東京六人組 インタビュー(2022.7.23『KCH的クラシック音楽のススメ』第3回「東京六人組」)

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京都コンサートホール

『KCH的クラシック音楽のススメ』は、クラシック音楽を幅広い世代の皆様にお楽しみいただけるコンサート・シリーズです。今回ご出演いただく「東京六人組」のメンバーにメールインタビューを行いましたので、是非お読みください!

©Ayane Shindo

――「東京六人組」グループ名の由来を教えてください。

我々は主に東京で活動している六人ということで、20世紀前半にフランスで活躍した「フランス六人組」(デュレ、オネゲル、ミヨー、タイユフェール、プーランク、オーリック)に掛けました。
グループ名を決めていた時に、終電間近までなかなか決めることができず困っていたのですが、別れ際に東京駅の改札口で、みんなで「東京は?」「六人組は?」という意見が奇跡的に一致して「東京六人組」になりました。

――クラシック音楽をまだあまり聞いたことのない学生さんやお客様に、「東京六人組」の魅力や、各楽器の注目のポイントを教えていただけますか?

私たち「東京六人組」は、5つの管楽器(フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット)とピアノという6人で編成したグループです。弦楽器のアンサンブルと違って、それぞれが違う原理で音を出すのが特徴です。空気、リード、唇、打弦などによって生まれた各音色が合わさると、無限のパレットに…!そんな音色感や、まるで会話をしているようなアンサンブルの魅力を感じていただければと思います。
繊細な表現から迫力あるサウンドまで、京都コンサートホールの素晴らしい音響の中で、皆様に存分にお楽しみいただけることを願っています。

――各メンバーの紹介をリレー方式でしていただけますか。

福川伸陽(ホルン)©Ayane Shindo

 

①上野由恵さん(フルート)から見た「福川伸陽さん(ホルン)」

「ホルン奏者」という枠を超えて、真の音楽家であり続ける人。絶対的なカリスマ性と共に、彼の人柄や音楽には嘘や取り繕ったところが全くなく、仲間たちから絶大な信頼を集めています。クールっぽく見えて、楽しいときは少年のような笑顔で大笑いするところも魅力的です。

金子平(クラリネット)©Ayane Shindo

 

②福川伸陽さん(ホルン)から見た「金子平さん(クラリネット)」 

芸術家とは彼のような人のことを言うのだろうなと言うくらい、楽器で演奏した方が自身の言葉より人になんでも伝えられる、隣で演奏してて最高な人。

 

荒絵理子(オーボエ)©Ayane Shindo

 

③金子平さん(クラリネット)からみた「荒絵理子さん(オーボエ)」

CDでは、オーボエの他に打楽器を担当するマルチな才能の持ち主で、演奏はとても情熱的です。新しいことにどんどんチャレンジする前向きな性格だと思います。

 

福士マリ子(ファゴット)©Ayane Shindo

 

④荒絵理子さん(オーボエ)からみた「福士マリ子さん(ファゴット)」

とにかく品格があります。おしとやかに見えて、真面目に見えると思いますがその通りで、育ちの良さに溢れています。どんな時も1歩下がって状況を判断しながら、相手に嫌な思いをさせない話し方、行動をされています。ファゴット演奏もそうであり、でもいざというときにファゴットという楽器の良さを全面的にアピールできる方です。このような方はこの音楽業界であまり見かけません。

三浦友理枝(ピアノ)©Ayane Shindo

 

⑤福士マリ子さん(ファゴット)から見た「三浦友理枝さん(ピアノ)」 

アンサンブルではいつも冷静&的確にバランスを取って下さいます。知的な演奏をされますがお話しすると気さくで面白くて、ギャップが素敵だなぁと思います。

 

上野由恵(フルート)©Ayane Shindo

 

⑥三浦友理枝さん(ピアノ)からみた「上野由恵さん(フルート)」 

何事にも全力で取り組む努力家であると同時に、ダジャレをこよなく愛し、常に新ネタ開拓に余念がないオモロい一面も持ち合わせています。

 

 

――今回の京都公演のプログラムはどのように決まったのですか?また今回のプログラムの聴きどころを教えてください。

 今回、京都(関西)へは初めて六人組として伺いますので、私たちの名刺がわりになるようなプログラムにしようと考えました。
まず、この編成のオリジナル曲として最も重要なレパートリーであるプーランクの六重奏曲。
そして、私たちの活動の特徴である、フルオーケストラの曲を6人で演奏するというチャレンジをしました。「魔法使いの弟子」や、「ラ・ヴァルス」は、私たちのために新たに編曲して頂いたものです。
また、磯部周平さんの「きらきら星変装曲」は、この編成のオリジナル曲です。おなじみのきらきら星のメロディーが、古今様々な作曲家の様式に「変装」して次々に現れます。是非、どの作曲家風なのか推理しながらお聴きいただければと思います。

――お忙しい中、メンバーの皆様、インタビューにお答えいただきありがとうございました。

公演は7月23日(土)アンサンブルホールムラタで14時開演です。

「東京六人組」の素敵な演奏とトークをご期待ください。

VOX POETICAインタビュー(2022.06.28京都北山マチネ・シリーズVol.9「ドラマティックに甦る、古(いにしえ)の名歌」)

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京都コンサートホール

京都コンサートホール主催のランチタイム・コンサート「京都北山マチネ・シリーズ」。国内外で活躍する音楽家たちが、トークと演奏で素敵なマチネのひとときをお届けします。9回目は、ソプラノとリュートのデュオ、VOX POETICA(ヴォクス・ポエティカ)が登場。ソプラノ歌手の佐藤裕希恵さん、リュート奏者の瀧井レオナルドさんにお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください!

――この度はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます。本日は、おふたりそれぞれとデュオについて、そして今回のコンサートについてお伺いさせてください。
まず佐藤さんですが、もともと声楽を始められたきっかけがミュージカルだったのですよね。東京藝術大学の声楽科へ入学された後、さらに古楽の道へ進まれたきっかけをお聞かせください。

ミュージカルをしていた頃の佐藤さん

佐藤裕希恵さん(以下敬称略):最初は古楽が好きで声楽を始めたわけではありませんでした。大学へ進学すると周りは“オペラ歌手になりたい”など、夢がはっきりしている方が多かったのですが、私の場合はただミュージカルが好きで入学したところがあったので、自分の将来を模索していました。興味のあるもの、自分の声に合うもの、向いているものを探しているうちに、先生からヘンデルなどの古い時代の曲を勧められるようになり、その魅力に惹き付けられるようになりました。歌ったり、CDを聴いたりしているうちに、どんどん沼にハマっていき、大学院は古楽科に進学しました。

――大学院で古楽科に進まれた後は、スイス留学にされましたね。
佐藤:大学院に進んでからも、実は外部団体でミュージカルを続けていました。古楽の道へ進むのか、ミュージカルの道へ進むのかで悩んでいた時、バッハ・コレギウム・ジャパンなどでも歌っていらっしゃったバーゼル音楽院のゲルト・テュルクさんというドイツ人の先生が、古楽科の招聘教授として大学に来てくださったのです。そのレッスンがとても面白く、これまでに体験したことのない知らない世界がたくさん見えました。先生が帰られる時、「もっと先生と勉強したかったです」とお伝えすると(当時は言える英語力もなく、友達に通訳してもらって。笑)、「バーゼル音楽院に来たら教えてあげるよ」と言ってくださいました。それまで留学は全く考えていなかったのですが、とにかく先生と勉強したいという思いで、他の国や大学の下調べもせずに、ただただゲルト先生のもとで学ぶためにスイスのバーゼル音楽院を受験しました。

スイスでバロックオペラに出演した際の写真© Susanna Drescher

――ゲルト先生との強いご縁を感じるようなエピソードですね。バーゼル音楽院で古楽の勉強をされ、いまはルネサンスからバロックまでさまざまな古い時代の歌を歌ってらっしゃいますが、それぞれの時代で歌い方に違いはありますか?
佐藤: そうですね、まずどんな響きの場所で、誰に向かって、どんな環境で演奏される音楽かによって求められる歌い方が違いますね。極端な例ですが、マイクを使うミュージカルと使わないオペラでは響かせ方が違いますし、劇場でヘンデルのバロックオペラを歌う時と、残響が10秒もあるような大聖堂でグレゴリオ聖歌を歌うのだと、歌い方は違います。身体を支えている芯の部分は同じなのですが、どれほど身体を開くか、どのくらい多くエネルギーを放出するか、流す息の絞り具合などで歌い方を変えています。

――古楽独特の歌い方はあるのですか?
佐藤:ヴィブラートをかけるかどうか聞かれたりしますが、いわゆるオペラ的なベルカントの歌唱法はヘンデルの時代に確立していったものです。それ以前の17世紀初期のバロック時代が始まった頃の歌唱法は、例えばイタリアの場合、一種の装飾音として隣の音をヴィブラートのように揺らす方法がありました。また、「トリッロ」と呼ばれたいわゆるトリルは、音程を変えずに同音の音を連続して演奏します。このように、現代では馴染みのない歌唱法が登場するのです。こういった装飾音が装飾として際立つように歌うためには、ヴィブラートを控えめにしたほうが美しくなる箇所もあります。また当時の文献を読んで、当時の歌い方がどう描かれているか、という研究もしています。実際に当時の様子を見ていないので、分からないところもありますが。

――文献には、発声方法等について詳しく書かれているのですか?
佐藤:そうですね。とても有名なものですと、ジュリオ・カッチーニという作曲家の曲集の序文に、「こうやって歌わねばならん」ということが書かれています。ただ音声学的に声帯をこうして、というアプローチではなく「喉を打ち鳴らす」というような表現で書かれているので、解釈は人それぞれです。また譜例もたくさんあり、「こういう音の時はこういう即興の装飾をつけなさい」などと書いてあるのも面白いです。当時の歌手がどのように歌っていたか分からないので、結局のところ確信をもって「絶対こうだった」と言えないところが古楽の魅力だと思います。

――佐藤さんは、まるで語るように歌ってらっしゃる姿がとても印象的ですが、もともとミュージカルをやっていたことが活きているのでしょうか。
佐藤:そうですね。バロックの声楽作品は言葉を重視する音楽なので、単に朗々といい声を聴かせるというよりは、言葉に色々な重きを置いて曲が書かれています。語るように歌ったり、ドラマティックに明暗をはっきりつける表現をよく使うのですが、自分の感情をそのままセリフにのせるお芝居と繋がっていると思います。私が古楽に惹かれたのも、私の大好きな芝居に通ずるところが少し見出せたからです。自分なりの色付けができるといいますか、演奏者に委ねられている余白がたくさんあるのです。即興演奏をするにしても、楽譜に書かれていないことが求められる音楽なので、自分が感じたままに表現していいという、芝居的な要素が好きですね。

――これまで苦労された点はありますか。
佐藤:私の声が軽くて細い方だったので、オペラの方々と混じって勉強していた時に、一時期コンプレックスを感じていたことはありました。例えばヴェルディのように、重めで声量の必要な役など大きなアリアは歌えないなどと思っていたことがありましたが、古楽は自分の声が活かせる場所なので、居心地がよいです。声のトレーニングとしてオペラは勉強していますが、やはり古楽が私の進むべき道だと思っています。

――ありがとうございました。次は、瀧井さんにお話を伺います。瀧井さんは故郷がブラジルなのですよね。クラシックギターを学ばれた後、リュートを始められたきっかけを教えてください。
瀧井レオナルドさん(以下敬称略):サンパウロの大学でクラシックギターを学んでいる時、リコーダー奏者の友人に、ギターで通奏低音を弾いてくれないかといつも頼まれていました。リコーダーのレパートリーはバロック時代がメインなので、通奏低音に触れる機会となりました。そして大学2年の時、サンパウロ州立音楽学院に新しく古楽科ができて、その友人に「これからリュートの勉強できるよ!」と勧められたのがきっかけです。当時はギタリストになりたいと思っていたのですが、リュートにも興味があったので、せっかくだから行ってみようと思い、リュートの勉強を始めました。

――今回の公演では、リュートとテオルボをご披露いただきますが、あらためてそれぞれの楽器の魅力について教えてください。
瀧井:まずテオルボは、見た目がすごく目立つ楽器ですよね。サイズも大きいですし、音も大きいです。リュートは、見た目も小さいですし、音も小さく、とても繊細な音がします。クラシックギターは弾く時に爪を使って演奏しますが、リュートやテオルボは爪でなく指の腹で弾きますので、自分で音を創り出している感じがとても好きですね。大学を卒業した時に、リュートの道を選び、ギターのために伸ばしていた爪を切りました。

リュートの弦(D majorの和音を押さえているところ)

――クラシックギターとリュートでは、タッチの感覚も全く異なりますか?
瀧井:全然違いますね。ギターは1本ずつ弦が張られていますが、リュートは2本ずつです。ギターのタッチは固いですが、リュートの場合は柔らかいです。
佐藤:複弦といって、リュートは1コースに同じ音の弦が2本張られていて、それを2本同時に指の腹で押さえるのです。実は興味本位で1年ほど彼にリュートを教えてもらったことがあるのですが、なかなか2本同時に押さえられませんでした。それでみなさん速弾きされているので、本当にすごいなと思います。

――とても難しそうですね。クラシックギターとは違うリュートの音色の魅力はどのようなところでしょうか。
瀧井:ギターとは楽器の形も弦の張り方も違うので、全く違う音が出ます。僕自身リュートの音は本当に好きなのですが、どうやって説明すればよいのか…難しいです(笑)。 大きな音ではないですが、とても豊かで繊細な音がリュートの魅力だと思います。

留学後、ブラジルでのソロリサイタル

――瀧井さんも大学卒業後、スイスに留学されたのですよね。
瀧井:大学を卒業した後、将来についてリュートの先生に相談すると、古楽を続けたいのであればバーゼルに素晴らしい先生がいると教えてもらいました。その時、全く留学を考えていなかったので迷ったのですが、ブラジルの先生が「一緒に頑張ろう!」と仰ってくださったので、留学を決意しました。やはり先生の存在が本当に大きく、ありがたかったです。

――その後、留学先のスイスでお2人は出会われたのですよね。VOX POETICA結成と音楽活動を続けるに至った経緯を教えてください。
佐藤:バーゼルでは、アンサンブルを立ち上げるぞ!という意気込みでメンバーを集める人が多かったのですが、私たちの場合は、瀧井さんの学内試験でたまたまデュオを組んだのが結成のきっかけです。その後、何度か演奏機会をいただくことがあり、細々と活動していました。最初の数年は、演奏の機会があれば…と全く気負わず続けていたので、その時は後々CDを出すことになるとは思ってもいませんでした。でもそれが、逆に良かったのかもしれません。だんだん演奏機会が増え、レパートリーも増やし、日本に来てからは、本腰を入れてデュオ活動をするようになりました。

2015年ごろ、VOX POETICA結成初期

――「VOX POETICA」=“詩的な声”とはとても素敵な名前ですが、どのように決められたのですか?
佐藤:最初は特にデュオ名を決めていなかったのですが、 6、7年前に名前をつけようとなりました。私たちは言葉を使うので、それに関係するキーワードがいいなあと考えていました。たまたまアリストテレスの「詩学」という本を読んでいた時、そのなかに出てきた古代ギリシャ語の“ポエーティケー”という単語にすごく惹かれたのです。歌詞を扱うので、文学としての「詩」、「詩的」な表現へのイメージから、この単語を使いたいと考えました。「ポエーティケー」は「作ること」を意味する語幹から生まれた単語だそうで、私たちの表現の創作活動のアイデンティティに据えたいと思い、ラテン語の“POETICA”に「声」という意味の“VOX”を付けました。英語やイタリア語にすると、その国のレパートリーに限られてしまう気がして、ラテン語にしました。VOX POETICAはリュートと声、どちらの声部も詩的に独立し、互いに息づいているものが混ざり合って、ふたりでひとつの音楽を創ることをいつも目標にしています。悩みに悩み抜いて、この名前となりました。

――素敵ですね。日本での活動を始められてから、コンサートだけでなく「フェルメール展」や「ほぼ日手帳」とのコラボなど他分野でご活動なさっていますが、今後の展望などはありますか?
佐藤:リュートと歌のレパートリーはたくさんあるのですが、日本にリュート奏者や指導者が少ないので、リュートに触れて一緒に歌うワークショップ等もしていきたいと思っています。また、録音で、その時その時にできるものを残していきたいなという思いがあります。「今後こんなCDを録りたい」という作品が、もう紙からはみでるくらいたくさんあるので、死ぬまでにやりたいと思います(笑)!

VOX POETICA 日本での演奏写真

――たくさんの曲がリリースされるのをいまから心待ちにしています!では最後に、今回のコンサートのプログラムについてお聞かせください。
佐藤:今回は、リュートとテオルボの2台を使います。普段は、どちらか1台しか使わないことが多いのですが、せっかくなので聴き比べができるような内容にしました。前半のプログラムではリュートとソプラノで、エリザベス女王時代のイギリスにフィーチャーしました。その中でも特に、シェイクスピアとダウランドの2大巨匠にフォーカスを当て、その時代の英語の歌とリュートのソロを聴いていただく予定です。リュートの繊細な音とそれに寄り添うソプラノにご注目ください。後半のプログラムではイタリアとフランスをテーマに、テオルボとソプラノのデュオでお聴きいただく予定です。
瀧井:前半にお聴きいただくシェイクスピアの時代、リュートは大変人気のある楽器で、シェイクスピアの作品が上演された時も劇音楽で活躍したようです。ダウランドのリュートソングに代表されるような、イギリスの美しい作品をお聴きいただきます。後半では、大きなテオルボに持ち替えて演奏しますが、ドラマティックなデュオに加えて、テオルボのソロではロベール・ド・ヴィゼーの《シャコンヌ》という大曲を演奏します。ちなみにド・ヴィゼーは、太陽王ルイ14世のギター教師でもあった人です。
佐藤:また、前半では、シェイクスピア『オテロ』から、セリフと歌を続けてやってみようかなと考えています。デスデモーナというヒロインの女性が無実の浮気を疑われるのですが、夫であるオテロに殺される前に胸騒ぎがして、ひとりで独白をしながら歌を歌うシーンです。リュートが入ってもいいのですけれど、今回はアカペラでやろうかなと考えています。シェイクスピアが生きていた時代のイギリスのお芝居の要素も垣間見ていただけるかもしれません!
後半は、表情がコロコロ変わるドラマティックな音楽を演奏しますので、古い時代の音楽だからとあまり難しく捉えずに聴いていただきたいです。現代の私たちが感じている喜怒哀楽と同じようなものが曲に表れているので、それを感じていただければ嬉しいなと思います。

――この度は、貴重なお時間ありがとうございました!演奏会をとても楽しみにしています。
(聞き手:京都コンサートホール 事業企画課 陶器美帆)

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公演カレンダー | 京都コンサートホール (kyotoconcerthall.org)

オルガニスト 大平健介&長田真実 インタビュー<後編>(2022.2.26オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69)

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京都コンサートホール

国内最大級のパイプオルガンを気軽に楽しんでいただくシリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。Vol.69では、いま注目のオルガニストである、大平健介と長田真実を迎え、それぞれのソロからオルガン・デュオまで、2人のこだわりが詰まったプログラムをお届けします。

公演へ向けてお二人にインタビューを行い、本ブログにて2回に分けてお届けしております。後編では、パイプオルガンの魅力と今回のコンサートについてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

オンライン取材の様子

◆パイプオルガンの魅力

――前編では、お二人のオルガンとの出会いや、ドイツでのオルガン事情についてお話いただきました。次は、お二人が思うオルガンの魅力についてお伺いできますでしょうか。

大平:パイプオルガンは一つとして同じ楽器がなく、個性を非常に感じます。新しい楽器と出会うたび、対話をしながら音色を作って演奏をするのですが、楽器によってキャラクターが全然違いますので、それぞれに名前をつけたくなるほどです。その場所にあるオルガンと出会ってどう対話を繰り広げるか――そんな一期一会の出会いをお客さまにもぜひ楽しんでいただきたいと思います。

長田:日本のオルガンのほとんどはコンサートホールに入っていて、その大きさゆえに建物や空間の一部として色んな装飾がなされていることが多いです。ですので、建物と空間、そして音が一体となって、視覚的にも聴覚的にも楽しめる楽器だと思うんです。オペラやバレエのように「総合芸術」といいますか、見て楽しんで、聴いて楽しんで、そして空間全体から自分に降り注いでくる音に包まれて・・・普段そんな大きな音にずっと包まれるという時間はなかなかないと思います。耳を澄まさないと聞こえないくらい小さい音もあるんですが、スケールの大きな音を非日常的な空間で体感できるというのは、コンサートホールという大きな空間で聴くオルガンの魅力だと思います。

あとオルガンは、何十年もずっとその場所に佇んで、ホールの歴史を見ています。私はオルガンが設置されている会場に入ると、そういった歴史を感じると共に、それまで企画されてきたコンサートや演奏されてきたアーティストなどによく思いを馳せています。同じ空間に来てくださったお客さまも、そこにしかない楽器が今まで大切に愛されてきた歴史を一緒に感じながら、音楽を聴いていただければと思います。

――私たちの「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」は、京都コンサートホールが開館した翌年から始まったシリーズで、市民の方をはじめ、いろんな方の支えがあって、今年度で25年を迎えることができました。楽器や歴史を大事に考えてくださっているお二人にこのシリーズにご出演いただけることをとても嬉しく思います。

 

◆今回のコンサートについて

――さて次は、今回の演奏会についてお伺いしたいと思います。まずコンサート前半はそれぞれ長田さんと大平さんのソロを、休憩後は連弾と再びお二人のソロを演奏していただきますが、今回のコンサートの聴きどころをお話いただけますでしょうか。

大平:今回のコンサートでは、オルガンの新しい魅力を伝えたいと思っています。
例えばメンデルスゾーンのオルガン作品といえば、「オルガン・ソナタ」や「前奏曲とフーガ」がよく知られていますが、彼自身がオルガニストだったこともあり、オルガン以外の作品でもオルガンに合うんです。実際に僕の先生でもあるクリストフ・ボッサートさんが、メンデルスゾーンのピアノ曲を全曲オルガンに編曲されたのですが、聴いていてとても自然で素晴らしい編曲なので、是非とも紹介したいと思い、今回プログラムに入れました(前奏曲とフーガ 作品35-6)。
同じような考え方で、今回演奏するメンデルスゾーンの《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の楽譜を見ると、オーケストラ作品なのにまるでオルガン曲のようで、レジストレーション(オルガンの音の組み合わせ)がすぐに浮かんでくるんですよね。今回は、私自身の編曲でお届けします。

また今回のプログラムは、他の楽器のために書かれた曲からの編曲が多いので、オルガンファン以外の方にも楽しんでいただけると思っています。例えばサン=サーンスの《動物の謝肉祭》や《死の舞踏》など、親しみのある曲だけでなく、ピアノファンやオーケストラファンの皆さまにはお馴染みの曲など、スパイスをちょっと加えています。
もちろんオルガンファンの方々にも楽しんでいただけるように、サン=サーンスやレーガーなどによるオルガンのオリジナル作品もプログラミングしています。

いずれもオルガンがよく鳴るような曲をチョイスしていることが今回のポイントです。


大平さん編曲による《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の演奏動画

――ちなみに今おっしゃったメンデルスゾーンの「宗教改革」について、音色を組まれる時(レジストレーション)はオーケストラの原曲のイメージに近づけるようにされますか?それとも、編曲された楽譜からオルガンのオリジナル作品と考えて音色を作られますか?

大平:両方ですね。例えば曲の冒頭はフルートソロから始まって、段々と管楽器が増えて、チェロやコントラバスが入ってきますので、それぞれの楽器のイメージで音を足していこうと思っています。もしかしたら原曲のイメージで音を作れるのは、90もの多くの音色を持つ京都コンサートホールのオルガンだからこそできるのかもしれません。また、京都コンサートホールにしかない邦楽器の音色を使うのもいいかもしれませんし、弾くオルガンによって音色を変えます。
ただこの曲の中間部では、オルガンをしっかりと鳴らしたいので、原曲のオーケストレーションも大事なのですが、実際に弾くオルガンが一番のびのびと歌えることを大事にしたいと思っています。
なので、原曲と弾くオルガンの個性を見て、それぞれから良いところを取りながら音を作っていこうと思います。

京都コンサートホールのパイプオルガン(ドイツのヨハネス・クライス社製)

――ありがとうございます。今回のプログラムを見ていると、前半はドイツ音楽で、後半はサン=サーンスの作品が並んでいますね。

長田:京都コンサートホールのような大きな空間で演奏するので、色んな音をオルガンから引き出してホール全体を鳴らしたいと思い、私たちが好きなバロック音楽からロマン派の作品をプログラミングしました。

 

――冒頭に演奏していただく作品ですが、バッハのオルガンのためのオリジナル作品ではなく、敢えて《平均律クラヴィーア曲集》の編曲を選ばれたのは、オルガンの新しい魅力を知ってもらいたいということでしょうか。

大平:そうですね。今回冒頭に演奏する《平均律クラヴィーア曲集第2集》より〈前奏曲 ニ長調〉は、同曲集の中でもオルガンで弾いたらとてもカッコいい作品の一つです。そもそも「クラヴィーア」というのは、鍵盤楽器全般を指しているので、チェンバロでなくてもいいですし、オルガンで弾くとオーケストラで弾いているようにも聴こえるんです。そういうオーソドックスに見えて、実は面白い作品を僕たちはご紹介していきたいと思っています。

 

――前半には、ヴァメスというあまり耳にしない作曲家の作品もありますね。

大平:はい、そうなんです。先ほどお話したように、僕たちはどの演奏会でも、少しでも新しいオルガンの魅力を伝えたいという思いがベースにあります。
例えば、日本では、バッハのオルガン作品全曲演奏会や《トッカータとフーガ ニ短調》、〈主よ、人の望みの喜びよ〉が好まれ、よく演奏されますよね。本格的に大きなパイプオルガンが設置され始めた1970年代くらいから、そういった状況はあまり変わっていません。でも世界に目を向けると、実に様々な作品が演奏されています。それは、オルガンのための新しい作品が今も絶えず誕生しているからです
今回は1曲だけですが、オランダのアド・ヴァメスさんが1989年に作曲した《鏡》という、鏡に写る光の反射の美しさを描いたような作品を入れました。

長田:あとは、私たちのオルガンに対する理想の響きを、今回のプログラムで実現したいと思っています。いろんなところを回って弾いて聴いてきた私たちが、今やりたい曲を詰めこんだプログラムとなっています。

 

――私たちもこのプログラムを頂いた時、今まで見たことのないプログラムだと思いましたし、お話を聞いて納得しました。ピアノやオーケストラのための作品をオルガンで聴いていただいて、お客さまにオルガンの新しい魅力を知っていただけるチャンスになればいいなと思います。
プログラム後半でご
披露いただくオルガンの連弾は、あまり聴く機会がないので新鮮で楽しみです。

長田:オルガンには音色を使い分けるためにたくさん鍵盤があります。一人では3段以上を一度に弾くことができませんが、二人いることで色んなパートを弾けますので、演奏の幅が広がります。

大平:最近では、パリ・ノートルダム大聖堂のオルガニスト オリヴィエ・ラトリーさんや、パリ国立高等音楽院で教授を務めていたミシェル・ブヴァールさんなどが、奥さまと一緒に連弾をされています。夫婦くらいの近い関係でないと、連弾は難しいのかもしれません。
また、連弾をする際は、楽器も重要になってきます。二人でパイプオルガンを演奏する時は、一人で演奏する時よりもオルガンに送る風量が必要になるのですが、そういった風量を補える楽器で演奏すると、連弾の可能性がぐっと拡がります。その上で、お互いの音楽的な感覚が一致すると、さらにその可能性は拡がっていきます。今後、連弾の面白さをどんどん開拓していきたいと思っています。お客さまには連弾の可能性を楽しんでいただけましたら嬉しいです。

長田:あとはエンターテインメント的な要素を感じますね。二人で弾いていると、一人で演奏している時よりも楽しめていると感じます。お客さまからしても、二人で弾いている様子は、見ていても楽しいのではないかなと思います。

オンライン配信もされた公演での連弾の様子(2021年12月、サントリーホールにて)

――たしかに以前お二人の連弾の様子がオンライン配信されているのを拝見して、すごく楽しそうだなと思いました。
色々とお話してくださってありがとうございました。コンサートを楽しみにしております!

 2021年12月事業企画課インタビュー(Zoomにて)


★インタビュー記事の前編はこちら

★オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール“大平健介&長田真実」(2/26)の公演情報はこちら

オルガニスト 大平健介&長田真実 インタビュー<前編>(2022.2.26オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69)

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京都コンサートホール

「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」は、国内最大級のパイプオルガンを気軽に楽しんでいただくシリーズとして1997年にスタートし、今年度で開催から25年を迎えました。

69回目は「オルガニスト・エトワール」と題し、いま注目のオルガニストの二人、大平健介と長田真実をゲストに迎えます。

ドイツでの演奏活動を経て、帰国してからも様々な演奏活動を行うお二人に、公演に向けてお話を伺いました。2回に分けて、インタビュー記事をお届けします。
前編ではお二人のオルガンとの出会い、そしてドイツのオルガン事情についてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。


◆オルガンとの出会い

――本日はお忙しいなかインタビューのお時間をいただきありがとうございます。
まずお二人のことについてお聞きします。オルガンとの出会いや、オルガンをご専門とされたきっかけを教えていただけますか。

長田真実さん(以下敬称略):元々幼稚園の時からエレクトーンを習っていまして、小学生に入ってから毎年一曲、オーケストラ作品を編曲して弾いていました。オーケストラを一人で演奏できることが嬉しくて、いつも楽しんでやっていたのを覚えています。その中で小学3年生の時に、ヘンデルの《オルガン協奏曲「カッコウとナイチンゲール」》という曲に出会いました。かわいい鳥のさえずりをオルガンで表現する様子が印象的で、その曲を弾いて以来、ずっとオルガンに憧れを抱いていました。
中学生になってから、姫路市の姉妹都市があるフランスやベルギーに市からの派遣生として訪れた際、初めて大聖堂の空間やそこにそびえたつオルガン、そしてその響きに触れて、圧倒されたのを今でも覚えています。そして高校生になって、ようやくパルナソスホールのオルガン講座を受講し始めることになったんです。
なので、オルガンを始めたのは遅い方だと思うのですが、始めるまでずっと長い間憧れを持っていました。

 

――高校生でオルガン始めるのって遅い方なのですね。小さい頃からオルガンに触る機会はなかなか無いと思うので、皆さん高校生くらいからなのかなと思っていました。

長田:中高がミッション系の学校であれば、多分学校の教会にオルガンがあって、触れる機会があると思うんですけど、私は普通の公立の学校でしたので、なかなか機会がありませんでした。

大平健介さん(以下敬称略):僕の場合はとてもラッキーで、日本全国数あるミッション系の中学校の中でも珍しい「オルガンクラブ」で、部活動の一環として自由にオルガンを学べたのです。そしてミッション系の学校出身の方がよくおっしゃるのですが、僕の行っていたところも毎日礼拝があって、中学生の頃からオルガンの前奏や後奏、賛美歌の前奏が楽しみでしょうがなかったのです。そのうち奏楽者のレパートリーまで把握してしまって、後奏でどの部分を弾いているのかもわかっていました(笑)。

当時のオルガンクラブには電子オルガンしかなかったので、初めてパイプオルガンを弾くことができたのは、たしか中学2,3年生の頃、夏休みに大学の礼拝堂へ皆で行った時だったと思います。その時バッハの《幻想曲 ト長調 BWV572》を弾いて、上から降り注いでくる音や、楽器が礼拝堂全体に鳴り響いている様子に衝撃を受けました。あれは本当に漫画で描くような「ビビビッ!」と、天からの命を受けたような感じでした。

当時の僕は思春期で、自分は将来どこを目指したらいいんだろうかと悩みを抱えていました。自分の中で行先は音楽だということはわかっていたのですが、あれでもないこれでもない…と迷っている時にオルガンと巡り会い、絶対にオルガニストになりたいと思うようになったのです。

そういう明確な出会いがあって嬉しかったですね。東京藝術大学に入ってから、オルガン科の先輩や後輩、同学年の人の話を聞いてみても、やっぱりみんな同じようにオルガンとの出会いで衝撃を受けたと聞きました。バックグラウンドは皆それぞれで、例えばミッション系の学校から来た人や礼拝の先生に個人的に習っていた人、大学でオルガンと出会った人、他の楽器専攻で卒業してからオルガン科に来た人、プライベートで習ってきた人などがいました。

長田:私も東京藝術大学オルガン科の出身で、いろんなバックグラウンドを持った方と会いましたが、その中で感じたこととして、東京と関西とでは、オルガンを取り巻く環境は全然違うんですよね。私はずっと姫路にいたので、東京の先生を知らなかったですし、東京藝術大学に出入りしたこともないという状況で大学を受験しました。東京ではオルガンがある会場もたくさんありますし、オルガンの演奏会もすごく多いです。それに比べると地元ではオルガンのある場所は限られていて、演奏会も年に数回しかなかったので、私はオルガンに触れる機会が少ない状態で大学に入りました。

大平:たしかに遠くから県をまたいで、オルガンと出会ってレッスンを受けている人の話も聞くので、地域によって環境は全然違うなと思います。

学生時代に行ったアルンシュタットのバッハ教会での演奏会の様子

――関西や地方ではパイプオルガンの演奏会はたしかに多くないように思います。その影響もあってか、ありがたいことに、私たちのオルガンコンサートでも、関西だけでなく全国から聴きに来てくださっています。

大平:お客さまが県をまたいで聴きに来てくださるのは理想的だなと思います。
同じプログラムで演奏家が国内を回るコンサートツアーというのはよくありますよね。でもオルガニストの場合は、それは基本的には起こりえないんですよね。なぜなら会場が変わると楽器も違うので、プログラムが変わってしまうことが多いからです。例えば京都コンサートホールのオルガンは、この京都コンサートホールにしかない楽器なのです。「あのオルガニストの演奏は前にあの会場で聴いたよ」ということはあっても、その会場の楽器に合ったプログラムが組まれるので、そこでしか聴けない響きや音色になるのです。

ありがたいことに、最近僕たちが出演するコンサートでも複数の会場に来てくださったり、遠方から姫路まで来てくださったりするお客様がいらっしゃいます。珍しいことのように思われるかもしれませんが、ヨーロッパではよくあります。と言いますのも、単純に「オルガンの演奏会を聴きに行く」というよりは、そのオルガンを聴きに行くことと、その場所の風景や文化を見に行くことがセットになっているからなんです。
日本でもオルガンを聴きに行く時にそう思ってくださる方が増えたらいいなと思っています。

――私も以前、同じオルガニストの演奏会で、追っかけのように複数の会場を回って聴き比べをしたことがあります。楽器が変われば違う音、そして同じ奏者でも色んなプログラムを聴けるのは、オルガンを聴く醍醐味だなと感じました。

 

◆ドイツのオルガン事情について

――先ほどドイツでのお話が出ましたが、お二人ともドイツで勉強されていらっしゃいましたよね。大平さんは2021年までドイツの教会でオルガニストとしてご活躍されていたかと思います。ヨーロッパでは、小さな町や村など地域の方々でもオルガンを聴きに行かれる方が多いイメージがあるのですが、やはり日本とはオルガンとの関わり方が違うのでしょうか。

大平:そうですね…そのことについて2点お話したいと思います。
まずドイツでは、教会(オルガン)と文化、ビジネスがとても上手く綺麗につながっているように思います。
オルガンの演奏会のおよそ9割は教会で行われています。と言いますのも、教会の方が良い楽器が入っていて、響きも良いからです。また面白いことに、教会には「コンサートホール」としての役割もあるんです。ホールのように事務所が教会に入っていて、例えば僕がオルガニストを務めていたシュティフツ教会では、10人くらいのスタッフが事務所にいました。総監督みたいな人とプログラムを作る人、あとは経理や助成金担当の人などがいました。大きな教会や大聖堂くらいの規模になると、毎週の演奏会のプログラムやポスター作り、そして演奏家とのやりとりのための専属スタッフがいて、本当にホールと同じようなことをやっています。もちろん規模はホールとは全然違いますけどね。
お客さんはというと、イースターやクリスマスなどの教会暦に沿ったプログラムをすごく楽しみにされています。教会としてもクリスマスマーケットなどを目当てに来た人をコンサートに呼び込もうという感じで、コンサートの内容をクリスマスなどとリンクさせたりしています。

シュティフツ教会で礼拝奏楽をしていた時の様子

そしてもう1点は、僕がいつか日本で作りたいと思っていることなのですが、フランス、スイス、ドイツではそれぞれ夏のオルガンフェスティバルがあります。日本の夏休みはとても暑くて向いてないかもしれませんが、ヨーロッパだと7月から9月末まで休暇を取る人が多いので、その間に音楽家たちがヨーロッパ中で演奏旅行を行うんです。プログラムにはドイツやイギリス、日本、韓国、ロシアなど、いろんな国の演奏者が並んでいて、「インターナショナルなオルガン・フェスティバル」とでもいう感じです。ちなみに私たちは、「日本から来た、いま旬のオルガニスト」というような紹介をされましたね。

スイスのヴィンタートゥアーでのコンサートのポスター

僕たちもヨーロッパでの夏休みというと色んな思い出があります。
電車で現地へ向かって、ホテルに着いた後すぐにリハーサルと本番で3日間…そして休む間もなくすぐ電車に乗って次の町へ行って…バンベルク、ハンブルク、パリと行って、帰ってきて次はロンドンへ…。そういうのがヨーロッパのオルガニストの夏休みの過ごし方として当たり前になっていて、夏は大変な稼ぎ時でもあるんですよ。

このようにドイツにいた時は、教会内のイベントを行う教会オルガニストと、国際的なソリストという2つの顔を持って活動している感覚がありました。日本でもそれぞれの顔で活動していきたいと思っています。

サン=サーンスがオルガニストを務めていたパリのマドレーヌ寺院にて

――ドイツでは教会がホールの役目も担っているのですね。とても貴重なお話をありがとうございます!長田さんはドイツで留学された後、2018年春からパルナソスホールのオルガニストとして、リサイタルだけでなく色々なオルガンの企画をご担当されていると思いますが、ドイツと日本のオルガンを取り巻く環境に違いを感じることはありますか。

長田:私は2017年まで6年間ドイツにいましたが、ドイツの演奏会ではドキドキするような貴重な体験が多かったです。
すごく小さな村を周っていた時がありまして、電車で駅を降りた後にバスで45分、林や森の中を進んで・・・一体私はどこに連れて行かれるんだろうかと思うような旅が多かったですね。自転車を借りて、菜の花畑をバーッと走って教会に着いたということもありました。あとは行き方を検索すると、目的地のバス停が「Schule(シューレ:学校)」という名前だったんです。私たち外国人からすると「学校」というバス停で降りるのもドキドキしました。実際に降りてみると、人があまりいない小さな村に教会がポツンとあって、そこに本当に歴史的な楽器があったりするんですよね。

そういったドキドキハラハラな一人旅が多かったですが、地元の人々がすごく暖かかったんです。お家に泊めてもらって、村の生活にどっぷり浸りながら演奏会に向けて準備をしたりして、地域の人の気質や文化、伝統を感じながら、演奏会を周っていたなと思い出します。そういう生活をしてみて、地方って良いなとドイツで初めて思いました。

東京はあらゆるものが全国から集中しているので、レベルが高くて情報もすごく多いです。でもふと地方の暖かい人々の中で育まれてきた芸術や文化に触れた時にいいなと思いますし、日本でも地元のものを大切にしながら演奏会が出来たらいいなと思っています。
元々姫路に帰る予定はなかったのですが、たまたま自分の生まれた町にオルガンがあって、戻ってくることができたというのは、なんという偶然で幸せなことなんだろうと思っています。
そこで自分ができることを考えるのも楽しいですし、地元の人たちとオルガンを囲みながら文化を作っていくようなことを、少しずつですが出来たらいいなと思っています。
これはドイツにいたからこそ思えるようになったことだと思います。

オーストリア・ザルツブルクの大聖堂にて(2枚とも)

――素敵なお話ですね。そういう地方の小さな教会でも他の国のオルガニストを呼んで演奏会をするのはすごいですよね。とても貴重なお話が聴けました。ありがとうございます。
後編では、お二人が思うオルガンの魅力や今回のコンサートのプログラムについて伺います。

 2021年12月事業企画課インタビュー(Zoomにて)

** 後編に続く **


★オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール“大平健介&長田真実」(2/26)の公演情報はこちら

【Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/21)】第1期登録アーティスト*DUO・GRANDEインタビュー

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京都コンサートホール

2019年度からスタートした「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
オーディションで選ばれた、京都にゆかりのある若手音楽家3組が、「京都コンサートホール 第1期登録アーティスト」として、2019年度と2021年度の2年にわたり、市内の小中学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。

さて、京都コンサートホール 第1期登録アーティストとしての活動もいよいよ終盤に入りました。
ヴァイオリン(上敷領藍子)とヴィオラ(朴梨恵)のデュオ DUO・GRANDE(デュオ・グランデ)は、3月21日に最終年度リサイタルを開催します。
2年間の集大成を皆さまにご披露するべく、リサイタルに向けていつも以上に気合が入る2人。

そんなDUO・GRANDEから、京都コンサートホール登録アーティストとして活動した日々や今後の夢など、様々なお話を聞いてみました。
ぜひご覧ください!

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【Join us(ジョイナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/6)】第1期登録アーティスト*田中咲絵(ピアノ)インタビュー

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京都コンサートホール

2019年度からスタートした「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
京都コンサートホールの第1期登録アーティストが、これまで市内の小学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。聴き手の心に寄り添うお話とプログラムを披露してきたピアニストの田中咲絵さん。これまでのアウトリーチ活動で感じたこと、また最終年度リサイタルへの意気込みを伺いました。ぜひ最後までご覧ください!


――この度はインタビューの機会をいただきありがとうございます。
まずはご自身についてお伺いしたいのですが、ピアノを始めたきっかけは何だったのですか?
5歳ごろから習いごとの一つとして始めました。とにかくピアノを弾くことが大好きで、これまで辞めたいと思ったことは一度もないですね。小さいころからピアニストになりたいと思っていたわけではなく、弾くのが楽しくて続けていたら現在に至るという感じです。

――田中さんは京都堀川音楽高校出身ですが、中学生のころには将来音楽の道に進みたいと決めていたのですか?
周りの友達は小さいころから音楽高校を受ける準備をしていたのですが、私はそんなことはなく…。中学3年生の時に、京都堀川音楽高校のスクールガイダンスのポスターをたまたま見かけたので参加したら、すごく楽しくて!ピアニストになりたいというよりは、音楽の勉強が楽しそうだったから受験しました。それだけで受かるようなものではないのですけれど、当時師事していた先生がソルフェージュなど試験に必要なことを教えてくれていたおかげで、無事合格しました。

――高校卒業後は、京都市立芸術大学に進学されたのですよね。
芸大に進学した時もソロでバリバリ弾きたい!とは考えていませんでした。ピアノを弾きながら音楽を教えたりするような仕事に就きたいと思っていたので、ちょうど今やっている活動に繋がっていますね。

2022年1月 京都コンサートホールにて

――次はアウトリーチについてお聞きしたいのですが、そもそも「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」のことはどのように知られたのですか?
ホームページで見かけ、気になっていました。その時、京都コンサートホールの方からもこのお話を聞いて、まずは説明会に参加してみました。

――これまで小学校にアウトリーチ活動などに行った経験はあったのですか?
全くありませんでした。病院などは伴奏として訪問したことはありますが、小学校は初めてだったので、本当に未知の世界でした。また、アンサンブルやデュオではなく、ピアノひとりでやっている現場は見たことがなかったので、私にとっては冒険でした。

――ピアニストはひとりで現場を仕切らなければならないですもんね。
アウトリーチはホールでの演奏会と違って、音楽が好きな人だけが集まっているわけではないので、聴き手の心をもみほぐして音楽の楽しみをひも解いていけるようなプログラミングがとても大切ですよね。田中さんはどのようにプログラムを組み立てたのですか?
めちゃくちゃ大変でした…!まず研修会があったのですが、はじめは自分が何を伝えたいのか、またどのように組み立てていけばよいかも分からずで、スタッフの皆さんの助けがあって、ゼロの状態からなんとか創り上げることができました。出てきた曲の中からこういう道筋が立てられるのではないか、という進め方をしたと思います。
最初は視覚的にピアノの楽器自体に興味を持たせて、次は耳を使って音の特徴を最後まで聴いてもらう。五感を使って音に触れてもらった後、入ってきた音から風景を描いて想像を膨らませ、最後は作曲家の気持ちに寄り添って曲を聴いてもらう――色々な感じ方をしてほしいなと思って、プログラムを組み立てました。同じように聴いているけれど、人によって感じ方が違うということがアウトリーチで一番伝えたかったことです。

――田中さんのプログラムは、とても練り上げられた内容だなといつも思っています。アウトリーチではトークも大切ですが、いままでお客さんの前で話す機会などはあったのですか?
演奏会で曲の説明を簡単にすることはありましたが、話の道筋を意識してトークをすることは初めてでした。聴き手の人たちとコミュニケーションを取って、こう返答がきたらそれを生かしてこういう声かけをしようとか意識をする必要がこれまでなかったので、初めは苦労しました。言葉選びも難しく、私の一言で聴き手が傷ついたりしないかな、など気を遣いましたね。

――2019年度と2021年度の2年間(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響により活動休止)で合計20か所、アウトリーチ活動で学校や福祉施設を訪問しましたが、そのなかで一番印象に残っているシーンを教えてください。
最初に訪問させていただいた京都女子大学附属小学校ですね。ピアノの周りに集まって内部を覗いてもらうコーナーで、弾き終わった後にバアッと拍手が沸き上がったのが印象に残っています。私も、人が弾いているピアノの中を覗き込むことってないですし、アウトリーチならではの経験をしてもらえたかなと思います。
また、私のプログラムには、いわゆる「名曲」を入れていないので、みんなが知っているような曲は少ないと思うのですが、それでも自然と体を動かして聴いてくれることに驚きました。小学校へアウトリーチに行くので、聴き馴染みのある《子犬のワルツ》とか《キラキラ星》などを入れた方がよいのかなと思っていましたが、内容と道筋さえきちんと考えていれば、どんな曲でも楽しんでもらえるのだな、という発見がありました。この経験がなければ、今後小学校などに訪問するような機会があっても、名曲づくしのプログラムにしていたかもしれません。

2019年 京都女子大学附属小学校にて

――小学校で演奏されているプログラムのなかで一番反応が印象的だった曲は何ですか?
ドビュッシーの《花火》ですね。曲を聴く前と聴いた後、それぞれが思い描いた花火のイメージをみんなに質問するのですが、打ち上げ花火!と思っていたのが全然違うイメージの花火だったなど、子どもたちに意外性があるみたいです。あのような曲調でも集中して聴いて、曲から連想するイメージを一生懸命考えてくれるのは嬉しかったです。
あと小学生からいただくお手紙で、隠れファンが多いのがベートーヴェン。私が小学校で演奏しているピアノソナタ第18番では、ベートーヴェンの耳が聴こえなくなり始めた時期に作られた曲なのに、とても明るく前向きな曲になっているというトークをいつもしています。その内容をお手紙に書いてくれる子どもたちが多く、よく覚えていてくれているなあとびっくりでした。

――たしかに、子どもたちからのお手紙を読んでいたら、こんなに鮮明に内容を覚えてくれているのだと驚きますよね。
この2年間、登録アーティストの活動を振り返っていかがでしたか。田中さんは今後も京都を拠点に活動されていく予定ですか?
そうですね、関西圏で活動を続けていきたいです。もし登録アーティストに採用されていなかったら、京都で活動できていなかったと思います。自分でプロデュースして企画しないとなかなか演奏会はできないですし、そういう意味で演奏できる場所を提供してもらったというのはありがたかったですね。また、普段は関西圏でピアノを教える活動もしているので、午前中はアウトリーチに行って、午後は自分の方の活動も平行できるのも魅力でした。京都に根付いたアウトリーチ活動ならではだと思います。この経験を糧に、今後も自分の活動を継続しつつ、ピアノを弾き続けていきたいと思います。

 

――では最後に、最終年度リサイタルについてお伺いします。
今回披露される4曲は、これまで田中さんの心の栄養となった曲を選ばれたと聞きました。それぞれの曲への想いを教えてください。
はじめにベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」をお届けします。実はこの曲、昔はあまり弾きたいと思ったことがなかったのですが、ちょうどコロナが一旦収まった時期に出かけた演奏会で聴き、こんな良い曲だったのかとあらためて気が付いて急に弾きたい!!と思うようになったのです。私自身久しぶりに演奏を聴いて感じ方が変わったのか、そのインスピレーションを大切にしたいなと思って選びました。自分なりに解釈をもっと深めて、リサイタルに向けて準備を進めたいと思います。

――そしてドビュッシーの《版画》、ショパンのポロネーズ第6番「英雄」と時代の違う作品が続きますよね。
ドビュッシーは子どものころからずっと好きで、折にふれて演奏してきた作曲家です。なぜこの《版画》かというと、最近、曲のはじまりの音色使いに惹かれることが多く、「テンペスト」からいい感じに繋がるかなと思って選びました。昔から弾きたいと思っていたのでどうしても入れたかったというのもあります。ショパンの「英雄ポロネーズ」はもちろん大好きな曲なのですが、前半のアンコール要素として選曲しました。全体的にしっとりした曲が続くので、アクセントとして聴いてほしいです。

――そして最後はリストのピアノソナタという大曲で締めくくりですね。
この曲は昔から憧れの1曲です。リストは、「超絶技巧!華やか!聴いている人が失神した!」など伝説的なエピソードがありますが、晩年は聖職者となり、宗教的な道に進んでいきます。なにか一つを信仰するというのは人間的だなと思うのですが、このソナタは、一見華やかなリストとは異なる、生身の彼自身が垣間見える気がしました。それを自分なりに挑戦して表現したいと思います。中高生のころまでは、作曲家って歴史上の人物のように感じていたのですが、最近なぜか身近に感じられるようになってきました。それぞれの人たちがどういう風に過ごして、どういう想いで曲を書いたかということに寄り添いながら自分も演奏できたらいいなと思います。

――リサイタルには、アウトリーチで訪問した小学生たちも来てくださると思います。どのようにコンサートを聴いてほしいですか?
まずベートーヴェンはアウトリーチで届けた曲(第18番)と同じ時期に作られた曲です。耳が聴こえなくなる時期でも、こんなに曲調が違うのだということも感じ取ってもらえたらなと思いますね。ドビュッシーは、小学校では1曲しか弾いていませんが、今回のリサイタルでは3曲続く曲なので、それぞれ題名をみて想像を膨らませてほしいなと思います。ショパンは単純にカッコ良さを感じてほしいです!最後のリストは難しいかもしれませんが、長編映画を観るような気持ちで見てもらえたら嬉しいです。

――では最後に、来てくださるお客さまに向けてメッセージをお願いします。
いま私が最もお客様に聴いていただきたい作品が並んだプログラムになりました。前半後半でそれぞれのカラーを楽しみつつ、私の想いを聴き手の皆さんと共有できる演奏会にしたいと思います。

――お忙しいなか、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。登録アーティストの活動もあと1カ月となりました。最終年度リサイタルを楽しみにしています!

 

2022年1月、京都コンサートホール事業企画課インタビュー
アウトリーチ担当:陶器


★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us ジョイ ナス !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

2022年3月6日開催『最終年度リサイタル』Vol.2「田中咲絵 ピアノリサイタル」の詳細はこちら

オルガニスト 大木麻理 インタビュー(2021.12.04京都コンサートホール クリスマス・コンサート)

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インタビュー

コロナ禍だからこそ聴いていただきたいコンサートシリーズ『The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~』の最終回「京都コンサートホール クリスマスコンサート」。12月4日(土)15時より、京都コンサートホール 大ホールで開催します。

いよいよ冬本番ということで、めっきり寒くなってきた今日この頃。パイプオルガンとハンドベルアンサンブルのハーモニーで一足先にクリスマスの雰囲気をたっぷりとお楽しみいただけるコンサートです。

今回は、クリスマスコンサートにご出演くださるオルガニストの大木麻理さんに色々なお話を伺いました。


大木麻理(オルガニスト)

――2018年に「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.62」にご出演くださった折、和太鼓とのコラボレーションで鮮烈な印象を与えた大木麻理さん。以降、全国各地でパイプオルガンを使った様々な試みに取り組んでいらっしゃいます。今回の演奏会はハンドベルとの共演ですね。クリスマスシーズンにぴったりの組み合わせです。

大木麻理さん(以下、敬称略):そうですね、共演する「きりく・ハンドベルアンサンブル」の皆さんと相談しながら、「クリスマスだから聴きたいよね」という曲をたくさんプログラミングしました。もちろんクリスマスというテーマも大事なのですが、今回の公演のコンセプトは「音楽の力」でしたよね。

――はい、そうです。「クリスマス・コンサート」は、コロナ禍で奔走してくださる医療従事者の方々や、心が疲れてしまっている方、世界中の皆さんにパイプオルガンとハンドベルのハーモニーを京都から届けて、アフターコロナに向けて元気になっていただきたいという思いから企画された公演です。

大木:当初、京都コンサートホールのスタッフの皆さんとお話した時に出たキーワード「祈り」と「復活」はプログラミングの時にすごく意識しました。だからといって畏(かしこ)まるのではなく、演奏を聴いた後に「日常を忘れる特別な時間」「いいクリスマスを迎えられるね」といった想いをお客様に持ち帰っていただきたいです。あたたかな空間を作ることができたらいいなと思っていて、コンサートの最後には「希望の光」が見えるようなプログラミングにしています。

――大木さんは、以前にも「きりく・ハンドベルアンサンブル」と共演なさったことがあるそうで、2年ぶりとのこと。今回共演なさる際に楽しみにされていることはありますか?

大木:きりく・ハンドベルアンサンブルの演奏って、本当に「千手観音」のようなのです。色んな場所から手が綺麗に出てきて、圧巻のフォーメーションで演奏なさるのです。まるで美しいダンスを見ているかのよう。1人につきたった2本の手しか持っていないのに、こんなことができるのかと驚きます。お客様は、耳でも目でも楽しんでいただけることでしょう。わたしもお客さんとして聴きたいくらい(笑)。

「耳でも目でも楽しむことができる」というのは、パイプオルガンにも共通することですね。オルガニストは手と足を駆使して演奏するので、「アクロバットなことをしているね」とよく言われます。

――確かにそうですね。

大木:あとは、「楽器の発音の仕組み」という視点から捉えると、パイプオルガンとベルは正反対の性質を持つ楽器と言えるでしょう。ベルは打楽器の一種ですよね。オルガンが持ち合わせていない要素を持っています。逆も然りです。そういう意味で、お互いにない要素を補い合っているので、音楽的にさらに一つ高みにいくことのできる組み合わせなのではないかと思っています。

――なるほど!そう考えると素晴らしい組み合わせですよね。

大木:そうですね。聴いてくださるお客様は絶対に楽しいと思います。演奏する側の私たちも楽しいですから。

きりく・ハンドベルアンサンブル

――大木さんが京都コンサートホールのパイプオルガンを演奏してくださるのは、今回で2度目になります。

 大木:はい、とても楽しみです。京都コンサートホールのパイプオルガンは一見すると、大きくて厳かな楽器に見えるのですが、実際に音を出してみるとすごく暖かな響きがするのです。ちゃんと奏者と対話しながら鳴ってくれる楽器です。色々なストップがあるので、色々なことにチャレンジできます。個性豊かな、良い音がするストップがたくさんあるのです。もちろんそれらのストップを活かしながら、音を作っていく過程が重要になってくるのですが、古いものから新しいものまで、魅力的に弾くことのできる楽器です。

――いま「音作り」のお話をしてくださいましたが、実際にはどのように音色を選んでいかれるのですか?

オルガンを弾く大木さん

大木:方法は色々とありますが、まずはその楽器の特性を活かせる選曲をするように心がけています。次に、実際に楽器を演奏しながらレジストレーション(ストップを選択し、組み合わせることにより音色を作っている作業のこと)を行う際には、その楽器が持つ音色は全部使おうと思っています。これは、私のポリシーですね。どのようなストップでも、その存在価値を発揮させたいなと思っています。

あとは、その曲が書かれた背景を意識するようにしています。例えば、今回演奏するリスト作曲の《バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」による変奏曲》に関して言うと、リストがイメージしたであろう音色や、当時のリストが耳にしたであろう楽器の音色を想像します。そして、私が演奏する楽器からそういったものを引き出すためにはどのようにすれば良いか、非常にこだわって音作りを行います。

――当ホールのパイプオルガンには本当にたくさんの種類のストップがあるので、大木さんがそれらをどのような組み合わせで使ってくださるのか、今からとても楽しみです

大木:ありがとうございます。

――さて、最後の質問をさせてください。インタビュー冒頭で本公演のコンセプトである「音楽の力」について少し触れました。このコロナ禍において、大木さんと「音楽」の関係性に変化はありましたでしょうか。

大木:そうですね、「音楽はやっぱり必要なんじゃないか」と思うようになりました。

2020年の最初のパンデミックの時、予定していたコンサートが全てキャンセルされたんですよね。その時は「自分の存在価値はないのだろうか」と思ったりもしました。でも、人間って生まれてから死ぬまで、どこかで必ず「音楽を聴いている」でしょう。そう考えると、私にとっても、その他の人にとっても「音楽は絶対に必要なものだ」と思うようになりました。コロナ禍において、それを初めて確信できたというか。音楽は当たり前に存在していますが、「ただ存在する」のではなく「人生にとって必要なものである」と皆さんが考えてくださったら嬉しいなと思っています。

――私もそう思います。特に我々は「ライブ演奏」を生業としている者ですから、このような時期ではありますが、お客様にはコンサート会場にお越しいただき、ぜひとも生演奏を聴いていただきたいと思っています。

(C)Takashi Fujimoto

大木:そうですよね。特に、パイプオルガンやハンドベルは生演奏で聴いていただくのがベストであると思います。コロナ禍でコンサート配信も増えましたが、パイプオルガンって配信には向かない楽器なのですよ。もちろん、配信にも良い点はありました。例えば、普段は客席から見えないオルガニストの手や足の動きを画面越しに見ていただいたり。そういった面白い機会を作ることはできましたが、やっぱりパイプオルガンの醍醐味ってホール中に鳴り響く音を身体で感じていただくことだと思うのです。その体験は配信やCDでは味わえないものです。ぜひとも、生演奏を聴きにご来場いただけたらと思います。

――本当にその通りです。実際にホールでパイプオルガンの音を聴くと、足元から頭の先までパイプオルガンと身体が“共鳴する”感覚を味わうことができます。今回は、パイプオルガンに加えてハンドベルの美しいハーモニーをも堪能することができる貴重な機会です。コンサート当日を楽しみにしています。
今日はたくさんのお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!

(2021年9月 Zoomにて)

《京都コンサートホール クリスマス・コンサート》の公演情報はコチラ

きりく・ハンドベルアンサンブル インタビュー(2021.12.04京都コンサートホール クリスマス・コンサート)

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インタビュー

京都コンサートホールがお届けする、特別なコンサートシリーズ「The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~」。シリーズの最終公演である「京都コンサートホール クリスマス・コンサート」では、親しみあるクリスマス・ソングをはじめ、祈りや復活の気持ちが込められた作品の数々を、 京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンとハンドベルの豊かな響きでお届けします。

公演に向けて、きりく・ハンドベルアンサンブル(以下「きりく」)の代表を務める、世界的なハンドベル奏者の大坪泰子さんにお話を伺いました。
ぜひ最後までご覧ください。

 

——この度は、インタビューにお答えいただきありがとうございます。
まずアンサンブルのメンバーについてお伺いいたします。メンバーの方々は皆さんどのようにハンドベルと出会われたのでしょうか。そしてどのように「きりく」に入られたのでしょうか。

大坪さん(以下敬称略):小中高時代に学校で始めた人がメンバーの約半分ですが、きりくで始めた人もいます。
いま一番若手のメンバーは、小さい頃から頻繁にきりくの公演に通ってくれていました。主に低音域を担当している福田義通は、私がこれまでグループを結成する度に参加してくれています。他のメンバーは、私のブログや打楽器協会の会報などでメンバー募集を知り、きりくに入ってきてくれました。

※きりくのメンバーは現在8名ですが、本公演では7名で演奏予定。

 

——きりくさんのこれまでの演奏活動とコロナ禍での活動について教えていただけますか。

大坪:これまでは毎年1〜2回の自主公演のほかに、国内公演や海外ツアー等を頻繁に行っていました。コロナ禍では、海外ツアーはできなくなった上、自主公演はキャンセルし、その他の公演数も激減しています。
楽器の特性上、集まらないと練習にならないのがコロナ禍での大きなネックとなりました。
昨年は、長年借り歩いていた練習場が一斉にクローズしてしまったため、自前で専用スタジオを作りました。高機能換気システムを入れた安全なスタジオは出来たものの、遠くから電車で通うメンバーも少なくないため、安全を考えるとやはり前ほど自由には集まれなくなりました。昨年以来、全く参加できなくなったメンバーもいます。

ただ、元々私たちは少人数で極度に制限された条件の中で、工夫しながら作品を作ってきました。何かに困れば新しい知恵と方法で動くだけで、むしろそうやって私たちは進歩していくものだと思っています。

——次に、きりくさんが使用されている「ハンドベル」という楽器について教えてください。一般の人がよく見るのは、10本くらいの色がついたハンドベルで、メロディーを奏でるくらいの規模かと思いますが、きりくさんの演奏会では全てのパートをハンドベルで演奏されると思います。どれくらいの本数を使われていて、一人あたりの担当本数はどれくらいなのでしょうか。

大坪:皆さんが「ハンドベル」と呼んだり想像しているものの殆どは、「ミュージックベル」か、ベル型の玩具なのではないでしょうか。
私達が演奏しているのは、「イングリッシュハンドベル」と呼ばれる楽器です。

きりくでは6オクターブ弱の音域を用いており、部分的には3セット使っています。重さは1音あたり500gから5kg位のものもあります。
使う数は曲によって違いますが、大体、1人6〜25個くらいを担当します。多い時には、全員で200個以上使う曲もあります。例えばピアノの鍵盤をバラして持って、自分の音だけ適切に奏でるような状態を想像してみたらわかりやすいと思います。
その他に、音叉型の「クワイアチャイム」という楽器も6オクターブ分使っていて、曲によっては併用しています。

※本公演で使用するベルの数は、約200個の予定です。

——きりくの皆さんが思うハンドベルの魅力はどんなところでしょうか。

大坪:一般とは違う発想や取り組みをしているので、私達の感覚が一般的ではないと思うのですが…倍音が豊かに響いているトランス的な状態が好きです。明るい曲よりは、暗くて深みのある曲が合うと思っています。

あとは、工夫次第で可能性が拡がるところでしょうか。
少人数でやっている事自体もそうですが、こんな事は出来ないだろうと決めつけず、どうやったら出来るかを試行錯誤しながら、新しい何かを発見していくことに喜びがあります。

 

——演奏会でお聴きするのがとても楽しみです。12月4日の「クリスマス・コンサート」で演奏してくださる曲について聴きどころを教えてください。

大坪:テーマが「祈り」だったので、楽器に合っていると思います。
ハンドベルは、時代で言えばバッハがいた頃に、イギリスの教会で生まれた楽器です。当時バッハの曲が演奏されるような事はありませんでしたが、時代を経てこうして出会ってみると、まるでオリジナルのように調和しているのが面白いです。
カッチーニのアヴェマリアとアメイジンググレイスは、今回「クリスマス・キャロルズ」を書いた山岸智秋さんの編曲によるものです。山岸さんは私の好みをよく知っていて、共通項も多いため、若い頃からタッグを組んで作品を作ってきています。

 

——大坪さんがおっしゃってくださったように、山岸智秋さんには、本コンサートのために「クリスマス・キャロルズ」を書いていただきました。山岸さんについてご紹介いただくとともに、今回の新曲に期待することなどをお話いただけますか。

大坪:山岸さんは、私が大学生の頃に教えていた高校のハンドベルクワイアの生徒でした。その後音大に進み、作曲編曲、ピアノ、各種合奏や合唱の指導、大学での教授活動等で活躍しています。
彼は私と音楽的な嗜好が似ているので、信頼してよく編曲を依頼します。私の細かい注文もよく汲んでくれますし、こちらで楽譜に少し手を加えたりする事にも寛容なのは、向こうも信用してくれているからではないかと思っています。
ただ、うちの人数では到底出来そうにない音数を書かれることもあり、毎回悲鳴を上げつつ仕上げながらもまた依頼する、ということをかれこれ30年来続けています。

今回の新作も、作品性の高いアレンジです。大量の音符を前にして、もう少し簡単だったらなと思いつつ、流石だなと思いながら音分けに取り組んでいます。
個性的な音使いをしながらも、素材としては古典的なクリスマスキャロルだけでメドレーになっているところも気に入っています。

 

大木麻理(C)Takashi Fujimoto

——今回共演する大木さんとは、以前(2019年12月)ミューザ川崎で共演されたと聞きました。今回の共演ではどのようなことを楽しみにされていますか?

大坪大木さんとは一度ご一緒しているので安心感があります。オルガンもハンドベルも教会生まれの楽器なので、共に演奏で祈れるのが嬉しいです。
どの曲も楽しみですが、今回はやはり、この公演の為に書かれた新作の「クリスマス・キャロルズ」に特別感があります。信頼できる共演者と編曲者で新しい作品を作れる希少な好機ですから、一回だけで終わらせるのは勿体ないくらいです。

 

——今回のコンサートには、「音楽」を通してコロナで疲れた方々を癒し、コロナに負けず音楽の力を信じて前に進みたい、というメッセージが込められています。「音楽の持つ力」は、ウィズコロナの現在、そしてアフターコロナでどのような役割を果たすと思いますか。

大坪:物理的に孤立しがちなコロナ禍での生活では、心の健康がQOL(クオリティ オブ ライフ)を左右します。音楽は直接心に刺激を与え、癒しや活力をもたらし、生き方にまで影響を与えると信じています。特に今後は、実演に触れて響きを浴びる体験の価値が見直されることと思います。
なんでもリモートで済むような生活習慣がついてきた今だからこそ、音楽を単なる情報として捉えるか、代替不可の体験として捉えるか、価値観の分かれるところではないでしょうか。
まだ厳しい状況下ではありますが、音楽ホール、実演家、そして聴衆の皆さまも、音楽体験の価値を諦めず、忘れず、共に乗り越えていければ嬉しいです。

 

 

——演奏会を楽しみにしている皆さまへ、一言お願いいたします。

大坪:大海の一滴のように僅かでも、たとえ一音でも響きを投じるからには何かに影響を与えていると信じ、演奏をしています。演奏会を楽しんでくださる皆さまお一人お一人のご安全、ご健康、お幸せを祈るとともに、その場を共有した全員から世界に向けた祈りが生まれることを期待しています。皆さまとご一緒できる事を心より楽しみにしております。

——お忙しい中ご協力いただきまして、誠にありがとうございました。
12月の公演を楽しみにしております!

(2021年9月事業企画課メール・インタビュー)

クァルテット澪標 東珠子さん&佐藤響さん インタビュー(2021.11.13オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~)

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京都コンサートホール

11月13日(土)15時開演「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」では、ドイツの巨匠ピアニストであるゲルハルト・オピッツと京都ゆかりの若手奏者による弦楽四重奏団「クァルテット澪標」が共演します。

公演に向けて、クァルテット澪標の東珠子さん(ヴァイオリン)と佐藤響さん(チェロ)のお二人にお話を伺いました。
クァルテットについて、そして演奏されるピアノ五重奏曲や共演するオピッツさんについてもお話いただきました。

ぜひ最後までご覧ください!


――お忙しい中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございます。クァルテット澪標のヴァイオリンを担当されている東珠子さんとチェロを担当されている佐藤響さんから今日はお話を伺います。
ヴァイオリンの大岡仁さんとヴィオラの牧野葵美さんは、先日それぞれお住まいのオーストリアとイギリスからご帰国されたばかりということで、現在隔離期間に入っていらっしゃいます(※インタビュー時10月末時点)
さて、まずは4人がどのように弦楽四重奏団を組まれたのかというお話を最初に伺いたいです。東さんと佐藤さんは同学年でいらっしゃいましたよね。

東珠子さん(以下、敬称略):はい、そうです。

佐藤響さん(以下、敬称略):同じ高校、大学※を卒業しました。(※現 京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市立芸術大学)

――大岡さんと牧野さんは違う学校だったのですね。

:はい、二人は私たちよりも1学年上で、相愛大学に通っていました。
私たちの出会いは「京都フランス音楽アカデミー」でした。当時私たちは高校2年生で、オーボエクラスの先生が「室内楽をやろう」と言ってくださって。それで、私と佐藤さんで組んだのですが、その時にヴィオラの牧野さんがいて、一緒に室内楽をやったのです。それがすごく楽しくて。そのうちに「カルテットをやろう」ということになったのですが、「そうしたらヴァイオリンがもう1人必要だね」と言ったら牧野さんが「大岡君を誘ったらやってくれると思う」という話になりました。

佐藤:牧野さんと大岡君は同じ師匠※に習っていたのです(※小栗まち絵先生)。高校2年生の時に日本音楽コンクールで2位を獲った大岡君は当時、スーパー有名人で超多忙にしていましたので、僕たちとカルテットを組んでくれるのかな?と思っていたのですが「いいよ」と快諾してくれました。僕たちが高校3年生の春のことでした。

――学校という枠組みから離れて組まれたカルテットだったのですね。

:はい、いつもとは全く異なる環境で、音楽を通して皆、自分自身を見つめていた時期でした。

――なるほど、4人が音楽的な価値観がぴったりと合ったのですね。

佐藤:いえ、それが違うのですよ。最初はとても苦労しました。特に東さんが苦労していたかな。練習の帰り道、泣いていたこともあったね(笑)

――性格も音楽性も異なる4人が集まるわけですから、時に衝突も起きますよね。そういった部分はコンサートに行っても見えてこないので、個人的にはとても興味のある話です(笑)。

:大岡君と牧野さんって、私が今まで出会ったことのない演奏家だったんです。それがすごく刺激的で。年齢も私たちより1歳上だし、キャリアもずっとずっと上でしたし。そういうことも大きな理由の一つでしたが、やっぱり、それまではソロ中心で、室内楽の経験があまりなかったことが原因だったと思います。先生以外の人たちと、一つの曲を皆で一緒に勉強するわけでしょう。音楽を作る時も、先生とは全然違う視点で話をしてきます。
なので、自分でやりたいことがある時は、相手を説得するだけの「自分」を強く持たないといけないのですが、当時はそれがとても難しかったです。

佐藤:自分の考えていることを言語化できなかったんだよね。

:きっと、大岡君もそうでした。黙っちゃう。

――ということは、牧野さんが積極的に発言をしていたのですか?

佐藤:そうです(笑)。牧野さんはとてもロジカルなのです。

:だから、牧野さんを納得させるには、自分がなぜそう思うのかということを、まずは自分自身がよく理解しないといけないということに気付きました。

――そのようなことを高校生で気付けたということは、なかなか大きな経験だと思います。

:そうかもしれないですね。牧野さんには非常に鍛えられました(笑)。本当にストレートで、真面目で、まっすぐな人なのです。

佐藤:僕自身は、ちょっと違う苦しみを抱いていました。当時、僕は全然弾けなかった。それがとてもストレスだったのです。

:おそらく、それぞれが違う理由でとても苦しんでいた時期でした。だからこそ、お互いに興味を抱いたのかもしれないです。4人がそれぞれの相手を通して、自分自身を見つめたり、自分とは全く異なる世界に生きる相手を見ようとしたり。数年間かけて、アンサンブルのみならず人間関係も築いていたのだと思っています。

――その後、皆さんが大学生になった頃、若いカルテットの発掘と育成を目的としたカルテット振興プロジェクトである「プロジェクトQ」に関西代表として参加されたり、若手弦楽四重奏団としてのキャリアを積んでいかれました。
しかし、一旦、活動を休止されましたね。

:そうです。3年の活動を経た後、大岡君と牧野さんが「海外留学をする」ということになりました。
彼らの希望は前から聞いていたので覚悟はできていましたが、さすがに「活動中止」となるとショックでしたね。

――何年間、活動を中止されたのですか。

:9年です。ですが、その間もメンバー同士、連絡を取り合っていました。やっぱり、活動していた期間、とても楽しかったから。

――活動再開のきっかけは何だったのですか?

:私が大阪でリサイタルを開催したのですが、その時に一時帰国していた大岡君が聴きに来てくれたのです。
9年経って、それぞれががむしゃらに勉強する時期を終えて、就職が決まったり進路が決まったりしていました。
やっと、落ち着いて将来を考えることができたタイミングだったのです。
それで「そろそろ澪標、再開したいね」「ちょっと音を出してみようか」という話になりました。

佐藤:そんな流れで、2018年の夏に大阪と京都で自主公演を開催しました。再スタートです。

――9年を経て、一番最初に4人の音を合わされた時の印象は?

佐藤:女性が強くなっていて、びっくりしました!(笑)

――(笑)面白いですね。東さんは9年経って、ちゃんと自己主張ができるようになっていたのですね。

:はい(笑)

佐藤:東さんは4人の中で一番ポジティブで、ムードメーカーです。

――なるほど、それぞれ役割があるのですね。

:そうです。ノリで弾いちゃおう!というのが私。「いやいや冷静になろうよ」というのが残りの3人です(笑)
大岡くんは本番となるとバリバリ演奏するのですが、普段はぽーっとしています(笑)。本当に優しい人です。

佐藤:僕と牧野さんはめちゃくちゃネガティブなんですよね。

:ネガティブというよりも、2人は理論で考えていく人たちなのです。

――リーダーシップを取られるのは誰なのですか?

:その質問は難しいですね!澪標にリーダーはいないかもしれないです。

佐藤:はい、いないですね。それでうまくバランスが取れているカルテットなのです。

――今回、ドイツの巨匠、ゲルハルト・オピッツさんとブラームスのピアノ五重奏曲を演奏してくださいますね。どのような作品であると捉えていらっしゃいますか?

ピアノ五重奏曲を作曲した頃のブラームス(1866)

佐藤とてもブラームスらしい作品だなと思います。
ピアノカルテットと比較すると全然違うんですよね。ピアノカルテットの場合は、ピアニストも弦楽器奏者も1人1人が対等な立場にあると思うのですが、ピアノクインテットは違うのです。ピアノとカルテットが対峙するというか。とてもやりがいのある作品です。

:この作品はブラームスが比較的若い時に書いたもの(1864年作曲)なので、音楽的にはそこまで複雑ではないのですが、ブラームス青年期の瑞々しさ、シンプルさを表現できたらいいなと思います。

――オピッツさんと共演されることについてはいかがですか。

佐藤:僕だけではなく、みなさんにとって、オピッツさんって「本物中の本物」ですよね。日本のオーケストラメンバーの色々な方々が口を揃えて「オピッツさんはすごい」とリスペクトされているのです。

(C)HT/PCM

大岡君が弾いているボン・ベートーヴェン管弦楽団でもソリストとしてオピッツさんが来られたそうなのですが、やっぱり凄かったそうです。こんなに皆が素晴らしいと絶賛するピアニストと共演できる機会はなかなかないことなので、すごく楽しみにしています。

 

:実は、澪標で他の奏者と一緒に演奏するのは今回が初めてなのですよ。そして、初めて演奏する方がオピッツさんという(笑)
こんなすごい話はないと思って、喜んでオファーをお受けしました。
私たちはこれまで、音程について相当緻密に議論を重ね、和声を作ってきました。そこへピアノが入った時にどうなるか、未知数ですし、とても楽しみでもあります。私たちにとって、素晴らしい経験になるだろうと思っています。

佐藤:こうやって、超一流のピアニストと共演する機会を純粋に楽めるというのは、やっぱりこれまでそれぞれに経験を積み、自信をつけてきたからだと思います。それぞれに自分の「引き出し」は増やしてきましたから。今回はその引き出しを試すことができる、とっても良いチャンスだと思います。

――これまで経験を重ねて自信をつけたからこそ、今回のコンサートを楽しめる……本当に素晴らしいことだと思います。
オピッツさんもクァルテット澪標との共演をとても楽しみにされています。
京都コンサートホールでしか聴くことのできない、オール・ブラームス・プログラム。本番まであとわずかですが、私たちも11月13日を今から楽しみにしています!今日は色々なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。

(2021年10月 京都コンサートホール応接室にて
聞き手:高野裕子 京都コンサートホールプロデューサー)

 

《オピッツ・プレイズ・ブラームス with クァルテット澪標》の公演情報はコチラ

 

ピアニスト ゲルハルト・オピッツ 特別インタビュー(2021.11.13オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~)

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京都コンサートホール

京都コンサートホールの特別シリーズ『The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~』の第3弾「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」(11/13)では、ドイツ・ピアニズムを受け継ぐ巨匠ピアニストのゲルハルト・オピッツ氏が、オール・ブラームス・プログラムを披露します。

オピッツ氏は、2020年に開催した特別シリーズ「ベートーヴェンの知られざる世界」にご出演いただく予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で出演は叶いませんでした。

今回、待望の京都公演に向けて、オピッツ氏へメールインタビューを行いました。
演奏していただくブラームスの作品や、特別な憧れがあるという京都についてお聞きしました。ぜひ最後までご覧ください。

(C)Concerto Winderstein

——この度はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございます。
昨年はご出演がかなわず大変残念でしたが、
今回改めてオピッツさんをお迎えできますこと、心より嬉しく思います。
さて、オピッツさんはこれまで日本各地で演奏されていらっしゃいますが、京都コンサートホールは3回目のご出演になるかと思います。1回目は2002年にヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮のNHK交響楽団と、2回目は2019年のマルク・アンドレーエ指揮の京都市交響楽団との共演でした。
京都コンサートホールの印象や過去の2回の演奏会での印象的なエピソードがあれば教えてください。

オピッツ氏:京都コンサートホールは、聴衆だけでなく演奏する側にとっても理想的なホールだと思います。ホールの持つ建築のコンセプトと優れた音響のおかげで、この場所で演奏することが本当に楽しいのです。
以前ベートーヴェンの協奏曲第3番とブラームスの協奏曲第1番を演奏しましたが、どちらも素晴らしい思い出です。ヴォルフガング・サヴァリッシュとマルク・アンドレーエという二人の偉大な指揮者とは80年代からのよき仲間、よき友人であり、私たちは何十年も多くの舞台を共にし、信頼し合うことができました。幸いなことにアンドレーエ氏は今も健在で音楽仲間や聴衆を魅了し続けていますが、サヴァリッシュ氏はもうここにはいません。本当に残念でなりません。

2019年1月 マルク・アンドレーエ指揮、京都市交響楽団との共演の様子(C)京都市交響楽団

★2019年のアンドレーエ氏&京都市交響楽団との共演の様子はこちら↓
京都市交響楽団 公式ブログ「公演終了!アンドレーエ&オピッツ「第630回定期演奏会」」

 

——今回の演奏会では、オール・ブラームス・プログラムを演奏していただきます。プログラム前半では、ブラームスの作曲人生において実り多き時期から晩年にかけてのソロ作品を選んでいただきました。選曲の意図と各曲の魅力を教えていただけますでしょうか。

オピッツ氏:1864年にブラームスが作曲した作品34の五重奏曲は若かりし頃のスタイルを踏襲しており、四楽章構成という大規模な作品です。これに呼応するものとして、ピアノの小品に集中して作曲を行った後期の成熟した作品を選びました。
2つのラプソディーは、古典的形式とラプソディーの自由さが統合された作品です。
続いて、ブラームスが“Klavierstücke”(ピアノ小品)と呼んだ最晩年の小品集の持つ魔法のような世界観へと歩みを進め(作品119)、“Fantasien”(幻想曲)と名付けた作品を演奏します(作品116)。
これらの作品の中にはドラマチックで煽情的なものもありますが、そのほとんどは熟考され詩的な美しさが強調された作品です。これこそがブラームスの絶頂期だと思います。

(C)HT/PCM

——後半プログラムの「ピアノ五重奏曲」では、京都ゆかりの若手音楽家による「クァルテット澪標」と共演なさいます。クァルテットのメンバーは現在それぞれ、ドイツ・ベルギー・イギリス・日本で活躍しています。共演する上で楽しみにされていることなどがありましたら教えてください。

オピッツ氏:クァルテット澪標の素晴らしい皆さまと、壮大な五重奏曲作品34で共演できることを楽しみにしています。彼らの演奏への熱烈な評判を耳にし、今回初めてご一緒できることになり、大変嬉しく思います。
この五重奏曲は室内楽曲の中でも特に重要な作品ですし、この曲を演奏することは5人の演奏家同士での知的で深い会話のように思っています。私たち5人は、ともに楽しい演奏を究極の目標として、この素晴らしい作品の魅力を聴衆の皆さまにお届けします。

クァルテット澪標

——オピッツさんは親日家でいらっしゃって、あるインタビュー記事で「とりわけ京都にはある種の憧れを感じています」と話されているのを目にしました。よろしければそのお話を聞かせていただけますでしょうか。

オピッツ氏:私にとっての京都は、日本だけでなく世界中のどの都市と比べても唯一無二の都市です。初めて訪れた1976年以来、いつもその街並みの美しさに感動し、魅了されています。一方に町があり、もう一方に広がるお寺や神社などの歴史的な風景、そして山や森、川などが驚くほど見事に調和しており、まるで完全な芸術作品のようです。千年以上の歴史に根差した伝統の美しさが、現代の生活に見事に溶け込んでいます。

 

——さて、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、世界を大きく変化させました。今回のコンサートを含む4つのコンサートシリーズ「The Power of Music~いまこそ、音楽の力~」は、「コロナに屈せず、“音楽の力”を信じて前に進もう」という思いで企画いたしました。「音楽の力」は、ウィズコロナそしてアフターコロナの状況で、どのような役割を果たす(果たしている)とオピッツさんは思いますか。

オピッツ氏:現在のパンデミックの状況によって、私たちが以前のように生活を楽しむことが難しくなっています。音楽はウイルスの脅威による影響や、それに付随する問題を解決することはできませんが、私たちの魂を勇気づけてくれるものです。辛い状況にある私たちの感情や思考を和らげてくれるもの、それが音楽だと思います。

(C)HT/PCM

——最後に、1年越しの演奏会を楽しみにしている皆さまへメッセージをお願いいたします。

オピッツ氏:クァルテット澪標と私は、ヨハネス・ブラームスの芸術的なメッセージに対する私たちの情熱を皆さまにお届けしたいと思います。ブラームスのファンが増えることを願っていますし、音楽愛好家の皆さまにもブラームスの新たな一面を見つけていただけたら幸いです。彼の精神が私たちを啓蒙し、導いてくれますように。

——お忙しい中ありがとうございました。京都でお会いできますことを楽しみにしております。

(2021年10月事業企画課メール・インタビュー)

「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」(11/13)公演情報・チケットの購入はこちら