【第1期登録アーティスト】ジョイント・コンサートに向けて③(DUO GRANDE ヴァイオリニスト・上敷領藍子)

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京都コンサートホール

2019年度よりスタートした、「Join us(ジョイ・ナス)! ~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
2019年度、1年間、京都コンサートホール登録アーティストと共にアウトリーチ活動を実施し、その締めくくりとして2020年3月に「ジョイント・コンサート」を予定しておりました。コンサートは、新型コロナウイルス感染症の影響により公演中止となりましたが、2021年3月7日に1年越しで開催することとなりました。

本ブログでは、登録アーティストたち3組4名の「ジョイント・コンサート」に向けての思いや、昨年の活動について紹介しております。
第3回は、DUO GRANDE(弦楽デュオ)の上敷領藍子さんです。ぜひ最後までご覧ください。

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2020年という年は、毎日繰り返し流れるTVのニュースを眺めながら過ごしているうちに一瞬で過ぎ去ってしまいました。音楽業界も予定されていた公演が次々と中止となり、見たことのない状況に気持ちが落ち込みましたが、公演が再開となると、それはそれで人を集めて「密」を作るきっかけになっているのではと、演奏する喜びの反面、人々の健康への不安と葛藤する日々が続いております。

私自身はコンサートが無くなり静かにしている間、何か自分にできる事はないかと考えました。そこで思いついたのは、自分と同い年の音楽家を多くの方々に紹介すること。それに伴い「あいこの音楽友だち部屋」という番組をYouTubeで立ち上げました。同世代には素晴らしい音楽家が沢山いて、小学生の頃から多くの刺激を受けてきました。今日も自分がヴァイオリンを弾き続けていられるのは、いつも音楽と真摯に向き合って演奏している同級生からの影響がとても大きいと日々感じています。番組内では彼らが日頃どのような想いで演奏家として生きているのか等のお話をとても正直に話してくれています。

実は第1回のゲストにはDUO GRANDEの朴梨恵さんが登場してくれています。とてもユニークでチャーミングな朴さんの素顔が沢山見られます!是非、「あいこの音楽友だち部屋」を見てくださいね。

さて、私と朴梨恵さんのデュオグループ、DUO GRANDEですが、去年の春からは一度も活動出来ませんでした。このジョイント・コンサートがとても久しぶりの私たちの舞台になります。舞台に立ってどんな事を思ったり感じたりするのか想像もつきませんが、ワクワクしたり、ドキドキしたり、ホールの響きを感じたり(舞台の真ん中に行くまでの自分の足音の響きなども)、マスクに隠れて目しか見えないお客様からの表情を読み取ったり、これから演奏する曲の事を考えたりときっと頭の中は忙しくて、一つ一つ認識する前に次の事を考えながら、その一瞬一瞬を感じているのだろうと思います。

お客様のいる「本番」でしか叶わない事、私と朴さんの二人の舞台がお客様と一体になることで大きな空間に生まれ変わるその瞬間が、待ち遠しいです。

2019年度のアウトリーチ演奏の様子

コンサートまであと少し時間がありますが、感染が拡大している今、無事コンサートが開催され、安心してご来場いただける事を願っております。

まずは皆様のご健康を心からお祈りしております。そして会場で元気にお目にかかりましょう!

 

上敷領 藍子

★ジョイント・コンサートに向けて
①ピアニスト・田中咲絵
②ヴァイオリニスト・石上真由子

「Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

【第1期登録アーティスト】ジョイント・コンサートに向けて②(ヴァイオリニスト・石上真由子)

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京都コンサートホール

「Join us(ジョイ・ナス)! ~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」は2019年度よりスタートし、京都コンサートホール登録アーティストの3組と共に、初年度1年間、京都市内の小学校にてアウトリーチ活動を展開してまいりました。
その締めくくりとして2020年3月に予定していた「ジョイント・コンサート」は、新型コロナウイルス感染症の影響により公演中止となりましたが、2021年3月7日に1年越しで開催することとなりました。

本ブログでは、登録アーティストたち3組4名の昨年2020年の取組やコンサートに向けての思いを紹介しています。
第2回は、ヴァイオリニスト・石上真由子さんです。ぜひ最後までご覧ください。

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(C)Shuzo Ogushi

◇2020年について

これまで時間に追われる生活だったので、実は少しほっとしました。京都で2年半ほど続けている月1〜3回の自主公演(Ensemble Amoibeシリーズ)を、中止する決断をしないといけなくなった時は流石に気落ちしましたが、活動再開後や来年度やりたい企画などを温める時間だ!と割り切って、意外とポジティブに過ごすことができました。

思い切ってジム通いを始めてみたり、夜型の生活を朝型に切り替えてみたり、プールに行ったり、忙しくてしていなかったパンやケーキ作り、茶道のお稽古を再開したり。音楽面では、レパートリーの開拓や、これまでやりたくてもできていなかった細々とした練習をじっくりできました。

また、環境面については、思い切って東京に住居を構え、新生活を楽しんでいます。

2019年度のアウトリーチ演奏の様子

◇ジョイント・コンサートに向けて

Ensemble Amoibe公演や、ほか出演予定公演の中止を公表した時、ファンの方々から沢山のメッセージをいただきました。「公演の再開を心待ちにしています」「音楽家にとっては苦しい時だと思いますが、石上さんの演奏を生で再び聴けるのを楽しみに私も頑張ります」など、私のことを待ってくれている人がこんなに沢山いらっしゃるのだ と実感しました。またその温かいメッセージに励まされて、ここで留まってはいけない、これからの時代に沿った音楽家のあり方を模索しよう と勇気をいただきました。

活動自粛を経験して、 何事もなく公演が開催できる、お客さんの前で演奏できることの有難さを再認識しました。そして芸術はやはり生活に必要である ということも。

みなさまとの時間を大切に、そして今回のステージをしっかり楽しみたいと思います。みなさまにお目にかかれますのを心待ちにしております!

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ジョイント・コンサートに向けて①(ピアニスト・田中咲絵)

「Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

 

 

【第1期登録アーティスト】ジョイントコンサートに向けて①(ピアニスト・田中咲絵)

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アンサンブルホールムラタ

2019年度よりスタートした「Join us(ジョイ・ナス)! ~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。

初年度の2019年度は1年にわたり、京都コンサートホール登録アーティストの3組(石上真由子さん、DUO GRANDE[上敷領藍子さん・朴梨恵さん]、田中咲絵さん)と共に京都市内の小学校をまわり、たくさんの子どもたちに生演奏を届けることができました。その締めくくりとして2020年3月1日に「ジョイント・コンサート」を開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により直前に公演中止となりました。
2020年4月からの2年目のアウトリーチ活動も中止を余儀なくされましたが、2021年3月7日に、1年越しでジョイント・コンサートを開催いたします(※チケットは完売)。

登録アーティストたち3組4名はこの1年間、自分の内面を見つめなおす時間として前向きに捉え、ネガティヴな感情とも向き合いながらも、新たな曲に取り組んだり、インターネットでの配信を試みたり、改めて楽譜を深く読み返したり、感染対策を施して自主演奏会を行ったりと、今できる音楽活動を精一杯重ねてきました。

そんなアーティストたちがコロナ禍で取り組んだことやコンサートに向けての思いを本ブログにて順番に紹介していきます。
まず1回目は、ピアニスト・田中咲絵さんからのメッセージです。ぜひ最後までご覧ください。

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2020年は世界中の誰もが、思い描いていた未来とは全く異なる1年を過ごされたのではないでしょうか。

私も、当初2020年3月に予定されていたこのジョイント・コンサートが中止になるなんて、去年の今頃は夢にも思っていませんでした。出演予定だったコンサートが中止になるということ自体が初めての経験でしたし、周りの音楽家の皆さんのコンサートも軒並み中止になっていく光景をSNSを通して目の当たりにし、胸が痛みました。

しかし、個人的にはコロナ以前は常に何かに追われるようにスケジュールをこなしていたので、「これは一旦立ち止まって自分自身を充電するチャンス」と捉え、前向きな気持ちで自粛期間を過ごすことができました。

自粛期間には、この時にしかできないことをしようと思い、ピアノに関して言えば、これまでに取り組んだことのない作曲家の作品や、ずっと弾いてみたかった曲にいくつか挑戦しました。(7月に京都コンサートホールのYouTubeにアップされたメッセージ動画内で演奏しているシューマン=リストの献呈も新しく取り組んだ曲です。)

本番のステージで皆さんに演奏を聴いていただけることはとても幸せなことですが、じっくりと自分のためだけにピアノと向き合えた時間もとても尊く感じました。この期間が少しでも自分の肥やしとなっていればいいなと思います。

夏以降は、他の楽器の方の伴奏として動画収録にご一緒させていただく機会や、感染症対策を施した上でのコンサートや試演会など、これまでにない形での演奏の機会が徐々に戻ってきました。お客さんの立場としても、いくつかのコンサートを聴きにホールへ足を運びました。

今までの普通が普通でなくなってしまった今、このようなご時世でも音楽を聴きに会場へ足を運んでくださる方々、感染症対策を始め、コンサート開催までにあらゆる面でサポートをしてくださるスタッフの皆さんのおかげで、コンサートが成り立っているということを改めて実感しています。

そして何よりも、「生の音楽を演奏者とお客さんが同じ空気の中で共有できることの喜び」をとても強く感じました。

ジョイント・コンサートの開催が1年越しに決定し、チケット発売後すぐに売り切れ状態になったことからも、多くの方々がこのコンサートを楽しみにしてくださっているんだなと、とても嬉しく思っています。このコンサートが今度こそ無事に開催され、皆さまと楽しいひと時を過ごすことができますよう、私も心から願っています。

★「 Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページはこちら

「北山クラシック倶楽部2021」前半セット券のご案内

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京都コンサートホール

「北山クラシック倶楽部」は、海外トップアーティストによる世界水準の演奏を、京都コンサートホールの室内楽専用ホール「アンサンブルホールムラタ」で体感していただくコンサート・シリーズです。

アンサンブルホールムラタ

この度、2021年のシリーズ前半3公演(4月~7月)のラインアップが出揃いました!今回の来日に合わせて組まれたトリオや、いま注目のトリオなど、3組の「トリオ(三重奏)」が登場します!

京都コンサートホールではこれらの公演をお得に聴いていただけるセット券(限定100セット・約15%割引)を販売いたします。

ご予約・ご購入時にお好きな座席をお選びいただく、全公演共通座席「マイシート」制のチケットです。

演奏者の息遣いまで聞こえてくる濃密な音空間で、世界レベルの演奏をご堪能ください。


国際的チェリストと極上のトリオ
ミハル・カニュカ(チェロ)ピアノトリオ・プロジェクト
伊藤恵(ピアノ) 漆原朝子(ヴァイオリン) ミハル・カニュカ(チェロ)

ミハル・カニュカ
伊藤恵©大杉隼平
漆原朝子©Naoya Yamaguchi, Studio Diva

プラハの春 国際音楽コンクール会長でプラハの春 国際音楽祭の芸術委員でもあるチェコが誇る名チェリスト、ミハル・カニュカ。数々の国際コンクールで入賞を果たし、世界各地でオーケストラのソリストや、ソロリサイタル、室内楽など幅広く活躍しています。
そのカニュカが東京藝術大学教授でもある日本を代表する2人の国際的名手たちと展開するピアノ・トリオの世界をお楽しみください。ベートーヴェン、シューマン、ブラームスとクラシックの王道ともいえる作曲家たちの作品を取り上げます。

◆公演詳細◆

[日時]2021年4月12日(月)19:00開演(18:30開場)

[出演]
伊藤恵(ピアノ)
漆原朝子(ヴァイオリン)
ミハル・カニュカ(チェロ)

[プログラム]
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第5番 ニ長調 作品 70-1「幽霊」
シューマン:ピアノ三重奏曲 第3番 ト短調 作品 110
ブラームス:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ長調 作品 87

[一回券]
全席指定 一般:6,500円 *会員:5,800円
*会員先行発売:1月22日(金)/一般発売:1月29日(金)

[主催]コジマ・コンサートマネジメント


アンサンブルの愉しみ
シェレンベルガーと仲間たち

ハンスイェルク・シェレンベルガー©Gerhard Winkler
赤坂智子
津田裕也©Christine Fiedler

オーボエ、ヴィオラ、ピアノそれぞれの楽器の魅力に触れていただけるプログラムです。
アメリカでヴァイオリニストとしても活躍したレフラーと、ドイツで指揮者としても活躍したクルークハルトによる隠れたロマン派の名作を取り上げます。
元ベルリン
フィルハーモニー管弦楽団首席オーボエ奏者で、京都市立芸術大学の客員教授を務める名手シェレンベルガーが共演者として選んだのは、国際的活躍を重ねる日本人奏者2名。ヴィオラ奏者の赤坂智子とピアニスト津田裕也が加わり、珠玉のアンサンブルをお届けします。

 

◆公演詳細◆

[日時]2021年5月18日(火)19:00開演(18:30開場)

[出演]
ハンスイェルク・シェレンベルガー(オーボエ)
赤坂智子(ヴィオラ)津田裕也(ピアノ)

[プログラム]
レフラー:2つの狂詩曲
シューマン:民謡風の5つの小品 作品 102より
クルークハルト:葦の歌 作品 28       ほか

[一回券]
全席指定 一般:4,000円 U25:2,000円 *会員:3,600円
*会員先行発売:2月6日(土)/一般発売:2月13日(土)

[主催]ヒラサ・オフィス


アンサンブルの極みを追求し続ける新世代のピアノトリオ
オリヴァー・シュニーダー・トリオ

オリヴァー・シュニーダー・トリオ©Raphael Zubler

スイスの実力派ピアニスト、オリヴァーシュニーダー。チューリッヒトーンハレ管弦楽団の第一コンサートマスターのアンドレアスヤンケと首席チェリストのベンヤミンニッフェネガーと共に気鋭のピアノトリオを結成しました。
2012年のデビュー以降、世界各地の音楽祭や著名なホールへ出演するほか、録音にも力を入れており、2017年にリリースされたベートーヴェンのピアノ三重奏曲全集も高い評価を得ています。アンサンブルの極みを追求し続ける彼らの演奏をお楽しみください。

◆公演詳細◆

[日時]2021年7月13日(火)19:00開演(18:30開場)

[プログラム]
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第4番 変ロ長調 作品 11「街の歌」
ブラームス:ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 作品 8(1891年改訂版) ほか

[一回券]
全席指定 一般:4,000円 *会員:3,600円
*会員先行発売:3月20日(土・祝)/一般発売:3月27日(土)

[主催]日本アーティスト


★★お得な3公演セット券(限定100セット!)★★

★セット料金(全席指定)
12,000円 <約15%お得!>

★販売期間
*会員先行期間  2020年12月12日(土)~12月18日(金)
一般販売期間  2020年12月19日(土)~2021年1月15日(金)

*会員…京都コンサートホール・ロームシアター京都Club(会費1,000円)・京響友の会の会員が対象です。

※出演者や曲目など内容が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

【3つの時代を巡る楽器物語 第2章】小倉貴久子インタビュー(後編)

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京都コンサートホール

10月25日の『3つの時代を巡る楽器物語』第2章の公演開催まで、あと残りわずかとなりました。ご出演いただくフォルテピアノ奏者の小倉貴久子さんのインタビュー後編をお届けします。今回は、公演の聴きどころをお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください!

――今回の演奏会では、小倉さんが所有されているフォルテピアノ(1845年製 J.B.シュトライヒャー)を使用させていただきます。ベートーヴェンと「ゆかりがある楽器」ということですが、詳しく教えていただけませんか。

シュトライヒャーは当時のウィーンで最も人気実力を誇った老舗メーカーです。ウィーン式アクションというドイツ系列の作曲家たちに支持された発音メカニズム(*1)は、シュタイン(*2)が発明して、その楽器をベートーヴェンも若い頃演奏していました。シュタインの娘ナネッテも素晴らしい女流ピアノ製作家になり、アンドレアス・シュトライヒャーと結婚して姓がシュトライヒャーになりました。ベートーヴェンとはプライヴェートでも大変親しかった女性です。ナネッテの息子ヨハン・バプティスト・シュトライヒャー(以下J.B.シュトライヒャー)もピアノ製作家になり、ベートーヴェンもJ.B.シュトライヒャーの製作するフォルテピアノに大きな興味をもっていました。この演奏会で使うフォルテピアノは、晩年のベートーヴェンが欲した6オクターブ半の音域をもち、ダイナミックな音響と歌うことを得意とする音色、皮巻きのハンマーによる繊細なイントネーションが可能な楽器です。この楽器は、ベートーヴェンの死後18年経過後に製作された楽器ですが、1824年にJ.B.シュトライヒャーのピアノを弾いたベートーヴェンが、将来を予見し望んだ楽器に近いのではないかと想像しています。

(*1) 跳ね上げ式と呼ばれる、軽いハンマーを梃子の原理で跳ね上げ打弦するというシンプルな構造。シュタインのフォルテピアノの音域は5オクターブで、タッチは浅く俊敏で、軽やかで華やかな音楽が奏でられる。

(*2) ヨハン・アンドレアスシュタイン:1728年~1792年、ドイツ生まれのピアノ製作家。ピアノ製作史における重要な人物として知られる。

今回使用する1845年製J.B.シュトライヒャー(製造番号3927)
1835年と1839年、オーストリア皇室から金メダルを受賞したことが鍵盤表面板に描かれている

――今回はベートーヴェン後期のソナタ第30番~32番を演奏していただきます。これらの曲の聴きどころを教えてください。

ベートーヴェンのピアノソナタはピアニストにとって、とても大切な作品です。ベートーヴェンはピアノの名手だったので、ボン時代の《選帝侯ソナタ》(*3)ですら既に超絶的な技巧が満載です。初期、中期では波乱の人生が投影された、常に前人未到の世界が描かれた革命的な一曲一曲は、どれもが個性豊かな作風となっています。そんな超人的なベートーヴェンですが、プライヴェートな事件やさまざまな要因が重なり、スランプ期に襲われます。しかし、その時期を経た後に到達した後期の世界では、追随する作曲家のいない孤高の世界が描かれます。それは現代の私たちにとっても大きな慰めとなり勇気を与えられ、人生の讃歌と思えるような素晴らしいメッセージに溢れているのです。

(*3) ベートーヴェンが少年期時代の1782年から翌年にかけて作曲した3曲からなるピアノ・ソナタ。作品番号はつけられていない。

――ナビゲーターにはベートーヴェン研究で著名な平野昭氏をお迎えします。平野さんとは最近も共演されていましたが、どのようなことを楽しみになさっていますか?

平野先生とは今までにもレクチャーコンサートや講座などでご一緒させていただいています。私もお話に参加して、ステージでピアニストの勝手な妄想をぶつけて盛り上がる場面も。平野先生の幅広い知識とベートーヴェン愛が、コンサートの楽しみを倍増させてくださること請け合いです。どうぞお楽しみに!

――京都コンサートホールは感染症防止対策を徹底し、万全の体制でお客様をお迎えします。最後に、当日ご来場のお客様に向けてメッセージをお願いいたします。

このような不安を感じられる状況の中、演奏会にお越しいただけるみなさまには感謝いたします。京都コンサートホールでは感染症防止対策を徹底していますので、演奏会中はゆったりとくつろぎながらお楽しみください。親密さはフォルテピアノの特色です。かたや宇宙的でもあるベートーヴェン後期の作品。特別な時間が共有できることを願っています。

みなさまと会場でお会いできますことを楽しみにしています。

***チケットは残りわずかとなってきました。公演の詳細はこちら♪

https://kyotoconcerthall.org/calendar/?y=2020&m=10#key20554

 

【3つの時代を巡る楽器物語 第2章 】小倉貴久子インタビュー(前編)

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京都コンサートホール

10月25日の『3つの時代を巡る楽器物語』第2章の公演開催まで、残すところ1ヶ月となりました。そこで、ご出演いただくフォルテピアノ奏者の小倉貴久子さんにメール・インタビューを行いました。前編、後編に分けてお届けします。ぜひ最後までご覧ください!

――この度はメール・インタビューの機会をいただき、ありがとうございます。小倉さんは日本を代表するフォルテピアノ奏者として活躍されておられますが、大学在学中に留学されたオランダで古楽器に出会い、それがきっかけで独習されたとお伺いしました。その時のお話を詳しく教えていただけますか。

小倉貴久子さん(以下、敬称略):東京藝術大学ピアノ科を卒業して大学院在学中に留学したオランダで、運命の出会いがありました。ピリオド楽器と呼ばれる、作曲家が演奏していた当時の楽器によるコンサートに行き、目から鱗の落ちるような大きなショックを受けたのです。バロックチェロのビルスマ(*1)、チェンバロのレオンハルト(*2)など、当時のオランダは古楽が盛んで、まさに最も刺激的な世界でした。その演奏は「今、生まれたばかりの音楽」という瑞々しさに溢れ、一体この世界はどうなっているのだろう?とその魅力にはまってしまいました。たくさんの古楽のコンサートに通い、チェンバロをプライベートで習い始め、フォルテピアノの製作家の工房に足繁く通いました。当時の演奏スタイルは、たくさんの古楽の友達との共演などを通して、実地で学んでいったという感じです。

(*1) アンナ―・ビルスマ:1934年~2019年、オランダ生まれ、バロックチェロの先駆者かつ世界的な名手として知られる。

(*2) グスタフ・レオンハルト:1928年~2012年、オランダ生まれ。 ピリオド楽器による古楽演奏の先駆者として知られる。

――なぜ留学先にオランダを選ばれたのですか?

小倉:オランダを留学先に選んだ直接の動機は、すばらしい指導者でありピアニストのヴィレム・ブロンズ先生に師事するためでした。藝大の学部2年のときにレッスンを受けてから毎年のように藝大に招聘教授として来日されていらして、留学はブロンズ先生のところ!とずっと決めていました。実はその時には、オランダが古楽演奏の先進地である、ということすらも知らなかったのです。留学してすぐにストラヴィンスキーのピアノ協奏曲のソリストに選ばれて音楽院の定期演奏会で演奏しました。オランダは現代音楽のメッカでもあったので、現代音楽のスペシャリストのレッスンを受ける機会もありました。

――小倉さんは1993年古楽界の最高峰と言われるブルージュ国際古楽コンクールのアンサンブル部門で優勝(ピンチヒッターで出場され、短期間で猛特訓されたとか!)、さらに1995年にはフォルテピアノ部門を制されています。コンクールの時のお話を聞かせてくださいますか。

小倉:藝大大学院を休学しての留学でしたので、2年間というリミットの最後に同級生の留学地であったフランス、ドイツ、オーストリアなどに旅行するという企画を立てていましたところ、急遽ブルージュ国際古楽コンクールアンサンブル部門のフォルテピアノ奏者のピンチヒッターを頼まれました。1ヶ月しか準備期間がなかったのですが、留学最後の楽しそうなお誘いに「私でいいならやりま〜す!」とふたつ返事で引き受け特訓しました。まさかの第1位をいただき夢のようでした。受賞後、古楽関係の友人から、「これは最も権威あるコンクールなのだから、これからしっかりね!」などと言われ、私自身も驚きました。その2年後のソロ部門への挑戦の時は、事前にリサイタルをするなど綿密に準備を重ねました。コンクールは8月だったのですが、その時実は妊娠中で10月に娘を出産しました。本選会場に向かっているとき、お腹が張ってきたりして、「リラックスしないと〜」と思い、かえって柔らかい気持ちで本番に臨めて良かったのかもしれません。

――フォルテピアノでの演奏を聴くことにより、現代のピアノにはない音色や表現を味わえ、作曲者の思いをより深く感じることができます。小倉さんの感じるフォルテピアノの魅力は何でしょうか?

小倉:現代のピアノは、大ホールで多くの聴衆に大きな音で提供できるように、また楽器が温度湿度などから破損したりすることのないように、という目的で徐々に変化していき一般化した形になりました。安定した音質、管理の容易さなどが手に入りましたが、かたや18世紀、19世紀に大切にしていたことを失ってしまったという面があります。作曲家が作品に託したメッセージというのは、時を隔てて継承できると思うのですが、その道具となる楽器によって実際に創造される世界は大きく異なっていきます。ちょっと乱暴な例えですが、「ショーウインドウに入った本物そっくりの完璧な腐らないケーキ」と、「1日の賞味期限しかない手作りのケーキ」のような違いです。具体的には、鋳型金属製フレームをもたず、木製のケースに平行に弦が張られ(*3)、皮巻きのハンマーが使用されています(*4)。言葉と密接な関係にあった音楽の発音方法、多声部の扱い、音響的効果など、作曲家がイメージして楽譜に書いた音符や表情記号を表現できます。

(*3)  作曲家や演奏家たちが鍵盤楽器の音域の拡大を要求し始めたことにより、木製のフレームでは弦の強い張力を耐えることができなくなったため、現代のピアノでは金属製フレームを使用されるようになった。

(*4) 現代のピアノではハンマーを包む素材としてフェルトが使用されている。

――小倉さんは古楽器の様々な演奏会の企画や、フォルテピアノのアカデミーにも力を入れてらっしゃいます。このシリーズの第1章にご出演いただいた川口成彦さんも、小倉さんに師事しなければ古楽にのめりこむことはなかったと仰っていました。

日本にはまだまだフォルテピアノの台数も少なく、ピアノと言えば、現代のピアノを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、シューマン、ラヴェルでさえも、ピアノと言えば、フォルテピアノだったのです。つまりピアノ曲の重要なレパートリーのほとんどが、現代のピアノ以前の楽器で作曲されていました。私自身、知らなかったときには何も疑問を感じずに現代ピアノを弾いていましたが、オランダで生の音を聴き、体験してこの素晴らしい世界に足を踏み入れました。ぜひ、コンサートにお越しいただき生の音を体験していただきたいと願っています。

――小倉さん、ありがとうございました。後編では、今回の演奏会についてのお話を伺う予定です。

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チケットは好評発売中です。公演の詳細はこちら♪

https://kyotoconcerthall.org/calendar/?y=2020&m=10#key20554

【ベートーヴェンの知られざる世界 特別連載③】バリトン歌手 大西宇宙 インタビュー

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京都コンサートホール

京都コンサートホールの開館25周年とベートーヴェンの生誕250周年を記念して開催する、コンサート・シリーズ「ベートーヴェンの知られざる世界」。

公式ブログでは、シリーズの魅力をお伝えする特別連載を行っております。
第3回は、Vol.1「楽聖の愛した歌曲・室内楽」(10/10開催)に出演していただく、バリトン歌手の大西宇宙さんにメール・インタビューを行いました。

今回歌っていただくベートーヴェンの歌曲についてや、コロナにおける大西さんの取組についてなど、興味深いお話を聞かせてくださいました。ぜひ最後までお読みください。

©Simon Pauly

――この度はお忙しい中、メールインタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まず大西さんご自身のことについてお伺いいたします。
大西さんはシカゴ・リリック・オペラの所属歌手として、幅広くご活躍なさっています。アメリカを活動の拠点とされたきっかけは何だったのでしょうか。また新型コロナウイルス感染症拡大前の主な活動について教えてください。

アメリカへはまず、ニューヨークのジュリアード音楽院に留学するため渡米しました。世界各地から優秀な指導者と音楽家が集うこの芸術大学で、リーダーアーベント(※「Liederabent(歌曲の夕べ)」)やオペラ公演に出演するのはとても刺激になりました。そんな中、シカゴの歌劇場でオーディションの機会を得ることができ、その後もアメリカの劇場で歌わせていただく機会を頂いています。

新型コロナウイルス感染症拡大前は、ヨーロッパとアメリカ、日本を往復していました。フィラデルフィア歌劇場のリハーサルのためにアメリカに戻った瞬間に、次々と公演がキャンセルになってしまい、これからどうなってしまうのだろうと、恐怖を感じたのを覚えています。

シカゴ・リリック・オペラ「Rising Stars Concert」

――新型コロナウイルス感染症の猛威は計り知りませんね…。
次に、コロナ禍における大西さんの活動についてお伺いします。
感染拡大により、多くのアーティストたちが活動中止を余儀なくされ、アメリカのオーケストラや歌劇場など年内のコンサートが多くキャンセルされたニュースも見ました。
そんな中、大西さんは「宇宙と歌おうプロジェクト」でこれからの音楽家たちを支援されたり、オンラインコンサートに出演されたり、インスタグラムでゲストを招いてライブトーク配信をするなど、様々な活動をされているかと思います。
プロジェクトを始められたきっかけや思いなどをお聞かせいただけませんか。

2月ごろ、アジアやヨーロッパで感染が広がる中、アメリカはまだ楽観的でした。しかし現在は、最も厳しい状況に置かれている国の一つとなってしまいました。私もアメリカでの活動の多くが延期、中止を余儀なくされました。

私のいくつかのオンラインのプロジェクトは、そんな中で音楽家同士の横の繋がりを強めたい、という思いから始めました。
1人で自分だけのためのリモート演奏をすることもできますが、音楽はできるだけ人と楽しみたい。なのでライブトークなどを通じて、音楽について、あるいはコロナ禍をいかに乗り切るか、これからどんな可能性があるか語り合う場を作ることができれば、と思いました。

またロックダウン中は配信だけでなく、世界の同僚たちとなるべく会話し、情報・意見交換するよう努めました。それぞれの国の対策や、状況によって対応の仕方が様々で、芸術家からはどの様なアクションが求められているかを知る、良い機会になりました。

そして「宇宙と歌おうプロジェクト」を始めた背景として、表現の場を失った音楽家たちがたくさんいて、この先も自由に演奏ができるかわからない…特に音大生を含む若い音楽家は、これからまさにという時に、大変な時代になったと思います。音楽の楽しみ方は聞くだけではないと思ったので、なるべくメジャーな曲を、むしろ学生やアマチュアの方にも一緒に歌って楽しんでもらえるような企画を作りたく、このプロジェクトを始めました。今後も継続していければと思っています。

リモート収録風景

――素晴らしい試みですね!ところで大西さんの主な活動は、オペラやオーケストラのソリストとしてのご活躍が多いと思いますが、歌曲の演奏活動をどのようにとらえていますか。またオペラや宗教曲などの独唱と比べて、歌曲の魅力はどういうところにあると思いますか。

何より自由さ、でしょうか。オペラは筋立てや、物語の構成や役が予め決まっていますが、歌曲は自分の解釈と想像力次第で、詩の中の登場人物を自由に旅させることができます。また、プログラミングにも個性が出ます。今回は1人の作曲家というテーマがありますが、私は曲同士を物語のように繋げていくのが好きで、音楽の対話によって、その物語をお客さまと一緒に旅していくように演奏できたらと思っています。

 

――今回歌っていただくベートーヴェンの歌曲は、歌曲やリートの中でもなかなか歌われる機会が少ないかと思います。聴きどころを教えてください。

今回は、私にとっても初挑戦の曲が多い演奏会となります。ベートーヴェンの歌曲は、音楽史の面から見ても特異な存在で、モーツァルトやシューベルトの歌曲とも違います。古典的なきっちりとした形式でありながら、ロマン派的な情熱を含んでいて———まじめでありながら奇抜というか、高貴でありながら人間らしいというか…ベートーヴェン自身のような、複雑な人間性が溢れているユニークな作品ばかりだと思います。
私が歌で一番大事にしているのは言葉、つまり詩のテキストなのですが、ベートーヴェンはその詩に非常に、実直に音楽を付けているという印象があります。なのでとても表現をするのが楽しいですね。

また歌曲を歌っていると、驚かされるのは伴奏の雄弁さです。ピアノや器楽のパートが歌の表現を先導していて、シンプルでありながら詩の内容にぴったりと寄り添うような伴奏が展開されています。その絶妙な掛け合いにも注目していただきたいですね。

浜離宮朝日ホールでのリサイタルにて

――当日お聞きできるのがとても楽しみです!
ベートーヴェンといえば、純オーケストラ音楽である「交響曲」というジャンルに初めて声楽を入れた(第九交響曲)だけでなく、オペラ(フィデリオ)や宗教曲(ミサ・ソレムニスなど)、歌曲など、声楽作品も幅広く作品を残しました。ベートーヴェンの作品における声楽作品の位置づけはどのように思われますか。

ベートーヴェンはソナタや交響曲などの器楽曲により、その名声が現在にも残っていますが、彼の声楽曲、特に歌曲がいかに彼の音楽人生において重要な位置を占めていたかはあまり知られていません。ベートーヴェンの創作人生を紐解くと、彼が常に声楽曲の創造を模索し、いかに人間の声に興味を持っていたかがわかります。またベートーヴェンはしばしば、歌曲を自らの個人的な深い感情を表現する媒体として使っていたと言われていますが、それはまさに先述した、詩があるからできることだとも言えます。ドイツ歌曲というとどうしてもシューベルトやシューマンが注目されてしまいがちですが、ベートーヴェンはその先駆者であり、その後の音楽家たちに大きな影響を残していると言えると思います。

 

――今回共演するピアニストの村上明美さんとは、群馬オペラアカデミー「農楽塾」の発表会で一度共演されたと聞きました。村上さんの印象を教えてください。

アカデミーの最後に講師演奏のような形で、総監督の中嶋彰子さんと一緒にメリーウィドウのワルツを歌いました。歌にぴったり寄り添ってくれる伴奏であると同時に、色彩豊かなピアノで、今回の演奏会は本当に楽しみにしています。あと本人にもお伝えしましたが、素敵なスーツをエレガントに着こなしていらっしゃったのがとても印象的でした。

共演するピアニストの村上明美(C)Shirley Suarez

――これまで京都では、京都市交響楽団の演奏会などにご出演されているかと思いますが、京都で思い出深いことがあれば教えてください。

京都市交響楽団の「戦争レクイエム」に出演させて頂きました(※2018年8月26日「京都市交響楽団 第626回定期演奏会@京都コンサートホール」)。終演後にお客さま方と一緒にホワイエでレセプションをする機会があったのですが、クラシック音楽にとても理解がある熱心なお客様が多く、感動した覚えがあります。
また、「オラトリオ・ソサイエティ・オブ・ニューヨーク」の来日公演(メサイア)でも京都コンサートホールで歌いました(※2019年6月7日公演)。ニューヨークでよく共演する団体の来日公演でしたが、当日は凄まじい盛り上がりようで、アメリカから来たメンバーたちは本当に感激していました。今回も思い出深い演奏会になればと思っています。

 

――最後にお客様へのメッセージをお願い致します。

私にとってはコロナでの活動自粛から、日本での初めての演奏会になります。久しぶりの舞台ということで様々な思いがありますが、これまで温めていたものを皆さんにお届けできればと思います。ホールでお会いできるのを楽しみにしています!

©Dario Acosta

――ありがとうございました!演奏会をとても楽しみにしております。

(2020年9月事業企画課メール・インタビュー)

☆特別連載
①村上明美 インタビュー<前編>
②村上明美 インタビュー<後編>

☆シリーズ特設ページはこちら

指揮者 高関健 インタビュー(2020.09.20第24回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート)

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京都コンサートホール

毎年秋に開催する人気のコンサート「京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート」が、今年で24回目を迎えます。

公演に向けて、指揮を務める高関健さんにメールインタビューを行いました。
今回のプログラムやコロナ禍におけるクラシック音楽についてなど、色々と興味深いお話を伺いました。

ぜひ最後までお読みください。

(C)堀田力丸

——この度はお忙しい中、インタビューをお引き受けいただきありがとうございます。
2014年から昨年度まで京都市交響楽団常任首席客演指揮者でいらっしゃったので、京響については熟知されていると思います。今回のコンサートは退任されてから初めての京響との演奏になりますが、お気持ちに変化はありますか。

それぞれのコンサートに対する気持ちは特に変わることはありません。常に最善の演奏を目指すよう心がけています。
京響との初共演は1987年9月の第297回定期演奏会でしたが、33年も前のことなので、オーケストラは今ではすっかり世代交代しています。しかし時間をかけてでも良い音楽を作っていこう、という京響の伝統は少しも変わっていないと思います。さらに長年にわたる広上淳一さんの情熱を持ったご指導によって、楽員の皆さんの高い意識が実を結び、素晴らしいオーケストラになってきていると思います。

 

——「京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート」でタクトをとられるのは2015年以来5年ぶりになります。京響の定期演奏会とは雰囲気は異なりますか?

同じお客様に続けて聴いていただく定期演奏会とはもちろん雰囲気も異なりますが、初めて京響をお聴きになるお客様もいらっしゃるはずですから、音楽の素晴らしさ、オーケストラの楽しさをすぐに実感していただけるよう、気を引き締めて演奏していかなければなりません。

2015年9月13日 第19回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサートより(撮影:佐々木卓男)

——今回、京都コンサートホール開館25周年ということで、ホールの顔ともいえるパイプオルガンにフィーチャーしたプログラムをお願いしました。
新型コロナウイルス感染症の影響でプログラムを変更せざるを得ませんでしたが、変更後のプログラムもとても素敵です。ジョンゲンとレスピーギのそれぞれの曲の聴きどころを教えてください。

京都コンサートホールのクライス社製のオルガンは音色も多彩で、機能性にも優れた素晴らしい楽器です。
これまでにもオーケストラにオルガンが組み込まれている作品では、京響の定期演奏会をはじめ何度も一緒に演奏し、その音色を確かめてきました。この度のコンサートでは、オルガンの響きを中心に据えたプログラムを、ということでジョンゲンの「協奏交響曲」の提示をいただきました。

アメリカ・ペンシルヴァニア州、フィラデルフィアにある「ワナメイカー百貨店」…現在は「メイシーズ」に名前が変わりました…に世界最大のオルガンが設置されています。お買い物を楽しみながら、オルガンの演奏が始まると、建物の壁をはじめ、あちこちに配置されたパイプが鳴り響きます。特に1階の大きな吹き抜けでは、建物全体から降り注ぐ壮大なオルガンの響きに囲まれてしまいます。

この大オルガンの機能を最大限に生かすための作品が、ベルギーの作曲家ジョンゲンに委嘱され、1926年に「協奏交響曲」ができあがりました。
従って、この作品を正しく演奏するためには、オーケストラがコンサートホールから百貨店に出張して演奏することになります (実際には様々な事情でなかなか演奏に至りませんでしたが、ようやく2008年、フィラデルフィア管弦楽団が「ワナメイカー百貨店」に赴き、正しい形での演奏が実現しました) 。

オルガンを主人公に、という目的にこれほど適った作品はありません。文字通りオルガンとオーケストラとの「競演」…「共演」ではありません…どちらに軍配が上がるか?内容も充実した「協奏交響曲」をお聴きになりながら、その勝負をお楽しみいただければ、これに勝る喜びはありません。

予定では、その後にサン=サーンスの第3交響曲を演奏することになっていましたが、事情によりプログラムが短縮されることになり、レスピーギの「ローマの松」に変更されます。

空気が乾いたローマの青空の下で遊ぶ陽気な子供たち、地下墓地で執り行われる厳かな儀式、澄み渡った夜空に明るく輝く満月と鳥の鳴き声(実際に聴こえてきます)、そしてはるか遠くからアッピア街道の石畳を踏みしめながら勝利の凱旋をするローマ軍と迎える人々の大歓声、そのすべての情景の周りに高くそびえ立つ松。聴いているだけで、見事に情景が脳裏に浮かびます。第2曲と第4曲にオルガンが参加して、オーケストラと共にコンサートホール全体を包み込む雄大な響きを作り上げていきます。

京都コンサートホールのパイプオルガン

——今回オルガン独奏は福本茉莉さんですが、福本さんとは以前、京響の「オーケストラ・ディスカバリー(ジョンゲンの《協奏交響曲》から第3, 4楽章)」で共演なさったことがありますね。

私が指揮を指導する東京藝術大学では、藝大フィルハーモニア管弦楽団が演奏し、在籍する学生がソリストを務める「モーニングコンサート」が毎年13回程度行われますが、私が指揮者として当時大学院生だった福本さんと初共演、その時の曲目がジョンゲン「協奏交響曲」でした。

練習時から技術はもちろん、音楽の構成、確固とした人格、溢れるアイディアの面白さに圧倒されたことを良く覚えています。京響「オーケストラ・ディスカバリー」で共演した時、福本さんはまだハンブルクに留学中でした。
近年は演奏の機会も拡がり、予感していたとおり、日本の若い世代を代表するオルガニストの一人として大活躍されていらっしゃいます。
今回もさらにパワー・アップして、ヴァイタリティーに富んだダイナミックなジョンゲンを聴かせてくださると確信しています。
京響と私も福本さんに負けないように心して演奏に取り組む所存です。

 

—— 先ほどの質問でも話題に出ましたが、今回のコンサートでは、新型コロナウイルス感染症の影響でプログラムを変更せざるを得ませんでした。また、最近、ふたたび感染拡大するなど、まだまだ予断を許さない状況が続いていますが、高関さんは現在のコロナ禍におけるクラシック音楽界(またはオーケストラ界)の現状について、どのようにお考えですか?

流動的な現時点で今後のことを予想することは、私にはできません。ただ、今年前半のいわゆる自粛の期間では、ほとんどすべての音楽家、しかも私たちだけでなく音楽を含めた芸術に携わるすべての皆さんが活動の停止を余儀なくされました。不要不急の議論どころか、私たちは生活の糧を失いかねない状況に置かれ、これほどの不安を味わうことになろうとは、想像もできませんでした。

夏に入って、少しずつ演奏が再開されていますが、特に若い世代の音楽家の皆さん、フリーランスの皆さんにとって状況は改善されていません。
私たちはできるところでは声を上げて、音楽の魅力やライヴのパフォーマンスの素晴らしさを皆さんにアピールしようと心掛けていますが、やはり実際に音楽する機会をいただかなければ、本来の力を発揮することができません。そのあたりのジレンマをものすごく感じています。
ですから、今回のような機会をいただいた時には、いかに生の演奏が素晴らしいか、音楽が自分たちのためだけでなく、皆さんにとって必要不可欠なものなのかを実感していただけるよう、精一杯演奏に表していかなければならない、と考えています。

 

——京都コンサートホールは感染拡大防止策を徹底的に行い、万全の体制でお客様をお迎えする予定です。
当日お越しくださるお客様にメッセージをお願いいたします。

オーケストラおよびクラシック音楽界は、慎重に議論を重ねた上で公演実施のためのガイドラインを作成し、徹底遵守しながら、6月後半より演奏を再開しました。その後もさらに演奏実験を重ねて、より精密で安全な開催を心掛けております。私たち演奏家は毎日の生活を含めて、感染しないよう十分に心掛け、また練習を含めた演奏活動の中では決して感染が拡がらないよう最大の注意を払っています。
お客様に置かれましても、設定させていただいた感染防止のためのガイドラインにご理解とご協力をいただきまして、会場でたっぷりと演奏をお楽しみいただければ幸いに思います。
ご来場を心よりお待ちしております。

2015年9月13日 第19回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサートより(撮影:佐々木卓男)

(2020年8月事業企画課メール・インタビュー)

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☆ソリスト福本茉莉さん(オルガニスト)のインタビューはこちら

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オルガニスト 福本茉莉 インタビュー(2020.09.20第24回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート)

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京都コンサートホール

今年で24回目を迎える「京都の秋 音楽祭」。その幕開けを飾る「開会記念コンサート」では、京都コンサートホール開館25周年を記念して、ホールの顔ともいえるパイプオルガンをフィーチャーしたプログラムをお届けします。

今回注目のパイプオルガンを演奏するのは、ドイツを拠点に活躍するオルガニストの福本茉莉さん。コンサートに向けてメールインタビューでお話を伺いました。

世界中での演奏活動や今回演奏していただく曲など、色々とお話いただきました。ぜひご覧ください。

(C)Susumu Yasui

———この度はメールインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございます。まずはパイプオルガンについて伺います。オルガンはピアノと違い、誰でも出会える楽器ではないと思うのですが、いつどこで出会われましたか?

通っていた小学校にオルガンが新しく入り、楽器の大きさや音量に惹かれてしまいました。飛行機やガンダムなどのコックピットに憧れがあり、オルガンのコンソールを一目見た時から「絶対弾きたい!」と決意。憧れをもったまま中学生になり、普通のクラブ活動の一環でオルガンを始めました。もともと背が大きくはなかったので、オルガンを始めた当初はペダルまで足が全く届かず、先生がひどく困っていたのを思い出します。

パイプオルガンのコンソール(京都コンサートホール)

———福本さんは、現在ドイツを中心にヨーロッパで活動されていますよね。具体的にはどのような活動をされていますか?

去年からドイツ中部にある、ヴァイマールのフランツ・リスト音楽大学で後進の指導にあたっています。オルガンのほかにも、個人レッスンでチェンバロ、オルガン即興演奏と通奏低音といった実技を教えています。また、オルガン音楽史、オルガン教授法などの座学も受け持っています。常勤職なので、平日は普通の学内会議などにも追われていますが、週末には大体どこかしらに演奏に出かけています。昨シーズンからはコンチェルトの機会が増えてきましたので、新しくレパートリーを増やしているところです。

フランツ・リスト ヴァイマール音楽大学の学期始めの大学の教員と学生の集合写真(1列目右から2番目が福本さん)

———ヨーロッパにはコンサートホールだけではなく、教会にもオルガンがたくさんありますよね。オルガンの響き、空間の響きなどの違いや特徴などを教えてください。

教会でもコンサートホールでも会場によって残響や反響が全く異なるので、どのようにそれと対峙していくかは大事な演奏のポイントになります。ヨーロッパも教会によって木造だったり石造りだったりと響きは様々なので、本当に現地に行ってみてフレキシブルに対応していく必要があります。オルガンは空間も含めて楽器といえるので、ぜひ一期一会の響きをライブ体感していただきたいです。

 

———今回で京都コンサートホールのオルガンをお弾きいただくのは2度目(前回は2017年3月)となりますが、京都コンサートホールのオルガンの印象や魅力を教えてください。

90ストップ(音色の数)という非常に大型な楽器で、日本では珍しくフル・オーケストラのサウンドにも真っ向から“勝てる”力強さを備えています。更には音色の多彩さも魅力と言えましょう。

京都コンサートホールのヨハネス・クライス社製のパイプオルガン

———日本国内や、世界中のオルガンの中で福本さんの印象に残るオルガンを教えてください。

様々な国で演奏するとオルガンだけでなく、その国の文化だったり人との出会いだったり、そういう一つ一つのことが合わさって記憶に残っていきます。スイスのバーゼル大聖堂で演奏した後、その大聖堂に設置されていた一つ前のオルガンがロシアのモスクワ、カトリック教会に移設され、その教会で演奏したことは個人的に面白い経験でした。
また、ドイツのナウムブルクにあるヒルデブラント・オルガンはJ.S.バッハが鑑定した楽器なのですが、その音色の魅力や、底知れぬパワフルさで今のところ一番のお気に入りです。
日本のオルガンには、私はまだあまり訪ねられていないので、是非これから開拓していきたいものです。

オランダ・アルクマールのシュニットガーオルガンでのリハーサルの様子
オランダ・アルクマールのシュニットガーオルガン全景

 

 

 

 

 

 

 

 

———次は今回の演奏会について話を移します。
今回のコンサート前半のプログラム、ジョンゲンの《協奏交響曲》は、オルガン・ソロがメインとなる曲です。この作品の聴き所について教えてください。

《協奏交響曲》というタイトルのとおり、オルガンはソリストであると同時にオーケストラの一員としての役割も担います。オルガンという楽器は笛の集合体なので、例えばフルートとの掛け合いだったりオーボエとの掛け合い、そのようなことがオルガンでも絡んでくるので、いま誰が演奏した!?ということもしばしば。オルガンとオーケストラ・サウンドの見事な融合はこの作品ならではの特筆点ではないでしょうか。アメリカはフィラデルフィアにある世界最大、 464ストップ(京都コンサートホールは90ストップ)を持つ巨大ワナメーカーオルガン*のお披露目のために作曲された本作。会場を揺るがすようなオルガンとオーケストラのTuttiは必聴です。

*ワナメーカー:アメリカ・フィラデルフィアにあった百貨店ワナメーカーに設置された世界最大のパイプオルガン(シアターオルガン)です。現在は百貨店「メイシーズ」の中にあります。

 

―――2017年3月に京響のオーケストラ・ディスカバリーで高関さんと共演なさっていましたが(同じジョンゲンの《協奏交響曲》から第3,4楽章のみ)、その時のエピソードや印象に残っていること、指揮者高関さんの魅力などについて教えてください。

大船に乗った心地で演奏させて頂けて、導いて下さる先生の指揮の大ファンです。前回のリハーサル中、オーケストラの皆さんが不安がるくらいにオルガンを鳴らしにいっても、「もっとどんどん出しちゃいましょう!」と先陣を切ってジョンゲンの爆音を再現しようとされる先生がとても格好良かったです。そして先生がTwitterを本番の休憩時間にも更新されていることに衝撃を受けたのでした。演奏者の声が逐一聞けるのは凄く贅沢ですよね。

 

———続いて演奏されるのはレスピーギの《ローマの松》です。この曲ではクライマックスにオルガンが登場し、曲全体を盛り上げると思います。この作品の魅力について教えてください。

終始ドラマティックで音の描写で紡がれる物語が目に浮かぶ、非常に魅力的な作品です。ジョンゲン同様に、フル・オーケストラとオルガンによる華々しい盛り上がりはまさに音楽祭の開幕にふさわしい一曲ではないでしょうか。

 

———今回新型コロナウイルス感染症の影響は、わたしたちに様々な影響を及ぼしていますし、コロナ前・コロナ後で音楽に対する価値観も変わってきたと思います。特にドイツにお住まいの福本さんは現在のコロナ禍におけるクラシック音楽界の現状について、どのようにお考えですか?

確かに今私たちは新しい転換の時代を迎えていると思います。きっとこれからまだまだ多くの影響、変化が生じてくるでしょう。私自身2月末のスロヴァキアでの演奏後は全ての演奏会がキャンセルもしくは延期となり、7月半ばにドイツでの演奏の機会を頂くまで本番から完全に遠ざかりました。幸いにも大学の常勤としてお給料を変わらず頂けたので、フリーランスの方の大変さが余計に身に染みました。音楽や芸術一般に限定すると、それが例え今までとは全く違うフォーマットになったとしても、この時代に即した新たな形が生まれるある意味でチャンスであり、挑戦の時なのだと私は思っています。

ロックダウン前最後に演奏した、スロヴァキア・ブラティスラヴァのオルガン

———京都コンサートホールは感染拡大防止策を徹底的に行い、万全の体制でお客様をお迎えする予定です。最後に、当日お越しくださるお客様にメッセージをお願いいたします。

ライブの醍醐味は肌で感じる音楽、演奏者とお客様双方向から放出される熱気と会場の一体感だと思います。会場を揺れ動かさんばかりの盛り上がりを、高関先生、京響のみなさんとお届けする事をお約束いたします。京都コンサートホールの皆さんの万全なサポートがございますので、是非とも当日会場で、ライブだからこそ体感可能な豪華絢爛なサウンドを体験しにいらしてください!

(2020年8月事業企画課メール・インタビュー)

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☆公演詳細はこちら

【ベートーヴェンの知られざる世界 特別連載②】村上明美 インタビュー<後編>

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京都コンサートホール

京都コンサートホール開館25周年とベートーヴェンの生誕250周年を記念して開催する、特別シリーズ《ベートーヴェンの知られざる世界》。

本ブログでは、インタビューなどを通して公演の魅力をお伝えする特別連載を行っております。連載の第2回は、ピアニストの村上明美さんのインタビューの後編です(インタビュー前編はこちら)。
自らが芸術監督を務めるミュンヘンの宮殿での歌曲シリーズや今回のコンサートについて、お話いただきました。

―――前編では、歌曲との出会いや歌曲ピアニストの奥深さなどについてお伺いしました。少し話を前に戻しますが、大学を出られた後はどのような活動をされてきたのでしょうか?

歌曲ピアニストというのはドイツではエージェントもつかないですし、フリーランスとして全て自分でやっていく世界でした。オペラ劇場のコレペティというような枠があるわけではないですし。歌手との演奏会の他、マスタークラスや国際コンクールの公式伴奏の仕事をしていました。

 

―――コレペティと歌曲ピアニストはどう違うのですか?

よく間違えられてしまうのですが、別物ですね。コレペティのお仕事はオペラ劇場で、ピアノを弾きながら音楽稽古をつけるコーチのような役割が多いです。コレペティはオーケストラ譜を稽古で演奏しますが、舞台に出るわけではないのも違いの一つです。歌曲ピアニストは、場合によってはコーチをすることもありますが、基本的に歌手と対等な立場で舞台に立つので、アンサンブルメンバーとして互いに能動的な関係性が理想です。

 

―――勉強になります!ところで、村上さんはミュンヘンで歌曲演奏会シリーズの芸術監督をなさっているんですよね。どういうきっかけで始めたのですか?

フライブルクに留学しているときから、歌曲を勉強するためにドイツの文化に触れていきたいと思うけれど、国で見ると歌曲文化が育っていく環境が少ないなという気付きがあったんですね。卒業後もその状況に疑問を抱くようになっていきました。「歌曲が好きだけど演奏できる場がない」と悩んでいる仲間も多い中、悩んでいるだけでは何も変わらないなと。30歳くらいの時、私自身で具体的に形にすべきだと思い、歌曲会をシリーズとして立ち上げていこうと決めました。そうして、ミュンヘン宮殿で芸術監督としてシリーズを始めました。

 

―――そのシリーズはなんというタイトルですか?

LIEDERLEBEN(リート エアレーベン)というタイトルです。読み方は二通りあって、そのまま「LIED  ERLEBEN(リート・エアレーベン)」と読むと「歌曲を体験する、味わう」というような意味になり、「LIED(リート・歌曲)」で切らないで「LIEDER(リーダー)LEBEN(レーベン)」と読むと「歌曲は生きている」という意味になるんです。自分の思いがプロジェクトの名前になっています。

 

―――タイトルにも思いがこもっているのですね。それは年に何回くらい開催しているのですか?また、どんなアーティストが来てくださるのですか?

年4回です。これまでは、ユリアン・プレガルディエン(Julian Prégardien)さんや、ダニエル・ベーレ(Daniel Behle)さん、バイエルン国立歌劇場専属歌手のオッカー・フォン・デア・ダメラウ(Okka von der Damerau)さん、ウィーン国立歌劇場専属歌手のマヌエル・ヴァルザー(Manuel Walser)さんなど、素晴らしい歌手の方々がたくさん来てくださいました。

 

―――アーティストの人選も村上さんが自らされているのですか?

そうですね。私から素晴らしいと思った方にお声がけさせていただいて、企画の内容をお話して作っています。プログラムも歌手の方によって具体的に提案させてもらっていますし、忙しい方はスケジュールのことをお話しながら計画しています。

―――10月に京都コンサートホールの演奏会に来てくださいますが、一緒に来て下さる大西宇宙さんとはどんなご関係なのですか?

中嶋彰子さんが総監督を務められている群馬オペラアカデミー「農楽塾」で私が歌曲クラスの講師を務めていた際、大西さんがアカデミーの発表会にご来場くださり知り合いました。発表会の最後に、講師とゲスト演奏ということで、中嶋さん、大西さん、私とで一曲共演しましたが、正式に一緒に演奏会で共演するのは今回が初めてです。

 

―――なぜ彼を推薦してくださったのですか?

彼は、力強い深みと柔らかさを兼ね備えた素晴らしい声の持ち主で、このベートーヴェンプログラムを、是非一緒に共演したいと思いました。同世代で、世界を舞台に活躍する大西さんとの歌曲演奏、皆様にも楽しみにしていただければ幸いです。

大西宇宙©Dario Acosta

―――ベートーヴェンの生誕250周年の公演ですが演奏されるプログラムについて教えてください。

ベートーヴェンの3つの歌曲と、有名な「遥かなる恋人に」という作品を演奏します。また、なかなか聴く機会のないベートーヴェンのピアノトリオと歌の編成でスコットランド民謡も演奏します。当時民謡に関心が高まる中、ある英国の楽譜商人が人気作曲家であるベートーヴェンに民謡の編曲を依頼し、書かれた作品です。ベートーヴェンの多面的な魅力を楽しんでいただけるプログラムだと思います。

 

―――ベートーヴェンは歌曲の世界でいうと、どういう位置づけにいる作曲家なのですか?

歌曲の世界ではシューベルトが注目されることが多くて、ベートーヴェンは歌曲のイメージが少ないと思いますが、ベートーヴェンが音楽史上初めて書いたという「遥かなる恋人に」は歌曲としての出来がすばらしいと思います。シューベルトも同じ詩に曲をつけているのですが、ベートーヴェンの作品を見てから嫉妬心で自信を無くしてしまったくらいだそうです(笑)。
この曲は6曲でひとつの連作歌曲になっているのですけど、感情とリンクする素晴らしい作品だと感じますね。作品を通して、ベートーヴェンが自然を愛していたこと、また彼の人間的な温さも感じられます。クラシック時代の伴奏というと、わりと簡単なピアノ伴奏で歌と対等でないだとか、詩とそんなに溶け合ってないようなイメージを持たれることが多い中、この作品においては芸術レベルに達している作品だと思います。

 

―――そのほかに京響のメンバーやチェリストと共演もしますよね。歌曲以外でも楽しんでいただけるかなと思います。すごく大忙しの一日になりそうですね。

ずっと歌曲の世界に浸っていましたが、最近では少しずつ室内楽の活動も増えました。さらに室内楽で演奏の幅を広げていきたいと思っているときに、こんなプログラムで声をかけていただいたので、すごく楽しみにしています。本当に素晴らしい機会をいただいたと思います。

 

―――私たちもドイツで大活躍していらっしゃるピアニストが来て下さるので、これを機にもっと日本の人たちにドイツ歌曲の魅力を知ってもらえたらと楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします!本日はありがとうございました。

(2019年9月事業企画課インタビュー@大ホール・ホワイエにて、
2020年8月事業企画課メール・インタビュー(大西さん部分))


☆村上明美さんから皆さまへ

☆特別連載①村上明美 インタビュー<前編>はこちら

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