ピアニスト 永野英樹 インタビュー<後編>(2025.11.8 ピエール・ブーレーズ生誕100年記念事業 ブーレーズへのオマージュ)

Posted on
インタビュー

偉大なる作曲家 ピエール・ブーレーズの生誕100年を記念して開催する、京都コンサートホールオリジナル企画「ブーレーズへのオマージュ」(11月8日)。

本公演の出演者であり、ブーレーズから薫陶を受けたピアニスト 永野英樹さんへのインタビュー後編では、本公演のプログラムについてお話を伺いました。

前編はこちら

【インタビュー後編:本公演のプログラムについて】

―――今回、ブーレーズの作品から《12のノタシオン》《ドメーヌ》《フルートとピアノのためのソナチネ》の3作品を選んだ理由をお聞かせください。

永野英樹

ブーレーズの室内楽作品は少なく、片手で数えられるくらいしかありません。もちろんピアノのソロ作品だけでプログラムを組むこともできなくはないのですが、どうしても偏ってしまうため、ソロも交えつつ、作品ごとに変化をつけるという意味でこの3作品を選びました。作曲時期によってブーレーズの作風も変わっていきますので、そういう点も聴きどころだと思います。

ブーレーズの作品には作品番号が付いていませんが、《12のノタシオン》は彼の作品カタログの中では作品番号1(=作曲年代が一番古い)にあたるほど、本当に初期の作品です。当初は古典的な手法を引きずっているという点で、ブーレーズ自身はこの作品をカタログの中に入れていませんでしたが、やはりこの後の作品へのつながりが感じられます。ブーレーズの音楽語法の出発点ともいえるような作品ですね。

《ドメーヌ》は偶然性の音楽(演奏時に奏者自身で演奏するフレーズや順番などを選択するもので、演奏のあり方を偶然に任せた音楽のこと)で、ジョン・ケージとの親交などから影響を受けて書かれた作品です。クラリネット奏者にとっては重要なレパートリーのひとつでもあります。

《フルートとピアノのためのソナチネ》は、ブーレーズが若い頃、一番血の気の多い時期の作品で、とても迫力があります。音楽的で演奏効果も高く、まさにブーレーズ!といった感じの作品です。

 

―――クラリネット・ソロの《ドメーヌ》、そしてフルートとピアノのデュオ《ソナチネ》については、選曲時に奏者のイメージもあったのですか?

そうですね。クラリネットの上田希さんとは、「いずみシンフォニエッタ」で何度かご一緒したことがありました。また、サントリーホールのサマーフェスティバルでも上田さん、そしてフルートとの上野由恵さんとご一緒したことがありました。ですので、コンサートの後半に演奏するシェーンベルク/ウェーベルン編曲の《室内交響曲第1番》も含め、お二人と一緒に演奏したいと思い選曲しました。

 

―――ブーレーズ以外の作曲家の作品を入れた意図を教えてください。

ブーレーズの作品だけではなくて、彼と関わりのある作曲家やブーレーズ自身が好んで演奏していた作品を入れることで、“ブーレーズ”という人としてのイメージを知っていただきたいという意図もあります。ブーレーズの作品だけを聴くよりも音楽、そして彼の人物像に奥行きが出ると思いますね。ラヴェルの《夜のガスパール》は斬新な部分と昔ながらの作風を感じられる部分があります。シェーンベルクの《室内交響曲第1番》はまだ調性音楽で書かれているため、シェーンベルクの作品に馴染みのない方も聴きやすいと思います。

 

―――ラヴェルとシェーンベルクはブーレーズの作品とどのような関係性がありますか?

ラヴェルは作風に直接的な関係性はありませんが、ラヴェルや同じくフランス印象派の作曲家であるドビュッシーは、近代から現代への過渡期にあった作曲家です。書法や楽譜を忠実に再現しようとする姿勢はラヴェルに近しいものを感じはしますが、どちらかというとブーレーズはドビュッシーの方が音楽に対する向き合い方や思想などの面で、より親近感を持っていたように思います。でも、ラヴェルのことも一目置いていて、ブーレーズ自身もラヴェルの作品はたくさん演奏していましたので、そういう意味では近しい作曲家だと思います。

ブーレーズは血の気が盛んな若い頃はいろんな作曲家に対し歯に衣着せぬ批判をしていて、シェーンベルクやストラヴィンスキーなど他の作曲家の考えや作曲技法を全て受け入れたわけではありませんでした。でもシェーンベルクに関しては確実に影響を受けていますね。例えば、アンサンブル・アンテルコンタンポランでもシェーンベルクの作品をたくさん演奏していますし、ブーレーズが遺したシェーンベルクやウェーベルンの作品の録音は、ブーレーズのコレクションのなかでも大切なもののひとつと一般的にも言われています。そういう意味でも、シェーンベルクら新ウィーン楽派***の作品というのは、ブーレーズにとって、演奏家としても作曲家としても大切な位置にあるものだと思います。特に今回取り上げるシェーンベルク/ウェーベルン編曲《室内交響曲第1番》は、ブーレーズがよく指揮をしていた作品です。

***新ウィーン楽派
20世紀前半、ウィーンを拠点に活動したシェーンベルク、ウェーベルン、ベルクのこと。

 

―――永野さんが本公演のチラシに寄せてくださったメッセージの中で「難解だと思われがちなブーレーズの音楽だが、指揮者として活躍した彼ならではの響きやリズムへのこだわりが詰まっている」とありますが、そのこだわりとはどのようなものですか?

ピエール・ブーレーズ

先ほどもお話ししましたが、ブーレーズは安定したリズムが嫌いで、どこかでリズムを壊していました。初期作品の《12のノタシオン》でもこの手法はすでに見られるのですが、そもそも楽譜に拍子を書いていないんですね。常に3/4拍子だとか6/8拍子ではなく、小節ごとに拍子が変わっていくこともあれば、メロディーのような箇所も4分音符で分割される拍ではなくて、それにプラス16分音符みたいな箇所がたくさん出てきます。そういったリズムの崩し方が、ブーレーズの特徴だと思いますね。

響きに関しては、ピアノ・ソロの作品でも、今回演奏する《フルートとピアノのためのソナチネ》でもそうなのですが、音がよく響く書き方をしています。楽器を演奏している方だとわかるかもしれないのですが、音がすごくよく響く作り方と、あまり響かない作り方というのがあり、その点でブーレーズは音がよく響く作曲をしていますね。ドビュッシーやラヴェルなどと同様に、フランス人独特のピアノ作品の作曲手法や、楽器の鳴らし方、和音の書き方があるのだと思います。特にピアノのエクリチュール(書法)に関して言えば、ブーレーズ自身がピアノを弾いていたということも大きく影響していたと思いますね。

 

―――永野さんが普段活動されているパリに比べ、日本ではまだ現代音楽に対して「難解」というイメージがどうしても強いように感じます。今回のプログラムやブーレーズの作品、そして現代音楽を聴く際のポイントを教えてください。

現代音楽というネーミングには語弊があります。現代音楽とは曲のスタイルではありません。20世紀以降の音楽がほとんど現代音楽として括られていますが、その中にはいろいろなスタイルがあります。まずはいろいろな音楽を聴いていただき、自分が好きなものを探すことが第一歩だと思いますね。現代音楽と聞いて「嫌」と思うよりも、「この曲・この作曲家は知らないから聴いてみよう」とか、「この国の作曲家は知らないから聴いてみよう」とか、そんな感じでよいと思います。あるいは「この楽器が好きだから聴いてみたいな」とか。そのくらいの興味でいろいろと聴いていただくと、ひょっとするとその中に自分の好きなスタイルの現代音楽が見つかるかもしれません。僕もブーレーズは偉大だと思うのですが、作曲家は必ずしもブーレーズ一人ではありません。現代を生きている作曲家、若い作曲家もたくさんいますし、彼らから新しいスタイルの音楽もどんどん生まれていくわけですので、たくさんの種類の曲を聴くのが一番よいと思います。あと、絶対に言えるのは、どんなものでもそうなのですが、録音されたものよりライブで聴く方が「あっ、これなら聴ける!」という音楽が絶対にあると思いますので、ぜひコンサートで聴いていただきたいです。

 

―――ありがとうございました。ブーレーズの真髄に迫るコンサート、楽しみにしています!

(2024年4月 大阪にて 事業企画課インタビュー)

壬生寺 貫主 松浦俊昭氏×京都コンサートホール プロデューサー 高野裕子 対談(Kyoto Music Caravan 2025)

Posted on
インタビュー

京都コンサートホール開館30周年事業として、京都市内各所で開催中のクラシック音楽の一大イベント「Kyoto Music Caravan 2025」。
2023年以来、2度目の開催となる本イベントは、これまでに10公演中4公演を実施し、多くのお客さまにご来場いただいています。

今回、8月11日公演の会場である壬生寺の貫主 松浦俊昭氏と、京都コンサートホール プロデューサーの高野裕子で、「Kyoto Music Caravan」にまつわる対談を行いました。ぜひ最後までご覧ください。


◆前回の「Kyoto Music Caravan 2023」について

――「Kyoto Music Caravan 2023」の開催から2年が経ちました。

松浦さん(以下敬称略):コンサートを開催したのはお盆の時期で、壬生寺では毎年「万灯供養会(まんとうくようえ)」を行っています。この期間中は元々お越しいただく方が多いのですが、本堂前で演奏を聴けるということもあり、地元(中京区)の方を中心に、約400名もの方にお越しいただきました。
音楽に関心を持っている方がやはり多いなと改めて感じたとともに、万灯供養会の灯篭前で演奏している風景を見て、お寺でのコンサートはいいなと思いました。

高野プロデューサー(以下敬称略):アンケートで、小さい頃から壬生寺さんに通っていた人たちが「ここでクラシックのコンサート聴けたことがすごく嬉しかった」と書いてくださって、私たちも嬉しかったですね。

松浦:お寺はもちろん信仰の場ですが、普段の喧騒から離れて、心が落ち着く場所だと思ってくださっている方もいらっしゃいます。また壬生寺は「新選組ゆかりの地」ということもあり、近藤勇の胸像と対話しに来られる方もいらっしゃいます。そういった部分も、お寺の大きな存在意義だと思っています。

――たしかに壬生寺さんに来ると落ち着きますし、お寺の周りは住宅街ということもあって、ふらっと入りやすいですね。

松浦:スマートフォンや携帯電話、テレビなどがなかった時代は、人々のコミュニケーションの場としてお寺が使われていました。そしてお寺に当時の流行りのものが集まってきて、その中で娯楽が生まれました。
壬生寺でいうと、今から725年前に始まった「壬生狂言」ですね。もともとは、仏教の教えを伝える目的で始まったのですが、江戸時代に少しでも多くの人に広めようと、他の様々な物語を取り入れたことで、バラエティー豊かな「壬生狂言」が出来上がったのです。
当時はきっと、「今日壬生さん行ってきた」「どうやった?」「面白かった、また行きたい」といった会話が繰り広げられていて、お寺は面白いと思ってもらえる場所だったのではないかと思います。

高野:「お寺は昔から人が集まる場所」と松浦さんがおっしゃっていたことは印象的で、お寺は宗教的な施設のイメージしかなかったので新鮮でした。
「Kyoto Music Caravan」を企画する際、お寺でコンサートをしてよいか松浦さんに相談したところ、「昔から壬生狂言のように人を楽しませる娯楽があって、音楽もそれとそんなに変わらない」と後押ししてくださったのは大きかったですね。

松浦:壬生寺では最近、コンサートやマルシェ、落語の独演会などを行っていますが、「楽しい」と思ってもらえることが大事だと改めて感じます。
ですので、前回も今回もこのようなご縁をいただいて、コンサートをしていただけるのは、お寺にとっては滅多にない、とてもよい機会だと思っています。

◆キャラバンを企画した思い――松浦貫主が繋いでくださったご縁

――「Kyoto Music Caravan」は、京都市内の寺社仏閣などの名所で無料コンサートを開催している一大イベントです。そもそも本イベントはどのように生まれたのでしょうか。

高野:このイベントの企画意図は2つあります。
まず私が留学していたパリでは、街中の様々な場所でコンサートが行われ、ふらっとコンサートを聴いて帰るという光景が日常になっていて、京都でもそのようなコンサートを開催したいと思っていました。
そしてもう一つは、今まで京都コンサートホールに来たことがない方にも「クラシック音楽っていいな」と思っていただきたかったのです。

ただ、いきなりホールへ行くのは、なかなかハードルが高いですよね。
京都の様々な場所でコンサートを無料で開催することで、「京都の街って素晴らしいな」「クラシック音楽っていいかも、次はホールで聴いてみようかな」という方が増えてほしいと思ったのです。

実際に京都で開催するなら、会場は京都の町を象徴するお寺や神社だと思い、松浦さんに相談したところ、「ここでやるか?」と言ってくださったのですよね。そして松浦さんから様々な方をご紹介いただき、その縁を繋いで生まれたのが「Kyoto Music Caravan 2023」なんです。

松浦さんを一言で表現するなら、「結ぶ人」だと思います。
これまで繋いでいただいたご縁は数えきれず、そのご縁からまた違うご縁に繋がっていきました。

松浦:ご縁を結んだ後が大事で、そのご縁をどうやって紡いでいくかは、その人の努力次第なんですよね。

高野:松浦さんからのご縁は今も続いていて、本当に宝物です。
ちなみに松浦さんは、お寺でクラシック音楽を演奏することに抵抗はなかったのでしょうか?

松浦:やりたかったんです。

20年前に東寺さんの音楽イベント「音舞台」を見て以来、壬生寺でも何かできないかと思っていました。その後、2009年にご依頼いただいて、大沢たかおさんの朗読会を本堂前の特設ステージで開催しましたが、この境内に1,640脚ものイスが並んだんですよ。
その光景を見て、うちでもコンサートができるのではないかと思い、それからずっとやりたいと思い続けていました。10数年を経て実現できたので、感慨深いものがありますね。
そういえば、同じく「Kyoto Music Caravan 2023」の会場であった隨心院さんも、「こういうオファーを待っていた!」とおっしゃっていましたね。

――「クラシック音楽×お寺」の組み合わせは、今ではよく聞きますが、実際のところ、相性はどうなのでしょうか。

松浦:クラシック音楽が好きな人は、その音を聴いて癒される方もいらっしゃると思いますので、ご本尊に拝むのと同じご利益があると思うのです。それに、これだけたくさんの方が集まったら、庶民の仏であるお地蔵さんは、きっと喜んでいらっしゃると思います。
そして一般の方にとっても、コンサートに来ていただくことで視野が広がる可能性があるのです。

高野:クラシック音楽好きの人にとっては、この機会に京都の街を訪れるよいきっかけになっていると思います。まさに、今回のキャラバンのキャッチフレーズである「クラシック音楽が、京都のまちと人びとをつなぐ」ですよね。

前回の壬生寺公演の様子(2023年8月12日)

 

◆ぜひコンサートを生で楽しんでいただきたい

――実際に「Kyoto Music Caravan」を開催してお客さまの反応はいかがでしょうか。

高野:お客さまにも大変喜んでいただいています。2023年度に開催した際「またぜひ開催してほしい」というお声を多くいただき、今回2年ぶりの開催へとつながりました。

松浦:前回のコンサート開催後、「来年も開催しますか?」と言われましたよ。可能なら定期的にやってほしいなと思いますね。
お盆はご先祖さんがお帰りになられるので、お寺にお参りしましょう、と昔から言われていますが、こんなに暑い時に外へ出ようとなかなか思わないですよね。
そんな時にコンサートのような楽しみが一つでもあると、「やっぱりちょっと行ってみようか」「じゃあちょっとお寺に行って手を合わせてみようか」に繋がってくるわけですよ。
ですので、そういうきっかけをいただけることは、非常にありがたいことです。
ぜひこれからも「Kyoto Music Caravan」を続けていただきたいと思います。

そして8月11日のコンサートでは、初めて聴く方も、前回来られた方も、より多くの方々にお越しいただき、ぜひ楽しんでいただきたいです。
今の時代、スマートフォンで簡単に写真や動画で思い出を残せる時代ですが、スマホに保存して終わるのではなく、心に残してほしいですね。

高野:そうですね。私たち京都コンサートホールにとっては、ホールから出て音楽を届けることも大事だなと思います。ぜひいろんな方にクラシック音楽を聴いていただきたいですし、公共ホールにとって使命の一つだと思います。
前回と今回、「Kyoto Music Caravan」で開催させていただく会場は、いずれも魅力的なところばかりです。そしてそのコンサートにご出演いただく、京都ゆかりの音楽家がこれだけいるということは、京都の魅力の一つだと思います。
これまで「Kyoto Music Caravan 2025」では、4回コンサートを開催しましたが、いずれも素晴らしいコンサートとなりましたので、これからのコンサートも楽しみで仕方ありません。

――本日はありがとうございました。8月11日に壬生寺本堂で開催する「金管五重奏コンサート」は、入場無料で事前申込不要です。皆さまのご来場をお待ちしております。

(2025年7月壬生寺にて)

★「Kyoto Music Caravan 2025」特設ページ

ピアニスト 永野英樹 インタビュー<前編>(2025.11.8 ピエール・ブーレーズ生誕100年記念事業 ブーレーズへのオマージュ)

Posted on
アンサンブルホールムラタ

今年生誕100年を迎えた、20世紀の偉大なる作曲家 ピエール・ブーレーズ。2009年には「京都賞」を受賞し、ここ京都コンサートホールで彼の作品が演奏されるなど、京都とも縁の深い人物です。

ブーレーズの生誕100年を記念して、オリジナル企画「ブーレーズへのオマージュ」を開催します(11月8日)。

本公演の出演者であり、ブーレーズが設立した世界屈指のアンサンブル「アンサンブル・アンテルコンタンポラン」の専属ピアニストとして、約20年もの間ブーレーズと活動を共にした永野英樹さんにインタビューを行いました。その内容を前編・後編に分けてお届けします。

 

【インタビュー前編:ブーレーズについて】

―――ブーレーズは作曲だけでなく、指揮や著述など、音楽家としてのさまざまな姿がありますが、永野さんにとってブーレーズはどのような音楽家ですか?

私にとっては指揮者というよりもむしろ、作曲家としてのイメージの方が強かったですね。というのも、私は純粋にオーケストラよりもピアノが好きだったので、ピアノの曲を聴く方が多く、指揮者としての彼の姿をあまり意識したことがありませんでした。

実際、私がアンサンブル・アンテルコンタンポランに入ってブーレーズと一緒に仕事をした際、「頼まれたら指揮をしているけれど、自分は作曲家だと思っている。自分から率先してやっているのは作曲だ」というようなことを言っていました。ただ、最終的には指揮の仕事の方がずいぶん多かった気がします。

アンサンブル・アンテルコンタンポラン
1976年にブーレーズが設立した、世界最高峰の現代音楽アンサンブル。
アンサンブルの活動や当時のエピソードなどは、2018年に開催した「京都コンサートホールのスペシャル・シリーズ『光と色彩の作曲家 クロード・ドビュッシー』」の永野英樹氏インタビュー
をご覧ください

 

―――永野さんが感じられていたブーレーズ像と、ブーレーズが思っていた自身の姿は一致していたということですね。

そうですね。もっと怖い人だというイメージがあったのですが、それは予想に反していましたね。例えば、有名人なのに、サインを求められたときは割と気軽に応じて話もしていました。街を歩いていても彼に気がつかず通り過ぎている人も結構いたと思います。そういう部分ではスター意識というものはなかったように感じています。

 

―――今の話だけでも、ブーレーズに対するイメージがずいぶん変わりました。

アンサンブル・アンテルコンタンポランはブーレーズ自身が作ったアンサンブルですので、他のオーケストラよりも、ホームみたいに思ってくださっていましたね。アンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバーと接するときは、彼もおそらく他のオケの人たちと接するよりもリラックスしていたのではないかと思います。

 

―――アンサンブル・アンテルコンタンポランで、永野さんは専属ピアニストとして20年ほどブーレーズと一緒に活動されていましたが、印象に残っている出来事はありますか?

永野英樹

彼の作曲のスタイルでもあるのですが、晩年はワーク・イン・プログレス**のスタイルで作曲をしていました。常に作品が進行形であり、“いまのところこの形でとどめているけれど、今後見直して気持ちが変わったら変化していくよ”というようなスタイルです。

おもしろい出来事としては、3台のピアノと3台のハープ、そして3つの鍵盤打楽器のための作品《シュル・アンシーズ》にまつわる話があります。この作品の元となったのは《アンシーズ》というピアノ・ソロの作品で、コンクールの課題曲として書かれたものです。《アンシーズ》の段階では5分くらいの曲だったのですが、数年後、《シュル・アンシーズ》になった時には30分くらいの長さの曲になりました。そしたら今度は《シュル・アンシーズ》に触発されたのか分かりませんが、《アンシーズ》の曲の長さが10分くらいに増えたんですね。そしたらまた《シュル・アンシーズ》の方もさらに変化していって…。

《アンシーズ》と《シュル・アンシーズ》に関しては、一番初めのバージョンから居合わせていたので、曲がどんどん新しく変わっていく場面に立ち会えたことは、とても貴重な経験でした。ブーレーズと共にいなければこのような経験はできなかったと思いますね。

**ワーク・イン・プログレス
進行中の作品という意味。創作の過程を公開して、聴衆の反応を参考にしながら作品を創り上げていく手法。

 

―――作曲家の手により曲が変化していき、そしてその過程・変化を見聴きできるという経験は、現代音楽ならではですね。

演奏家が同じ作品を10年後、20年後に演奏した際に解釈が変わるのと同じように、作曲家が作品を変えていくのは当然というようなことも、ブーレーズは言っていましたね。考え方も変わるよ、って。

 

―――ブーレーズの作品を本人と共に演奏することもあったと思いますが、作品や演奏方法について言葉を交わすことはありましたか?

ピエール・ブーレーズ

ソロの作品を弾くときには直接聴いてもらい、アドバイスをもらったりしましたね。ソロの作品に限らず、“動きが大切”というブーレーズ独特の音楽の考え方がありました。面白かったのは、例えば早く弾くようなテクニック的に大変なところがあったとしても、それがずっと同じリズムで続くことはないんですね。必ずどこかでそのリズムを崩すところがあるんです。大変で複雑なリズムであってもずっとそれを繰り返していると定着し安定したものになってしまうのですが、ブーレーズはそれが嫌で、常に安定したリズムを崩すような動きを入れてくるんですよね。「魚が池で泳いでいるとき、ゆっくり泳いでいると思ったら急にスッと動くことがある。そういうイメージだよ。」とブーレーズが例えたことがありました。日本的だなと感じましたが、そういう時間や呼吸の考え方、音楽のとらえ方はブーレーズ本人だから説明できることであって、ブーレーズ以外には出せないイメージなのだろうなと思います。そういった出来事は他にもいろいろありました。ブーレーズと一緒に彼の作品を演奏することで、よりブーレーズの考え方を教えてもらったように思います。

 

―――プライベートでの親交はありましたか?

プライベートではなかったですね。ただ、彼はこれまで何人かいた(アンサンブル・アンテルコンタンポランの)音楽監督の誰よりも、私たちメンバーのそばにいてくれる方でした。例えば同じコンサートでソロやアンサンブルなど自分が指揮をしない曲があったとしても、必ず演奏を聴いていました。また彼がパリにいるときにアンサンブル・アンテルコンタンポランのコンサートがあると、必ず聴きに来ていました。そういう部分で、常にそばにいてくれている、という感じでしたね。

 

―――オーケストラと指揮者という関係よりも、仲間という関係性ですね。後編では今回のコンサートのプログラムについてお話を伺います。どうぞお楽しみに!

(2025年4月大阪にて 事業企画課 山元麻美)

 

ピアニスト トマシュ・リッテル 特別インタビュー(2024.03.09 The Real Chopin×18世紀オーケストラ 京都公演)

Posted on
インタビュー

2024年3月9日開催の「The Real Chopin × 18世紀オーケストラ 京都公演」では、2つのショパン国際コンクール優勝者をソリストに迎え、ショパンのピアノ協奏曲全2曲などをお届けします。《ピアノ協奏曲第2番》を演奏するトマシュ・リッテル氏は、「第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール」の本選で18世紀オーケストラと共演し、同曲を披露して見事優勝しました。

当公演に向けて、ピアニストで音楽ライターの長井進之介さんが行ったリッテル氏へのインタビューをお届けします。18世紀オーケストラや演奏する《ピアノ協奏曲第2番》、そしてショパンをピリオド楽器(作品が書かれた当時の楽器)で演奏する意義について語ってくださいました。ぜひ最後までご覧ください。


2024年3月、18世紀オーケストラと共に「The Real Chopin」と題したコンサートツアーを行うトマシュ・リッテル。第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールで第1位となった彼は、ピリオド楽器の音色を最大限に活かしながら、溢れる歌心とドラマティックな表現で魅せてくれるピアニストだ。そんな彼に、今回のコンサートに向けての意気込みを伺った。

「ご一緒させて頂く18世紀オーケストラは、伝説的なリコーダー奏者であるフランス・ブリュッヘンが結成したオーケストラであり、ピリオド楽器への熱い想いを持ったスペシャリストたちが集っています。コンクールの時にも共演させて頂きましたが、とても互いを尊重し合って演奏ができたことが印象に残っています。彼らの音色や柔軟な反応は本当に素晴らしいので、今回の共演もとても楽しみです」

第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール本選にて(C)The Fryderyk Chopin Institute

今回リッテルがソリストを務めるのはショパンのピアノ協奏曲第2番。若きショパンならではの華麗なテクニックと繊細な詩情が込められ、オーケストラとの緻密なやり取りも特徴的な作品だ。

「ショパンの作品をよく見ていくと、モーツァルトの影響を強く受けていると感じます。特に初期の楽曲はそれが顕著で、演奏の難しさにもつながっているところです。古典的なスタイルとロマンティックな音楽運びのバランスをうまくとっていかなくてはなりません。オーケストラとの共演においても、輝かしさと共に軽さ、やわらかさのある音色を作り出しながら対話をしていく必要があると思います」

さらに第2番とどのように対峙していくかについても語ってくれた。

「音楽というのはその時の経験などが大きく影響していくものだと思いますが、ピアノ協奏曲第2番は、特に初恋などショパンの内面と深く結びついたナイーヴな作品ですね。同時に、彼が愛したポーランドの民族色も強く表れています。これは特に第3楽章に見られるものです。かなり素直に彼の想いが反映された作品ですから、あまり作り込み過ぎず、正面から向き合って演奏していければと思っています」

今回のコンサートはショパンの時代のピアノである1843年製プレイエルが使用され、まさに「真実のショパン」に出会う絶好の機会だ。最後に、ピリオド楽器を使ってショパンを演奏するという事について、リッテルの考えを尋ねた。

「ショパン自身が即興を得意とし、様々な演奏法を探求していた人なので、一つの答えがあるわけではありません。ですから私はどのような方向から即興ができるか、ということを常に試しています。自由であり、あらゆる可能性が開かれていることこそがピリオド楽器演奏の醍醐味だと思うのです。そもそもショパンが生きていた時代、彼の音楽はいわゆる“現代音楽”でしたから、聴衆は常に新しいものに出会い驚いていたはず。私も皆さんに何か新鮮なものをお届けできるように演奏をしていきたいですね。京都コンサートホールの素晴らしい響きの中で、最高のオーケストラと共に演奏できることが今からとても楽しみです」

【取材・文】長井進之介(ピアニスト・音楽ライター)

 

The Real Chopin × 18世紀オーケストラ 京都公演」(2024/3/9)特設ページはこちら

 

京都市立芸術大学 副学長 大嶋義実×京都コンサートホール プロデューサー 高野裕子 対談<前編>(Kyoto Music Caravan 2023)

Posted on
インタビュー

京都市立芸術大学の新キャンパス移転と文化庁の京都移転を記念した一大クラシック音楽イベント「Kyoto Music Caravan 2023」。京都コンサートホールと京都市立芸術大学(以下「京都芸大」)、京都市、そして京都市交通局の4者共同主催のもと、開催しています。

4月29日の仁和寺でのコンサートを皮切りに、京都市11行政区それぞれの名所や観光地で無料コンサートを開催しており、多くのお客様にご来場いただいています。

10月1日に新キャンパスオープンを控える京都市立芸術大学。春・夏とさまざまな場所でコンサートを開催した「Kyoto Music Caravan 2023」も、いよいよ秋のシーズンに突入します。大学・イベント共にターニングポイントを迎える今、京都市立芸術大学副学長の大嶋義実教授と、Kyoto Music Caravan 2023のディレクターであり同大学出身者でもある京都コンサートホールプロデューサーの高野裕子による対談を実施しました。
前半・後半の2回にわたり、お届けします。

(聞き手:京都コンサートホール 中田 寿)

Continue reading “京都市立芸術大学 副学長 大嶋義実×京都コンサートホール プロデューサー 高野裕子 対談<前編>(Kyoto Music Caravan 2023)”

ピアニスト パスカル・ロジェ メッセージ動画(2023.10.21 プーランク没後60年 パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ「プーランクの横顔」)

Posted on
インタビュー

2023年10月21日(土)午後3時開演「プーランクの横顔」(京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ)に出演する、ピアニストのパスカル・ロジェ氏。
コンサート開催に向けて、特別にメッセージ動画を寄せてくださいました。
今回のコンサートのテーマである「フランシス・プーランク」について、様々な秘話を交えながら、とっても素敵なお話をご披露くださっています。

ちなみにパスカル・ロジェ氏は、大のプーランク好き。1999年にプーランクのピアノ作品全集をリリースしており、今日にいたるまで、プーランクのピアノ作品録音の決定盤として世界中で愛聴されています。

<メッセージ動画 日本語訳>
みなさん、こんにちは。プーランクについてお話することができて、とても幸せです。
というのも、プーランクは私にとって非常に特別な作曲家であり、特別に好きな作曲家だからです。
わたしはプーランクのピアノ作品はもちろん、歌曲、室内楽、コンチェルトといった、彼のピアノが入る全作品を録音しました。この録音作業を通して私は彼の世界をとことん探求しました。私にとって、いつもとても個性的で、とてもフランス的なプーランクの音楽を演奏することは素晴らしい経験です。

なぜ、わたしはプーランクがこんなに好きなのか?個人的なエピソードがあります。本当かどうかわかりませんが、とても気に入っているエピソードです。
私の母が私を妊娠している時、プーランクの協奏曲を勉強していました。彼女はオルガニストだったので、オルガンとオーケストラの協奏曲を演奏することになっていたのです。
彼女は妊娠している間、この作品を練習していたので、私は母のお腹の中でこの曲をずっと聴いていたでしょうし、どこかで私の体にその音楽が刻み込まれたと、必然的にいつも思っていました。その5,6年後、母はもう一度この協奏曲を演奏する機会があったのですが、その時、すでにわたしは譜めくりもできましたし、楽譜を読むこともできました。そして、とてもよく覚えているのですが、この時、私は初めて音楽を聴いて、心から感動したのです。
これは、私が何年か前に聴いた音楽だと認識していたからだったのでしょうか?
そうですね、その可能性はあるでしょう。このエピソードは私にとって、プーランクに対する非常に特別な愛情の解釈になっています。

プーランクの音楽は非常に特別です。プーランクはドビュッシーのように革新者ではありませんでしたし、改革者でもありませんでした。でも、非常に独創的な音楽を書く音楽家でした。あるフランスの批評家は、プーランクの音楽は多くの作曲家の音楽が混ざり合ってできたようなもの、と言いました。でも、彼の音楽は誰の音楽でもないんです。つまり、彼は特に独創的な和声を使ったわけではないのですが、プーランクならではの方法で作曲していたのです。そして、私たちは、それがプーランクだとすぐに分かるのです。これは、非常に強力な個性の現れです。

ピアノは、いつもプーランクのお気に入りの楽器でした。彼はピアニストでした。だから、彼の作品の4分の3がピアノ作品なんです。
室内楽作品もまた、プーランクにとって非常に重要なジャンルでした。
プーランクは、木管楽器を特別に愛していました。プーランクは、オーボエ、クラリネット、フルートのために素晴らしいソナタを書きました。 今回の演奏会では、クラリネットとフルートのために書かれた2曲のソナタを演奏します。それらの作品を、若い日本の音楽家たちと共演できることがとても幸せです。彼らがどのようにプーランクの音楽を受け止めるのか、どうやって演奏するのか、どうやって解釈し、どうやってプーランクの音楽に対する愛情を観客と共有することができるのか、楽しみです。
プーランクの音楽は私たちを幸せにしてくれますし、優しく、またユーモアのあるプーランクの音楽を聴いていると心地よい気分になります。だから、お客様は、プーランクの音楽を聴くと幸せな気持ちになるに違いありません。プログラムも多彩ですしね。

今回演奏するプログラムは、ピアノ独奏曲とフルートやクラリネットのためのソナタ、そして木管五重奏とピアノのための六重奏曲です。この六重奏曲は本当に、本当に素晴らしい作品です。だから、私は、このプログラムをプーランク没後60年の年に演奏できることがとても嬉しいのです。彼は、1963年に亡くなりました。当時、プーランクの死を理解するには、私は若すぎました。しかし、私の母はプーランクと知り合いでした。プーランクの協奏曲を演奏した際、その場に彼はいなかったのですが、その演奏がラジオ放送された時、プーランクはそれを聴いたのです。
プーランクは感謝の気持ちを母に伝えるために、賛辞の言葉が書かれたメッセージカードを贈ってくれました。そして私の母は、私が20歳の誕生日に、そのカードを私にプレゼントしてくれたのです。

今回、プーランクのコンサートを開催することができて、本当に感動しています。プーランクは私にとって、非常に特別な作曲家です。プーランクの音楽を聴いたお客様は、きっと沢山の幸せと喜びを感じてくださることと思います。


◆公演情報◆
プーランク没後60年
パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ
「プーランクの横顔」
2023年10月21日(土)15時開演
京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
出演:パスカル・ロジェ(ピアノ)、ウインドクインテット・ソノリテ(上野博昭[フルート]・須貝絵里[オーボエ]・田悠斗[クラリネット]・村中宏[ファゴット]・深江和音[ホルン])
プログラム:<オール・プーランク・プログラム>
クラリネット・ソナタ、3つのノヴェレッテ、3つの無窮動、《3つの間奏曲》より第2番 変ニ長調、《15の即興曲》より第13番・第15番・第6番、フルート・ソナタ、六重奏曲
▶公演の詳細はこちら

第2期登録アーティスト 福田彩乃(サクソフォーン)インタビュー(2023.3.4 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ジョイント・コンサート)

Posted on
アンサンブルホールムラタ

2022年度より2年間アウトリーチ活動を行う、2名の京都コンサートホール第2期登録アーティスト。
1年目は京都市内の小学校などの学校でそれぞれ10公演ずつアウトリーチを行い、その活動報告として、ジョイント・コンサートを2023年3月4日(土)に行います。

サクソフォーン奏者の福田彩乃さん(ふくた・あやの)にインタビューを行いました。楽器との出会いや1年目のアウトリーチ活動、そして「ジョイント・コンサート」など話をお聞きしました。

ぜひ最後までご覧ください。

福田さんについて

――まずは、福田さんについてお聞きしたいと思います。アウトリーチの感想文を子どもたちからもらった際、よく書かれている質問なのですが、サクソフォーン(以下「サックス」)との出会いについて教えてください。

福田彩乃さん(以下敬称略):初めてサックスと出会ったのは、中学校年生の部活体験の時でした。もともとピアノを弾いていたのですが、部活体験でサックスを初めて吹いて、その楽しさから「この楽器、やりたい!」と思いました。体験の時にどれくらい楽器を吹けたかを元に判断されるオーディションで、無事に勝ち抜くことができ、アルト・サックスを担当することになりました。

――楽しいという感覚は大事ですよね。そのあと高校まで三重で過ごされて、進学先として京都市立芸術大学を受けようと思われたきっかけは何でしょうか?

福田:高校一年生の終わり頃、三重県内で実施された楽器の講習会に初めて参加しました。ちょうど進路に悩んでいた時期だったのですが、初めてプロの方に楽器を教わり、「私も音楽の道でやっていきたい」という気持ちが芽生えました。そこから講習会で教えてもらった方に、後の師匠となる先生を紹介してもらい、レッスンに通っているうちに芸術大学を受けたいという思いになりました。

――最初から京芸を目標としていたのでしょうか。

福田:受験当時は京都市立芸術大学にサックス科がなかったので、愛知県立芸術大学を受験しました。ただ落ちてしまい、ショックを受けて楽器をやめることも考えましたが、一浪することにしました。その途中で、京都市立芸術大学にサックス科ができる情報を聞いて、目指すことにしました。
もし初年度の受験で受かっていたら、今とは全然違うことになっていたかもしれないので、京都には勝手に運命を感じています(笑)

――大学に入るまでは京都と縁はありましたか。

福田:小学校の修学旅行の時に来たくらいで、京都は憧れの存在でした。早いもので移住してから9年目になります。

――現在は大学院の博士課程に在籍していらっしゃいますが、今年度の活動は研究がメインでしたでしょうか。

福田:今年度はやはり博士論文の執筆を一番重視していましたが、ありがたいことに演奏の機会を多くいただいたので、両立がけっこう大変でした。今までと比べると練習時間が少なかったので、いかに少ない時間でクオリティーを保つかということに悩んだ一年でした。

――演奏に研究、そしてアウトリーチと、大変な一年だったのですね。大学院に行こうと思った理由は何でしょうか。

福田:感覚で伝承されている奏法を文章などにまとめられたら自分の強みになりますし、これから指導する立場になった時に役に立つのではないかと思い、大学院に進みました。

――ちなみに博士論文はどのようなテーマで書かれましたか。

福田:サックス演奏時の口の中の状態について、日本語音節に限定して、例えば「あ」と「お」を意識した時の違いが、サックスの音に影響を与えるかを研究していました。
音を数値化して分析した結果、大きく異なるデータが得られました。自分の体感としても、意識する音節によって音が変わる印象があります。なので、感覚的なものが今回の論文で証明されたのではないかと実感しています。

――たしかに細かいニュアンスが演奏では大事ですよね。普段の演奏にも影響はありますか?

福田:はい、かなり影響があります。特にサックスの音色について研究していたこともあり、音を出す時の意識がかなり変わり、少しずつですが「この口の形をすればこんな音が出る」というのが掴めるようになってきました。
また曲を演奏する中で、ずっと同じ吹き方をしていると退屈になってしまうので、意識して変えるようになりました。

――これまで日本語の発音をベースにした研究はあまりなかったのでしょうか。

福田:口元(アンブシュア)の研究はされるようになってきたのですが、具体的に日本語の音節を意識した研究はあまりなかったので、貴重かと思います。

――サックスは他の楽器と比べると、歴史が浅い楽器かと思いますので、日本でこれから役立ちそうですね。

福田:そうですね、特に楽器を始めたばかりの人に有用ではないかと思っています。

アウトリーチについて

――さて、今年度から京都コンサートホールの登録アーティストとして活動してくださっていますが、登録アーティストに応募されたきっかけを教えてください。

福田:もともと組んでいる「NOK Saxophone Quartet(ノックサクソフォンカルテット)」というグループで、3年ほど前に1年間アウトリーチ活動をしていました。その後アウトリーチに携わる機会が少なかったのですが、もっとやっていきたいと考えていました。そんな時にこのアウトリーチ制度を見つけ、ぜひ挑戦してみたいなと思い応募しました。

――実際にこの一年間活動されてみて、普段の演奏活動に与える影響はありましたか?

福田:いい影響ばかりです。アウトリーチは子どもたちとの距離が近い分、反応をストレートに感じることができて、言い回し一つで反応が変わるのがわかります。
その経験から、ちょっとしたことで全体の印象にどれだけ影響が出るかを学びました。

――カルテットで行っていたアウトリーチと比べていかがでしたか?

福田:カルテットの時は、他のメンバーの意見を聞いてまとめ役をすることが多かったのですが、今回は自分で全部決めないといけなかったので大変でした。プログラム作りにもずいぶん悩み、試行錯誤した日々でした。

――そうだったのですね。プログラムは共演者の曽我部さんと話し合って決めていますか?

福田:ピアニストの曽我部さんとは長い期間を一緒に過ごしているので、話し合って曲を決めています。新しいレパートリーをさらに少しずつ増やして、新しいことにも挑戦できればと思っています。

――曽我部さんとはいつ出会われましたか?

福田:京都市立芸術大学で出会ったので、今年で9年目になります。ピアノの伴奏法のレッスンのためにペアが組まれて、たまたま同じペアになったのがきっかけです。

――最初に会った時の印象はどうでしたか?

福田さん:元気で愉快な人だなという印象でした。自分の考えをしっかり持っているので、悩みを相談すると意見をくれたり、音楽的なこともアドバイスしてくれるので、私にとって大事な存在です。

――アウトリーチへ行く前には研修やランスルー(通しリハーサル)を行いましたが、実際に初めてアウトリーチへ行った時はどうでしたか?

福田:大人を相手に行ったランスルーと比べて、実際のアウトリーチの方がやりやすく感じました。反応がとても良い子どもたちだったので、楽しかったです。研修までは自分の目線でしか考えられていなかったので、多方面から意見を聞けたのは貴重でした。

――たしかに福田さんのアウトリーチを見ていると、いつも楽しんでされていると感じます。

福田:そうですね笑)、毎回子どもたちとのキャッチボールを楽しみながらやってきました。

――毎回子どもたちに合わせて言い回しを変えているのは素晴らしいと思いました。この一年間の活動で印象的だったことはありますか?

福田:吉松隆作曲の〈悲の鳥〉が6分半ほどの曲なので、低学年の子たちがずっと聞くのは難しいのではないかと思っていました。実際にアウトリーチで演奏してみたらそんなことはなく、子どもたちが集中して聴いてくれたのが、一番印象に残っています。
また後日いただいたお手紙の中で「〈悲の鳥〉が一番良かった」という意見もたくさんあり、とても嬉しかったです。

――福田さんは、最初のプログラム提出時から〈悲の鳥〉をメインに据えていて、聴かせたいという思いがあったと思うのですが、どういう意図があるのでしょうか?

福田:私自身悩んでいた時に励ましてくれたのが音楽だったこともあり、感情を揺さぶる音楽が好きです。「感情が動く」ということを子どもたちにも体感してもらいたくて、この曲を選びました。

――アウトリーチでは、曲の背景にあるエピソードをお話されているので、その意図が子どもたちに伝わっているように感じます。アウトリーチを通して子どもたちに一番伝えたいことは何でしょうか?

福田:近年はYouTubeなどで気軽に音楽が聴けますが、音楽は突然生まれたものではなく、色んな人が関わって、その人たちの気持ちや背景にあるものが反映され一つの曲ができていると私は思います。
アウトリーチでは、奏法や楽器の歴史について知ってもらい、最終的には「背景にあるものを知った上で音楽を聴いてほしい」ということを一番伝えたいと思っています。

――2年目の活動に向けた目標は何でしょうか?

福田さん:来年度は小学生だけでなく、大人の方も対象になるかと思います。アウトリーチの訪問先の方に何を伝えたいのかを自分の中でより明確にし、プログラム作りをしたいと思っています。

――登録アーティストの活動は2年間ですが、活動を終えた後にやってみたいことはありますか?

福田:ずっと京都で活動していきたいと思っています。演奏活動をする上で、私にとってアウトリーチはとても大切な活動なので、アウトリーチで得た経験を活かせるような活動をしていきたいと考えています。
通常のソロリサイタルでは、トークはアンコール前に少し、ということが多いと思いますが、私はどういう気持ちで演奏を聴いてもらうか、導入が大切だと思っているので、しっかりしたプログラムのコンサートでもトークを入れたいと思っています。

――通常のコンサートだとプログラムノートで内容を伝えることが多いですよね。

福田:もちろんプログラムノートも大切ですが、クラシック音楽に馴染みのない方もいますし、色んな方を対象に演奏活動をしたいので、トークで私たちのことも知っていただきつつ、演奏も聴いていただきたいと思っています。

――アウトリーチとつながっていますね。

――ちなみにサックスはいろんなジャンルで活躍できる楽器かと思いますが、その中でもクラシックでやっていこうと思われた理由は何でしょうか?

福田:初めて楽器と出会った吹奏楽部での選曲が、クラシックの落ち着いた曲が多かったことから、自分の好みがクラシック寄りになりました。あとは自分の出したいと思っている音が、クラシック音楽で使う、歌うような優しい音だと思うのが理由です。

――本拠地を東京に移して活動されるアーティストも多いですが、京都をベースにしたいと思っているのですね。

福田:京都が好きというのもありますが、京都市立芸術大学サックス科の第一期生ということもあり、これから京都の地でサックスという楽器をより広めていきたいと思っています。

――京都コンサートホールとしても応援しています!ちなみに京都で好きな場所やお気に入りはありますか。

福田:鴨川沿いが好きでよく散歩に行くのですが、四季折々の景色や時間によっても雰囲気が変わり、移り変わっていく様子が好きです。

――いいですよね。ほかにハマっていることや好きなことはありますか?

福田:ちいかわ」というキャラクターにハマっていて、グッズに囲まれて暮らしています。あとは水の生き物が好きで、亀を飼っています。京都水族館にもよく行きます。

あとはパソコンを触るのが好きなので、チラシのデザインをしたりします。アンサンブルやリサイタルのチラシ、プログラムも作りました。普段はほとんど楽器かパソコンを触っているという感じです。他にサックス四重奏のための編曲もよくやっています。

――すごいですね!!

福田さんがデザインした公演チラシ

 

ジョイント·コンサートについて

――さて、話題を「ジョイント·コンサート」に移したいと思います。これまで京芸の演奏会などで、京都コンサートホールで演奏される機会はあったかと思いますが、その中でホールでの思い出があれば教えてください。

福田:大ホールは、大学4年生の時に京都市立芸術大学の定期演奏会でソリストをさせてもらったことが思い出に残っています。
アンサンブルホールムラタは、同じく大学4年生の時に芸大のサックス科がようやく全学年揃い、サックス科での第一回の記念すべき演奏会をしました。演奏会を運営する立場でもあったので、とても記憶に残っています。

――そうだったのですね。アンサンブルホールムラタでリサイタルをするのは初めてですか?

福田:はい、一人は初めてですので、とても楽しみです。

――今回のプログラムについて、選曲意図を教えてください。

福田:今回登録アーティストになって初めて音楽ホールで演奏するので、この一年間どういうアウトリーチ活動を行ってきたのかを交えて、演奏したいなと思いました。
そのためアウトリーチでいつも演奏していた、サンジュレーの《コンチェルティーノ》を入れました。そのタイミングで楽器紹介もしようと考えています。
エスケシュ作曲の《リュット》は、サンジュレーと対照的で、特殊奏法を多用した現代曲です。
また《コンチェルティーノ》はサックスが生まれた頃の曲で、対して《リュット》は割と最近に作られた作品です。100年ほどしか経っていないはずなのですが、サックスでできることがたくさん増えたことを伝えたいと思いました。
そのあとは、私が一番大事に思っている「歌うようにサックスを吹くこと」を伝えられるような作品を2曲選びました。

――サックスの可能性を知っていただけるプログラムですね。それでは最後にお客様へのメッセージをお願いします。

福田:初めてコンサートに来ていただける方でも楽しんでいただけるように、トークを交えながら演奏いたします。来て良かったと感じていただけるような内容を考えておりますので、気軽に足を運んでいただけましたらと思います。
お待ちしております!

――ありがとうございました。ジョイント・コンサートを楽しみにしております!

2023年3月4日開催の「ジョイント・コンサート」の公演情報はこちら

☆福田彩乃さんからの動画メッセージ

「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページはこちら

第2期登録アーティスト 鎌田邦裕(フルート)インタビュー (2023.3.4 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ジョイント・コンサート)

Posted on
アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホール第2期登録アーティストとして、アウトリーチ活動を1年間行った2人のアーティストが、3月4日開催の「ジョイント・コンサート」に出演します。本公演では、それぞれの想いがぎゅっと詰まった、特別なプログラムを皆さまにお届けします。
公演に向けて、第2期登録アーティストのひとりであるフルーティストの鎌田邦裕さんにインタビューを行いました。この1年間のアウトリーチ活動やご自身のこと、また「ジョイント・コンサート」のプログラムなどについてお話しいただきましたので、ぜひ最後までご覧ください!

――9月から始まった2022年度のアウトリーチ活動が無事終わりましたね。この1年間のアウトリーチ活動で印象的だったことは何でしょうか?

鎌田邦裕さん(以下、鎌田さん):子どもたちの「素直な反応」です。抽象的ですが、フルートの音を“届ける向き”やその場所(音楽室や体育館など)での“響きのイメージ”などを少し変えるだけで、反応がすごく変わるんですよ。さらにお話を交え、言葉を使うことで、子どもたちの聴き方やイメージする幅みたいなものが、全然変わってくるんだなと感じました。
毎回、自分の音楽や想いを「届ける」ことをとても意識していて、「一緒にやろうね、一緒に感じようね」という気持ちを込めて臨んでいます。

――普段のコンサートとこのアウトリーチ活動で、お話や演奏で変えていることはありますか?

鎌田さん:私は普段のコンサートでもお話をたくさんするようにしているのですが、話し方や内容は大人向けと子ども向けでもちろん変えています。でも、演奏の方は大人・子どもに関わらず、いつも自分が出せる全力を出さないといけないと思っています。
また、普段のコンサートでも、音楽に初めて触れる方にも届くように、わかりやすく演奏することを心掛けています。例えば、楽譜に「(ピアノ:弱く)」と書いてあっても、ただ小さく、弱く演奏するだけではないんです。例えば、舞台上でこそこそ話の演技をするときに、実際の距離感の声の大きさでこそこそ話をしても、誰にも伝わらない。でも、みんなに聴こえるような声でこそこそ話の演技をして初めて、お客さんにこそこそ話の演技をしていることが伝わる。演奏も同じように、わかりやすく、味濃く色付けてお届けするということを大切にしています。

――アウトリーチ活動が始まる前に、4回の研修会を経てプログラムを組みましたよね。実際に子どもたちの前で披露してみて、いかがでしたか?

鎌田さん:自分のやりたいことと、子どもたちが感じ取れることの差をどのように埋めていくのかがとても難しいなと感じています。子どもたちが聴きたいものだけを演奏するのではなく、初めて聴く曲でも、まずは一度聴いてみてもらうことが大事だなと思うので。
一方で、音楽に入る取っ掛かりとしては、みんなが知っている曲の方がいいなと思っていて、今のプログラムでは、映画『となりのトトロ』の「さんぽ」のメロディーを使って、イメージを膨らませてもらうワークショップをしています。こちらが想定している以上に面白い、自由な発想の答えが出てくることもあるので、毎回とても刺激的です。

――来年度に向けて、意気込みをお願いします。

鎌田さん:来年度に新たに出会う方々とも、アウトリーチを通して、音楽でも言葉でもコミュニケーションをとっていきたいですし、そこからみなさんの心も、自分自身の心も、さらに豊かになっていけば嬉しいですね。

――それではここで、鎌田さんの自身のことについてみなさんにご紹介したいと思います。まず、鎌田さんとフルートとの出会いについて教えてください。

鎌田さん:元々は4歳頃からピアノを習っていました。母が大人になってから趣味でフルートを始めていて、小学2年生の頃に、母がフルートを習っていた先生にピアノを教えてもらうことになったんです。その教室ではもちろん周りはフルートを吹いている方ばかりだったので、自分もフルートを吹いてみたいと思うようになり、小学3年生の10月に楽器を買ってもらって習い始めました。

――大学は、京都市立芸術大学に進学されましたよね。鎌田さんのご出身は山形県鶴岡市ですが、なぜ京都市立芸術大学を選んだのでしょうか?

鎌田さん:親との約束で、大学に進学するのだったら国公立の大学が条件だったので、「じゃあ、(音楽学部のある)芸大を目指そう!」となりました。芸大受験に向けて音楽を本格的に学ぼうと動き始めたのが、高校3年生に上がる年の春休みで、その後ご縁があって、8月の夏休みに京都市立芸術大学の大嶋義実先生と出会いました。レッスンを受けると自分の音色の悪さを指摘されることの連続で、1時間のレッスンがそれだけで終わるような感じでした。私は小学校の頃からフルートを吹いていたものの、芸大受験を目指すようなレッスンを受けていなかったので、全然きちんと吹けていなかったんですよ。その時は、自分の耳も開いていなかったので、大嶋先生が言っている意味が全くわかっていませんでした。ただ、先生がこれだけ熱心に「ちがう」と言うのだから、何か意味があるんだろうなと思って。「良い音で吹かないと意味がない」とずっと思っていたのもあって、大嶋先生のもとだったら音色が磨けると考え、京都市立芸術大学を受験しました。

――京都市立芸術大学で、アウトリーチ活動を一緒に行っている佐藤亜友美さんに出会ったんですよね。

鎌田さん:ピアニストの佐藤亜友美さんは大学の同級生で、クラリネットの山永桂子さんと3人で組んだ「panna cotta(パンナコッタ)」というトリオでも活動しています。「panna cotta」がなかったら、佐藤さんと一緒にアウトリーチ活動をすることはなかったかもしれないなと思っていて、とてもありがたい出会いだと思っています。

――そもそも京都コンサートホール第2期登録アーティストに応募したきっかけは何だったのでしょうか?

鎌田さん:自身のリサイタルでは曲間で毎回お話を入れていて、次の曲に入るための導入をしてから演奏しています。これはアウトリーチと通ずるところがあるかもしれないと以前から思っていました。第1期登録アーティストの先輩方のアウトリーチ活動や「ジョイント・コンサート」を見て、とても面白いアプローチの仕方だなと感動したのを覚えています。私も登録アーティストになれば、ホールからのサポートを受けられ、学ぶ機会が増えて、自身の成長につながるだろうなと思い、応募させていただきました。

――現在は京都コンサートホールのアウトリーチ活動のほかに、どのような演奏活動をしていますか?

鎌田さん:関西を中心にオーケストラの客演で演奏したり、フルートの指導を行ったりしています。また、地元の鶴岡市でリサイタルを20歳のときから続けていて、今年で10回目となりました。地域柄か、山形では音楽を学ぶ機会や場所がとても少なかったので、音楽の文化の土壌を作るために、種を蒔いているんです。今後は日本全国でも同じように、音楽家になりたい人たちが夢を叶えるための「架け橋」になっていければなと思っています。

――ここからは、3月4日開催の「ジョイント・コンサート」についてお伺いしたいと思います。まず、京都コンサートホールでの思い出があれば教えてください。

鎌田さん:初めて京都コンサートホールに来たのは、大学の定期演奏会だったと思います。大ホールにあった左右非対称な不思議な形のパイプオルガンがとても印象に残っています。何よりも特徴的だと感じたのが螺旋状のスロープで、外からはわからないのに、エントランスホールに入った瞬間からとても芸術的だなと思いました。以前ロビーコンサートにも出演させていただきましたが(2022年1月29日開催「京都コンサートホール・ロビーコンサート Vol.9 鎌田邦裕 フルートコンサート」)、とても素敵な空間でした。
アンサンブルホールムラタには、何度もコンサートは聴きに来ていますが、ステージに立つのは今回が初めてで、とても嬉しいです。

――「ジョイント・コンサート」のプログラムはどのように組みましたか?

鎌田さん:今回のプログラムは、アウトリーチで演奏している曲を中心に組んでいます。これは、一度アウトリーチで聴いてくれた子どもたちに、“コンサートホール”で同じ曲を聴いてみてほしいと思って選曲しました。
また、フラッター(巻き舌により音を震わせる特殊奏法)がたくさん出てくる「鶴の巣篭もり」を入れました。アウトリーチでフラッターを紹介するときに「くまんばちの飛行」演奏しているので、その「くまんばちの飛行」の“洋”の響きとは異なる“和”の響きを味わってもらえると思います。
さらに、プログラムの最後ではプーランクの「フルート・ソナタ」を演奏しますが、この曲は12~13分ほどあって子どもたちには少し長く感じるかもしれません。ですが、1楽章から3楽章まで通して聴いて「ひとつの物語を全て読み切った」という経験もしてみてほしいなと思い選曲しました。
プログラム全体を料理のフルコースだと思って、順番に味わっていただければと思います。

――それでは最後に、お客様に向けてメッセージをお願いします。

鎌田さん:フルートってどんな楽器なんだろう、音楽って何なんだろうと興味をもっている時点で、既に音楽の才能があると思います。その気付きや好奇心はとても素晴らしいものだと思うので、その探したいものを持って「ジョイント・コンサート」を聴きに来てくれたら嬉しいです。
また、音楽は心を動かしてくれるツールだと思うので、お越しいただいたみなさんに自分の心と向かい合ったり、思いを馳せたりする時間を過ごしていただけるような演奏会にしたいです。そして、心が動くとはどういう意味なのかを一緒に考えられたらいいなと思っています。

――たくさんのお話をありがとうございました!「ジョイント・コンサート」でお会いできるのを楽しみにしています!

★Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~「ジョイント・コンサート」(3/4)公演詳細はこちら
★鎌田邦裕さんのアウトリーチ活動はこちら <1> <2> [⇒Facebook]
★鎌田邦裕さんのからの「ジョイント・コンサート」に向けたメッセージ動画はこちら [⇒YouTube]

(2023年2月 事業企画課 インタビュー)

 

オルガニスト ミシェル・ブヴァール 特別インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

Posted on
インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏を迎えます。

待望の京都初公演に向けて、メールインタビューを行いました。
今回ご披露いただくセザール・フランクを中心とした特別プログラムやオルガンとの出会いなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

——この度はお忙しい中インタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まずブヴァールさんとオルガンとの出会いについて、教えていただけますか。

ミシェル・ブヴァール氏(以下「ブヴァール氏」):私は5歳からピアノを始め、11歳のときにオルガンを弾き始めました。私の祖父ジャン・ブヴァール(1905-1996)はルイ・ヴィエルヌの弟子で、作曲家でした。私は彼からごく自然な形で、音楽やオルガンに対する情熱を学びました。父は医者だったのですが、彼もアマチュアのオルガン弾きでした。自宅にオルガンがありませんでしたので、父はピアノでバッハの「前奏曲とフーガ」を弾き、私にオルガンのペダル部分を弾くように言いました。
後に、祖父は父に、2つの鍵盤とペダルがついた、イタリア・バイカウント社製の電子オルガンをプレゼントしました。私もその楽器を使って、バッハやヴィエルヌ、そして祖父ジャンの作品を弾き始めました。そして、祖父と一緒に教会に行った時、初めて本物のパイプオルガンと出会ったのです。その出会いは雷に打たれたかのようでした。その時、とても冷たい音がする電子オルガンと自然な音がする本物のパイプオルガンの音の違いを知ることができました。
オルガンも好きでしたが、ピアノも同じくらい好きでしたので、プロのオルガニストとして活動しようと決断する前、20歳くらいまではピアノとオルガンの両方を勉強し続けました。

——そうだったのですね。ブヴァールさんにとって、オルガンに魅せられた点はどういったところでしょうか。

ブヴァール氏:パイプオルガンで最も気に入ってる点は、この楽器が持つマルチで素晴らしい能力です。バッハの作品に見られるようなポリフォニーや対位法を完璧に表現できますし、またクープランの作品が持つフランス的な詩情や音色も表現できます。さらには、交響曲のようなオーケストラの音を模倣することだってできるんです。
あとは、天才的なオルガン製作者による優れたオルガンにも魅力を感じます。たとえば、バッハの時代に活躍したドイツのジルバーマンであったり、フランクの時代に活躍したフランスのカヴァイエ=コルであったり・・・。ヴァイオリンの世界で言えばストラディヴァリウスなどが挙げられますが、オルガンも同様で、非常に名高く、魅惑的な音を持つ楽器が存在するのです。

——パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院の教授を定年退職なさったとお聞きしましたが、最近の演奏活動について教えていただけますか。

ブヴァール氏:2022年度は特別に忙しい1年です。
今年の3月以降、私はリサイタルの他に、ロッテルダム(オランダ)、ブリュッセル(ベルギー)、ハノーファー、ベルリン、ポツダム、ハンブルク(ドイツ)、トゥールーズ、ディエップ、ルション(フランス)、サンセバスチャン(スペイン)、スタヴァンゲル(ノルウェー)、チューリッヒ(スイス)などで、マスタークラス(特に今年生誕200年を迎えるセザール・フランクに関するもの)を行いました。
また、アルクマール(オランダ)やシュランベルク(ドイツ)で行われた国際コンクールの審査員も務めました。また10月にはオランダで、ハーレム・セザール・フランク・コンクールの審査も務めます。
ちなみに今回の11月の日本ツアーの後は、1130日にソウルでも演奏会をする予定です。

——本当に世界を飛び回っていらっしゃるのですね。これまでの演奏活動で印象に残っていることはありますか。

ブヴァール氏:これまで、たくさんのコンサートを行い、素晴らしい楽器にも出会いました。例えば、ドレスデンやフライブルクのジルバーマン製オルガンや、フランスの偉大なカヴァイエ=コル製オルガン、ポワチエのクリコ製オルガン、サン・マクシマンのイスナール製オルガン、ロチェスターのキャスパリーニ製オルガンなどです。そして、パリのノートルダム大聖堂やアムステルダム、ヴェニス、ロンドンのウェストミンスター寺院、リオ・デ・ジャネイロなど、素晴らしい場所でも演奏会をしました。
また2016年、ヒューストン教会で開催された、AGO(アメリカ・オルガニスト協会)の記念公演のように、特別な状況で開催されたコンサートも印象に残っています。このコンサートでは、アメリカの1,000人以上のオルガン奏者の前で演奏したのですよ。とっても緊張しました。

——さて話を今回の京都公演に移します。今回の公演では、生誕200周年を迎えるセザール・フランクの作品を中心に演奏いただきます。フランクのオルガン作品の魅力はどういったところにあると思いますでしょうか。

ブヴァール氏:セザール・フランクのオルガン作品、特に《3つのコラール》は、ベートーヴェンのピアノソナタに匹敵するほどの非常に素晴らしい形式美を備えており、音楽的な深みと内面性を持つ作品です。
この作品特有の詩情や力強さは、全ての人々に感動を与えることができると思っています。

——《3つのコラール》は〈第3番〉を本公演でも演奏くださるということで、楽しみです。今回はフランクの作品だけでなく、古今の作曲家たちの作品をプログラミングしてくださいましたが、その意図を教えていただけますか。

ブヴァール氏:今年はフランクの生誕200年ではありますが、私はフランクだけを取り上げるつもりはありませんでした。フランクの代表的な作品と共に、フランク以前・以降のフランスとドイツで作られた作品を取り上げる方が、京都のお客さまにとって興味深いのではないかと考えたのです。
実際のところフランクは、作曲家としてはドイツ風、オルガニストとしてはフランス風という2つの側面を持っていますし、フランク自身、彼の後継者たちに影響を及ぼしましたので。

——今回のコンサートで弾いていただくフランクの3作品についてご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:フランクのオルガン作品として、彼の3つの創作期からそれぞれ1曲ずつ選曲しました。
まず1865年に創作された、有名な〈前奏曲、フーガと変奏曲〉。次に、1878年、トロカデロのコンサートホールに設置されたカヴァイエ=コルのオルガンのこけら落としのために書かれた《3つの作品》から〈英雄的作品〉を演奏します。そして最後に、彼が亡くなる数週間前、18909月に作曲された《3つのコラール》より、第3番を演奏します。

——ありがとうございます。フランク以外の作品についてもご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:ルイ14世時代の荘重なフランス形式で書かれた、ルイ・マルシャンによる《グラン・ディアローグ》でコンサートを始めることも楽しみですし、私の師であるアンドレ・イゾワールが見事に編曲したバッハの《4台のチェンバロと管弦楽による協奏曲》を演奏することも楽しみです。また、メシアンの傑作〈神は我らのうちに〉でコンサートの幕を閉じることも幸せに感じています。
ほかにも、私の祖父ジャンの作品や彼の友人であったモーリス・デュリュフレの作品も演奏する予定です。

——私たちもとても楽しみにしております。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします。

ブヴァール氏:京都コンサートホールの大ホールでリサイタルをさせていただけることを幸せに思います。京都は私の妻である康子が生まれ育った、特別な街であり、40年以上前に初めて京都を訪れて以来、日本の家族に会うために定期的に訪れていますから。
また今回、セザール・フランクに関する、特別なプログラムを準備しました。京都の音楽愛好家の皆様にはぜひともご来場いただき、一緒に音楽を共有したいです。
私は日本を心から愛しています。皆様のために演奏できることは私の大きな誇りであり、大きな喜びです。

——ありがとうございました。11月に京都でお待ちしております。

(2022年8月 事業企画課メール・インタビュー)


★公演詳細《オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70「世界のオルガニスト“ミシェル・ブヴァール”」》(11月3日)はこちら

★「オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー」はこちら

★ブヴァール氏の演奏&メッセージ動画

★京都コンサートホールのパイプオルガンについてはこちら

オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

Posted on
インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏が京都コンサートホールに初登場します。

世界中で演奏活動を行うとともに、パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院で教授として後進の指導にも力を入れてきたブヴァール氏。彼の指導を受けたオルガニストたちは現在、世界中で活躍しています。その一人であり、東京芸術劇場の副オルガニストとしてご活躍中の川越聡子さんに、ブヴァール氏についてさまざまなお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください。 Continue reading “オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)”