き方をしていると退屈になってしまうので、意識して変えるようになりました。

――これまで日本語の発音をベースにした研究はあまりなかったのでしょうか。

福田:口元(アンブシュア)の研究はされるようになってきたのですが、具体的に日本語の音節を意識した研究はあまりなかったので、貴重かと思います。

――サックスは他の楽器と比べると、歴史が浅い楽器かと思いますので、日本でこれから役立ちそうですね。

福田:そうですね、特に楽器を始めたばかりの人に有用ではないかと思っています。

アウトリーチについて

――さて、今年度から京都コンサートホールの登録アーティストとして活動してくださっていますが、登録アーティストに応募されたきっかけを教えてください。

福田:もともと組んでいる「NOK Saxophone Quartet(ノックサクソフォンカルテット)」というグループで、3年ほど前に1年間アウトリーチ活動をしていました。その後アウトリーチに携わる機会が少なかったのですが、もっとやっていきたいと考えていました。そんな時にこのアウトリーチ制度を見つけ、ぜひ挑戦してみたいなと思い応募しました。

――実際にこの一年間活動されてみて、普段の演奏活動に与える影響はありましたか?

福田:いい影響ばかりです。アウトリーチは子どもたちとの距離が近い分、反応をストレートに感じることができて、言い回し一つで反応が変わるのがわかります。
その経験から、ちょっとしたことで全体の印象にどれだけ影響が出るかを学びました。

――カルテットで行っていたアウトリーチと比べていかがでしたか?

福田:カルテットの時は、他のメンバーの意見を聞いてまとめ役をすることが多かったのですが、今回は自分で全部決めないといけなかったので大変でした。プログラム作りにもずいぶん悩み、試行錯誤した日々でした。

――そうだったのですね。プログラムは共演者の曽我部さんと話し合って決めていますか?

福田:ピアニストの曽我部さんとは長い期間を一緒に過ごしているので、話し合って曲を決めています。新しいレパートリーをさらに少しずつ増やして、新しいことにも挑戦できればと思っています。

――曽我部さんとはいつ出会われましたか?

福田:京都市立芸術大学で出会ったので、今年で9年目になります。ピアノの伴奏法のレッスンのためにペアが組まれて、たまたま同じペアになったのがきっかけです。

――最初に会った時の印象はどうでしたか?

福田さん:元気で愉快な人だなという印象でした。自分の考えをしっかり持っているので、悩みを相談すると意見をくれたり、音楽的なこともアドバイスしてくれるので、私にとって大事な存在です。

――アウトリーチへ行く前には研修やランスルー(通しリハーサル)を行いましたが、実際に初めてアウトリーチへ行った時はどうでしたか?

福田:大人を相手に行ったランスルーと比べて、実際のアウトリーチの方がやりやすく感じました。反応がとても良い子どもたちだったので、楽しかったです。研修までは自分の目線でしか考えられていなかったので、多方面から意見を聞けたのは貴重でした。

――たしかに福田さんのアウトリーチを見ていると、いつも楽しんでされていると感じます。

福田:そうですね笑)、毎回子どもたちとのキャッチボールを楽しみながらやってきました。

――毎回子どもたちに合わせて言い回しを変えているのは素晴らしいと思いました。この一年間の活動で印象的だったことはありますか?

福田:吉松隆作曲の〈悲の鳥〉が6分半ほどの曲なので、低学年の子たちがずっと聞くのは難しいのではないかと思っていました。実際にアウトリーチで演奏してみたらそんなことはなく、子どもたちが集中して聴いてくれたのが、一番印象に残っています。
また後日いただいたお手紙の中で「〈悲の鳥〉が一番良かった」という意見もたくさんあり、とても嬉しかったです。

――福田さんは、最初のプログラム提出時から〈悲の鳥〉をメインに据えていて、聴かせたいという思いがあったと思うのですが、どういう意図があるのでしょうか?

福田:私自身悩んでいた時に励ましてくれたのが音楽だったこともあり、感情を揺さぶる音楽が好きです。「感情が動く」ということを子どもたちにも体感してもらいたくて、この曲を選びました。

――アウトリーチでは、曲の背景にあるエピソードをお話されているので、その意図が子どもたちに伝わっているように感じます。アウトリーチを通して子どもたちに一番伝えたいことは何でしょうか?

福田:近年はYouTubeなどで気軽に音楽が聴けますが、音楽は突然生まれたものではなく、色んな人が関わって、その人たちの気持ちや背景にあるものが反映され一つの曲ができていると私は思います。
アウトリーチでは、奏法や楽器の歴史について知ってもらい、最終的には「背景にあるものを知った上で音楽を聴いてほしい」ということを一番伝えたいと思っています。

――2年目の活動に向けた目標は何でしょうか?

福田さん:来年度は小学生だけでなく、大人の方も対象になるかと思います。アウトリーチの訪問先の方に何を伝えたいのかを自分の中でより明確にし、プログラム作りをしたいと思っています。

――登録アーティストの活動は2年間ですが、活動を終えた後にやってみたいことはありますか?

福田:ずっと京都で活動していきたいと思っています。演奏活動をする上で、私にとってアウトリーチはとても大切な活動なので、アウトリーチで得た経験を活かせるような活動をしていきたいと考えています。
通常のソロリサイタルでは、トークはアンコール前に少し、ということが多いと思いますが、私はどういう気持ちで演奏を聴いてもらうか、導入が大切だと思っているので、しっかりしたプログラムのコンサートでもトークを入れたいと思っています。

――通常のコンサートだとプログラムノートで内容を伝えることが多いですよね。

福田:もちろんプログラムノートも大切ですが、クラシック音楽に馴染みのない方もいますし、色んな方を対象に演奏活動をしたいので、トークで私たちのことも知っていただきつつ、演奏も聴いていただきたいと思っています。

――アウトリーチとつながっていますね。

――ちなみにサックスはいろんなジャンルで活躍できる楽器かと思いますが、その中でもクラシックでやっていこうと思われた理由は何でしょうか?

福田:初めて楽器と出会った吹奏楽部での選曲が、クラシックの落ち着いた曲が多かったことから、自分の好みがクラシック寄りになりました。あとは自分の出したいと思っている音が、クラシック音楽で使う、歌うような優しい音だと思うのが理由です。

――本拠地を東京に移して活動されるアーティストも多いですが、京都をベースにしたいと思っているのですね。

福田:京都が好きというのもありますが、京都市立芸術大学サックス科の第一期生ということもあり、これから京都の地でサックスという楽器をより広めていきたいと思っています。

――京都コンサートホールとしても応援しています!ちなみに京都で好きな場所やお気に入りはありますか。

福田:鴨川沿いが好きでよく散歩に行くのですが、四季折々の景色や時間によっても雰囲気が変わり、移り変わっていく様子が好きです。

――いいですよね。ほかにハマっていることや好きなことはありますか?

福田:ちいかわ」というキャラクターにハマっていて、グッズに囲まれて暮らしています。あとは水の生き物が好きで、亀を飼っています。京都水族館にもよく行きます。

あとはパソコンを触るのが好きなので、チラシのデザインをしたりします。アンサンブルやリサイタルのチラシ、プログラムも作りました。普段はほとんど楽器かパソコンを触っているという感じです。他にサックス四重奏のための編曲もよくやっています。

――すごいですね!!

福田さんがデザインした公演チラシ

 

ジョイント·コンサートについて

――さて、話題を「ジョイント·コンサート」に移したいと思います。これまで京芸の演奏会などで、京都コンサートホールで演奏される機会はあったかと思いますが、その中でホールでの思い出があれば教えてください。

福田:大ホールは、大学4年生の時に京都市立芸術大学の定期演奏会でソリストをさせてもらったことが思い出に残っています。
アンサンブルホールムラタは、同じく大学4年生の時に芸大のサックス科がようやく全学年揃い、サックス科での第一回の記念すべき演奏会をしました。演奏会を運営する立場でもあったので、とても記憶に残っています。

――そうだったのですね。アンサンブルホールムラタでリサイタルをするのは初めてですか?

福田:はい、一人は初めてですので、とても楽しみです。

――今回のプログラムについて、選曲意図を教えてください。

福田:今回登録アーティストになって初めて音楽ホールで演奏するので、この一年間どういうアウトリーチ活動を行ってきたのかを交えて、演奏したいなと思いました。
そのためアウトリーチでいつも演奏していた、サンジュレーの《コンチェルティーノ》を入れました。そのタイミングで楽器紹介もしようと考えています。
エスケシュ作曲の《リュット》は、サンジュレーと対照的で、特殊奏法を多用した現代曲です。
また《コンチェルティーノ》はサックスが生まれた頃の曲で、対して《リュット》は割と最近に作られた作品です。100年ほどしか経っていないはずなのですが、サックスでできることがたくさん増えたことを伝えたいと思いました。
そのあとは、私が一番大事に思っている「歌うようにサックスを吹くこと」を伝えられるような作品を2曲選びました。

――サックスの可能性を知っていただけるプログラムですね。それでは最後にお客様へのメッセージをお願いします。

福田:初めてコンサートに来ていただける方でも楽しんでいただけるように、トークを交えながら演奏いたします。来て良かったと感じていただけるような内容を考えておりますので、気軽に足を運んでいただけましたらと思います。
お待ちしております!

――ありがとうございました。ジョイント・コンサートを楽しみにしております!

2023年3月4日開催の「ジョイント・コンサート」の公演情報はこちら

☆福田彩乃さんからの動画メッセージ

「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページはこちら

第2期登録アーティスト 鎌田邦裕(フルート)インタビュー (2023.3.4 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ジョイント・コンサート)

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アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホール第2期登録アーティストとして、アウトリーチ活動を1年間行った2人のアーティストが、3月4日開催の「ジョイント・コンサート」に出演します。本公演では、それぞれの想いがぎゅっと詰まった、特別なプログラムを皆さまにお届けします。
公演に向けて、第2期登録アーティストのひとりであるフルーティストの鎌田邦裕さんにインタビューを行いました。この1年間のアウトリーチ活動やご自身のこと、また「ジョイント・コンサート」のプログラムなどについてお話しいただきましたので、ぜひ最後までご覧ください!

――9月から始まった2022年度のアウトリーチ活動が無事終わりましたね。この1年間のアウトリーチ活動で印象的だったことは何でしょうか?

鎌田邦裕さん(以下、鎌田さん):子どもたちの「素直な反応」です。抽象的ですが、フルートの音を“届ける向き”やその場所(音楽室や体育館など)での“響きのイメージ”などを少し変えるだけで、反応がすごく変わるんですよ。さらにお話を交え、言葉を使うことで、子どもたちの聴き方やイメージする幅みたいなものが、全然変わってくるんだなと感じました。
毎回、自分の音楽や想いを「届ける」ことをとても意識していて、「一緒にやろうね、一緒に感じようね」という気持ちを込めて臨んでいます。

――普段のコンサートとこのアウトリーチ活動で、お話や演奏で変えていることはありますか?

鎌田さん:私は普段のコンサートでもお話をたくさんするようにしているのですが、話し方や内容は大人向けと子ども向けでもちろん変えています。でも、演奏の方は大人・子どもに関わらず、いつも自分が出せる全力を出さないといけないと思っています。
また、普段のコンサートでも、音楽に初めて触れる方にも届くように、わかりやすく演奏することを心掛けています。例えば、楽譜に「(ピアノ:弱く)」と書いてあっても、ただ小さく、弱く演奏するだけではないんです。例えば、舞台上でこそこそ話の演技をするときに、実際の距離感の声の大きさでこそこそ話をしても、誰にも伝わらない。でも、みんなに聴こえるような声でこそこそ話の演技をして初めて、お客さんにこそこそ話の演技をしていることが伝わる。演奏も同じように、わかりやすく、味濃く色付けてお届けするということを大切にしています。

――アウトリーチ活動が始まる前に、4回の研修会を経てプログラムを組みましたよね。実際に子どもたちの前で披露してみて、いかがでしたか?

鎌田さん:自分のやりたいことと、子どもたちが感じ取れることの差をどのように埋めていくのかがとても難しいなと感じています。子どもたちが聴きたいものだけを演奏するのではなく、初めて聴く曲でも、まずは一度聴いてみてもらうことが大事だなと思うので。
一方で、音楽に入る取っ掛かりとしては、みんなが知っている曲の方がいいなと思っていて、今のプログラムでは、映画『となりのトトロ』の「さんぽ」のメロディーを使って、イメージを膨らませてもらうワークショップをしています。こちらが想定している以上に面白い、自由な発想の答えが出てくることもあるので、毎回とても刺激的です。

――来年度に向けて、意気込みをお願いします。

鎌田さん:来年度に新たに出会う方々とも、アウトリーチを通して、音楽でも言葉でもコミュニケーションをとっていきたいですし、そこからみなさんの心も、自分自身の心も、さらに豊かになっていけば嬉しいですね。

――それではここで、鎌田さんの自身のことについてみなさんにご紹介したいと思います。まず、鎌田さんとフルートとの出会いについて教えてください。

鎌田さん:元々は4歳頃からピアノを習っていました。母が大人になってから趣味でフルートを始めていて、小学2年生の頃に、母がフルートを習っていた先生にピアノを教えてもらうことになったんです。その教室ではもちろん周りはフルートを吹いている方ばかりだったので、自分もフルートを吹いてみたいと思うようになり、小学3年生の10月に楽器を買ってもらって習い始めました。

――大学は、京都市立芸術大学に進学されましたよね。鎌田さんのご出身は山形県鶴岡市ですが、なぜ京都市立芸術大学を選んだのでしょうか?

鎌田さん:親との約束で、大学に進学するのだったら国公立の大学が条件だったので、「じゃあ、(音楽学部のある)芸大を目指そう!」となりました。芸大受験に向けて音楽を本格的に学ぼうと動き始めたのが、高校3年生に上がる年の春休みで、その後ご縁があって、8月の夏休みに京都市立芸術大学の大嶋義実先生と出会いました。レッスンを受けると自分の音色の悪さを指摘されることの連続で、1時間のレッスンがそれだけで終わるような感じでした。私は小学校の頃からフルートを吹いていたものの、芸大受験を目指すようなレッスンを受けていなかったので、全然きちんと吹けていなかったんですよ。その時は、自分の耳も開いていなかったので、大嶋先生が言っている意味が全くわかっていませんでした。ただ、先生がこれだけ熱心に「ちがう」と言うのだから、何か意味があるんだろうなと思って。「良い音で吹かないと意味がない」とずっと思っていたのもあって、大嶋先生のもとだったら音色が磨けると考え、京都市立芸術大学を受験しました。

――京都市立芸術大学で、アウトリーチ活動を一緒に行っている佐藤亜友美さんに出会ったんですよね。

鎌田さん:ピアニストの佐藤亜友美さんは大学の同級生で、クラリネットの山永桂子さんと3人で組んだ「panna cotta(パンナコッタ)」というトリオでも活動しています。「panna cotta」がなかったら、佐藤さんと一緒にアウトリーチ活動をすることはなかったかもしれないなと思っていて、とてもありがたい出会いだと思っています。

――そもそも京都コンサートホール第2期登録アーティストに応募したきっかけは何だったのでしょうか?

鎌田さん:自身のリサイタルでは曲間で毎回お話を入れていて、次の曲に入るための導入をしてから演奏しています。これはアウトリーチと通ずるところがあるかもしれないと以前から思っていました。第1期登録アーティストの先輩方のアウトリーチ活動や「ジョイント・コンサート」を見て、とても面白いアプローチの仕方だなと感動したのを覚えています。私も登録アーティストになれば、ホールからのサポートを受けられ、学ぶ機会が増えて、自身の成長につながるだろうなと思い、応募させていただきました。

――現在は京都コンサートホールのアウトリーチ活動のほかに、どのような演奏活動をしていますか?

鎌田さん:関西を中心にオーケストラの客演で演奏したり、フルートの指導を行ったりしています。また、地元の鶴岡市でリサイタルを20歳のときから続けていて、今年で10回目となりました。地域柄か、山形では音楽を学ぶ機会や場所がとても少なかったので、音楽の文化の土壌を作るために、種を蒔いているんです。今後は日本全国でも同じように、音楽家になりたい人たちが夢を叶えるための「架け橋」になっていければなと思っています。

――ここからは、3月4日開催の「ジョイント・コンサート」についてお伺いしたいと思います。まず、京都コンサートホールでの思い出があれば教えてください。

鎌田さん:初めて京都コンサートホールに来たのは、大学の定期演奏会だったと思います。大ホールにあった左右非対称な不思議な形のパイプオルガンがとても印象に残っています。何よりも特徴的だと感じたのが螺旋状のスロープで、外からはわからないのに、エントランスホールに入った瞬間からとても芸術的だなと思いました。以前ロビーコンサートにも出演させていただきましたが(2022年1月29日開催「京都コンサートホール・ロビーコンサート Vol.9 鎌田邦裕 フルートコンサート」)、とても素敵な空間でした。
アンサンブルホールムラタには、何度もコンサートは聴きに来ていますが、ステージに立つのは今回が初めてで、とても嬉しいです。

――「ジョイント・コンサート」のプログラムはどのように組みましたか?

鎌田さん:今回のプログラムは、アウトリーチで演奏している曲を中心に組んでいます。これは、一度アウトリーチで聴いてくれた子どもたちに、“コンサートホール”で同じ曲を聴いてみてほしいと思って選曲しました。
また、フラッター(巻き舌により音を震わせる特殊奏法)がたくさん出てくる「鶴の巣篭もり」を入れました。アウトリーチでフラッターを紹介するときに「くまんばちの飛行」演奏しているので、その「くまんばちの飛行」の“洋”の響きとは異なる“和”の響きを味わってもらえると思います。
さらに、プログラムの最後ではプーランクの「フルート・ソナタ」を演奏しますが、この曲は12~13分ほどあって子どもたちには少し長く感じるかもしれません。ですが、1楽章から3楽章まで通して聴いて「ひとつの物語を全て読み切った」という経験もしてみてほしいなと思い選曲しました。
プログラム全体を料理のフルコースだと思って、順番に味わっていただければと思います。

――それでは最後に、お客様に向けてメッセージをお願いします。

鎌田さん:フルートってどんな楽器なんだろう、音楽って何なんだろうと興味をもっている時点で、既に音楽の才能があると思います。その気付きや好奇心はとても素晴らしいものだと思うので、その探したいものを持って「ジョイント・コンサート」を聴きに来てくれたら嬉しいです。
また、音楽は心を動かしてくれるツールだと思うので、お越しいただいたみなさんに自分の心と向かい合ったり、思いを馳せたりする時間を過ごしていただけるような演奏会にしたいです。そして、心が動くとはどういう意味なのかを一緒に考えられたらいいなと思っています。

――たくさんのお話をありがとうございました!「ジョイント・コンサート」でお会いできるのを楽しみにしています!

★Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「ジョイント・コンサート」(3/4)公演詳細はこちら
★鎌田邦裕さんのアウトリーチ活動はこちら <1> <2> [⇒Facebook]
★鎌田邦裕さんのからの「ジョイント・コンサート」に向けたメッセージ動画はこちら [⇒YouTube]

(2023年2月 事業企画課 インタビュー)

 

オルガニスト ミシェル・ブヴァール 特別インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

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インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏を迎えます。

待望の京都初公演に向けて、メールインタビューを行いました。
今回ご披露いただくセザール・フランクを中心とした特別プログラムやオルガンとの出会いなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

——この度はお忙しい中インタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まずブヴァールさんとオルガンとの出会いについて、教えていただけますか。

ミシェル・ブヴァール氏(以下「ブヴァール氏」):私は5歳からピアノを始め、11歳のときにオルガンを弾き始めました。私の祖父ジャン・ブヴァール(1905-1996)はルイ・ヴィエルヌの弟子で、作曲家でした。私は彼からごく自然な形で、音楽やオルガンに対する情熱を学びました。父は医者だったのですが、彼もアマチュアのオルガン弾きでした。自宅にオルガンがありませんでしたので、父はピアノでバッハの「前奏曲とフーガ」を弾き、私にオルガンのペダル部分を弾くように言いました。
後に、祖父は父に、2つの鍵盤とペダルがついた、イタリア・バイカウント社製の電子オルガンをプレゼントしました。私もその楽器を使って、バッハやヴィエルヌ、そして祖父ジャンの作品を弾き始めました。そして、祖父と一緒に教会に行った時、初めて本物のパイプオルガンと出会ったのです。その出会いは雷に打たれたかのようでした。その時、とても冷たい音がする電子オルガンと自然な音がする本物のパイプオルガンの音の違いを知ることができました。
オルガンも好きでしたが、ピアノも同じくらい好きでしたので、プロのオルガニストとして活動しようと決断する前、20歳くらいまではピアノとオルガンの両方を勉強し続けました。

——そうだったのですね。ブヴァールさんにとって、オルガンに魅せられた点はどういったところでしょうか。

ブヴァール氏:パイプオルガンで最も気に入ってる点は、この楽器が持つマルチで素晴らしい能力です。バッハの作品に見られるようなポリフォニーや対位法を完璧に表現できますし、またクープランの作品が持つフランス的な詩情や音色も表現できます。さらには、交響曲のようなオーケストラの音を模倣することだってできるんです。
あとは、天才的なオルガン製作者による優れたオルガンにも魅力を感じます。たとえば、バッハの時代に活躍したドイツのジルバーマンであったり、フランクの時代に活躍したフランスのカヴァイエ=コルであったり・・・。ヴァイオリンの世界で言えばストラディヴァリウスなどが挙げられますが、オルガンも同様で、非常に名高く、魅惑的な音を持つ楽器が存在するのです。

——パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院の教授を定年退職なさったとお聞きしましたが、最近の演奏活動について教えていただけますか。

ブヴァール氏:2022年度は特別に忙しい1年です。
今年の3月以降、私はリサイタルの他に、ロッテルダム(オランダ)、ブリュッセル(ベルギー)、ハノーファー、ベルリン、ポツダム、ハンブルク(ドイツ)、トゥールーズ、ディエップ、ルション(フランス)、サンセバスチャン(スペイン)、スタヴァンゲル(ノルウェー)、チューリッヒ(スイス)などで、マスタークラス(特に今年生誕200年を迎えるセザール・フランクに関するもの)を行いました。
また、アルクマール(オランダ)やシュランベルク(ドイツ)で行われた国際コンクールの審査員も務めました。また10月にはオランダで、ハーレム・セザール・フランク・コンクールの審査も務めます。
ちなみに今回の11月の日本ツアーの後は、1130日にソウルでも演奏会をする予定です。

——本当に世界を飛び回っていらっしゃるのですね。これまでの演奏活動で印象に残っていることはありますか。

ブヴァール氏:これまで、たくさんのコンサートを行い、素晴らしい楽器にも出会いました。例えば、ドレスデンやフライブルクのジルバーマン製オルガンや、フランスの偉大なカヴァイエ=コル製オルガン、ポワチエのクリコ製オルガン、サン・マクシマンのイスナール製オルガン、ロチェスターのキャスパリーニ製オルガンなどです。そして、パリのノートルダム大聖堂やアムステルダム、ヴェニス、ロンドンのウェストミンスター寺院、リオ・デ・ジャネイロなど、素晴らしい場所でも演奏会をしました。
また2016年、ヒューストン教会で開催された、AGO(アメリカ・オルガニスト協会)の記念公演のように、特別な状況で開催されたコンサートも印象に残っています。このコンサートでは、アメリカの1,000人以上のオルガン奏者の前で演奏したのですよ。とっても緊張しました。

——さて話を今回の京都公演に移します。今回の公演では、生誕200周年を迎えるセザール・フランクの作品を中心に演奏いただきます。フランクのオルガン作品の魅力はどういったところにあると思いますでしょうか。

ブヴァール氏:セザール・フランクのオルガン作品、特に《3つのコラール》は、ベートーヴェンのピアノソナタに匹敵するほどの非常に素晴らしい形式美を備えており、音楽的な深みと内面性を持つ作品です。
この作品特有の詩情や力強さは、全ての人々に感動を与えることができると思っています。

——《3つのコラール》は〈第3番〉を本公演でも演奏くださるということで、楽しみです。今回はフランクの作品だけでなく、古今の作曲家たちの作品をプログラミングしてくださいましたが、その意図を教えていただけますか。

ブヴァール氏:今年はフランクの生誕200年ではありますが、私はフランクだけを取り上げるつもりはありませんでした。フランクの代表的な作品と共に、フランク以前・以降のフランスとドイツで作られた作品を取り上げる方が、京都のお客さまにとって興味深いのではないかと考えたのです。
実際のところフランクは、作曲家としてはドイツ風、オルガニストとしてはフランス風という2つの側面を持っていますし、フランク自身、彼の後継者たちに影響を及ぼしましたので。

——今回のコンサートで弾いていただくフランクの3作品についてご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:フランクのオルガン作品として、彼の3つの創作期からそれぞれ1曲ずつ選曲しました。
まず1865年に創作された、有名な〈前奏曲、フーガと変奏曲〉。次に、1878年、トロカデロのコンサートホールに設置されたカヴァイエ=コルのオルガンのこけら落としのために書かれた《3つの作品》から〈英雄的作品〉を演奏します。そして最後に、彼が亡くなる数週間前、18909月に作曲された《3つのコラール》より、第3番を演奏します。

——ありがとうございます。フランク以外の作品についてもご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:ルイ14世時代の荘重なフランス形式で書かれた、ルイ・マルシャンによる《グラン・ディアローグ》でコンサートを始めることも楽しみですし、私の師であるアンドレ・イゾワールが見事に編曲したバッハの《4台のチェンバロと管弦楽による協奏曲》を演奏することも楽しみです。また、メシアンの傑作〈神は我らのうちに〉でコンサートの幕を閉じることも幸せに感じています。
ほかにも、私の祖父ジャンの作品や彼の友人であったモーリス・デュリュフレの作品も演奏する予定です。

——私たちもとても楽しみにしております。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします。

ブヴァール氏:京都コンサートホールの大ホールでリサイタルをさせていただけることを幸せに思います。京都は私の妻である康子が生まれ育った、特別な街であり、40年以上前に初めて京都を訪れて以来、日本の家族に会うために定期的に訪れていますから。
また今回、セザール・フランクに関する、特別なプログラムを準備しました。京都の音楽愛好家の皆様にはぜひともご来場いただき、一緒に音楽を共有したいです。
私は日本を心から愛しています。皆様のために演奏できることは私の大きな誇りであり、大きな喜びです。

——ありがとうございました。11月に京都でお待ちしております。

(2022年8月 事業企画課メール・インタビュー)


★公演詳細《オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70「世界のオルガニスト“ミシェル・ブヴァール”」》(11月3日)はこちら

★「オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー」はこちら

★ブヴァール氏の演奏&メッセージ動画

★京都コンサートホールのパイプオルガンについてはこちら

オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

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インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏が京都コンサートホールに初登場します。

世界中で演奏活動を行うとともに、パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院で教授として後進の指導にも力を入れてきたブヴァール氏。彼の指導を受けたオルガニストたちは現在、世界中で活躍しています。その一人であり、東京芸術劇場の副オルガニストとしてご活躍中の川越聡子さんに、ブヴァール氏についてさまざまなお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください。 Continue reading “オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)”

ヴァイオリン奏者 弓 新さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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京都コンサートホール

19世紀に活躍したベルギー出身の音楽家セザール・フランク。
京都コンサートホールでは、フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催いたします(10月22日)。
本公演では、フランクがピアノと室内楽のために遺した傑作の数々をお届けします。

公演に向けて、《ヴァイオリン・ソナタ》でヴァイオリン独奏を、そして《ピアノ五重奏曲》で第一ヴァイオリンを担当する、弓新さんにメールインタビューを行いました。
弓さんは、現在ドイツを拠点に、世界中で活躍しているヴァイオリニストで、京都コンサートホールには2018年6月26日「田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪第26回」以来、二度目のご出演となります(その時のインタビュー記事はこちら)。
今回のインタビューでは、弓さんが思うフランク作品の魅力や共演メンバーなどについてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。
――ご無沙汰しております。京都コンサートホールには4年ぶりのご登場となりますが、前回(2018年)のコンサートの思い出やホールの印象を教えてください。
弓 新さん(以下「弓さん」)2018年に演奏した際のプログラムは、サン=サーンスからラヴェルまでの作品を扱った、20世紀初頭のフランスのサロン文化 “コンセール・プリヴェ”、というテーマに沿ったものだったと思います。今回演奏するフランクの作品も大体その少し前あたりの時代に書かれたので、前回のコンサートの続きの様な感覚がしています。
ホールについては、前回の演奏会の際に折角憧れの磯崎新建築の中に居ながらコンサートに集中していたので建物にあまり注意を払うことが出来ていなかったのですが、今回は前日からホールでのリハーサルがあり、建築としても鑑賞する時間も取れそうなので楽しみにしています。

「田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪第26回」公演より(2018年6月26日)
――弓さんは現在ドイツを中心にご活動されていますが、現在の演奏活動について教えていただけますでしょうか。

弓さん:2020年3月から北西ドイツ・フィルハーモニー(Nordwestdeutsche Philharmonie)でコンサートマスターを務めています。オーケストラの他にソロやリサイタル、室内楽のコンサートをしています。

――次に今回の演奏会についてお聞きします。本演奏会では、今年生誕200周年を迎えるセザール・フランクを取り上げます。弓さんにとってフランクとはどのような作曲家でしょうか。

弓さん:フランクの作品は、子供の頃にソナタや一部のオルガン作品に出会い、非常に感銘を受けたのを覚えていますが、次第にこれといった飛び抜けた個性が感じられなくなり、遠ざかってしまっていました。これは恐らく当時の自分の耳にフランクの独創性を聴き分けて、楽しむだけの経験がなかったというのもありますが、フランクの決してやりすぎない、バランスの取れた音楽的な性格と形式美を重視する姿勢が退屈に感じられたとも言えると思います。

今回このコンサートで演奏する機会をいただいた事で、改めてフランクの生涯や作品をもう少し全体的に知りました。これまで目を向けてこなかったような作品、例えば管弦楽のための「プシケー」や後期のオルガンの為の「3つの小品」(1878年)など、フランクの後期作品にある、あくまでバランス感覚は保持されつつもフランクなりの、言ってみればエロスと言うか、精神の危機、心の揺れ動きのようなものに気がつく事ができました。

――本公演で演奏いただく《ヴァイオリン・ソナタ》と《ピアノ五重奏曲》については、どうでしょうか。作品の魅力や聴きどころを教えていただけますか。

弓さん:ヴァイオリン・ソナタ》に関してはもう語り尽くされていると言ってもよいほど、この作品はポピュラーですが、今回この作品と(弦楽四重奏ではなく)《ピアノ五重奏曲》が一回のコンサートで演奏されるのは、フランクの生涯を知った後ではとても興味深いです。
と言うのも、この二つの作品はどちらもフランクがワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴いて以降の作品であり、また、まさに“トリスタン”におけるテーマである、愛と愛に関連するポジティヴな面とネガティヴな面、至福、苦しみ、障害、ドラマ、救済、喜び…という共通項がそれぞれの作品で対照的に表現されているように思えるからです。

《ヴァイオリン・ソナタ》はウジェーヌ・イザイの結婚祝いに書かれ、その目的に相応しく祝福するような、明るい性格が作品を通してみられるのに対して、《ピアノ五重奏曲》の方はその調性(へ短調)や、半音階や動機の扱い方から、暗く強迫観念的なものを感じます。
実はフランクがこの五重奏曲を書いた当時、歳の離れた弟子のオーギュスタ・オルメスという熱烈なワグネリアン、かつ歌手だった女性と恋仲になっていたらしいのですが、この女性は当時の様々な文化人男性から求愛されていたらしく、あのサン=サーンスも二回求婚して断られているそうです。この作品を献呈され初演もしたサン=サーンスが、演奏後舞台上に楽譜を置いていったというエピソードの理由は推して測るべし、という事ですね。もちろん敬虔なキリスト信者のフランクの事ですから、妻帯者である自身のモラルとワーグナー的な愛との間で葛藤を抱え、随分のたうち回ったのだろうかと、そんな考えをこの五重奏のうねるような半音階を聴き続けていると持ってしまいます。

今回のコンサートの副題は “神に愛された作曲家セザール・フランク”ですが、個人的には人間フランクのアンビバレントで複雑な内面性をこの二作品から感じ取っていただけるのではないか、と考えています。

――次に今回の共演者についてお伺いします。今回、フランスを代表するピアニスト エリック・ル・サージュさんと共演いただきますが、楽しみにされていることを教えてください。

弓さん:実はル・サージュさんとエベーヌ・カルテットのフォーレの《ピアノ五重奏曲》の録音がお気に入りなのです。ですので、今回このような形でフランクの最も素晴らしい室内楽作品を一緒に演奏できるのは大変嬉しいことです!

――《ピアノ五重奏曲》では、弓さんにとって旧知の弦楽器奏者の皆さんとの共演になりますが、共演される藤江さん・横島さん・上村さんについてそれぞれご紹介いただけますか。

弓さん:藤江さんは今回共演するカルテットメンバーの中で唯一、パリ国立高等音楽院で学ばれた方で、現在はトゥールーズ・キャピトル管でコンサートマスターを務めていらっしゃいます。ル・サージュさんもパリ音楽院の出身ですから、お二人からはフランスの側から見たフランクのスコアの読み方を教えていただけるのではないかと期待しています。
横島くんとはスズキ・メソッドから私が桐朋高校の音楽科を中退してチューリヒへ留学するまでの同期で、桐朋の音楽教室にいた頃から、作曲家であるお父上の分厚い作曲理論の本を読んだり、聴いたこともない曲について話しているような人で、尊敬している友人の一人です。彼とは、高校の時にモーツァルトのニ短調のカルテットを一緒に弾いているので(その時も彼はヴィオラを弾いていました)、13年振り(!)に共演することになります。
上村さんは桐朋時代の一学年上の先輩で、その後バーゼルに留学されました。私がチューリヒに留学していた頃とは時期が重なっていないのでスイスでお会いしたことは無いのですが、モダンチェロと古楽両方で充実した活動をしていらっしゃる方です。共演するのをとても楽しみにしています。

こうしてみると、ドイツ、フランス、スイス、日本と、異なる音楽的バックグラウンドを持った音楽家が京都に集まり、フランクというドイツ的なフランスのベルギー人音楽家の作品を演奏するというのは、なかなか素敵な偶然ですね!

――それでは最後に、お客様へのメッセージをお願いいたします。

弓さん:秋の京都で、皆様と一緒にフランクの室内楽の世界を探求できるのを心から楽しみにしています!是非コンサートでお会いしましょう!

――お忙しい中ご協力いただきまして、誠にありがとうございました!公演を大変楽しみにしております!

(2022年8月 事業企画課 メール・インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー
ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さん インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホールでは、セザール・フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を10月22日(土)に開催いたします。

プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回は当日ヴァイオリンを担当する、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の首席奏者 藤江扶紀さんにお話を伺うことができました。
フランスでのご活動についてや、フランク《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください。

◆藤江さんについて

――この度はインタビューのお時間をありがとうございます。藤江さんは大阪出身ということですが、過去に京都市交響楽団と共演されたことがあるそうですね。

藤江扶紀さん(以下敬称略):私の先生であった工藤千博さんが、京都市交響楽団のコンサートマスターをされていたこともあり、中学校1年生の時に、京都コンサートホールで演奏しました。人生で2回目のオーケストラとの共演で、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を弾いた覚えがあります(2003年10月19日「こどものためのコンサート」)。

――その後、京都に来られる機会はありましたか?

藤江:そうですね、演奏会を聴きに来たり、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として演奏しに来たりしていました。ただ、アンサンブルホールムラタで演奏するのは今回が初めてです。

――それは楽しみですね。大学(東京藝術大学)を卒業後は、すぐにパリに留学されたのですか?

藤江:卒業直前に、「京都フランス音楽アカデミー」でオリヴィエ・シャルリエ先生に出会ったんです。先生がいらっしゃるパリ国立高等音楽院を受けるために、半年間先生のお宅や私立の音楽院でレッスンを受けながら語学を勉強した後、パリ国立高等音楽院の大学院に入学しました。
そして大学院を卒業して約半年後、2018年1月に「トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団」へ入団しました。

ちなみにオーケストラに入団するまでは、毎年「宮崎国際音楽祭」に参加していて、そこで今回共演する横島くんや上村さんと何度か一緒に弾きました。二人と共演するのはその時以来で、約5年ぶりになります。

――そうだったのですね。トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団では、“co-soliste”という肩書でいらっしゃいますよね。日本では聞き慣れない名前ですが、具体的にはどういった役割なのでしょうか?

藤江:コンサートによってポジションが変わるのですが、日本で言う「コンサートマスター」「アシスタント・コンサートマスター」(コンサートマスターの隣の席)「第2ヴァイオリンの首席奏者」「第2ヴァイオリンの副首席奏者」(首席奏者の隣の席)のいずれかを担います。なので、ほぼすべてのコンサートに出演していて、なかなか日本に帰ってこられません(笑)。
今回の公演には何が何でも出演したかったので、早めに休みを取りました!

本拠地のホールの外壁にお写真掲載中!

 

** トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団のヴァイオリン奏者の肩書について教えていただきました **
・super soliste:特別コンサートマスター
・violon solo:第一コンサートマスター
・violon chef d’attaque:第二ヴァイオリン首席奏者
・violon co-soliste:上記3つの席いずれかを担うポスト

 

――そういうことだったのですね、ありがとうございます。
フランスでは、室内楽やソロを演奏することも結構ありますか?

藤江:オーケストラのメンバーで組んでいるカルテット(弦楽四重奏)で演奏したり、ソリストとしてメンバーが指揮を振る室内オーケストラや他のオーケストラに呼んでいただいたりしています。時間があればもっとやりたいなと思っています。

オーケストラメンバーによる弦楽四重奏「Quatuor Agôn」 オーケストラとの共演コンサートの大きな看板が街中に ソリストとして演奏中のお写真
(2021年7月)

 

◆今回のコンサートについて

――では話を10月の公演に移したいと思います。今回は弓さんとつながりのあるメンバーが揃いましたよね。

藤江:はい、公演がすごく楽しみです。特に弓くんは、自分が持っていないアイデアや知識を持っていて、彼と話していると面白い発見が多いです。また、音楽に対して求めていることが似ているように感じるときがあります。
私はフランクの曲の中でも《ピアノ五重奏曲》が特に好きで、数年前に弓くんにちらっと言ったことがあるんです。弓くんはそのことを覚えていてくれていて嬉しかったです。

――そうだったんですね!ちなみにフランクの《ピアノ五重奏曲》を演奏したことはありますか?

藤江:一度だけフランスの音楽祭で弾いたことがあって、今回は久しぶりの演奏になります。この曲は私がやりたいと言っても、難曲であるためか、ピアニストに断られることが多いんですよ(笑)。

――《ピアノ五重奏曲》のどのようなところがお好きですか?

藤江:煮え切らない感じがある曲ですよね。起伏があって、濃淡があって、感情的なところもたくさんあって、でも、フランスの色彩感やフォーレのようなパステル調の音も垣間見えて…そのバランスが本当に好きなんです。年を重ねてから好きになる人が多い曲だと思うのですが、私は初めて聞いた時から好きでした。
すっきりするわけではないけれど、気持ちに寄り添って、色んな感情を整理してくれるんです。フランクは真面目な性格で、外に出せない内に秘めた感情を表現したのではないかなと思います。
そして何と言いますか、救われない感じに救われます。ハマる人にはハマるという曲だと思うので、この沼に皆さんを引きずり込みたいです(笑)。

――今回共演されるメンバーについて、また公演の聴きどころを教えてください。

藤江:ル・サージュさんはお会いしたことはありませんが、パリで2回ほど演奏会に行ったことがあります。もともとル・サージュさんのフランクやフォーレの「ピアノ五重奏曲」をCDやYouTubeでよく聞いていて、まさか一緒に演奏できるとは思いもしませんでした。
そして弦楽器のメンバーは、この4人で一緒に弾くのは初めてですが、今までで知っている彼らのパーソナリティから想像すると、人間的にも、音楽の面でも絶対に楽しいものになると思います。それぞれの考え方を持ち寄ったときに、どういう音楽が生まれるのかをぜひ期待していただきたいです。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。また10月にお待ちにしております!

(2022年8月京都市内某所 事業企画課インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー(2022.10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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アンサンブルホールムラタ
今年生誕200周年を迎える、ベルギー出身の音楽家セザール・フランク (1822-1890)。京都コンサートホールでは、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催し、フランクが遺した傑作をお届けいたします。
プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回、ヴィオラを演奏する横島礼理(よこしま・まさみち)さんとチェロ奏者の上村文乃(かみむら・あやの)さんにお話を伺うことができました。
フランクや《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

◆お二人について

――今日はインタビューの機会をありがとうございます。お二人はご面識があると伺いましたが、出身高校が一緒なのですか?

横島礼理さん(以下敬称略)はい、同じ桐朋高等学校でした。

――高校時代から一緒に演奏をされていたのですか?

上村文乃さん(以下敬称略):元々私が同じ学年のメンバーで組んだカルテット(弦楽四重奏)で、メンバーの小林美樹さん(ヴァイオリン)が留学する際、代わりを横島くんにお願いしたのが最初の共演でした。高校卒業後は一緒に弾く機会がなかなかなかったのですが、今年の5月にびわ湖ホールで行われた大阪フィルハーモニー交響楽団さんの演奏会にソリストとして出演した時に、客演で横島くんがいて、それが学生時代以来の共演でした。

――旧知の仲でいらっしゃるのですね!お二人は京都で演奏されたことはありますか?

上村:昨年5月に京都市交響楽団の「第656回定期演奏会」(2021年5月11日開催)にソリストとして出演した時に、京都コンサートホールへ初めて行きました。緊急事態宣言中でしたが、無観客ライブ配信での開催を決めてくださり、大変嬉しかったです。だた、京都のお客様にお会いできなかったのが心残りですね。

また、留学期間中に「ローム ミュージック ファンデーション」からの奨学金を受けていたので、その報告会のため京都に行くことはあったのですが、演奏会では訪れる機会がなかなかなかったんです。お客様と交流するのが一番の喜びなので、今回の公演で京都へ伺えるのを心待ちにしています。

横島:関西には、所属しているNHK交響楽団の演奏会や大阪フィルハーモニー交響楽団への客演で度々行くことがありますが、京都には今年8月にNHK交響楽団の演奏会(ロームシアター京都)で初めて伺います(※取材時は6月)。先日観光で京都を訪れ、金閣寺や清水寺に行ったり、鴨川沿いを散策したりもしましたよ。

――そうなんですね。現在、横島さんの活動のメインはヴァイオリンかと思いますが、10月の演奏会ではヴィオラを弾いていただきます。ヴィオラもよく演奏されますか?

横島:学生時代はよく弾いていましたが、卒業後は演奏機会が少なく、今回久しぶりにヴィオラを弾けるのがすごく楽しみです。

――お客様も「ヴィオラの横島さん」が聞けるのを楽しみにされていると思います。横島さんが思うヴィオラの魅力ってどのようなところにあると思いますか。

横島:和声の移り変わりを一番味わえるところではないかなと思います。ちなみにモーツァルトは、自身が作曲した弦楽四重奏曲を自ら初演する際、ヴィオラは内声であり、和声の移り変わりを一番味わえるという理由から、必ずヴィオラ・パートを選択して演奏していたそうです。

――上村さんはバロックチェロとモダンチェロの両方で演奏活動なさっていると思いますが、どのように弾き分けていらっしゃいますか?

上村:チェロの役割が時代によって変わるので、曲に合わせて弾き分けています。ロマン派初期までは「通奏低音」としての役割が主ですが、それ以降は一つのパートとして見なされることが多いです。

――そうなのですね。ちなみにバッハの「無伴奏チェロ組曲」は、モダンチェロでもよく弾かれると思いますが、上村さんはどちらの楽器で弾かれますか?

上村:どちらのチェロでも弾きたいと思っています。バロックチェロで弾くときは、弾き方やメソッドをバッハがいた時代のバックグラウンドにできるだけ合わせています。一方、モダンチェロには、大きなホールで弾いても隅々まで音が届いて、スピーチをするような力強さがあります。曲が偉大だからこそ、そういったモダンチェロの良さも発揮できると思います。同じ曲を弾いても、扱う楽器によって解釈が全く異なるので、アプローチ方法を切り替えるのが大変です。

 

◆今回の弦楽器メンバーについて

――次は今回の共演メンバーについてお伺いします。今回、第一ヴァイオリンを弓さんが担当されますが、お二人は弓さんといつからの付き合いですか?

横島:弓くんとは高校の同級生で、それ以前には、6~7歳の頃に埼玉で同じ先生に習っていたことがあります。学生時代にはカルテットで一緒に演奏をしていて、そのとき私はヴィオラを弾いていました。

同じ先生に習っていた幼少期のお写真(一番左が横島さん、右から2番目が弓さん)

上村:弓くんは高校の一年後輩で、お互いソリストとして同じ演奏会に出演したことはありますが、共演は今回が初めてとなります。
高校生の時から素晴らしいソリストであることはもちろん、眼光が鋭いイメージで私にとっては近寄り難い存在でした。いま考えると、10代の頃から自分に厳しく、ストイックに生きていたのかなと改めて尊敬します。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団「熱狂のチャイコフスキー3大協奏曲」(2018年6月30日)にて、上村さん(一番左)と弓さん(真ん中)

――藤江さんと共演されたことはありますか?

上村:藤江さんとは同い年で、学生時代に関わりはなかったのですが、「宮崎国際音楽祭」に出演した時、オーケストラの中で一緒に演奏したことがあります。その時に横島くんも一緒でしたね。

横島:はい、これまでそれぞれに面識はあったのですが、今回の4人で室内楽をやるのは初めてなので、とても楽しみです!

◆フランクという作曲家、今回演奏するピアノ五重奏曲について

――さて、今回の演奏会では、今年生誕200周年を迎えるセザール・フランクを取り上げます。お二人はフランクについて、どのようなイメージをお持ちですか?

横島:フランクはたくさんの有名な弟子を輩出していて、独自のスタイルを作り上げたフランスの作曲家というイメージがあります。初めてNHK交響楽団にエキストラで出演した際、演奏した曲がフランクの《交響曲 ニ短調》だったので、思い出に残っています。

――そうなのですね!今回の《ピアノ五重奏曲》は演奏されたことはありますか?

横島:いえ、今回初めて演奏します。《ピアノ五重奏曲》は冒頭が強烈で印象強く、とても好きな曲なので楽しみにしています。

――こちらこそ楽しみにしております!上村さんはいかがでしょうか。

上村:幼い頃は、フランクといえば「フランス音楽」で、オルガンも演奏することから宗教音楽に詳しい作曲家だと認識していました。ですが、初めて師事した先生の演奏会で《ピアノ五重奏曲》を聞いたときに、宗教的というより、訴えかけるようなフランクの内面が出ていると感じて、表面的に知っていたフランクとギャップがあるなと思いました。

――たしかに実際に聞いてみるとイメージが変わることがありますよね。

上村:今回の公演で初めて《ピアノ五重奏曲》を弾くにあたって、改めてフランクの生い立ちを調べてみました。出身はベルギーで、両親はドイツ系出身。本人はフランスで長らく暮らしていたけれど、当時の時代背景もあって、外国人としての壁を感じていたのではないかなと思いました。
宗教音楽については、オルガンの仕事を始めてから作曲するようになったもので、宗教的な要素を音楽でうまく表現できない葛藤があったみたいです。フランクは、それをなんと弟子に相談していたそうです。若い彼らと一緒にアイデアを練っていたと知って、フランクに人間的な温かみを覚え、「彼の曲から感じたものはこれなんだ」と思いました。

フランクを知れば知るほど演奏するのが楽しみになりました。

――そんなエピソードがあるのですね。生誕200周年を機に、そして今回のコンサートを通して、皆さまにフランクのことをもっと知っていただきたいですよね。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いできますでしょうか。

上村:弦楽器には昔からつながりのあるメンバーが集まりました。また偶然にも、ル・サージュさんと同じフランスで活動している藤江さん、フランクが生まれ育ったドイツ語圏で活動中の弓くんと、メンバーのキャラクターが今回の公演に合っています。お互いの良さがぶつかり合うことによって生まれるものを、お客様に聞いていただきたいです。

横島:素晴らしいメンバーたちと共演できるのがとても楽しみです。フランクの《ヴァイオリン・ソナタ》・ピアノ曲・《ピアノ五重奏曲》を一挙に堪能できる、ほかでは聞けないプログラムをぜひお聴きください。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。10月に京都でまたお会いできることを心待ちにしております!

(2022年6月都内某所 事業企画課インタビュー)


★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

★ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビューはこちら